さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

短歌

 
滅多には        届きたる        折れさうな       影踏みの        
いつとなく       着て出づる       ひとりゆゑ       妹といふ        
洋傘を         口もとに        辛うじて        山茶花の        
菱型に         終業に         ふるびたる       引き潮に        
落ち葉舞ふ       鏡にて         居合はせて       死者たちの       
年の瀬に        
 
 
 

08070
滅多には 死ねぬ思ひす 尾を垂れて 歩むけものを 真横に見れば
メッタニハ シネヌオモヒス オヲタレテ アユムケモノヲ マヨコニミレバ

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.146


08071
届きたる 封書のうしろに 書かれゐて やさし昔の ままの町の名
トドキタル フウショノウシロニ カカレヰテ ヤサシムカシノ ママノマチノナ

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.146


08072
折れさうな 膝に繃帯を 巻きやりし 人形などの 如何になりけむ
オレサウナ ヒザニホウタイヲ マキヤリシ ニンギョウナドノ イカニナリケム

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.146


08073
影踏みの ごとく歩みて それ得ぬに 護送車にたれか 運ばれゆきぬ
カゲフミノ ゴトクアユミテ ソレエヌニ ゴソウシャニタレカ ハコバレユキヌ

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.147


08074
いつとなく 失ひてをり 反動を つけて駆けだす よろこびなどは
イツトナク ウシナヒテヲリ ハンドウヲ ツケテカケダス ヨロコビナドハ

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.147


08075
着て出づる ものに惑ひて 行けざりし 夜会のことも 早く忘れむ
キテイヅル モノニマドヒテ ユケザリシ ヤカイノコトモ ハヤクワスレム

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.147


08076
ひとりゆゑ あわてずにすむと 気づきたり 電灯の地震に ゆれゐる見つつ
ヒトリユヱ アワテズニスムト キヅキタリ デントウノナヰニ ユレヰルミツツ

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.147


08077
妹といふ あいらしきもの 日も夜も わがかたはらに ゐたる日ありき
イモトイフ アイラシキモノ ヒモヨルモ ワガカタハラニ ヰタルヒアリキ

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.147


08078
洋傘を 傾けしとき ガラス戸に まともに映る 施主われの顔
カウモリヲ カタムケシトキ ガラスドニ マトモニウツル セシュワレノカオ

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.147


08079
口もとに ほくろのありし ことなどの 思ひ出されて 忌の夜をゐる
クチモトニ ホクロノアリシ コトナドノ オモヒダサレテ キノヨルヲヰル

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.148


08080
辛うじて 大波をくぐり 抜け得たる わが思ひなど 人に知られず
カロウジテ オオナミヲクグリ ヌケエタル ワガオモヒナド ヒトニシラレズ

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.148


08081
山茶花の 色をまじへて 地に敷くは 吐き散らされし 言葉のごとき
サザンカノ イロヲマジヘテ チニシクハ ハキチラサレシ コトバノゴトキ

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.148


08082
菱型に なりて定まる ときのあり プラモデルの金魚 宙に垂りゐて
ヒシガタニ ナリテサダマル トキノアリ プラモデルノキンギョ チュウニタリヰテ

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.148


08083
終業に いまだ間のある 午後三時 濁音ばかり 押し寄せてくる
シュウギョウニ イマダマノアル ゴゴサンジ ダクオンバカリ オシヨセテクル

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.148


08084
ふるびたる 思想をわれの 持ちてゐむ 俸給などとは このごろ言はず
フルビタル シソウヲワレノ モチテヰム ホウキュウナドトハ コノゴロイハズ

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.148


08085
引き潮に 裾あらはなる 岩一つ 見てはならざる 思ひに過ぎつ
ヒキシオニ スソアラハナル イワヒトツ ミテハナラザル オモヒニスギツ

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.149


08086
落ち葉舞ふ 広場のいづこ をりをりに 喇叭を鳴らす 商人のゐる
オチバマフ ヒロバノイヅコ ヲリヲリニ ラッパヲナラス ショウニンノヰル

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻2号 p.149


08087
鏡にて 監視されつつ 働くと 知れる少女を 慰めかねつ
カガミニテ カンシサレツツ ハタラクト シレルショウジョヲ ナグサメカネツ

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.149


08088
居合はせて 見てしまひたる 鬼の顔 眠らむきはに また動き出す
イアハセテ ミテシマヒタル オニノカオ ネムラムキハニ マタウゴキダス

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.149


08089
死者たちの 寄りて住む国 ありといふ 必ずしもわれの 信じてをらず
シシャタチノ ヨリテスムクニ アリトイフ カナラズシモワレノ シンジテヲラズ

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.149


08090
年の瀬に うからの墓を 洗ひに来ぬ わが生くる限りは 詣でてやらむ
トシノセニ ウカラノハカヲ アラヒニコヌ ワガイクルカギリハ モウデテヤラム

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.149