さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

短歌

 
押しつけて       みどり児の       人はみな        決して目を       
足もとに        書きさしの       窓ぎはの        約束の         
いきなり        フラメンコの      住む町の        われに気づき      
クレーンに       雪の野に        死にたるは       真みどりの       
夜の更けに       夢に見て        対岸の         何気なく        
暗き網に        アメーバの       人間一人の       知らざれば       
バス降りし       
 
 
 

07746
押しつけて 机の上に 置くときに 見知らぬ枝の やうなわが手よ
オシツケテ ツクエノウエニ オクトキニ ミシラヌエダノ ヤウナワガテヨ

『短歌』(角川書店 1972.4) 第19巻4号 p.42


07747
みどり児の ゆびさす方に 何もあらず まぶしく空の ひろがる日なり
ミドリコノ ユビサスカタニ ナニモアラズ マブシクソラノ ヒロガルヒナリ

『短歌』(角川書店 1972.4) 第19巻4号 p.42


07748
人はみな 円筒形を なして立つ 赤信号に 堰かれゐるとき
ヒトハミナ エントウケイヲ ナシテタツ アカシンゴウニ セカレヰルトキ

『短歌』(角川書店 1972.4) 第19巻4号 p.42


07749
決して目を 閉ぢてはならず 線描の マーガレットは 萎れてしまふ
ケッシテメヲ トヂテハナラズ センガキノ マーガレットハ シヲレテシマフ

『短歌』(角川書店 1972.4) 第19巻4号 p.42


07750
足もとに 降り積む雪を 見てをれど さびしくてわれは 木などになれず
アシモトニ フリツムユキヲ ミテヲレド サビシクテワレハ キナドニナレズ

『短歌』(角川書店 1972.4) 第19巻4号 p.43


07751
書きさしの 等高線が とぎれゐて この崖を墜ちし 君かと思ふ
カキサシノ トウコウセンガ トギレヰテ コノガケヲオチシ キミカトオモフ

『短歌』(角川書店 1972.4) 第19巻4号 p.43


07752
窓ぎはの ひひらぎ咲きて わが思ひ 外へ外へと 向ふ日のあり
マドギハノ ヒヒラギサキテ ワガオモヒ ソトヘソトヘト ムカフヒノアリ

『短歌』(角川書店 1972.4) 第19巻4号 p.43


07753
約束の 時を過ぎつつ わがバスは タンクローリーと ふたたび並ぶ
ヤクソクノ トキヲスギツツ ワガバスハ タンクローリート フタタビナラブ

『短歌』(角川書店 1972.4) 第19巻4号 p.43


07754
いきなり 目隠しされて サラセンの 駱駝か何かに 奪ひ去られよ
イキナリ メカクシサレテ サラセンノ ラクダカナニカニ ウバヒサラレヨ

『短歌』(角川書店 1972.4) 第19巻4号 p.43


07755
フラメンコの 衣裳の裾に 鈴をつけ どこまで運ばれ ゆきたるわれか
フラメンコノ イショウノスソニ スズヲツケ ドコマデハコバレ ユキタルワレカ

『短歌』(角川書店 1972.4) 第19巻4号 p.43


07756
住む町の ふるさとよりも 遠き日か ひとりひとりの 歩幅が違ふ
スムマチノ フルサトヨリモ トオキヒカ ヒトリヒトリノ ホハバガチガフ

『短歌』(角川書店 1972.4) 第19巻4号 p.43


07757
われに気づき 右手あげたる 妹に 黒の手袋 させゐてさびし
ワレニキヅキ ミギテアゲタル イモウトニ クロノテブクロ サセヰテサビシ

『短歌』(角川書店 1972.4) 第19巻4号 p.44


07758
クレーンに 吊りあげられし 鉄材が どこかで地上の われと釣り合ふ
クレーンニ ツリアゲラレシ テツザイガ ドコカチジョウノ ワレトツリアフ

『短歌』(角川書店 1972.4) 第19巻4号 p.44


07759
雪の野に 残る枯れ木は むらさきの 影を短く 置きてしづまる
ユキノノニ ノコルカレキハ ムラサキノ カゲヲミジカク オキテシヅマル

『短歌』(角川書店 1972.4) 第19巻4号 p.44


07760
死にたるは いつまでも若く キャンバスを かかへて来るに 幾たびか会ふ
シニタルハ イツマデモワカク キャンバスヲ カカヘテクルニ イクタビカアフ

『短歌』(角川書店 1972.4) 第19巻4号 p.44


07761
真みどりの クレパスをもて ぎざぎざの 葉を逞しく たんぽぽは描け
マミドリノ クレパスヲモテ ギザギザノ ハヲタクマシク タンポポハカケ

『短歌』(角川書店 1972.4) 第19巻4号 p.44


07762
夜の更けに 蛇口を洩るる 水の音 昨日の音の やうにも思ふ
ヨノフケニ ジャグチヲモルル ミズノオト キノウノオトノ ヤウニモオモフ

『短歌』(角川書店 1972.4) 第19巻4号 p.44


07763
夢に見て ながく忘れず 蛹から 出てゆくときの かの恐ろしさ
ユメニミテ ナガクワスレズ サナギカラ デテユクトキノ カノオソロシサ

『短歌』(角川書店 1972.4) 第19巻4号 p.44


07764
対岸の 森のこころに 重き日よ そらしてもそらしても 焦点が合ふ
タイガンノ モリノココロニ オモキヒヨ ソラシテモソラシテモ ショウテンガアフ

『短歌』(角川書店 1972.4) 第19巻4号 p.45


07765
何気なく 顔の前にて 擦るマッチ 鋭き燃えを なすことのあり
ナニゲナク カオノマエニテ スルマッチ スルドキモエヲ ナスコトノアリ

『短歌』(角川書店 1972.4) 第19巻4号 p.45


07766
暗き網に おほわれしやうな 道を来て 夜は樹木の 匂ひがはげし
クラキアミニ オホワレシヤウナ ミチヲキテ ヨルハジュモクノ ニオヒガハゲシ

『短歌』(角川書店 1972.4) 第19巻4号 p.45


07767
アメーバの やうな一枚 花びらの 花の無数が 夜空に開く
アメーバノ ヤウナイチマイ ハナビラノ ハナノムスウガ ヨゾラニヒラク

『短歌』(角川書店 1972.4) 第19巻4号 p.45


07768
人間一人の 骨の嵩ふと 思ひたり 落ちてしづまる 棕櫚の葉の雪
ニンゲンヒトリノ ホネノカサフト オモヒタリ オチテシヅマル シュロノハノユキ

『短歌』(角川書店 1972.4) 第19巻4号 p.45


07769
知らざれば 禍ならず 吊り革に すがる手ばかり 見えて立ちゐつ
シラザレバ ワザハヒナラズ ツリカワニ スガルテバカリ ミエテタチヰツ

『短歌』(角川書店 1972.4) 第19巻4号 p.45


07770
バス降りし 人ら夜霧の なかを去る 一人一人に 切りはなされて
バスオリシ ヒトラヨギリノ ナカヲサル ヒトリヒトリニ キリハナサレテ

『短歌』(角川書店 1972.4) 第19巻4号 p.45