さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

短歌

 
噴水に         うす青き        雨のなかに       花鋏          
幼な子と        眠られぬ        嗅覚の         道に会ひ        
雨にけむる       キヌバリと       水槽の         むらがりて       
もまれつつ       許さずと        耳鳴りの        何事か         
ぬかるみを       体温を         くたくたに       顴骨の         
とどまらぬ       こだはりを       硝煙の         シリユウスを      
秋の夜の        ひとりでに       山茶花の        日だまりに       
傘のなかに       方角を         降りしきる       少年の         
あは雪を        
 
 
 

07648
噴水に 濡るる塑像を ふり仰ぐ するどき骨を わが身に持ちて
フンスイニ ヌルルソゾウヲ フリアオグ スルドキホネヲ ワガミニモチテ

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.54


07649
うす青き 切符一枚 幼な子の レースの胸の ポケットに見ゆ
ウスアオキ キップイチマイ オサナゴノ レースノムネノ ポケットニミユ

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.54


07650
雨のなかに 花咲ける日は 短かくて 合歓の葉先の 早く衰ふ
アメノナカニ ハナサケルヒハ ミジカクテ ネムノハサキノ ハヤクオトロフ

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.54


07651
花鋏 探しに出でて 地にかがみ そのまま草を 抜き始めたり
ハナバサミ サガシニイデテ チニカガミ ソノママクサヲ ヌキハジメタリ

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.54


07652
幼な子と 歩幅合はせて 歩むさま 遠く見しより 憎まずなりぬ
オサナゴト ホハバアハセテ アユムサマ トオクミシヨリ ニクマズナリヌ

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.54


07653
眠られぬ 夜々に思へば みづからの 羽根抜きて紡ぐ よろこびもなし
ネムラレヌ ヨヨニオモヘバ ミヅカラノ ハネヌキテツムグ ヨロコビモナシ

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.54


07654
嗅覚の 鋭くなりて 野をゆけり 霧の向ふに 牛の声湧く
キュウカクノ スルドクナリテ ノヲユケリ キリノムコフニ ウシノコエワク

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.55


07655
道に会ひ 連れだちて帰る 妹の いだく荷のなか セロリが匂ふ
ミチニアヒ ツレダチテカエル イモウトノ イダクニノナカ セロリガニオフ

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.55


07656
雨にけむる 海見ゆる窓 色褪せし 紙の桜を いつまでか吊る
アメニケムル ウミミユルマド イロアセシ カミノサクラヲ イツマデカツル

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.55


07657
キヌバリと 呼ばるる魚の すきとほり 何のけはひに 身をひるがへす
キヌバリト ヨバルルウオノ スキトホリ ナンノケハヒニ ミヲヒルガヘス

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.55


07658
水槽の 藻のあたりより 暗くなる 部屋と思ひて 身じろがずゐる
スイソウノ モノアタリヨリ クラクナル ヘヤトオモヒテ ミジロガズヰル

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.55


07659
むらがりて 岩をめぐれる 魚のなか 脱けて帰らぬ 鮒などあるや
ムラガリテ イワヲメグレル ウオノナカ ヌケテカエラヌ フナナドアルヤ

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.55


07660
もまれつつ 花束の流れ ゆくを見つ 幼きこゑの 川上にして
モマレツツ ハナタバノナガレ ユクヲミツ オサナキコヱノ カワカミニシテ

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.55


07661
許さずと 決めて暫く 眠りたり 苦しめることも 言はずに過ぎむ
ユルサズト キメテシバラク ネムリタリ クルシメルコトモ イハズニスギム

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.55


07662
耳鳴りの 残る寂しさ わが髪に 黄蜂むらがる 夢醒めしあと
ミミナリノ ノコルサビシサ ワガカミニ キバチムラガル ユメサメシアト

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.55


07663
何事か 否定せむとし バスのなかに 次第に激し ゆく指話のさま
ナニゴトカ ヒテイセムトシ バスノナカニ シダイニゲキシ ユクシワノサマ

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.56


07664
ぬかるみを よけし刹那に つまづきて 工事場のライト したたかに浴ぶ
ヌカルミヲ ヨケシセツナニ ツマヅキテ コウジバノライト シタタカニアブ

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.56


07665
体温を 計られて来て 危ふきに 水に沈める スプーン輝く
タイオンヲ ハカラレテキテ アヤフキニ ミズニシズメル スプーンカガヤク

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.56


07666
くたくたに なりて目覚めぬ 群集の なかに一つの 顔を探しゐき
クタクタニ ナリテメザメヌ グンシュウノ ナカニヒトツノ カオヲサガシヰキ

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.56


07667
顴骨の 高くなりたる われの顔 鏡の奥にも 雨は降りつつ
ホオボネノ タカクナリタル ワレノカオ カガミノオクニモ アメハフリツツ

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.56


07668
とどまらぬ 雲の流れを 仰ぎゐて 耳のうしろの さわだちやすし
トドマラヌ クモノナガレヲ アオギヰテ ミミノウシロノ サワダチヤスシ

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.56


07669
こだはりを 持ち歩く身と 気づきたり ポケットの右手 汗ばみてゆく
コダハリヲ モチアルクミト キヅキタリ ポケットノミギテ アセバミテユク

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.56


07670
硝煙の 匂ひか遠く よみがへる 枯れ葉を飾る ほかなき空に
ショウエンノ ニオヒカトオク ヨミガヘル カレハヲカザル ホカナキソラニ

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.56


07671
シリユウスを 仰ぎて来しが いつまでも 揺れやまぬ木々 眼裏に見ゆ
シリユウスヲ アオギテキシガ イツマデモ ユレヤマヌキギ マナウラニミユ

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.56


07672
秋の夜の 炭火匂ひて 人の名を 灰文字に書く かなしみも過ぐ
アキノヨノ スミビニオヒテ ヒトノナヲ ハイモジニカク カナシミモスグ

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.57


07673
ひとりでに 鳴るオルガンも 古りたらむ 風の夜は思ふ 山の校舎を
ヒトリデニ ナルオルガンモ フリタラム カゼノヨハオモフ ヤマノコウシャヲ

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.57


07674
山茶花の 咲く日となりて 傷つける 青のインコも 癒えてゆくらし
サザンカノ サクヒトナリテ キズツケル アオノインコモ イエテユクラシ

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.57


07675
日だまりに つなぐ仔犬を かまひゆく 卵を売りに 来るをとめらも
ヒダマリニ ツナグコイヌヲ カマヒユク タマゴヲウリニ クルヲトメラモ

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.57


07676
傘のなかに 見知らぬわれが 歩みゐる 雨にまじりて 木の実降る道
カサノナカニ ミシラヌワレガ アユミヰル アメニマジリテ コノミフルミチ

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.57


07677
方角を 占はれゐる 椅子の上 まぶた閉じても いづこも寒し
ホウカクヲ ウラナハレヰル イスノウエ マブタトジテモ イヅコモサムシ

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.57


07678
降りしきる 落ち葉のなかに 人のゐて 螺旋の階を 白々と塗る
フリシキル オチバノナカニ ヒトノヰテ ラセンノカイヲ シロジロトヌル

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.57


07679
少年の 鼓笛隊遠く 野を行けり 取り残さるる 打楽器の音
ショウネンノ コテキタイトオク ノヲユケリ トリノコサルル ダガッキノオト

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.57


07680
あは雪を 降らせてゐるは たれならむ 声をひそめて 人の行きかふ
アハユキヲ フラセテヰルハ タレナラム コエヲヒソメテ ヒトノユキカフ

『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.57