さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

短歌

 
靴の先         洗いたる        坂道の         一粒の         
乾きゆく        木鋏を         繃帯を         ウインドウの      
編み物を        耳飾り         ルージュもて      メタセコイヤの     
除刑日に        紙幣もて        置き石も        青白き         
砲身の         防災幕の        片端を         悪霊を         
切り株を        忽ちに         新しく         木の洞に        
橋桁の         明けやらぬ       凹凸の         片濁り         
人形の         耳ぎはの        
 
 
 

07613
靴の先 光らせて出づる 朝々に ひひらぎの花 散りはじめたり
クツノサキ ヒカラセテイヅル アサアサニ ヒヒラギノハナ チリハジメタリ

『短歌』(角川書店 1964.3) 第11巻3号 p.14


07614
洗いたる 髪凍らせて 帰りしか 雪国の夜の 記憶も古りぬ
アライタル カミコオラセテ カエリシカ ユキグニノヨノ キオクモフリヌ

『短歌』(角川書店 1964.3) 第11巻3号 p.14


07615
坂道の 反射に窓が 明るめば 間なく至らむ 夕べの冷えは
サカミチノ ハンシャニマドガ アカルメバ マナクイタラム ユウベノヒエハ

『短歌』(角川書店 1964.3) 第11巻3号 p.14


07616
一粒の 火種を未だ 持つわれと 夜もすがらなる 風を聴きゐし
ヒトツブノ ヒダネヲイマダ モツワレト ヨモスガラナル カゼヲキキヰシ

『短歌』(角川書店 1964.3) 第11巻3号 p.14


07617
乾きゆく 髪に残れる レモンの香 何に萎へゐし心と思ふ
カワキユク カミニノコレル レモンノカ ナニニナヘヰシ ココロトオモフ

『短歌』(角川書店 1964.3) 第11巻3号 p.14


07618
木鋏を 鳴らして冬の 枝を断つ 芽ぐめる薔薇も 容赦なく断つ
キバサミヲ ナラシテフユノ エダヲタツ メグメルバラモ ヨウシャナクタツ

『短歌』(角川書店 1964.3) 第11巻3号 p.15


07619
繃帯を 巻きし足ごと 冷ゆる夜は もくろまむ火花 撒くかの神事
ホウタイヲ マキシアシゴト ヒユルヨハ モクロマムヒバナ マクカノシンジ

『短歌』(角川書店 1964.3) 第11巻3号 p.15


07620
ウインドウの 花の飾りに 灯がともり みな月代の 青き男雛ら
ウインドウノ ハナノカザリニ ヒガトモリ ミナサカヤキノ アオキヲビナラ

『短歌』(角川書店 1964.3) 第11巻3号 p.15


07621
編み物を 教へて暮らす 友の来て ふくらかに編みし 帽子呉れゆく
アミモノヲ オシヘテクラス トモノキテ フクラカニアミシ ボウシクレユク

『短歌』(角川書店 1964.3) 第11巻3号 p.15


07622
耳飾り してゐるわれの 写真出づ 若くして逸り 易き日ありき
ミミカザリ シテヰルワレノ シャシンイヅ ワカクシテハヤリ ヤスキヒアリキ

『短歌』(角川書店 1964.3) 第11巻3号 p.15


07623
ルージュもて 咄嗟に書きし 伝言の 短かき文字を 悔いて忘れず
ルージュモテ トッサニカキシ デンゴンノ ミジカキモジヲ クイテワスレズ

『短歌』(角川書店 1964.3) 第11巻3号 p.15


07624
メタセコイヤの 木蔭に棲むと いふ知らせ 死後の便りの 如くはろけし
メタセコイヤノ コカゲニスムト イフシラセ シゴノタヨリノ ゴトクハロケシ

『短歌』(角川書店 1964.3) 第11巻3号 p.15


07625
除刑日に 生きて再び めぐりあふ かなしみに似て 鍵束の音
ジョケイビニ イキテフタタビ メグリアフ カナシミニニテ カギタバノオト

『短歌』(角川書店 1964.3) 第11巻3号 p.15


07626
紙幣もて 十字架の飾り 買へる見つ 雪は次第に 窓にはげしく
シヘイモテ クルスノカザリ カヘルミツ ユキハシダイニ マドニハゲシク

『短歌』(角川書店 1964.3) 第11巻3号 p.15


07627
置き石も 筧も見えぬ くらがりに 水の音のみ 光り流らふ
オキイシモ カケイモミエヌ クラガリニ ミズノオトノミ ヒカリナガラフ

『短歌』(角川書店 1964.3) 第11巻3号 p.16


07628
青白き 馬が炎えつつ 現はるる 振り向くたびに 闇の奥より
アオジロキ ウマガモエツツ アラハルル フリムクタビニ ヤミノオクヨリ

『短歌』(角川書店 1964.3) 第11巻3号 p.16


07629
砲身の 長さを覆ふ シート打ち 雨音しげし 停車の間
ホウシンノ ナガサヲオオフ シートウチ アマオトシゲシ テイシャノアイダ

『短歌』(角川書店 1964.3) 第11巻3号 p.16


07630
防災幕の たるみに溜まり ゐし水の 歩道に落ちて しぶきをあげつ
ボウサイマクノ タルミニタマリ ヰシミズノ ホドウニオチテ シブキヲアゲツ

『短歌』(角川書店 1964.3) 第11巻3号 p.16


07631
片端を 地上の杭に つなぎたる 巻尺を率て 人降りゆく
カタハシヲ チジョウノクイニ ツナギタル マキジャクヲヰテ ヒトクダリユク

『短歌』(角川書店 1964.3) 第11巻3号 p.16


07632
悪霊を 逐はむ願ひは われも持つ 夜々に野火焚く 村を過ぎつつ
アクリョウヲ オハムネガヒハ ワレモモツ ヨヨニノビタク ムラヲスギツツ

『短歌』(角川書店 1964.3) 第11巻3号 p.16


07633
切り株を 起こす作業に きほひゐつ 壕掘りしことも なき少年ら
キリカブヲ オコスサギョウニ キホヒヰツ ゴウホリシコトモ ナキショウネンラ

『短歌』(角川書店 1964.3) 第11巻3号 p.16


07634
忽ちに 飯場解かれて 枯れ原を つなぐ分厚き 橋残されぬ
タチマチニ ハンバトカレテ カレハラヲ ツナグブアツキ ハシノコサレヌ

『短歌』(角川書店 1964.3) 第11巻3号 p.16


07635
新しく 敷かれし砂利の 匂ふ道 雨の匂ひに 似つつ歩めり
アタラシク シカレシジャリノ ニオフミチ アメノニオヒニ ニツツアユメリ

『短歌』(角川書店 1964.3) 第11巻3号 p.16


07636
木の洞に 斧蔵ひおく ことも知り あけくれ森を 抜けつつ通ふ
キノウロニ オノシマヒオク コトモシリ アケクレモリヲ ヌケツツカヨフ

『短歌』(角川書店 1964.3) 第11巻3号 p.17


07637
橋桁の ほとりまで来て 消されたる 野火の跡あり 踏みつつ帰る
ハシゲタノ ホトリマデキテ ケサレタル ノビノアトアリ フミツツカエル

『短歌』(角川書店 1964.3) 第11巻3号 p.17


07638
明けやらぬ 森を騒立て ゐる猟者 ひそみてあれよ わが野鳩らは
アケヤラヌ モリヲサハダテ ヰルリョウシャ ヒソミテアレヨ ワガノバトラハ

『短歌』(角川書店 1964.3) 第11巻3号 p.17


07639
凹凸の はげしき岩も 遠ざかる 辰砂を溶きし 絵皿洗へば
オウトツノ ハゲシキイワモ トオザカリ シンサヲトキシ エザラアラヘバ

『短歌』(角川書店 1964.3) 第11巻3号 p.17


07640
片濁り してゐる沼を 見し日より オカリナの笛は 聞かれずなりぬ
カタニゴリ シテヰルヌマヲ ミシヒヨリ オカリナノフエハ キカレズナリヌ

『短歌』(角川書店 1964.3) 第11巻3号 p.17


07641
人形の 髪の濡れゐる 錯覚も 過ぎてミモザの 水替へに立つ
ニンギョウノ カミノヌレヰル サッカクモ スギテミモザノ ミズカヘニタツ

『短歌』(角川書店 1964.3) 第11巻3号 p.17


07642
耳ぎはの 髪が吹かれて めざめたり そよぐ木の葉は 何方ならむ
ミミギハノ カミガフカレテ メザメタル ソヨグコノハハ イヅカタナラム

『短歌』(角川書店 1964.3) 第11巻3号 p.17