さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

短歌

 
風のなかに       錆び釘を        駅を出でて       流れつつ        
針山に         降り出でて       しづくして       へだたりを       
塗りつぶし       マジヨリカの      前髪に         落体と         
ストールの       杭を打ち        袖刳りの        語原など        
有機物の        死語ばかり       釈明を         落飾し         
鉢の外に        突き落とす       待たれゐむ       喪の記事を       
鐘の          花の屑         片空の         いだきゆく       
春を待つ        遠景を         
 
 
 

07523
風のなかに 身を反らしあふ 冬の木々 けぢめなく待つ 時間流れて
カゼノナカニ ミヲソラシアフ フユノキギ ケヂメナクマツ ジカンナガレテ

『短歌』(角川書店 1960.3) 第7巻3号(通巻75号) p.34


07524
錆び釘を 拾ひて土に 書きし文字 落ち葉の下に 幾日保たむ
サビクギヲ ヒロヒテツチニ カキシモジ オチバノモトニ イクヒタモタム

『短歌』(角川書店 1960.3) 第7巻3号(通巻75号) p.34


07525
駅を出でて 枯れ野の口に 懸かる橋 バスを渡して より渡りゆく
エキヲイデテ カレノノクチニ カカルハシ バスヲワタシテ ヨリワタリユク

『短歌』(角川書店 1960.3) 第7巻3号(通巻75号) p.34


07526
流れつつ 向きを変へゆく 芥見つ 箴言などに 拘る日にて
ナガレツツ ムキヲカヘユク アクタミツ シンゲンナドニ コダハルヒニテ

『短歌』(角川書店 1960.3) 第7巻3号(通巻75号) p.35


07527
針山に もつれゐし糸 ほぐしつつ きれぎれに戻り くる記憶あり
ハリヤマニ モツレヰシイト ホグシツツ キレギレニモドリ クルキオクアリ

『短歌』(角川書店 1960.3) 第7巻3号(通巻75号) p.35


07528
降り出でて 石の粗面を 濡らす雨 人も蹤きゆく 犬もしづけし
フリイデテ イシノソメンヲ ヌラスアメ ヒトモツキユク イヌモシヅケシ

『短歌』(角川書店 1960.3) 第7巻3号(通巻75号) p.35


07529
しづくして ゐしアカンサス 鎮まれば 理詰めに言へる こともはかなし
シヅクシテ ヰシアカンサス シズマレバ リヅメニイヘル コトモハカナシ

『短歌』(角川書店 1960.3) 第7巻3号(通巻75号) p.35


07530
へだたりを 確かめ合へば 足るごとく ドア押して出づ 夜霧の街に
ヘダタリヲ タシカメアヘバ タルゴトク ドアオシテイヅ ヨギリノマチニ

『短歌』(角川書店 1960.3) 第7巻3号(通巻75号) p.35


07531
塗りつぶし ゐる夜の時間 風疼く 雑木林を 背後に置きて
ヌリツブシ ヰルヨノジカン カゼウヅク ザツボクリンヲ ソビラニオキテ

『短歌』(角川書店 1960.3) 第7巻3号(通巻75号) p.35


07532
マジヨリカの 壷伏せ置きて 久しきに シレーヌのこゑも 蘇り来ず
マジヨリカノ ツボフセオキテ ヒサシキニ シレーヌノコヱモ ヨミガエリコズ

『短歌』(角川書店 1960.3) 第7巻3号(通巻75号) p.35


07533
前髪に 雪のしづくを 光らせて 訪はむ未知の 女のごとく
マエガミニ ユキノシヅクヲ ヒカラセテ オトナハムミチノ オンナノゴトク

『短歌』(角川書店 1960.3) 第7巻3号(通巻75号) p.35


07534
落体と なりゆくわが身 思ふまで 壁に吊られて ゆがめるコート
ラクタイト ナリユクワガミ オモフマデ カベニツラレテ ユガメルコート

『短歌』(角川書店 1960.3) 第7巻3号(通巻75号) p.35


07535
ストールの ひるがへりつつ 歩む影 堤の上を 遠ざかりゆく
ストールノ ヒルガヘリツツ アユムカゲ ツツミノウエヲ トオザカリユク

『短歌』(角川書店 1960.3) 第7巻3号(通巻75号) p.36


07536
杭を打ち ゐたる人らも 去りゆけば 野になづさひて 草火の煙り
クイヲウチ ヰタルヒトラモ サリユケバ ノニナヅサヒテ クサビノケムリ

『短歌』(角川書店 1960.3) 第7巻3号(通巻75号) p.36


07537
袖刳りの 曲線を裁つ 手もとより 夜のほとぼりも 失ひ易し
ソデグリノ キョクセンヲタツ テモトヨリ ヨノホトボリモ ウシナヒヤスシ

『短歌』(角川書店 1960.3) 第7巻3号(通巻75号) p.36


07538
語原など 知り得しことの 何ならむ 書庫閉ぢて石の 廊下を渡る
ゴゲンナド シリエシコトノ ナニナラム ショコトヂテイシノ ロウカヲワタル

『短歌』(角川書店 1960.3) 第7巻3号(通巻75号) p.36


07539
有機物の 燃ゆる臭ひと 思ひゐて 肩へ集まり くる疲れあり
ユウキブツノ モユルニオヒト オモヒヰテ カタヘアツマリ クルツカレアリ

『短歌』(角川書店 1960.3) 第7巻3号(通巻75号) p.36


07540
死語ばかり 知る寂しさか 本あまた 積みて焚きゐる 夢など見つつ
シゴバカリ シルサビシサカ ホンアマタ ツミテタキヰル ユメナドミツツ

『短歌』(角川書店 1960.3) 第7巻3号(通巻75号) p.36


07541
釈明を 下待つわれも 寂しきに 落ち葉は深し 轍うづめて
シャクメイヲ シタマツワレモ サビシキニ オチバハフカシ ワダチウヅメテ

『短歌』(角川書店 1960.3) 第7巻3号(通巻75号) p.36


07542
落飾し 終れる古き 物語り きりきりと堪へて ゐる日々に恋ふ
ラクショクシ オワレルフルキ モノガタリ キリキリトタヘテ ヰルヒビニコフ

『短歌』(角川書店 1960.3) 第7巻3号(通巻75号) p.36


07543
鉢の外に 魚のはみ出し ゐる童画 はみ出て赤き 尾鰭がそよぐ
ハチノソトニ ウオノハミダシ ヰルドウガ ハミデテアカキ オヒレガソヨグ

『短歌』(角川書店 1960.3) 第7巻3号(通巻75号) p.36


07544
突き落とす 刹那に醒めし 夢のあと 色無き雲の 流れてやまず
ツキオトス セツナニサメシ ユメノアト イロナキクモノ ナガレテヤマズ

『短歌』(角川書店 1960.3) 第7巻3号(通巻75号) p.37


07545
待たれゐむ 檄さへ今は 書き得ぬに 組みを解かれて ひしめく活字
マタレヰム ゲキサヘイマハ カキエヌニ クミヲトカレテ ヒシメクカツジ

『短歌』(角川書店 1960.3) 第7巻3号(通巻75号) p.37


07546
喪の記事を 足して校了とし 来し夜の 電熱器の渦 音なく点る
モノキジヲ タシテコウリョウトシ コシヨルノ ヒーターノウヅ オトナクトモル

『短歌』(角川書店 1960.3) 第7巻3号(通巻75号) p.37


07547
鐘の 曲ながれくる 朝の窓 黄味つぶらかに 卵は割らる
カリヨンノ キョクナガレクル アサノマド キミツブラカニ タマゴハワラル

『短歌』(角川書店 1960.3) 第7巻3号(通巻75号) p.37


07548
花の屑 散らばる花舗の 前過ぎて マツフのなかの 手があたたかし
ハナノクズ チラバルカホノ マエスギテ マツフノナカノ テガアタタカシ

『短歌』(角川書店 1960.3) 第7巻3号(通巻75号) p.37


07549
片空の 虹もうすれて 凪ぎ深し まつはる犬を 枯れ木につなぐ
カタソラノ ニジモウスレテ ナギフカシ マツハルイヌヲ カレキニツナグ

『短歌』(角川書店 1960.3) 第7巻3号(通巻75号) p.37


07550
いだきゆく 鉢の桜草 花ゆらぐ 言ひそびれたる 語彙が重たし
イダキユク ハチノプリムラ ハナユラグ イヒソビレタル ゴイガオモタシ

『短歌』(角川書店 1960.3) 第7巻3号(通巻75号) p.37


07551
春を待つ 木々のしずけさ 巣箱幾つ 懸け終へて人の 去りたる後も
ハルヲマツ キギノシズケサ スバコイクツ カケオヘテヒトノ サリタルノチモ

『短歌』(角川書店 1960.3) 第7巻3号(通巻75号) p.37


07552
遠景を とざして芽ぶく 雑木原 沼は音なく 水湛へゐる
エンケイヲ トザシテメブク ザフキハラ ヌマハオトナク ミズタタヘヰル

『短歌』(角川書店 1960.3) 第7巻3号(通巻75号) p.37