さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

形成

 
拾ひものを       上空は         真っ黒の        所在なく        
うす皮を        刻印を         ゑのころ草       欄干は         
棕櫚縄の        さまざまの       漂ひて         のがれ得ぬ       
あきらめて       いづこより       救はるる        強がりを        
忘れゐし        霧吹きて        工務店         鶴を見む        
雪吊りの        大鳥居         聞き覚え        存在が         
エレベーターの     石の礫の        棕梠の花も       鍵しめて        
保育園の        駅員の         丘の上に        山の子栗鼠も      
発車までの       なきがらの       まどろみて       かつて聞き       
ひとりひとりの     瑠璃揚羽の       農業の         大仰な         
くるりくるり      レッカー車の      防虫剤を        結論を         
運命と         落し穴の        ロビンソン       T型定規        
マンションの      消幕の         夢に見て        紙一枚         
口数少なく       川岸の         眼底に         稲の葉は        
蜆蝶の         男の声         孔雀草と        風の熱も        
日曜を         花の絵の        夜の更けの       断面を         
よく噛んで       わが知らぬ       どの花かに       新しき         
かけこみて       かすかなる       大いなる        目印と         
奥の間の        一瞬の         疑はず         しろがねの       
本丸の         中腹に         道ばたの        靴箆を         
白鳥の         夢にさへ        山峡は         思はざる        
ストックの       小豆ほどの       仰ぎ見る        かげろふの       
体温を         梅雨の夜の       予報通りの       三日続きの       
ほめられし       衝動買ひは       状差しに        思はざる        
幾ときも        エルメスの       播かぬ種は       ひとりなす       
ブロンズの       くらがりを       前山の         うすうすに       
さむざむと       勾玉の         ふるさとの       デパートの       
声までは        先んじて        枯れいろの       広げたる        
バスを待つ       蜘蛛の網に       四個ありと       先々の         
新字体と        纜といふ        父の日も        葉の重さ        
おもかげを       郵便の         終点の         人間の         
何を運ぶ        戦争を         しみじみと       手袋を         
土を掻きて       人工の         その大き        ヘルメットに      
表の日         城塞の         レストランの      雪のまま        
奪はるる        冴えざえと       川岸の         たちまちに       
亡き父の        白梅の         白梅に         お守りの        
脇に置く        目の前の        左手に         幸運の         
紙屑か         屋上の         町へ出づる       桐は桐の        
用水と         編隊の         洗ひたる        二十年         
隣室は         服薬の         見て佇てる       まちまちの       
身のうちに       たんぽぽの       水面に         咲き出でて       
咲き闌けし       折り目より       箱詰めの        口笛を         
円陣を         投手戦は        葉の黒く        蒸し暑き        
いろは順        いつのまに       夕餉のあとの      方舟の         
後退を         2カップの       ふさぎの虫も      買ふあても       
斜めより        北国の         葡萄園も        箒目の         
顎埋め         歳の市の        帰りこむ        上級生の        
急ブレーキ       ストーブを       おくれ毛を       制限の         
転校の         有様は         五分計の        偶然とも        
僧形の         遠くより        回り道         幾日経て        
たひらかに       それぞれに       しんとして       適温の         
キュラソーの      青々と         幼くて         病むことは       
思はざる        終夜営業の       素人の         放鳥の         
騒擾を         電文の         前かがみに       目に見えぬ       
左手の         人差し指を       三四人の        春ふけて        
風によぢれし      翻車魚の        黄の花が        縮尺に         
岩礁に         看護婦の        病室に         車にて         
夏休みも        夢見たる        かすみ草        聴覚の         
地に満つる       幼くて         カテーテルの      地謡の         
駐車場の        榾の束を        孫といふ        野球して        
数殖えし        倒れしは        夜の庭の        腑に落ちぬ       
夜に及ぶ        ダムになる       傘なして        満員の         
いつ癒ゆる       遠ければ        開場を         下山せぬ        
片栗を         田の畦の        伝令と         北東の         
たんぽぽの       桐の花の        男性が         約束を         
一枚の         流離の         冬越して        帰巣性と        
時経れば        三階の         子供連れも       臘梅の         
花粉症は        こののちを       ポストまで       菜の花が        
竹林の         ほんものの       送り来て        ONとOFFの     
どこか遠くに      竜宮と         眠らねば        浅間嶺の        
しづかなる       風のなか        ゆきずりの       睡眠薬の        
くらがりに       越して行き       ロシア名        花火焚く        
夜の更けに       朝市の         背伸びして       流灯に         
登校の         木枯らしの       迷走の         病み長き        
忘れかねし       見覚えの        ドラセナが       甲斐の無き       
道のべの        花豆と         渡来して        スティックに      
白粥を         追はるるを       障害者の        掛けてゐし       
ギャザー深き      キッチンの       脚赤き         黒鳥の         
ぼろぼろに       これだけの       昔見し         うす味に        
ぼんぼりに       父母の         雪国に         割れものの       
うつむきて       夜の更けに       わが留守に       伴天連と        
子を連れて       あがりたる       丈低き         木槿の花を       
うち沈み        クルーザーの      顔ほどの        カーテンの       
養蚕を         芯立てて        病院の         日記にも        
黒潮の         しろじろと       いくたびも       ジャイアンツの     
わが背にも       月に一度        明治四十        汗あえて        
古への         コバルトの       ガレージが       硝子ごしに       
桜の葉         食パンの        自転車の        やはらかく       
こぶ白鳥        水面を         われの持つ       花の日を        
いつのまに       初めての        たれもみな       幼くて         
緋のいろの       あこがれて       島々を         何に対ふ        
蕁麻の         灰皿に         特攻の         右折して        
音も無く        途中から        夢にさへ        父母祖父母       
遅くなる        カーネーション     置時計が        もう一人        
つぎつぎに       自転車を        秘めておく       音を立てて       
金粉の         地球儀も        流氷の         再び三たび       
わけもなく       まつすぐに       立ちどまる       わたつみを       
中東の         人知れぬ        海峡を         ぼんぼりも       
本当の         いづことも       四月一日・       禾本科と        
水を得る        殉死とふ        Xデー         踊りつつ        
うす青き        中仙道と        おもだかの       川幅の         
異国人の        亀甲の         生きて又        国富論・        
潜水艦         「蜑」といふ      篝火は         帰り来て        
大き目を        隠密の         房のまま        いつのまに       
鈴の鳴る        捨てかねて       少年の         奥まりて        
年越さば        茎のいろが       傍らに         絨緞に         
十字路に        呼ぶことを       おもかげに       刃物には        
上州の         百合の木と       観音は         胡座居の        
白鳥を         三角に         中指の         幼子と         
年月は         土いろに        子供ゆゑ        耳垂れし        
壬申の         畑には         数枚の         水いろの        
かぐはしき       みづうみの       洋車にも        電光石火        
思はざる        来ぬ年の        稜線の         つぎつぎに       
使ひ捨ての       何もせぬ        どの山も        幼子の         
直さずに        きざまれし       こみあぐる       じやんけんに      
銀鱗の         戻りたる        押し合ひて       落款の         
何をする        み仏も         戯れに         落ちざりし       
をりふしに       つらなりて       箱眼鏡         起き出づる       
カフェテラスに     雨だれの        圏外に         病院の         
何を病む        花過ぎし        目の前を        わが家の        
気迷ひも        駐車せる        つぶつぶの       をさな子の       
拾はれて        目の前に        辻褄を         子も親も        
括られし        振り向かば       書斎には        穂草そよぐ       
バス停に        病む前も        珍しき         千年の         
ゲレンデの       かがまれる       北国の         お日さまの       
摘み草の        砂漠には        あきらめて       児童らが        
考へて         さまざまに       曲水の         家族らは        
足取りを        伴天連と        ときに縮み       右の手に        
近未来の        外側より        咲き終へし       摘み草の        
砂漠には        あきらめて       児童らが        考へて         
 
 
 

06841
拾ひものを せし如き今日の 暖かさ トルコ桔梗は みな開きたり
ヒロヒモノヲ セシゴトキキョウノ アタタカサ トルコキキョウハ ミナヒラキタリ

『形成』(形成発行所 1985.2) 第33巻2号(通巻382号) p.15


06842
上空は 風あるならむ 音立てて 木の実降りつぐ 落ち葉の上に
ジョウクウハ カゼアルナラム オトタテテ コノミフリツグ オチバノウエニ

『形成』(形成発行所 1985.2) 第33巻2号(通巻382号) p.15


06843
真っ黒の 牡牛は目のみ 光らせて にれがみゐたり 油彩のなかに
マックロノ オウシハメノミ ヒカラセテ ニレガミヰタリ ユサイノナカニ

『形成』(形成発行所 1985.2) 第33巻2号(通巻382号) p.15


06844
所在なく バス待ちをれば たかむらは 風のまにまに 透きて明るむ
ショザイナク バスマチヲレバ タカムラハ カゼノマニマニ スキテアカルム

『形成』(形成発行所 1985.2) 第33巻2号(通巻382号) p.15


06845
うす皮を 一枚一枚 剥ぎゆきて 何に到らむ われとも知れず
ウスカワヲ イチマイイチマイ ハギユキテ ナニニイタラム ワレトモシレズ

『形成』(形成発行所 1985.2) 第33巻2号(通巻382号) p.15


06846
刻印を 打たれし材木 積まれをり 小さき駅舎を 出でて来つれば
コクインヲ ウタレシザイモク ツマレヲリ チイサキエキシャヲ イデテキツレバ

『形成』(形成発行所 1985.3) 第33巻3号(通巻383号) p.142


06847
ゑのころ草 吹かれゐるのみ 石仏は すでに祠に おはさずといふ
ヱノコログサ フカレヰルノミ セキブツハ スデニホコラニ オハサズトイフ

『形成』(形成発行所 1985.3) 第33巻3号(通巻383号) p.142


06848
欄干は 鉄のつめたき 手を打ちて 呼べば寄り来る 鯉ありにけり
ランカンハ テツノツメタキ テヲウチテ ヨベバヨリクル コイアリニケリ

『形成』(形成発行所 1985.3) 第33巻3号(通巻383号) p.142


06849
棕櫚縄の 切り口未だ 新しき 筧と見つつ 木戸よりの道
シュロナワノ キリグチイマダ アタラシキ カケイトミツツ キドヨリノミチ

『形成』(形成発行所 1985.3) 第33巻3号(通巻383号) p.142


06850
さまざまの 花押を繰りて 見てゐしが 滅びて人の 残すかたちよ
サマザマノ カオウヲクリテ ミテヰシガ ホロビテヒトノ ノコスカタチヨ

『形成』(形成発行所 1985.3) 第33巻3号(通巻383号) p.142


06851
漂ひて ゐし夢のなか 去るものは 声も立てずに 身をひるがへす
タダヨヒテ ヰシユメノナカ サルモノハ コエモタテズニ ミヲヒルガヘス

『形成』(形成発行所 1985.4) 第33巻4号(通巻384号) p.15


06852
のがれ得ぬ 罠にかかれる われならむ 結果はたちまち 原因をなす
ノガレエヌ ワナニカカレル ワレナラム ケッカハタチマチ ゲンインヲナス

『形成』(形成発行所 1985.4) 第33巻4号(通巻384号) p.15


06853
あきらめて 眼鏡拭きをれば 点かざりし 蛍光灯の 音してともる
アキラメテ メガネフキヲレバ ツカザリシ ケイコウトウノ オトシテトモル

『形成』(形成発行所 1985.4) 第33巻4号(通巻384号) p.15


06854
いづこより うつされて来し 風邪ならむ 臘梅の花も 匂はずなりぬ
イヅコヨリ ウツサレシコシ カゼナラム ロウバイノハナモ ニオハズナリヌ

『形成』(形成発行所 1985.4) 第33巻4号(通巻384号) p.15


06855
救はるる 魂をわが 持たざれば 十日病みたる 顔をとがらす
スクハルル タマシイヲワガ モタザレバ トオカヤミタル カオヲトガラス

『形成』(形成発行所 1985.4) 第33巻4号(通巻384号) p.15


06856
強がりを 言ひて来にしが ネックレス はづせる襟の ときのま涼し
ツヨガリヲ イヒテキニシガ ネックレス ハヅセルエリノ トキノマスズシ

『形成』(形成発行所 1985.5) 第33巻5号(通巻385号) p.158


06857
忘れゐし 記憶を呼びて 飴いろに 古りたる竹の 物差が出づ
ワスレヰシ キオクヲヨビテ アメイロニ フリタルタケノ モノサシガイヅ

『形成』(形成発行所 1985.5) 第33巻5号(通巻385号) p.158


06858
霧吹きて 根元うるほす 朝々に シンビジュームは 絹のつや持つ
キリフキテ ネモトウルホス アサアサニ シンビジュームハ キヌノツヤモツ

『形成』(形成発行所 1985.5) 第33巻5号(通巻385号) p.158


06859
工務店 近くにあれば チェーンソーの 音にも馴れて 十五年経ぬ
コウムテン チカクニアレバ チェーンソーノ オトニモナレテ ジュウゴネンヘヌ

『形成』(形成発行所 1985.5) 第33巻5号(通巻385号) p.158


06860
鶴を見む 旅も果たさで 終らむか 春めきて来し 夕映え仰ぐ
ツルヲミム タビモハタサデ オワラムカ ハルメキテコシ ユウバエアオグ

『形成』(形成発行所 1985.5) 第33巻5号(通巻385号) p.158


06861
雪吊りの 松を見にしは 五年前 今日ひとり来て 風を見てゐる
ユキツリノ マツヲミニシハ ゴネンマエ キョウヒトリキテ カゼヲミテヰル

『形成』(形成発行所 1985.6) 第33巻6号(通巻386号) p.15


06862
大鳥居 すぎて露天の 土産屋に つるされしもの こもごもに鳴る
オオトリイ スギテロテンノ ミヤゲヤニ ツルサレシモノ コモゴモニナル

『形成』(形成発行所 1985.6) 第33巻6号(通巻386号) p.15


06863
聞き覚え ある声なりし 誰なりし 松の手入れを してゐし人は
キキオボエ アルコエナリシ ダレナリシ マツノテイレヲ シテヰシヒトハ

『形成』(形成発行所 1985.6) 第33巻6号(通巻386号) p.15


06864
存在が 存在を狭め ゐるごとく 揉みあへる木々 夜目にすさまじ
ソンザイガ ソンザイヲセバメ ヰルゴトク モミアヘルキギ ヨメニスサマジ

『形成』(形成発行所 1985.6) 第33巻6号(通巻386号) p.15


06865
エレベーターの ドア開かれて 結束を 解かれし如く 人の出でくる
エレベーターノ ドアヒラカレテ ケッソクヲ トカレシゴトク ヒトノイデクル

『形成』(形成発行所 1985.6) 第33巻6号(通巻386号) p.15


06866
石の礫の とびくるなかに ゐたりしが 何事もあらず 夢より覚めて
イシノツブテノ トビクルナカニ ヰタリシガ ナニゴトモアラズ ユメヨリサメテ

『形成』(形成発行所 1985.7) 第33巻7号(通巻387号) p.158


06867
棕梠の花も 見慣れて今は 驚かず 北国に住みゐて 知らざりし花
シュロノハナモ ミナレテイマハ オドロカズ キタグニニスミヰテ シラザリシハナ

『形成』(形成発行所 1985.7) 第33巻7号(通巻387号) p.158


06868
鍵しめて 出づる習ひの ふと寂し 通りまで人を 送らむとして
カギシメテ イヅルナラヒノ フトサビシ トオリマデヒトヲ オクラムトシテ

『形成』(形成発行所 1985.7) 第33巻7号(通巻387号) p.158


06869
保育園の 終る時間か 子どもらは 紙の兜を かぶりて出で来
ホイクエンノ オワルジカンカ コドモラハ カミノカブトヲ カブリテイデク

『形成』(形成発行所 1985.7) 第33巻7号(通巻387号) p.158


06870
駅員の 駆け寄るさまを 見しのみに 何の事故とも 知らず発ち来ぬ
エキインノ カケヨルサマヲ ミシノミニ ナンノジコトモ シラズタチキヌ

『形成』(形成発行所 1985.7) 第33巻7号(通巻387号) p.158


06871
丘の上に まばらに墓を 置くのみに 人影もなし 青麦の野は
オカノウエニ マバラニハカヲ オクノミニ ヒトカゲモナシ アオムギノノハ

『形成』(形成発行所 1985.8) 第33巻8号(通巻388号) p.14


06872
山の子栗鼠も 殖えてゐるとぞ この町の リラは紫の 花を盛り上ぐ
ヤマノコリスモ フエテヰルトゾ コノマチノ リラハムラサキノ ハナヲモリアグ

『形成』(形成発行所 1985.8) 第33巻8号(通巻388号) p.14


06873
発車までの 時間いくばく 望遠鏡に とらへし鳶を どこまでも追ふ
ハッシャマデノ ジカンイクバク ボウエンキョウニ トラヘシトビヲ ドコマデモオフ

『形成』(形成発行所 1985.8) 第33巻8号(通巻388号) p.14


06874
なきがらの 浮かぬ水深と 言ひゐしが バックミラーに 切岸は見ゆ
ナキガラノ ウカヌスイシント イヒヰシガ バックミラーニ キリギシハミユ

『形成』(形成発行所 1985.8) 第33巻8号(通巻388号) p.14


06875
まどろみて 津波の夢を 見てゐたり 湾岸道路を 行くバスのなか
マドロミテ ツナミノユメヲ ミテヰタリ ワンガンドウロヲ ユクバスノナカ

『形成』(形成発行所 1985.8) 第33巻8号(通巻388号) p.14


06876
かつて聞き 忘れてゐたる 噂など 翳ふかめをり 今日また聞けば
カツテキキ ワスレテヰタル ウワサナド カゲフカメヲリ キョウマタキケバ

『形成』(形成発行所 1985.9) 第33巻9号(通巻389号) p.156


06877
ひとりひとりの 渚に帰りて 眠るならむ 笑ひ転げて ゐる少女らも
ヒトリヒトリノ ナギサニカエリテ ネルナラム ワラヒコロゲテ ヰルショウジョラモ

『形成』(形成発行所 1985.9) 第33巻9号(通巻389号) p.156


06878
瑠璃揚羽の 縺れて飛べる 見しのみに くるぶし濡らし 畦道をゆく
ルリアゲハノ モツレテトベル ミシノミニ クルブシヌラシ アゼミチヲユク

『形成』(形成発行所 1985.9) 第33巻9号(通巻389号) p.156


06879
農業の 不安伝へて この春は てふてふのいたく 少なしといふ
ノウギョウノ フアンツタヘテ コノハルハ テフテフノイタク スクナシトイフ

『形成』(形成発行所 1985.9) 第33巻9号(通巻389号) p.156


06880
大仰な 広告のなかに 誤植一つ 見出でしのみに 夕刊を閉づ
オウギョウナ コウコクノナカニ ゴショクヒトツ ミイデシノミニ ユウカンヲトヅ

『形成』(形成発行所 1985.9) 第33巻9号(通巻389号) p.156


06881
くるりくるり 日傘回して 行きにしは 在りしながらの 妹ならむ
クルリクルリ ヒガサマワシテ ユキニシハ アリシナガラノ イモウトナラム

『形成』(形成発行所 1985.10) 第33巻10号(通巻390号) p.14


06882
レッカー車の 到着を待つ 作業衣の 二人所在なく 芝生を踏めり
レッカーシャノ トウチャクヲマツ サギョウイノ フタリショザイナク シバフヲフメリ

『形成』(形成発行所 1985.10) 第33巻10号(通巻390号) p.14


06883
防虫剤を 入れ足ししのみ 抽斗に 詰まれるものを そのままにして
ボウチュウザイヲ イレタシシノミ ヒキダシニ ツマレルモノヲ ソノママニシテ

『形成』(形成発行所 1985.10) 第33巻10号(通巻390号) p.14


06884
結論を 急がざらむと 決めゐるに はやる思ひの をりをりきざす
ケツロンヲ イソガザラムト キメヰルニ ハヤルオモヒノ ヲリヲリキザス

『形成』(形成発行所 1985.10) 第33巻10号(通巻390号) p.14


06885
運命と いそしむ夜毎 寝て覚めて 地獄の底に ゐるやも知れず
ウンメイト イソシムヨゴト ネテサメテ ジゴクノソコニ ヰルヤモシレズ

『形成』(形成発行所 1985.10) 第33巻10号(通巻390号) p.14


06886
落し穴の やうな裂け目の ある道と 知りゐる足の おのづ右向く
オトシアナノ ヤウナサケメノ アルミチト シリヰルアシノ オノヅミギムク

『形成』(形成発行所 1985.11) 第33巻11号(通巻391号) p.166


06887
ロビンソン 風速計と 謂ふのならむ ゴルフ場に低く 椀が回れり
ロビンソン フウソクケイト イフノナラム ゴルフジョウニヒクク ワンガマワレリ

『形成』(形成発行所 1985.11) 第33巻11号(通巻391号) p.166


06888
T型定規 当てて図面を 引きゐしが 人を呼びたり ののしるごとく
ティガタジョウギ アテテズメンヲ ヒキヰシガ ヒトヲヨビタリ ノノシルゴトク

『形成』(形成発行所 1985.11) 第33巻11号(通巻391号) p.166


06889
マンションの 廊下ひそまり 不意に誰か 出でて来さうな 扉が並ぶ
マンションノ ロウカヒソマリ フイニダレカ イデテキサウナ トビラガナラブ

『形成』(形成発行所 1985.11) 第33巻11号(通巻391号) p.166


06890
消幕の 如きが目の前に かざされて 隠されしものの 何とも知れず
ケシマクノ ゴトキガメノマエニ カザサレテ カクサレシモノノ ナニトモシレズ

『形成』(形成発行所 1985.11) 第33巻11号(通巻391号) p.166


06891
夢に見て 教師のころを 思ひたり 黒板は背に 大きかりけり
ユメニミテ キョウシノコロヲ オモヒタリ コクバンハセニ オオキカリケリ

『形成』(形成発行所 1985.12) 第33巻12号(通巻392号) p.14


06892
紙一枚 へだてし砂鉄 磁石もて あやつりゐしは 幾つのころか
カミイチマイ ヘダテシサテツ ジシャクモテ アヤツリヰシハ イクツノコロカ

『形成』(形成発行所 1985.12) 第33巻12号(通巻392号) p.14


06893
口数少なく 座にありにしが 最後まで をりて茶托を 重ねくれたり
クチカズスクナク ザニアリニシガ サイゴマデ ヲリテチャタクヲ カサネクレタリ

『形成』(形成発行所 1985.12) 第33巻12号(通巻392号) p.14


06894
川岸の 虎杖も芦も 枯れ伏して 見通しのきく カーブとなりぬ
カワギシノ イタドリモアシモ カレフシテ ミトオシノキク カーブトナリヌ

『形成』(形成発行所 1985.12) 第33巻12号(通巻392号) p.14


06895
眼底に 異常ありとふ 右の目を 閉ぢむに左の 目も閉ぢゐたり
ガンテイニ イジョウアリトフ ミギノメヲ トヂムニヒダリノ メモトヂヰタリ

『形成』(形成発行所 1985.12) 第33巻12号(通巻392号) p.14


06896
稲の葉は 露あげて朝々 光るとふ わが知らぬ一つ 農のよろこび
イネノハハ ツユアゲテアサアサ ヒカルトフ ワガシラヌヒトツ ノウノヨロコビ

『形成』(形成発行所 1986.1) 第34巻1号(通巻393号) p.150


06897
蜆蝶の 数よむことも なく見ゐて 自在といふにも 限りのあらむ
シジミチョウノ カズヨムコトモ ナクミヰテ ジザイトイフニモ カギリノアラム

『形成』(形成発行所 1986.1) 第34巻1号(通巻393号) p.15


06898
男の声 障子のなかに してゐしが ひひらぎの花 かすかに匂ふ
オトコノコエ ショウジノナカニ シテヰシガ ヒヒラギノハナ カスカニニオフ

『形成』(形成発行所 1986.1) 第34巻1号(通巻393号) p.15


06899
孔雀草と 聞きし白花 きらめきて ひと夜の夢に ひろがりやまず
クジャクソウト キキシシロバナ キラメキテ ヒトヨノユメニ ヒロガリヤマズ

『形成』(形成発行所 1986.1) 第34巻1号(通巻393号) p.15


06900
風の熱も やうやく引きて 鳥の声 弾めりと思ふ 今朝のめざめに
カゼノネツモ ヤウヤクヒキテ トリノコエ ハズメリトオモフ ケサノメザメニ

『形成』(形成発行所 1986.1) 第34巻1号(通巻393号) p.15


06901
日曜を 休む店あり 賑はへる 店あり午後の 町を歩めば
ニチヨウヲ ヤスムミセアリ ニギハヘル ミセアリゴゴノ マチヲアユメバ

『形成』(形成発行所 1986.2) 第34巻2号(通巻394号) p.15


06902
花の絵の ラベルやさしく 向日葵の 蜂蜜といふ 小瓶が売らる
ハナノエノ ラベルヤサシク ヒマワリノ ハチミツトイフ コビンガウラル

『形成』(形成発行所 1986.2) 第34巻2号(通巻394号) p.15


06903
夜の更けの ベランダを駆け 抜けしもの かの魔のものか 今の黒猫
ヨノフケノ ベランダヲカケ ヌケシモノ カノマノモノカ イマノクロネコ

『形成』(形成発行所 1986.2) 第34巻2号(通巻394号) p.15


06904
断面を 見しと思へる 錯覚に 重き頭蓋を のせて起き出づ
ダンメンヲ ミシトオモヘル サッカクニ オモキズガイヲ ノセテオキイヅ

『形成』(形成発行所 1986.2) 第34巻2号(通巻394号) p.15


06905
よく噛んで 食べよと言ひし 母の声 歯の弱くなれる 今に身に沁む
ヨクカンデ タベヨトイヒシ ハハノコエ ハノヨワクナレル イマニミニシム

『形成』(形成発行所 1986.2) 第34巻2号(通巻394号) p.15


06906
わが知らぬ 月日重ねて いづくにか まどかに人の 老いていまさむ
ワガシラヌ ツキヒカサネテ イヅクニカ マドカニヒトノ オイテイマサム

『形成』(形成発行所 1986.3) 第34巻3号(通巻395号) p.150


06907
どの花かに 見つめられゐる 思ひせり 蘭のフレーム 巡りゆきつつ
ドノハナカニ ミツメラレヰル オモヒセリ ランノフレーム メグリユキツツ

『形成』(形成発行所 1986.3) 第34巻3号(通巻395号) p.150


06908
新しき 鳥籠に移し 入れられし 黄のインコ二羽 はばたきやまず
アタラシキ トリカゴニウツシ イレラレシ キノインコニワ ハバタキヤマズ

『形成』(形成発行所 1986.3) 第34巻3号(通巻395号) p.150


06909
かけこみて 乗りし勢ひに 三米ほど つい走りたり われにもあらず
カケコミテ ノリシイキオヒニ サンメートルホド ツイハシリタリ ワレニモアラズ

『形成』(形成発行所 1986.3) 第34巻3号(通巻395号) p.150


06910
かすかなる 茜なりしが 西の空 混み合へるまま 暮れゆかむとす
カスカナル アカネナリシガ ニシノソラ コミアヘルママ クレユカムトス

『形成』(形成発行所 1986.3) 第34巻3号(通巻395号) p.150


06911
大いなる 旗のたたまれ 日の丸の 部分もつひに たたみ込まれぬ
オオイナル ハタノタタマレ ヒノマルノ ブブンモツヒニ タタミコマレヌ

『形成』(形成発行所 1986.4) 第34巻4号(通巻396号) p.13


06912
目印と 教はりにしが 今日来れば 幼稚園の建物は いつしか在らず
メジルシト オソハリニシガ キョウクレバ ヨウチエンノタテモノハ イツシカアラズ

『形成』(形成発行所 1986.4) 第34巻4号(通巻396号) p.13


06913
奥の間の 押入れの細く あきてをり 何を出したる 記憶もなくて
オクノマノ オシイレホソク アキテヲリ ナニヲダシタル キオクモナクテ

『形成』(形成発行所 1986.4) 第34巻4号(通巻396号) p.13


06914
一瞬の 間と思へど あらだちて 声をあげたり ガスのほのほは
イッシュンノ カントオモヘド アラダチテ コエヲアゲタリ ガスノホノホハ

『形成』(形成発行所 1986.4) 第34巻4号(通巻396号) p.13


06915
疑はず そのをりをりを 生きしのみ ゆりかごの唄も 歌ふことなく
ウタガハズ ソノヲリヲリヲ イキシノミ ユリカゴノウタモ ウタフコトナク

『形成』(形成発行所 1986.4) 第34巻4号(通巻396号) p.13


06916
しろがねの 紐のいくすぢ かかりゐて 凍れる滝の 垂直ならず
シロガネノ ヒモノイクスヂ カカリヰテ コオレルタキノ スイチョクナラズ

『形成』(形成発行所 1986.5) 第34巻5号(通巻397号) p.150


06917
本丸の 跡とし言へり 石垣の 裾をふちどる 去年の落ち葉は
ホンマルノ アトトシイヘリ イシガキノ スソヲフチドル コゾノオチバハ

『形成』(形成発行所 1986.5) 第34巻5号(通巻397号) p.150


06918
中腹に 節分草の 咲くといふ いまだに雪の 深しとも言ふ
チュウフクニ セツブンソウノ サクトイフ イマダニユキノ フカシトモイフ

『形成』(形成発行所 1986.5) 第34巻5号(通巻397号) p.150


06919
道ばたの 残雪のさき 古綿の ごとしと言へる 比喩もほろびむ
ミチバタノ ザンセツノサキ フルワタノ ゴトシトイヘル ヒユモホロビム

『形成』(形成発行所 1986.5) 第34巻5号(通巻397号) p.150


06920
靴箆を 取らむとすれば ポケットに 入れしままなる コインが音す
クツベラヲ トラムトスレバ ポケットニ イレシママナル コインガオトス

『形成』(形成発行所 1986.5) 第34巻5号(通巻397号) p.150


06921
白鳥の 飛べる姿に 消え残る 雪とぞみちのくの 春を伝へて
ハクチョウノ トベルスガタニ キエノコル ユキトゾミチノクノ ハルヲツタヘテ

『形成』(形成発行所 1986.6) 第34巻6号(通巻398号) p.15


06922
夢にさへ 声のかすれて くらがりに うなづくのみの 父と会ひゐし
ユメニサヘ コエノカスレテ クラガリニ ウナヅクノミノ チチトアヒヰシ

『形成』(形成発行所 1986.6) 第34巻6号(通巻398号) p.15


06923
山峡は 春浅くして ふたたびの 雪に沈みゐむ 乙女の像は
サンキョウハ ハルアサクシテ フタタビノ ユキニシズミヰム オトメノゾウハ

『形成』(形成発行所 1986.6) 第34巻6号(通巻398号) p.15


06924
思はざる 大雪のあと 片栗は 一輪のみと なりて咲きゐつ
オモハザル オオユキノアト カタクリハ イチリンノミト ナリテサキヰツ

『形成』(形成発行所 1986.6) 第34巻6号(通巻398号) p.15


06925
ストックの 匂へる白を 束のまま 供へて寒し 春の彼岸会
ストックノ ニオヘルシロヲ タバノママ ソナヘテサムシ ハルノヒガンヱ

『形成』(形成発行所 1986.6) 第34巻6号(通巻398号) p.15


06926
小豆ほどの 蕾なりしが 紅梅は はなびら裂きて あはきくれなゐ
アヅキホドノ ツボミナリシガ コウバイハ ハナビラサキテ アハキクレナヰ

『形成』(形成発行所 1986.7) 第34巻7号(通巻399号) p.146


06927
仰ぎ見る 紅梅一樹 空間を おしひろげつつ 咲きあふれたり
アオギミル コウバイイチジュ クウカンヲ オシヒロゲツツ サキアフレタリ

『形成』(形成発行所 1986.7) 第34巻7号(通巻399号) p.146


06928
かげろふの なほ立つ如し ふるさとの 野をゆく夢より 戻り来りき
カゲロフノ ナホタツゴトシ フルサトノ ノヲユクユメヨリ モドリキタリキ

『形成』(形成発行所 1986.7) 第34巻7号(通巻399号) p.146


06929
体温を 計りなどして 午後となり 菜種梅雨とふ 細き雨降る
タイオンヲ ハカリナドシテ ゴゴトナリ ナタネヅユトフ ホソキアメフル

『形成』(形成発行所 1986.7) 第34巻7号(通巻399号) p.146


06930
梅雨の夜の 用水に来て 鳴きてゐし 水鶏の声も 今年は聞かず
ツユノヨノ ヨウスイニキテ ナキテヰシ クヒナノコエモ コトシハキカズ

『形成』(形成発行所 1986.7) 第34巻7号(通巻399号) p.146


06931
予報通りの 雨となりたり 校門を 出でくる少女ら みな傘をさす
ヨホウドオリノ アメトナリタリ コウモンヲ イデクルショウジョラ ミナカサヲサス

『形成』(形成発行所 1986.8) 第34巻8号(通巻400号) p.14


06932
三日続きの 雨に思へば みちのくの 河童の沼も 水湛へゐむ
ミッカツヅキノ アメニオモヘバ ミチノクノ カッパノヌマモ ミズタタヘヰム

『形成』(形成発行所 1986.8) 第34巻8号(通巻400号) p.14


06933
ほめられし ことにもあらね 血色の よき足裏と 指圧師が言ふ
ホメラレシ コトニモアラネ ケッショクノ ヨキアシウラト シアツシガイフ

『形成』(形成発行所 1986.8) 第34巻8号(通巻400号) p.14


06934
衝動買ひは 常のことにて 青インキ うすめし色の タオルを買ひぬ
ショウドウガヒハ ツネノコトニテ アオインキ ウスメシイロノ タオルヲカヒヌ

『形成』(形成発行所 1986.8) 第34巻8号(通巻400号) p.14


06935
状差しに 差しおくナイフ 物騒に 思はるる日の ありて暮れたり
ジョウサシニ サシオクナイフ ブッソウニ オモハルルヒノ アリテクレタリ

『形成』(形成発行所 1986.8) 第34巻8号(通巻400号) p.14


06936
思はざる 近間に今朝も 鬨つくる をんどり一羽 見たることなし
オモハザル チカマニケサモ トキツクル ヲンドリイチワ ミタルコトナシ

『形成』(形成発行所 1986.9) 第34巻9号(通巻401号) p.156


06937
幾ときも たたざるものを 灰皿に 落ちて匙なす 薔薇の花びら
イクトキモ タタザルモノヲ ハイザラニ オチテサジナス バラノハナビラ

『形成』(形成発行所 1986.9) 第34巻9号(通巻401号) p.156


06938
エルメスの 香水と思ひ すれ違ふ 人の和服の 夏めきゐたり
エルメスノ コウスイトオモヒ スレチガフ ヒトノワフクノ ナツメキヰタリ

『形成』(形成発行所 1986.9) 第34巻9号(通巻401号) p.156


06939
播かぬ種は 生えぬと言へり 頂きて 手帳にはさむ 雁来紅の種子
マカヌタネハ ハエヌトイヘリ イタダキテ テチョウニハサム カマツカノシュシ

『形成』(形成発行所 1986.9) 第34巻9号(通巻401号) p.156


06940
ひとりなす 水無月祓へ 灰皿に 小さき紙の 形代を燃す
ヒトリナス ミナヅキバラヘ ハイザラニ チイサキカミノ カタシロヲモス

『形成』(形成発行所 1986.9) 第34巻9号(通巻401号) p.156


06941
ブロンズの 青年の像を 仰ぎゐて 鋼のごとき こころにあらず
ブロンズノ セイネンノゾウヲ アオギヰテ ハガネノゴトキ ココロニアラズ

『形成』(形成発行所 1986.10) 第34巻10号(通巻402号) p.14


06942
くらがりを 帰りてくれば 夜の川に 匂ふはずなき うしほが匂ふ
クラガリヲ カエリテクレバ ヨノカワニ ニオフハズナキ ウシホガニオフ

『形成』(形成発行所 1986.10) 第34巻10号(通巻402号) p.14


06943
前山の 木々はさだかに そよぎゐて 次なる山は うすがすみせり
マエヤマノ キギハサダカニ ソヨギヰテ ツギナルヤマハ ウスガスミセリ

『形成』(形成発行所 1986.10) 第34巻10号(通巻402号) p.14


06944
うすうすに 張れる氷の 見えゐしが 痛きところの ありて目ざめぬ
ウスウスニ ハレルコオリノ ミエヰシガ イタキトコロノ アリテメザメヌ

『形成』(形成発行所 1986.10) 第34巻10号(通巻402号) p.14


06945
さむざむと 屈まりをれば 降り出でし 雨を言ひつつ 医師の来給ふ
サムザムト カガマリヲレバ フリイデシ アメヲイヒツツ イシノキタマフ

『形成』(形成発行所 1986.10) 第34巻10号(通巻402号) p.14


06946
勾玉の かたちに白く 暮れ残る 水たまりあり 地上を見れば
マガタマノ カタチニシロク クレノコル ミズタマリアリ チジョウヲミレバ

『形成』(形成発行所 1986.11) 第34巻11号(通巻403号) p.148


06947
ふるさとの 方言ならむ 昼顔を アメフリアサガホと 母は教へき
フルサトノ ホウゲンナラム ヒルガオヲ アメフリアサガホト ハハハオシヘキ

『形成』(形成発行所 1986.11) 第34巻11号(通巻403号) p.148


06948
デパートの 前の通りの 夕まぐれ 何の屋台か 店じまひせり
デパートノ マエノトオリノ ユウマグレ ナンノヤタイカ ミセジマヒセリ

『形成』(形成発行所 1986.11) 第34巻11号(通巻403号) p.148


06949
声までは 嗄れずにゐるを よみされて 切れば遥けし 夜更けの電話
コエマデハ カレズニヰルヲ ヨミサレテ キレバハルケシ ヨフケノデンワ

『形成』(形成発行所 1986.11) 第34巻11号(通巻403号) p.148


06950
先んじて 吠ゆる犬あり 雷同して 吠ゆる犬あり 覚めゐて聞けば
サキンジテ ホユルイヌアリ ライドウシテ ホユルイヌアリ サメヰテキケバ

『形成』(形成発行所 1986.11) 第34巻11号(通巻403号) p.148


06951
枯れいろの 網目なりしが 青蔦は 影をかさねて 壁を遮蔽す
カレイロノ アミメナリシガ アオツタハ カゲヲカサネテ カベヲシャヘイス

『形成』(形成発行所 1986.12) 第34巻12号(通巻404号) p.14


06952
広げたる 手の如き葉は カクレミノと 知りて歩めば 幾たびも会ふ
ヒロゲタル テノゴトキハハ カクレミノト シリテアユメバ イクタビモアフ

『形成』(形成発行所 1986.12) 第34巻12号(通巻404号) p.14


06953
バスを待つ 頭上をあまた 飛びかひて せはしかりにし 燕もゐず
バスヲマツ ズジョウヲアマタ トビカヒテ セハシカリニシ ツバクロモヰズ

『形成』(形成発行所 1986.12) 第34巻12号(通巻404号) p.14


06954
蜘蛛の網に 囚はれしものも 鎮まりて 細かく光る 雨の降り出づ
クモノイニ トラハレシモノモ シズマリテ コマカクヒカル アメノフリイヅ

『形成』(形成発行所 1986.12) 第34巻12号(通巻404号) p.14


06955
四個ありと 聞きしガリレイ 衛星も その木星も 見ず終らむか
ヨンコアリト キキシガリレイ エイセイモ ソノモクセイモ ミズオワラムカ

『形成』(形成発行所 1986.12) 第34巻12号(通巻404号) p.14


06956
先々の 思ひとめどなく ありにしが 立ちあがりたり 雨戸締めむと
サキザキノ オモヒトメドナク アリニシガ タチアガリタリ アマドシメムト

『形成』(形成発行所 1987.1) 第35巻1号(通巻405号) p.150


06957
新字体と いふに慣れつつ 元の字を 書きて試して 雨の夜をゐつ
シンジタイト イフニナレツツ モトノジヲ カキテタメシテ アメノヨヲヰツ

『形成』(形成発行所 1987.1) 第35巻1号(通巻405号) p.150


06958
纜といふ 文字鞴と いふ文字を 覚えゐしこと 幸ひに似る
ラントイフ モジフイゴト イフモドヲ オボエヰシコト サイワヒニニル

『形成』(形成発行所 1987.1) 第35巻1号(通巻405号) p.150


06959
父の日も 母の日も縁 なく過ぎて われにめぐりて 来る忌の日あり
チチノヒモ ハハノヒモエニシ ナクスギテ ワレニメグリテ クルキノヒアリ

『形成』(形成発行所 1987.1) 第35巻1号(通巻405号) p.150


06960
葉の重さ 花の重さを 束にして 持てば詣でむ こころととのふ
ハノオモサ ハナノオモサヲ タバニシテ モテバモウデム ココロトトノフ

『形成』(形成発行所 1987.1) 第35巻1号(通巻405号) p.150


06961
おもかげを 時に呼びつつ 賀状もて つなぐ程よき へだたりならむ
オモカゲヲ トキニヨビツツ ガジョウモテ ツナグホドヨキ ヘダタリナラム

『形成』(形成発行所 1987.2) 第35巻2号(通巻406号) p.14


06962
郵便の 束ほどきつつ 「不幸の手紙」 届かずなりて 幾年経けむ
ユウビンノ タバホドキツツ フコウノテガミ トドカズナリテ イクトセヘケム

『形成』(形成発行所 1987.2) 第35巻2号(通巻406号) p.14


06963
終点の 駅を出で来て 時じくの 雨に濡れたり コートの裾は
シュウテンノ エキヲイデキテ トキジクノ アメニヌレタリ コートノスソハ

『形成』(形成発行所 1987.2) 第35巻2号(通巻406号) p.14


06964
人間の 持つぬくもりを 思はせて 冬は湯気たつ 夜の多き川
ニンゲンノ モツヌクモリヲ オモハセテ フユハユゲタツ ヨノオオキカワ

『形成』(形成発行所 1987.2) 第35巻2号(通巻406号) p.14


06965
何を運ぶ 夢にありしや 両の手に ずんずん重く なるもの提げて
ナニヲハコブ ユメニアリシヤ リョウノテニ ズンズンオモク ナルモノサゲテ

『形成』(形成発行所 1987.2) 第35巻2号(通巻406号) p.14


06966
戦争を まだ知らざりき 凍土と いふ語を教はりし 童女のころは
センソウヲ マダシラザリキ ツンドラト イフゴヲオソハリシ オトメノコロハ

『形成』(形成発行所 1987.3) 第35巻3号(通巻407号) p.150


06967
しみじみと 父を悼みて をりにしが 夢のなかにも 雪が降りゐき
シミジミト チチヲイタミテ ヲリニシガ ユメノナカニモ ユキガフリヰキ

『形成』(形成発行所 1987.3) 第35巻3号(通巻407号) p.150


06968
手袋を 入れて膨らむ ポケットを そのまま今日は どこまで行けむ
テブクロヲ イレテフクラム ポケットヲ ソノママキョウハ ドコマデユケム

『形成』(形成発行所 1987.3) 第35巻3号(通巻407号) p.150


06969
土を掻きて ゐたりし凧も 舞ひあがり 中空深く 音さへ立てず
ツチヲカキテ ヰタリシタコモ マヒアガリ チュウクウフカク オトサヘタテズ

『形成』(形成発行所 1987.3) 第35巻3号(通巻407号) p.150


06970
人工の 滝は鳴りゐて わが待てる ピザトーストは いづち行きけむ
ジンコウノ タキハナリヰテ ワガマテル ピザトーストハ イヅチユキケム

『形成』(形成発行所 1987.3) 第35巻3号(通巻407号) p.150


06971
その大き 手が見えて来ぬ 宝石を 鷲掴みにして 行けりと聞けば
ソノオオキ テガミエテキヌ ホウセキヲ ワシヅカミニシテ ユケリトキケバ

『形成』(形成発行所 1987.4) 第35巻4号(通巻408号) p.20


06972
ヘルメットに 顔を覆ひて まなこのみ 光りゐたりと 人づてに聞く
ヘルメットニ カオヲオオヒテ マナコノミ ヒカリヰタリト ヒトヅテニキク

『形成』(形成発行所 1987.4) 第35巻4号(通巻408号) p.20


06973
表の日 裏の日われに あるごとし 温室のなかは 冬の薔薇咲く
オモテノヒ ウラノヒワレニ アルゴトシ オンシツノナカハ フユノバラサク

『形成』(形成発行所 1987.4) 第35巻4号(通巻408号) p.20


06974
城塞の ごときマンション 暮れむとし 六日ほどなる 月を揚げたり
ジョウサイノ ゴトキマンション クレムトシ ムイカホドナル ツキヲアゲタリ

『形成』(形成発行所 1987.4) 第35巻4号(通巻408号) p.20


06975
レストランの 建ち並ぶ アーケード街 鈴蘭通りと いまだに呼べり
レストランノ タチナラブ アーケードガイ スズランドオリト イマダニヨベリ

『形成』(形成発行所 1987.4) 第35巻4号(通巻408号) p.20


06976
雪のまま 暮れむとしゐて 点りたる 向かひの店の 蜜柑もおぼろ
ユキノママ クレムトシヰテ トモリタル ムカヒノミセノ ミカンモオボロ

『形成』(形成発行所 1987.5) 第35巻5号(通巻409号) p.156


06977
奪はるる 子とて無けれど 恐ろしき 大き手思ふ 疾風吹く夜は
ウバハルル コトテナケレド オソロシキ オオキテオモフ ハヤテフクヨハ

『形成』(形成発行所 1987.5) 第35巻5号(通巻409号) p.156


06978
冴えざえと ありし椿も 紅褪せて 酸化を急ぐ ものばかりなる
サエザエト アリシツバキモ ベニアセテ サンカヲイソグ モノバカリナル

『形成』(形成発行所 1987.5) 第35巻5号(通巻409号) p.156


06979
川岸の うるほひのなか ほつほつと 芽ぶきて高し 銀杏並木は
カワギシノ ウルホヒノナカ ホツホツト メブキテタカシ イチョウナミキハ

『形成』(形成発行所 1987.5) 第35巻5号(通巻409号) p.156


06980
たちまちに 仕事まみれに ならむとも 帰りゆく家の ある幸ひよ
タチマチニ シゴトマミレニ ナラムトモ カエリユクイエノ アルサイワヒヨ

『形成』(形成発行所 1987.5) 第35巻5号(通巻409号) p.156


06981
亡き父の 忌の日と知るは われひとり 積もらぬ春の 雪を見てゐる
ナキチチノ キノヒトシルハ ワレヒトリ ツモラヌハルノ ユキヲミテヰル

『形成』(形成発行所 1987.6) 第35巻6号(通巻410号) p.18


06982
白梅の こまかくふるふ 枝見えて 木の葉は風の 速さに飛べり
ハクバイノ コマカクフルフ エダミエテ コノハハカゼノ ハヤサニトベリ

『形成』(形成発行所 1987.6) 第35巻6号(通巻410号) p.18


06983
白梅に 紅梅まじる しづけさに 絵馬のうさぎは 一羽づつゐる
ハクバイニ コウバイマジル シヅケサニ エマノウサギハ イチワヅツヰル

『形成』(形成発行所 1987.6) 第35巻6号(通巻410号) p.18


06984
お守りの 細き指輪を そのままに 朝摘みを賜びし 苺を洗ふ
オマモリノ ホソキユビワヲ ソノママニ アサツミヲタマビシ イチゴヲアラフ

『形成』(形成発行所 1987.6) 第35巻6号(通巻410号) p.18


06985
脇に置く 本がはためく 感じにて 落ち着きのなく ひと夜ををりぬ
ワキニオク ホンガハタメク カンジニテ オチツキノナク ヒトヨヲヲリヌ

『形成』(形成発行所 1987.6) 第35巻6号(通巻410号) p.18


06986
目の前の 踏切といふは いつにても 危ふし電車の 通り切るまで
メノマエノ フミキリトイフハ イツニテモ アヤフシデンシャノ トオリキルマデ

『形成』(形成発行所 1987.7) 第35巻7号(通巻411号) p.156


06987
左手に 供華のストック 持ち替へて 久々に押す 井戸のポンプを
ヒダリテニ キョウカノストック モチカヘテ ヒサビサニオス イドノポンプヲ

『形成』(形成発行所 1987.7) 第35巻7号(通巻411号) p.156


06988
幸運の 手相といへど 今朝見れば 皺だらけなる わがたなごころ
コウウンノ テソウトイヘド ケサミレバ シワダラケナル ワガタナゴコロ

『形成』(形成発行所 1987.7) 第35巻7号(通巻411号) p.156


06989
紙屑か 何かのやうに 散りしけり 白木蓮は 大き花ゆゑ
カミクズカ ナニカノヤウニ チリシケリ ハクモクレンハ オオキハナユヱ

『形成』(形成発行所 1987.7) 第35巻7号(通巻411号) p.156


06990
屋上の 駐車場に街を 見おろして 高所恐怖症なりし 先生思ふ
オクジョウノ チュウシャジョウニマチヲ ミオロシテ コウショキョウフショウナリシ センセイオモフ

『形成』(形成発行所 1987.7) 第35巻7号(通巻411号) p.156


06991
町へ出づる 通りすがりに 人のゐて 棕櫚の落花の 黄の粒を掃く
マチヘイヅル トオリスガリニ ヒトノヰテ シュロノラッカノ キノツブヲハク

『形成』(形成発行所 1987.8) 第35巻8号(通巻412号) p.18


06992
桐は桐の 高さに花を 掲げゐて 三日目の今朝は 酸き匂ひせり
キリハキリノ タカサニハナヲ カカゲヰテ ミッカメノケサハ スキニオヒセリ

『形成』(形成発行所 1987.8) 第35巻8号(通巻412号) p.18


06993
用水と 今は呼べども 西の田も 東の田もみな 夏草の原
ヨウスイト イマハヨベドモ ニシノタモ ヒガシノタモミナ ナツクサノハラ

『形成』(形成発行所 1987.8) 第35巻8号(通巻412号) p.18


06994
編隊の 飛行機なれば ふり仰ぐ クローバーの原に 散らばる児らも
ヘンタイノ ヒコウキナレバ フリアオグ クローバーノハラニ チラバルコラモ

『形成』(形成発行所 1987.8) 第35巻8号(通巻412号) p.18


06995
洗ひたる 髪にドライヤーを 当てをれば 何か不吉に 待たるる如し
アラヒタル カミニドライヤーヲ アテヲレバ ナニカフキツニ マタルルゴトシ

『形成』(形成発行所 1987.8) 第35巻8号(通巻412号) p.18


06996
二十年 へだてて町に 今日会へば うすむらさきの 似合ふよはひよ
ニジュウネン ヘダテテマチニ キョウアヘバ ウスムラサキノ ニアフヨハヒヨ

『形成』(形成発行所 1987.9) 第35巻9号(通巻413号) p.160


06997
隣室は 外人の男女 幾人か 通訳もゐて ざわざわとせり
リンシツハ ガイジンノダンジョ イクニンカ ツウヤクモヰテ ザワザワトセリ

『形成』(形成発行所 1987.9) 第35巻9号(通巻413号) p.160


06998
服薬の あと口にがく ありにしが 午後の人ごみに 紛れ来にけり
フクヤクノ アトクチニガク アリニシガ ゴゴノヒトゴミニ マギレキニケリ

『形成』(形成発行所 1987.9) 第35巻9号(通巻413号) p.160


06999
見て佇てる われに気づきし 少女らは 声を大きく 縄を回しぬ
ミテマテル ワレニキヅキシ ショウジョラハ コエヲオオキク ナワヲマワシヌ

『形成』(形成発行所 1987.9) 第35巻9号(通巻413号) p.160


07000
まちまちの 向きに手を伸べ ゐたりしが 園児の踊りも 漸くそろふ
マチマチノ ムキニテヲノベ ヰタリシガ エンジノオドリモ ヨウヤクソロフ

『形成』(形成発行所 1987.9) 第35巻9号(通巻413号) p.160


07001
身のうちに 泉の湧くと いふことも なくてふくらむ 紫陽花の青
ミノウチニ イズミノワクト イフコトモ ナクテフクラム アジサイノアオ

『形成』(形成発行所 1987.10) 第35巻10号(通巻414号) p.17


07002
たんぽぽの 堤も梅雨の 雨のなか 濡れて飛び得ぬ 穂綿もあらむ
タンポポノ ツツミモツユノ アメノナカ ヌレテトビエヌ ホワタモアラム

『形成』(形成発行所 1987.10) 第35巻10号(通巻414号) p.17


07003
水面に 黄みどり色のを 突き立てて 睡蓮は未だ つぼみを解かず
スイメンニ キミドリイロヲ ツキタテテ スイレンハイマダ ツボミヲトカズ

『形成』(形成発行所 1987.10) 第35巻10号(通巻414号) p.17


07004
咲き出でて 間なきくちなし 外側に すでに錆びゐる 花びらが見ゆ
サキイデテ マナキクチナシ ソトガワニ スデニサビヰル ハナビラガミユ

『形成』(形成発行所 1987.10) 第35巻10号(通巻414号) p.17


07005
咲き闌けし アメリカ芙蓉 くれなゐの 大き花ゆゑ 風に裂かるる
サキタケシ アメリカフヨウ クレナヰノ オオキハナユヱ カゼニサカルル

『形成』(形成発行所 1987.10) 第35巻10号(通巻414号) p.17


07006
折り目より うすれし地図に 道切れて いづこと知れず 貝塚の跡
オリメヨリ ウスレシチズニ ミチキレテ イヅコトシレズ カイヅカノアト

『形成』(形成発行所 1987.11) 第35巻11号(通巻415号) p.158


07007
箱詰めの 大き荷が運び 込まれたる 洋館ありて しづまりかへる
ハコヅメノ オオキニガハコビ コマレタル ヨウカンアリテ シヅマリカヘル

『形成』(形成発行所 1987.11) 第35巻11号(通巻415号) p.158


07008
口笛を 吹きて呼ばれし メアリとは 異人をとめの 犬の名ならむ
クチブエヲ フキテヨバレシ メアリトハ イジンヲトメノ イヌノナナラム

『形成』(形成発行所 1987.11) 第35巻11号(通巻415号) p.158


07009
円陣を 組むなかにつねに ゐたりしが いかにかあらむ 引退の野手
エンジンヲ クムナカニツネニ ヰタリシガ イカニカアラム インタイノヤシュ

『形成』(形成発行所 1987.11) 第35巻11号(通巻415号) p.158


07010
投手戦は 敗れたれども 球場に 出てゐし望の 月見むと立つ
トウシュセンハ ヤブレタレドモ キュウジョウニ デテヰシモチノ ツキミムトタツ

『形成』(形成発行所 1987.11) 第35巻11号(通巻415号) p.158


07011
葉の黒く なりし欅に ひそみゐて なめらかならず 今朝啼く鳩は
ハノクロク ナリシケヤキニ ヒソミヰテ ナメラカナラズ ケサナクハトハ

『形成』(形成発行所 1987.12) 第35巻12号(通巻416号) p.18


07012
蒸し暑き ひと日とならむ 薬湯の 匂ひはタイルに まだ残りゐて
ムシアツキ ヒトヒトナラム ヤクトウノ ニオヒハタイルニ マダノコリヰテ

『形成』(形成発行所 1987.12) 第35巻12号(通巻416号) p.18


07013
いろは順 五十音順 年の順 何の順にか 縛られて生く
イロハジュン ゴジュウオンジュン トシノジュン ナンノジュンニカ シバラレテイク

『形成』(形成発行所 1987.12) 第35巻12号(通巻416号) p.18


07014
いつのまに 片側かげり かすかなる 重さに垂れて 風船かつら
イツノマニ カタガワカゲリ カスカナル オモサニタレテ フウセンカツラ

『形成』(形成発行所 1987.12) 第35巻12号(通巻416号) p.18


07015
夕餉のあとの 食器を水に 沈めゐて 屈折率を はかる遊びす
ユウゲノアトノ シュッキヲミズニ シズメヰテ クッセツリツヲ ハカルアソビス

『形成』(形成発行所 1987.12) 第35巻12号(通巻416号) p.18


07016
方舟の ごとくに島を 離れゆく 大きく白き 船ありにけり
ハコブネノ ゴトクニシマヲ ハナレユク オオキクシロキ フネアリニケリ

『形成』(形成発行所 1988.1) 第36巻1号(通巻417号) p.158


07017
後退を 続くるトラックに ゆすられて 角の家なる わが家危ふし
コウタイヲ ツヅクルトラックニ ユスラレテ カドノイエナル ワガヤアヤフシ

『形成』(形成発行所 1988.1) 第36巻1号(通巻417号) p.158


07018
2カップの 米研ぐ水を 濁しゐて 今日といふ日も たちまちくらむ
ツゥカップノ コメトグミズヲ ニゴシヰテ キョウトイフヒモ タチマチクラム

『形成』(形成発行所 1988.1) 第36巻1号(通巻417号) p.158


07019
ふさぎの虫も やうやく去りて 出でくれば み冬の菊は 細々と咲く
フサギノムシモ ヤウヤクサリテ イデクレバ ミフユノキクハ コマゴマトサク

『形成』(形成発行所 1988.1) 第36巻1号(通巻417号) p.158


07020
買ふあても なくて図鑑を 繰りをれば 野鳥らはみな まなこ鋭し
カフアテモ ナクテズカンヲ クリヲレバ ヤチョウラハミナ マナコスルドシ

『形成』(形成発行所 1988.1) 第36巻1号(通巻417号) p.158


07021
斜めより 日の射して来て 用心に 汲み置く水も 冷たくなりぬ
ナナメヨリ ヒノサシテキテ ヨウジンニ クミオクミズモ ツメタクナリヌ

『形成』(形成発行所 1988.2) 第36巻2号(通巻418号) p.18


07022
北国の 冬を思へば 暗然と 矢をつがへたる 案山子立ちゐき
キタグニノ フユヲオモヘバ アンゼント ヤヲツガヘタル カカシタチヰキ

『形成』(形成発行所 1988.2) 第36巻2号(通巻418号) p.18


07023
葡萄園も 今はひそまり 枯れがれの ゑのころぐさが 扉を蔽ふ
ブドウエンモ イマハヒソマリ カレガレノ ヱノコログサガ トビラヲオオフ

『形成』(形成発行所 1988.2) 第36巻2号(通巻418号) p.18


07024
箒目の 寒く残れる 道を来て 思はぬときに 溜め息が出づ
ホウキメノ サムクノコレル ミチヲキテ オモハヌトキニ タメイキガイヅ

『形成』(形成発行所 1988.2) 第36巻2号(通巻418号) p.18


07025
顎埋め ゐたりし犬の 起きあがり 声を試すが 如くに啼けり
アゴウズメ ヰタリシイヌノ オキアガリ コエヲタメスガ ゴトクニナケリ

『形成』(形成発行所 1988.2) 第36巻2号(通巻418号) p.18


07026
歳の市の 雑踏を来ぬ むづかれる 幼子の手を 引くこともなく
トシノイチノ ザットウヲキヌ ムヅカレル オサナゴノテヲ ヒクコトモナク

『形成』(形成発行所 1988.3) 第36巻3号(通巻419号) p.158


07027
帰りこむ 人もあらねば 常夜灯の 幅にはららく 雪を見てゐる
カエリコム ヒトモアラネバ ジョウヤトウノ ハバニハララク ユキヲミテヰル

『形成』(形成発行所 1988.3) 第36巻3号(通巻419号) p.158


07028
上級生の 一人を庫裡に 訪ひゆきし 雪の当麻の 記憶も古りぬ
ジョウキュウセイノ ヒトリヲクリニ トヒユキシ ユキノタイマノ キオクモフリヌ

『形成』(形成発行所 1988.3) 第36巻3号(通巻419号) p.158


07029
急ブレーキ 踏む音の遠く 聞こゆれば 人里を離れて 住めるが如し
キュウブレーキ フムオトノトオク キクユレバ ヒトザトヲハナレテ スメルガゴトシ

『形成』(形成発行所 1988.3) 第36巻3号(通巻419号) p.158


07030
ストーブを つけてまた消し 自らに 問ひて答への 出づるさびしさ
ストーブヲ ツケテマタケシ ミズカラニ トヒテコタヘノ イヅルサビシサ

『形成』(形成発行所 1988.3) 第36巻3号(通巻419号) p.158


07031
おくれ毛を 吹く風寒く 帰り来て 消残る雪は 不定形なす
オクレゲヲ フクカゼサムク カエリキテ ケノコルユキハ フテイケイナス

『形成』(形成発行所 1988.4) 第36巻4号(通巻420号) p.158


07032
制限の 増えし食事と 思へども 胡麻炒りをれば 香りひろがる
セイゲンノ フエシショクジト オモヘドモ ゴマイリヲレバ カオリヒロガル

『形成』(形成発行所 1988.4) 第36巻4号(通巻420号) p.158


07033
転校の かなしみも知らで 育ちしと テレビのドラマ 見をれば思ふ
テンコウノ カナシミモシラデ ソダチシト テレビノドラマ ミヲレバオモフ

『形成』(形成発行所 1988.4) 第36巻4号(通巻420号) p.158


07034
有様は ほとけといふに 遠くして をりをり夢に くる家族たち
アリヤウハ ホトケトイフニ トオクシテ ヲリヲリユメニ クルカゾクタチ

『形成』(形成発行所 1988.4) 第36巻4号(通巻420号) p.158


07035
五分計の 古りし検温器 振り下げて 低き平熱は 幼き日より
ゴフンケイノ フリシケンオンキ フリサゲテ ヒクキヘイネツハ オサナキヒヨリ

『形成』(形成発行所 1988.4) 第36巻4号(通巻420号) p.158


07036
偶然とも 故意とも知れず 紅梅の ひと木まじれり 白梅園に
グウゼントモ コイトモシレズ コウバイノ ヒトキマジレリ ハクバイエンニ

『形成』(形成発行所 1988.5) 第36巻5号(通巻421号) p.156


07037
僧形の ひとりと道に すれ違ひ そのおもかげの さだかにあらず
ソウギョウノ ヒトリトミチニ スレチガヒ ソノオモカゲノ サダカニアラズ

『形成』(形成発行所 1988.5) 第36巻5号(通巻421号) p.156


07038
遠くより 見られてゐたり 水差して 吸ひ殻を消す 一部始終を
トオクヨリ ミラレテヰタリ ミズサシテ スヒガラヲケス イチブシジュウヲ

『形成』(形成発行所 1988.5) 第36巻5号(通巻421号) p.156


07039
回り道 でもして会ひに 行く如し 郵便番号を 調べてをれば
マワリミチ デモシテアヒニ ユクゴトシ ユウビンバンゴウヲ シラベテヲレバ

『形成』(形成発行所 1988.5) 第36巻5号(通巻421号) p.156


07040
幾日経て 届く賀状の 追ひ書きに 浜水仙は 咲きそめしとぞ
イクヒヘテ トドクガジョウノ オヒガキニ ハマスイセンハ サキソメシトゾ

『形成』(形成発行所 1988.5) 第36巻5号(通巻421号) p.156


07041
たひらかに 夕べをあらむ 山の端に 虹を残して 雨もあがりぬ
タヒラカニ ユウベヲアラム ヤマノハニ ニジヲノコシテ アメモアガリヌ

『形成』(形成発行所 1988.6) 第36巻6号(通巻422号) p.19


07042
それぞれに ところを得たる ものの音 子を叱る声 遠くのピアノ
ソレゾレニ トコロヲエタル モノノオト コヲシカルコエ トオクノピアノ

『形成』(形成発行所 1988.6) 第36巻6号(通巻422号) p.19


07043
しんとして ありたきものを エアコンの 風に毛先の 乱され易し
シントシテ アリタキモノヲ エアコンノ カゼニケサキノ ミダサレヤスシ

『形成』(形成発行所 1988.6) 第36巻6号(通巻422号) p.19


07044
適温の 湯となりて出でて くるを待つ 数秒間を 吝しむことあり
テキオンノ ユトナリテイデテ クルヲマツ スウビョウカンヲ ヲシムコトアリ

『形成』(形成発行所 1988.6) 第36巻6号(通巻422号) p.19


07045
キュラソーの 古りしボトルが 出でて来て 片付の手の また滞る
キュラソーノ フリシボトルガ イデテキテ カタヅケノテノ マタトドコオル

『形成』(形成発行所 1988.6) 第36巻6号(通巻422号) p.19


07046
青々と 芽ぶく柳の かたはらに 手を垂れをれば われさへそよぐ
アオアオト メブクヤナギノ カタハラニ テヲタレヲレバ ワレサヘソヨグ

『形成』(形成発行所 1988.7) 第36巻7号(通巻423号) p.156


07047
幼くて 見し日より経し 幾代ぞ 神域は今も 鶏を飼ふ
オサナクテ ミシヒヨリヘシ イクダイゾ シンイキハイマモ ニワトリヲカフ

『形成』(形成発行所 1988.7) 第36巻7号(通巻423号) p.156


07048
病むことは 何もせぬこと 東京の ドーム球場 賑はふといふ
ヤムコトハ ナニモセヌコト トウキョウノ ドームキュウジョウ ニギハフトイフ

『形成』(形成発行所 1988.7) 第36巻7号(通巻423号) p.156


07049
思はざる 粗き音させ 夕食の のちの薬を 配るワゴン車
オモハザル アラキオトサセ ユウショクノ ノチノクスリヲ クバルワゴンシャ

『形成』(形成発行所 1988.7) 第36巻7号(通巻423号) p.156


07050
終夜営業の マートが近くに あることも 拠所の如し 眠られずゐて
シュウヤエイギョウノ マートガチカクニ アルコトモ ヨリドコロノゴトシ ネムラレズヰテ

『形成』(形成発行所 1988.7) 第36巻7号(通巻423号) p.156


07051
素人の 手品といへど 振り上げし 杖の先より 薔薇生まれたり
シロウトノ テジナトイヘド フリアゲシ ツエノサキヨリ バラウマレタリ

『形成』(形成発行所 1988.8) 第36巻8号(通巻424号) p.119


07052
放鳥の 美しかりし ことを言ふ 喪の旅を終へて 帰れる人は
ホウチョウノ ウツクシカリシ コトヲイフ モノタビヲオヘテ カエレルヒトハ

『形成』(形成発行所 1988.8) 第36巻8号(通巻424号) p.119


07053
騒擾を 悦ぶとには あらねども モデルシップは 帆を巻きしまま
ソウジョウヲ ヨロコブトニハ アラネドモ モデルシップハ ホヲマキシママ

『形成』(形成発行所 1988.8) 第36巻8号(通巻424号) p.119


07054
電文の ややかすれゐて 名指されし オオニシタミコ 実在せりや
デンブンノ ヤヤカスレヰテ ナザサレシ オオニシタミコ ジツザイセリヤ

『形成』(形成発行所 1988.8) 第36巻8号(通巻424号) p.119


07055
前かがみに 歩みいましし 晩年の 先生を思ふ いつまた会へむ
マエカガミニ アユミイマシシ バンネンノ センセイヲオモフ イツマタアヘム

『形成』(形成発行所 1988.8) 第36巻8号(通巻424号) p.119


07056
目に見えぬ 天蓋ありて 阻まれて それ以上あがらず 噴水の穂は
メニミエヌ テンガイアリテ ハバマレテ ソレイジョウアガラズ フンスイノホハ

『形成』(形成発行所 1988.9) 第36巻9号(通巻425号) p.148


07057
左手の 痺るる日にて 君が代蘭と 書かれしユッカの 花を見てゐし
ヒダリテノ シビルルヒニテ キミガヨラント カカレシユッカノ ハナヲミテヰシ

『形成』(形成発行所 1988.9) 第36巻9号(通巻425号) p.148


07058
人差し指を 立てて何をか 示したり 男の世界に 人は生きゐて
ヒトサシユビヲ タテテナニヲカ シメシタリ オトコノセカイニ ヒトハイキヰテ

『形成』(形成発行所 1988.9) 第36巻9号(通巻425号) p.148


07059
三四人の 声うちまじり 過ぎゆけり なかの女性の うら若き声
サンヨニンノ コエウチマジリ スギユケリ ナカノジョセイノ ウラワカキコエ

『形成』(形成発行所 1988.9) 第36巻9号(通巻425号) p.148


07060
春ふけて 密度濃くせる 森が見ゆ 横縞なして 風に揺れつつ
ハルフケテ ミツドコクセル モリガミユ ヨコシマナシテ カゼニユレツツ

『形成』(形成発行所 1988.9) 第36巻9号(通巻425号) p.148


07061
風によぢれし 花びらももとに 戻りゐて 朝顔は藍の 輪を広げたり
カゼニヨヂレシ ハナビラモモトニ モドリヰテ アサガオハアイノ ワヲヒロゲタリ

『形成』(形成発行所 1988.10) 第36巻10号(通巻426号) p.17


07062
翻車魚の ごときが夢に 見えゐしが 体が軽く なりて目をあく
マンボウノ ゴトキガユメニ ミエヰシガ カラダガカルク ナリテメヲアク

『形成』(形成発行所 1988.10) 第36巻10号(通巻426号) p.17


07063
黄の花が 波だつといふ 高原の ひまはり畑 見む日もあれよ
キノハナガ ナミダツトイフ コウゲンノ ヒマハリノハタケ ミムヒモアレヨ

『形成』(形成発行所 1988.10) 第36巻10号(通巻426号) p.17


07064
縮尺に 合はせて地図を 測りゐて われには遠し いづこの山も
シュクシャクニ アハセテチズヲ ハカリヰテ ワレニハトオシ イヅコノヤマモ

『形成』(形成発行所 1988.10) 第36巻10号(通巻426号) p.17


07065
岩礁に 乗り上げでも したやうな ひと日なりしが そのまま暮れぬ
ガンショウニ ノリアゲデモ シタヤウナ ヒトヒナリシガ ソノママクレヌ

『形成』(形成発行所 1988.10) 第36巻10号(通巻426号) p.17


07066
看護婦の ゆきかひもいつと なく絶えて どの川となく 耳元に鳴る
カンゴフノ ユキカヒモイツト ナクタエテ ドノカワトナク ミミモトニナル

『形成』(形成発行所 1988.11) 第36巻11号(通巻427号) p.164


07067
病室に また朝は来て 谷川に 見たる氷の 青かりしこと
ビョウシツニ マタアサハキテ タニガワニ ミタルコオリノ アオカリシコト

『形成』(形成発行所 1988.11) 第36巻11号(通巻427号) p.164


07068
車にて 五合目までは 行けるとぞ 足に踏みたし 五合目の石塊
クルマニテ ゴゴウメマデハ ユケルトゾ アシニフミタシ ゴゴウメノガレ

『形成』(形成発行所 1988.11) 第36巻11号(通巻427号) p.164


07069
夏休みも 終りに近し 子供らは 路上に出でて 遊ばずなりぬ
ナツヤスミモ オワリニチカシ コドモラハ ロジョウニイデテ アソバズナリヌ

『形成』(形成発行所 1988.11) 第36巻11号(通巻427号) p.164


07070
夢見たる こともあへなし ずぶ濡れに なりて走りて 何処へ行きし
ユメミタル コトモアヘナシ ズブヌレニ ナリテハシリテ イヅコヘユキシ

『形成』(形成発行所 1988.11) 第36巻11号(通巻427号) p.164


07071
かすみ草 しろじろと湧く 玄関に 履けなくなりし ハイヒール置く
カスミソウ シロジロトワク ゲンカンニ ハケナクナリシ ハイヒールオク

『形成』(形成発行所 1988.12) 第36巻12号(通巻428号) p.20


07072
聴覚の 鋭きひと日 夕まけて 遠き林の 蝉が音聞こゆ
チョウカクノ スルドキヒトヒ ユウマケテ トオキハヤシノ セミガネキコユ

『形成』(形成発行所 1988.12) 第36巻12号(通巻428号) p.20


07073
地に満つる こほろぎの声 墨流しの 雲を刷きたり 夕べの空は
チニミツル コホロギノコエ スミナガシノ クモヲハキタリ ユウベノソラハ

『形成』(形成発行所 1988.12) 第36巻12号(通巻428号) p.20


07074
幼くて 見し夜祭りの み社は 森ごとともし 賑はひてゐき
オサナクテ ミシヨマツリノ ミヤシロハ モリゴトトモシ ニギハヒテヰキ

『形成』(形成発行所 1988.12) 第36巻12号(通巻428号) p.20


07075
カテーテルの 検査を待ちて 何事も なき日がわれを 流れゆくなり
カテーテルノ ケンサヲマチテ ナニゴトモ ナキヒガワレヲ ナガレユクナリ

『形成』(形成発行所 1988.12) 第36巻12号(通巻428号) p.20


07076
地謡の うたひて成せる 空間に 鬼気のごときが せりあがりくる
ヂウタヒノ ウタヒテナセル クウカンニ キキノゴトキガ セリアガリクル

『形成』(形成発行所 1989.1) 第37巻1号(通巻429号) p.160


07077
駐車場の 闇深きなか 車より 降りて木枯らし 二号に巻かる
チュウシャジョウノ ヤミフカキナカ クルマヨリ オリテコガラシ ニゴウニマカル

『形成』(形成発行所 1989.1) 第37巻1号(通巻429号) p.160


07078
榾の束を ほどきては炉に くべくるる 祖父を訪ひしは 五十年前
ホタノタバヲ ホドキテハロニ クベクルル ソフヲトヒシハ ゴジュウネンマエ

『形成』(形成発行所 1989.1) 第37巻1号(通巻429号) p.160


07079
孫といふ やはらかきもの 抱かしめず 送りし父母を 不意に悲しむ
マゴトイフ ヤハラカキモノ ダカシメズ オクリシフボヲ フイニカナシム

『形成』(形成発行所 1989.1) 第37巻1号(通巻429号) p.160


07080
野球して 遊ぶ医師らの はずむ声 聞こえずなりぬ 日の詰まり来て
ヤキュウシテ アソブイシラノ ハズムコエ キコエズナリヌ ヒノツマリキテ

『形成』(形成発行所 1989.1) 第37巻1号(通巻429号) p.160


07081
数殖えし 鴉の鳴きて 秋毎の 威し銃など 今年は聞かず
カズフエシ カラスノナキテ アキゴトノ オドシジュウナド コトシハキカズ

『形成』(形成発行所 1989.2) 第37巻2号(通巻430号) p.18


07082
倒れしは 二、三日前 忽ちに ペースメーカーを 埋められしとぞ
タオレシハ ニ、サンニチマエ タチマチニ ペースメーカーヲ ウメラレシトゾ

『形成』(形成発行所 1989.2) 第37巻2号(通巻430号) p.18


07083
夜の庭の 闇の深さを きはだてて 宙に浮くごとし 残菊の黄は
ヨノニワノ ヤミノフカサヲ キハダテテ チュウニウクゴトシ ザンギクノキハ

『形成』(形成発行所 1989.2) 第37巻2号(通巻430号) p.18


07084
腑に落ちぬ 一語なりしが 夕まけて 炊かねばならぬ 飯思ひ出づ
フニオチヌ イチゴナリシガ ユウマケテ タカネバナラヌ イヒオモヒイヅ

『形成』(形成発行所 1989.2) 第37巻2号(通巻430号) p.18


07085
夜に及ぶ 工事の音は わづらはし 昼よりはひびく 電気鉋も
ヨニオヨブ コウジノオトハ ワヅラハシ ヒルヨリハヒビク デンキカンナモ

『形成』(形成発行所 1989.2) 第37巻2号(通巻430号) p.18


07086
ダムになる 村里に人の 影なくて 置き去りの猫が 啼きてゐしとぞ
ダムニナル ムラサトニヒトノ カゲナクテ オキザリノネコガ ナキテヰシトゾ

『形成』(形成発行所 1989.3) 第37巻3号(通巻431号) p.151


07087
傘なして ゑんじゆ白花 咲きゐしが 冬はバスさへ かよはずといふ
カサナシテ ヱンジユシロハナ サキヰシガ フユハバスサヘ カヨハズトイフ

『形成』(形成発行所 1989.3) 第37巻3号(通巻431号) p.151


07088
満員の 電車のいづこ 火のつきし 如くにまこと 泣けるみどりご
マンインノ デンシャノイヅコ ヒノツキシ ゴトクニマコト ナケルミドリゴ

『形成』(形成発行所 1989.3) 第37巻3号(通巻431号) p.151


07089
いつ癒ゆる 人とも知れず むかへれば 筆談の文字 乱れてゆけり
イツイユル ヒトトモシレズ ムカヘレバ ヒツダンノモジ ミダレテユケリ

『形成』(形成発行所 1989.3) 第37巻3号(通巻431号) p.151


07090
遠ければ ただにきらめき 金属の 音を立てゐる ごとき夕波
トオケレバ タダニキラメキ キンゾクノ オトヲタテヰル ゴトキユウナミ

『形成』(形成発行所 1989.3) 第37巻3号(通巻431号) p.151


07091
開場を 待つ列にゐて ヒロインの ごとき少女が われに手を振る
カイジヨウヲ マツレツニヰテ ヒロインノ ゴトキショウジョガ ワレニテヲフル

『形成』(形成発行所 1989.4) 第37巻4号(通巻432号) p.18


07092
下山せぬ 人のありとぞ 夕ぐれの 余光のなかに 甲武信岳見ゆ
ゲザンセヌ ヒトノアリトゾ ユウグレノ ヨコウノナカニ コブシダケミユ

『形成』(形成発行所 1989.4) 第37巻4号(通巻432号) p.18


07093
片栗を 探さむと行く 草のなか 胴つぶれたる 空き缶まろぶ
カタクリヲ サガサムトユク クサノナカ ドウツブレタル アキカンマロブ

『形成』(形成発行所 1989.4) 第37巻4号(通巻432号) p.18


07094
田の畦の すずめのゑんどう こまごまと 絽刺しの如き 花を綴れる
タノアゼノ スズメノヱンドウ コマゴマト ロサシノゴトキ ハナヲツヅレル

『形成』(形成発行所 1989.4) 第37巻4号(通巻432号) p.18


07095
伝令と いへるがありて ましぐらに 走り去りにき 夜霧のなかを
デンレイト イヘルガアリテ マシグラニ ハシリサリニキ ヨギリノナカヲ

『形成』(形成発行所 1989.4) 第37巻4号(通巻432号) p.18


07096
北東の 鬼門出づれば 川岸は はやさみどりの 土手となりゐる
ウシトラノ キモンイヅレバ カワギシハ ハヤサミドリノ ドテトナリヰル

『形成』(形成発行所 1989.5) 第37巻5号(通巻433号) p.158


07097
たんぽぽの 黄の一輪は 舌状の 花びらあまた 寄せて咲き出づ
タンポポノ キノイチリンハ ゼツジョウノ ハナビラアマタ ヨセテサキイヅ

『形成』(形成発行所 1989.5) 第37巻5号(通巻433号) p.158


07098
桐の花の 匂へるころを 見ず過ぎて 指ひろげゐる 枯れ木を仰ぐ
キリノハナノ ニオヘルコロヲ ミズスギテ ユビヒロゲヰル カレキヲアオグ

『形成』(形成発行所 1989.5) 第37巻5号(通巻433号) p.158


07099
男性が 弾けば男性の 音となり 津軽三味線 十人そろふ
ダンセイガ ヒケバダンセイノ オトトナリ ツガルジャミセン ジュウニンソロフ

『形成』(形成発行所 1989.5) 第37巻5号(通巻433号) p.158


07100
約束を 違へて雨が 降り出づと 言ふ母なりき 五十年過ぐ
ヤクソクヲ タガヘテアメガ フリイヅト イフハハナリキ ゴジュウネンスグ

『形成』(形成発行所 1989.5) 第37巻5号(通巻433号) p.158


07101
一枚の 水の矩形も 光りゐて 冬のあひだは 魚を飼ふとぞ
イチマイノ ミズノクケイモ ヒカリヰテ フユノアヒダハ ウオヲカフトゾ

『形成』(形成発行所 1989.6) 第37巻6号(通巻434号) p.18


07102
流離の 思ひの不意に 兆しつつ コインランドリーの 前を過ぎたり
サスラヒノ オモヒノフイニ キザシツツ コインランドリーノ マエヲスギタリ

『形成』(形成発行所 1989.6) 第37巻6号(通巻434号) p.18


07103
冬越して 今日見る夕日 武蔵野の 雑木林の かなたに沈む
フユコシテ キョウミルユウヒ ムサトノノ ザツボクリンノ カナタニシズム

『形成』(形成発行所 1989.6) 第37巻6号(通巻434号) p.18


07104
帰巣性と いふを習ひて 何がなし 少女ははかなき 思ひ持ちにき
キソウセイト イフヲナラヒテ ナニガナシ ショウジョハハカナキ オモヒモチニキ

『形成』(形成発行所 1989.6) 第37巻6号(通巻434号) p.18


07105
時経れば 思はぬかたに 飛び火して ゆける噂の 経路も見え来
トキヘレバ オモハヌカタニ トビヒシテ ユケルウワサノ ケイロモミエキ

『形成』(形成発行所 1989.6) 第37巻6号(通巻434号) p.18


07106
三階の 窓に見をれば 行列の 後尾ほどけて 人波のなか
サンガイノ マドニモヲレバ ギョウレツノ コウビホドケテ ヒトナミノナカ

『形成』(形成発行所 1989.7) 第37巻7号(通巻435号) p.156


07107
子供連れも あまたまじりて 病院の 受付は市の ごとく賑はふ
コドモヅレモ アマタマジリテ ビョウインノ ウケツケハイチノ ゴトクニギハフ

『形成』(形成発行所 1989.7) 第37巻7号(通巻435号) p.156


07108
臘梅の 花びらが更に 薄しとぞ 山茱萸と決めて 垣を離るる
ロウバイノ ハナビラガサラニ ウスシトゾ サンシュユトキメテ カキヲハナルル

『形成』(形成発行所 1989.7) 第37巻7号(通巻435号) p.156


07109
花粉症は 苦しと聞けど 朝明より 風のさわだつ 弥生の十日
カフンショウハ クルシトキケド アサケヨリ カゼノサワダツ ヤヨイノトオカ

『形成』(形成発行所 1989.7) 第37巻7号(通巻435号) p.156


07110
こののちを 何に癒やされ ゆくわれか 曇り帯び易し 珊瑚の粒は
コノノチヲ ナニニイヤサレ ユクワレカ クモリオビヤスシ サンゴノツブハ

『形成』(形成発行所 1989.7) 第37巻7号(通巻435号) p.156


07111
ポストまで 行きて戻るに 摘み草の 位置も移さず 二人まだゐる
ポストマデ ユキテモドルニ ツミクサノ イチモウツサズ フタリマダヰル

『形成』(形成発行所 1989.8) 第37巻8号(通巻436号) p.18


07112
菜の花が 剥がれて飛びて 来しごとき 黄の蝶はまた 花にまぎれぬ
ナノハナガ ハガレテトビテ キシゴトキ キノチョウハマタ ハナニマギレヌ

『形成』(形成発行所 1989.8) 第37巻8号(通巻436号) p.18


07113
竹林の 根締めの著峩の 咲きそろひ 裾をとりまく ほのじろき花
チクリンノ ネジメノシャガノ サキソロヒ スソヲトリマク ホノジロキハナ

『形成』(形成発行所 1989.8) 第37巻8号(通巻436号) p.18


07114
ほんものの 郭公の声を 聞きたりと 少女ら言へり 旅を終へ来て
ホンモノノ カッコウノコエヲ キキタリト ショウジョライヘリ タビヲオヘキテ

『形成』(形成発行所 1989.8) 第37巻8号(通巻436号) p.18


07115
送り来て 部屋に戻れば テーブルに こぼれて光る グラニュー糖は
オクリキテ ヘヤニモドレバ テーブルニ コボレテヒカル グラニュートウハ

『形成』(形成発行所 1989.8) 第37巻8号(通巻436号) p.18


07116
ONとOFFの 表示のみなる 器具幾つ 使ひ馴れつつ 厨ごとする
オントオフノ ヒョウジノミナル キグイクツ ツカヒナレツツ クリヤゴトスル

『形成』(形成発行所 1989.9) 第37巻9号(通巻437号) p.156


07117
どこか遠くに 置きて来にけり 屈りて 火をおこしゐし 幸せなども
ドコカトオクニ オキテキニケリ カガマリテ ヒヲオコシヰシ シアワセナドモ

『形成』(形成発行所 1989.9) 第37巻9号(通巻437号) p.156


07118
竜宮と 謂へる楽園 ありにけり 彼方に深く 見えてゐにけり
リュウグウト イヘルラクエン アリニケリ カナタニフカク ミエテヰニケリ

『形成』(形成発行所 1989.9) 第37巻9号(通巻437号) p.156


07119
眠らねば ならぬ時刻と なりてをり 明日のことは 何も知らねど
ネムラネバ ナラヌジコクト ナリテヲリ アシタノコトハ ナニモシラネド

『形成』(形成発行所 1989.9) 第37巻9号(通巻437号) p.156


07120
浅間嶺の 麓の村の いづこにか 「草笛」と呼ぶ 地酒ありとぞ
アサマミネノ フモトノムラノ イヅコニカ クサブエトヨブ ジザケアリトゾ

『形成』(形成発行所 1989.9) 第37巻9号(通巻437号) p.156


07121
しづかなる 園にのみ実は 生るといふ 穂先すぼめて 南天の花
シヅカナル エンニノミミハ ナルトイフ ホサキスボメテ ナンテンノハナ

『形成』(形成発行所 1989.10) 第37巻10号(通巻438号) p.18


07122
風のなか 野を歩む日は いつならむ 夏の帽子を 久しく買はず
カゼノナカ ノヲアユムヒハ イツナラム ナツノボウシヲ ヒサシクカハズ

『形成』(形成発行所 1989.10) 第37巻10号(通巻438号) p.18


07123
ゆきずりの 窓より洩るる 灯あかりに ダチュラの花を 叩く夜の雨
ユキズリノ マドヨリモルル ホアカリニ ダチュラノハナヲ タタクヨノアメ

『形成』(形成発行所 1989.10) 第37巻10号(通巻438号) p.18


07124
睡眠薬の 効きくる待ちて 起きてゐる 余白のごとき 時間のあはれ
スイミンヤクノ キキクルマチテ オキテヰル ヨハクノゴトキ ジカンノアハレ

『形成』(形成発行所 1989.10) 第37巻10号(通巻438号) p.18


07125
くらがりに うすく目をあけ 西域の おもかげにいます 観音像は
クラガリニ ウスクメヲアケ セイイキノ オモカゲニイマス カンノンゾウハ

『形成』(形成発行所 1989.10) 第37巻10号(通巻438号) p.18


07126
越して行き また越して来て 新しき 人の吊りたる 風鈴が鳴る
コシテユキ マタコシテキテ アタラシキ ヒトノツリタル フウリンガナル

『形成』(形成発行所 1989.11) 第37巻11号(通巻439号) p.18


07127
ロシア名 ユジノサハリンスク 豊原と 呼びて習ひし ことも遥けし
ロシアメイ ユジノサハリンスク トヨハラト ヨビテナラヒシ コトモハルケシ

『形成』(形成発行所 1989.11) 第37巻11号(通巻439号) p.18


07128
花火焚く 何か危ふき くらがりを よろこぶ子らか ささめきあひて
ハナビタク ナニカアヤフキ クラガリヲ ヨロコブコラカ ササメキアヒテ

『形成』(形成発行所 1989.11) 第37巻11号(通巻439号) p.18


07129
夜の更けに 広くともして 芝生より ゴルフボールを 集むる仕事
ヨノフケニ ヒロクトモシテ シバフヨリ ゴルフボールヲ アツムルシゴト

『形成』(形成発行所 1989.11) 第37巻11号(通巻439号) p.18


07130
朝市の 帰りに人の 提げて持つ 三尺ほどは 何の苗木か
アサイチノ カエリニヒトノ サゲテモツ サンジャクホドノ ナンノナエギカ

『形成』(形成発行所 1989.11) 第37巻11号(通巻439号) p.18


07131
背伸びして 人は叫べり 拾ひものの 小さき扇子 開きて見せて
セノビシテ ヒトハサケベリ ヒロヒモノノ チイサキセンス ヒラキテミセテ

『形成』(形成発行所 1989.12) 第37巻12号(通巻440号) p.17


07132
流灯に つられてわれも 行きにしか 足もと暗く 立ちあがりたり
リュウトウニ ツラレテワレモ ユキニシカ アシモトクラク タチアガリタリ

『形成』(形成発行所 1989.12) 第37巻12号(通巻440号) p.17


07133
登校の 子らが通りて 散らばりて しまひぬ梔子の 花の匂ひは
トウコウノ コラガトオリテ チラバリテ シマヒヌクチナシノ ハナノニオヒハ

『形成』(形成発行所 1989.12) 第37巻12号(通巻440号) p.17


07134
木枯らしの 如くに音の する日あり クーラーだのみに 身を養ふに
コガラシノ ゴトクニオトノ スルヒアリ クーラーダノミニ ミヲヤシナフニ

『形成』(形成発行所 1989.12) 第37巻12号(通巻440号) p.17


07135
迷走の 台風が海に ありといふ いたくしづかに ここは雨降る
メイソウノ タイフウガウミニ アリトイフ イタクシヅカニ ココハアメフル

『形成』(形成発行所 1989.12) 第37巻12号(通巻440号) p.17


07136
病み長き われといつしか 知られゐて 今年の月下 美人に会はず
ヤミナガキ ワレトイツシカ シラレヰテ コトシノゲッカ ビジンニアハズ

『形成』(形成発行所 1990.1) 第38巻1号(通巻441号) p.18


07137
忘れかねし 思ひのごとく 道草に 白のたんぽぽ 返り咲きたり
ワスレカネシ オモヒノゴトク ミチクサニ シロノタンポポ カエリサキタリ

『形成』(形成発行所 1990.1) 第38巻1号(通巻441号) p.18


07138
見覚えの ある服ながら 濃き色の サングラスして たれとも分かず
ミオボエノ アルフクナガラ コキイロノ サングラスシテ タレトモワカズ

『形成』(形成発行所 1990.1) 第38巻1号(通巻441号) p.18


07139
ドラセナが 幸福の木と 知る迄に ビバークなどは せずて生き来ぬ
ドラセナガ コウフクノキト シルマデニ ビバークナドハ セズテイキコヌ

『形成』(形成発行所 1990.1) 第38巻1号(通巻441号) p.18


07140
甲斐の無き 砂時計よと 横たへて 長くなりたり 夜更けの電話
カイノナキ スナドケイヨト ヨコタヘテ ナガクナリタリ ヨフケノデンワ

『形成』(形成発行所 1990.1) 第38巻1号(通巻441号) p.18


07141
道のべの 無人の店は 丈低く たばねて黄色の 菊も売りゐる
ミチノベノ ムジンノミセハ タケヒクク タバネテキイロノ キクモウリヰル

『形成』(形成発行所 1990.2) 第38巻2号(通巻442号) p.19


07142
花豆と 呼ぶ大粒を 炊きをれば 母在りし日に 近づく如し
ハナマメト ヨブオオツブヲ タキヲレバ ハハアリシヒニ チカヅクゴトシ

『形成』(形成発行所 1990.2) 第38巻2号(通巻442号) p.19


07143
渡来して 百五十年とぞ 鮮やかに ポインセチアは 苞をひらきぬ
トライシテ ヒャクゴジュウネントゾ アザヤカニ ポインセチアハ ツトヲヒラキヌ

『形成』(形成発行所 1990.2) 第38巻2号(通巻442号) p.19


07144
スティックに 人参を切り セロリを切り 十センチ程に 揃へて遊ぶ
スティックニ ニンジンヲキリ セロリヲキリ ジッセンチホドニ ソロヘテアソブ

『形成』(形成発行所 1990.2) 第38巻2号(通巻442号) p.19


07145
白粥を 煮つつ思へば 若くして 家事を負担と したる日ありき
シロガユヲ ニツツオモヘバ ワカクシテ カジヲフタント シタルヒアリキ

『形成』(形成発行所 1990.2) 第38巻2号(通巻442号) p.19


07146
追はるるを 喜びならむ 喚声を あげてわらべは どこまでも逃ぐ
オハルルヲ ヨロコビナラム カンセイヲ アゲテワラベハ ドコマデモニグ

『形成』(形成発行所 1990.3) 第38巻3号(通巻443号) p.18


07147
障害者の 体育祭の にぎはひに バンドネオンを 若者は弾く
ショウガイシャノ タイイクサイノ ニギハヒニ バンドネオンヲ ワカモノハヒク

『形成』(形成発行所 1990.3) 第38巻3号(通巻443号) p.18


07148
掛けてゐし 人は世になく ゆつたりと やや傾きて 絵のなかの椅子
カケテヰシ ヒトハヨニナク ユツタリト ヤヤカタムキテ エノナカノイス

『形成』(形成発行所 1990.3) 第38巻3号(通巻443号) p.18


07149
ギャザー深き 服を蹴りつつ 年齢を 詐りて舞ふ こともさだめよ
ギャザフカキ フクヲケリツツ ネンレイヲ イツワリテマフ コトモサダメヨ

『形成』(形成発行所 1990.3) 第38巻3号(通巻443号) p.18


07150
キッチンの 灯を又点けて 又消して 何か合図の やうなことをす
キッチンノ ヒヲマタツケテ マタケシテ ナニカアイズノ ヤウナコトヲス

『形成』(形成発行所 1990.3) 第38巻3号(通巻443号) p.18


07151
脚赤き ゆりかもめ一羽 水ぎはを しばし歩みて 飛び立ちゆけり
アシアカキ ユリカモメイチワ ミズギハヲ シバシアユミテ トビタチユケリ

『形成』(形成発行所 1990.4) 第38巻4号(通巻444号) p.19


07152
黒鳥の もどり来たりて 着水の 瞬のしぶきを 低く揚げたり
コクチョウノ モドリキタリテ チャクスイノ シュンノシブキヲ ヒククアゲタリ

『形成』(形成発行所 1990.4) 第38巻4号(通巻444号) p.19


07153
ぼろぼろに 砂岩崩れて 四五段か 干潟へくだる 石の階あり
ボロボロニ サガンクズレテ シゴダンカ ヒガタヘクダル イシノカイアリ

『形成』(形成発行所 1990.4) 第38巻4号(通巻444号) p.19


07154
これだけの 仕掛けに命 落とすやと 簗にのたうつ 鮎を見てゐし
コレダケノ シカケニイノチ オトスヤト ヤナニノタウツ アユヲミテヰシ

『形成』(形成発行所 1990.4) 第38巻4号(通巻444号) p.19


07155
昔見し 木立の如く いつとなく 人の来てゐて 落ち葉を燃せり
ムカシミシ コダチノゴトク イツトナク ヒトノキテヰテ オチバヲモセリ

『形成』(形成発行所 1990.4) 第38巻4号(通巻444号) p.19


07156
うす味に 仕立てし夕餉 ひとりして 伊予柑むけば 匂ひのしるし
ウスアジニ シタテシユウゲ ヒトリシテ イヨカンムケバ ニオヒノシルシ

『形成』(形成発行所 1990.5) 第38巻5号(通巻445号) p.18


07157
ぼんぼりに 照らされし貌 しろじろと 雛たちはみな 正面を向く
ボンボリニ テラサレシカオ シロジロト ヒナタチハミナ ショウメンヲムク

『形成』(形成発行所 1990.5) 第38巻5号(通巻445号) p.18


07158
父母の 娘として稀に 家にゐて えび茶の色の 足袋をはきにき
チチハハノ ムスメトシテマレニ イエニヰテ エビチャノイロノ タビヲハキニキ

『形成』(形成発行所 1990.5) 第38巻5号(通巻445号) p.18


07159
雪国に 生れにしものを 身丈より 高きスキーを はくこともなし
ユキグニニ アレニシモノヲ ミタケヨリ タカキスキーヲ ハクコトモナシ

『形成』(形成発行所 1990.5) 第38巻5号(通巻445号) p.18


07160
割れものの 器にあれば 尊びて 包みて蔵ふ 七草のあと
ワレモノノ ウツワニアレバ タットビテ クルミテクラフ ナナクサノアト

『形成』(形成発行所 1990.5) 第38巻5号(通巻445号) p.18


07161
うつむきて 歩みてあれば 舗装路の 栗の落ち葉は いづこより降る
ウツムキテ アユミテアレバ ホソウロノ クリノオチバハ イヅコヨリフル

『形成』(形成発行所 1990.6) 第38巻6号(通巻446号) p.154


07162
夜の更けに スキーのバスは 発ちゆけり 二人を街灯の 下に残して
ヨノフケニ スキーノバスハ タチユケリ フタリヲガイトウノ モトニノコシテ

『形成』(形成発行所 1990.6) 第38巻6号(通巻446号) p.154


07163
わが留守に 来にし人あり 淡雪に チャイムの下まで 残る足あと
ワガルスニ キニシヒトアリ アワユキニ チャイムノシタマデ ノコルアシアト

『形成』(形成発行所 1990.6) 第38巻6号(通巻446号) p.154


07164
伴天連と よばれて隠れ ゐしころも 洞をうづめて 雪は降りけむ
バテレント ヨバレテカクレ ヰシコロモ ドウヲウヅメテ ユキハフリケム

『形成』(形成発行所 1990.6) 第38巻6号(通巻446号) p.154


07165
子を連れて 戻るを待つと 言ひゐしが その女童か 手を引きゆけり
コヲツレテ モドルヲマツト イヒヰシガ ソノメワラベカ テヲヒキユケリ

『形成』(形成発行所 1990.6) 第38巻6号(通巻446号) p.154


07166
あがりたる 雨と思へど 灯を消して 誰も訪ひこぬ 玄関とせり
アガリタル アメトオモヘド ヒヲケシテ ダレモトヒコヌ ゲンカントセリ

『形成』(形成発行所 1990.7) 第38巻7号(通巻337号) p.17


07167
丈低き たんぽぽがわが 踏み石を かこみて咲けり いつの日よりか
タケヒクキ タンポポガワガ フミイシヲ カコミテサケリ イツノヒヨリカ

『形成』(形成発行所 1990.7) 第38巻7号(通巻447号) p.17


07168
木槿の花を 描きしことあり B6の 鉛筆を母に 買ひてもらひて
ムクゲノハナヲ カキシコトアリ ビーロクノ エンピツヲハハニ カヒテモラヒテ

『形成』(形成発行所 1990.7) 第38巻7号(通巻447号) p.17


07169
うち沈み ひと日ありしが 届きたる 知らぬ雑誌に われの名が載る
ウチシズミ ヒトヒアリシガ トドキタル シラヌザッシニ ワレノナガノル

『形成』(形成発行所 1990.7) 第38巻7号(通巻447号) p.17


07170
クルーザーの 事故にし思ふ 海を越え 遣されたる 新羅使ありき
クルーザーノ ジコニシオモフ ウミヲコエ ツカハサレタル シラギシアリキ

『形成』(形成発行所 1990.7) 第38巻7号(通巻447号) p.17


07171
顔ほどの 紫陽花咲けど 仮の世の いつまでならむ 草の香のして
カオホドノ アジサイサケド カリノヨノ イツマデナラム クサノカノシテ

『形成』(形成発行所 1990.8) 第38巻8号(通巻448号) p.154


07172
カーテンの レースに透けて コーヒーを 運ぶ役目は 少女にふさふ
カーテンノ レースニスケテ コーヒーヲ ハコブヤクメハ ショウジョニフサフ

『形成』(形成発行所 1990.8) 第38巻8号(通巻448号) p.154


07173
養蚕を やめたる村の をちこちに 桑の若葉が そよぎゐるとぞ
ヨウサンヲ ヤメタルムラノ ヲチコチニ クワノワカバガ ソヨギヰルトゾ

『形成』(形成発行所 1990.8) 第38巻8号(通巻448号) p.154


07174
芯立てて 咲けるどくだみ さはらねば 匂はぬ花ら 窪地占めゐる
シンタテテ サケルドクダミ サハラネバ ニオハヌハナラ クボチシメヰル

『形成』(形成発行所 1990.8) 第38巻8号(通巻448号) p.154


07175
病院の 日のみ印して 八月の 暦の絵には 白馬がそよぐ
ビョウインノ ヒノミシルシテ ハチガツノ コヨミノエニハ ハクバガソヨグ

『形成』(形成発行所 1990.8) 第38巻8号(通巻448号) p.154


07176
日記にも 書かざりしかど 人知れず 時間をかけて 決めしことあり
ニッキニモ カカザリシカド ヒトシレズ ジカンヲカケテ キメシコトアリ

『形成』(形成発行所 1990.9) 第38巻9号(通巻449号) p.18


07177
黒潮の 迂回して今年は 獲れぬとぞ 春のわかめを 贈りたまひぬ
クロシオノ ウカイシテコトシハ トレヌトゾ ハルノワカメヲ オクリタマヒヌ

『形成』(形成発行所 1990.9) 第38巻9号(通巻449号) p.18


07178
しろじろと 立ちたる波は 足もとに 土いろの水と なりて寄せくる
シロジロト タチタルナミハ アシモトニ ツチイロノミズト ナリテヨセクル

『形成』(形成発行所 1990.9) 第38巻9号(通巻449号) p.18


07179
いくたびも 見たる島あり ひとたびも 行かぬ岬も ありて年経ぬ
イクタビモ ミタルシマアリ ヒトタビモ ユカヌミサキモ アリテトシヘヌ

『形成』(形成発行所 1990.9) 第38巻9号(通巻449号) p.18


07180
ジャイアンツの 負けたるあとは 農業の 未来を語る 番組を見つ
ジャイアンツノ マケタルアトハ ノウギョウノ ミライヲカタル バングミヲミツ

『形成』(形成発行所 1990.9) 第38巻9号(通巻449号) p.18


07181
わが背にも まだらあらずや 鷹揚に 向きを変へたり まだらの鯉は
ワガセニモ マダラアラズヤ オウヨウニ ムキヲカヘタリ マダラノコイハ

『形成』(形成発行所 1990.10) 第38巻10号(通巻450号) p.18


07182
月に一度 通ひてつひに 花に逢ふ 内堀通りの アカシアの並木
ツキニイチド カヨヒテツヒニ ハナニアフ ウチボリドオリノ アカシアノナミキ

『形成』(形成発行所 1990.10) 第38巻10号(通巻450号) p.18


07183
明治四十 一年一月 雪の日に 釧路に着きし 啄木思ふ
メイジシジュウ イチネンイチガツ ユキノヒニ クシロニツキシ タクボクオモフ

『形成』(形成発行所 1990.10) 第38巻10号(通巻450号) p.18


07184
汗あえて 草抜き呉るる 人のをり 不幸せなどと 言ひてはならじ
アセアエテ クサヌキクルル ヒトノヲリ フシアワセナドト イヒテハナラジ

『形成』(形成発行所 1990.10) 第38巻10号(通巻450号) p.18


07185
古への 戦ならねば 篝火は レストランの庭に 輝きて燃ゆ
イニシヘノ イクサナラネバ カガリビハ レストランノニワニ カガヤキテモユ

『形成』(形成発行所 1990.10) 第38巻10号(通巻450号) p.18


07186
コバルトの 照射を受けに 行くといふ 今朝はレースの 肩掛をして
コバルトノ ショウシャヲウケニ ユクトイフ ケサハレースノ カタカケヲシテ

『形成』(形成発行所 1990.11) 第38巻11号(通巻451号) p.18


07187
ガレージが 建てられてゐて 道々の 著莪の花など 見られずなりぬ
ガレージガ タテラレテヰテ ミチミチノ シャガノハナナド ミラレズナリヌ

『形成』(形成発行所 1990.11) 第38巻11号(通巻451号) p.18


07188
硝子ごしに 見えゐてうごく 赤き色 金魚とわかる までにまのあり
ガラスゴシニ ミエヰテウゴク アカキイロ キンギョトワカル マデニマノアリ

『形成』(形成発行所 1990.11) 第38巻11号(通巻451号) p.18


07189
桜の葉 かそか匂ひて 思ひたる 色よりも濃き 餅のくれなゐ
サクラノハ カソカニオヒテ オモヒタル イロヨリモコキ モチノクレナヰ

『形成』(形成発行所 1990.11) 第38巻11号(通巻451号) p.18


07190
食パンの 切り口のかたちも 懐かしく 新しきパンの 店が建ちたり
ショクパンノ キリグチノカタチモ ナツカシク アタラシキパンノ ミセガタチタリ

『形成』(形成発行所 1990.11) 第38巻11号(通巻451号) p.18


07191
自転車の 速度に台風は ありといふ わが軒を打つ さきぶれの雨
ジテンシャノ ソクドニタイフウハ アリトイフ ワガノキヲウツ サキブレノアメ

『形成』(形成発行所 1990.12) 第38巻12号(通巻452号) p.18


07192
やはらかく ふくらみてゆく 雲が見ゆ 足慣らしに来し 堤のかなた
ヤハラカク フクラミテユク クモガミユ アシナラシニキシ ツツミノカナタ

『形成』(形成発行所 1990.12) 第38巻12号(通巻452号) p.18


07193
こぶ白鳥 一羽声無く 浮きゐたり 曼珠沙華見むと 濠をめぐれば
コブハクチョウ イチワコエナク ウキヰタリ マンジュシャゲミムト ホリヲメグレバ

『形成』(形成発行所 1990.12) 第38巻12号(通巻452号) p.18


07194
水面を 見つつし行けば 夕まけて 川の流れの 速くなりゐる
スイメンヲ ミツツシユケバ ユウマケテ カワノナガレノ ハヤクナリヰル

『形成』(形成発行所 1990.12) 第38巻12号(通巻452号) p.18


07195
われの持つ 磁石の狂ふ 日ならむか 見知らぬ人のみ わが前に立つ
ワレノモツ シジャクノクルフ ヒナラムカ ミシラヌヒトノミ ワガマエニタツ

『形成』(形成発行所 1990.12) 第38巻12号(通巻452号) p.18


07196
花の日を 知らずに過ぎて 道のべの 潅木は紅き 実を綴りたり
ハナノヒヲ シラズニスギテ ミチノベノ カンボクハアカキ ミヲツヅリタリ

『形成』(形成発行所 1991.1) 第39巻1号(通巻453号) p.21


07197
いつのまに 貝の風鈴も 仕舞はれて 風の音せぬ 夜毎となりぬ
イツノマニ カイノフウリンモ シマハレテ カゼノオトセヌ ヨゴトトナリヌ

『形成』(形成発行所 1991.1) 第39巻1号(通巻453号) p.21


07198
初めての 人と出会ひし 咄嗟にも 言葉やさしき 女性でゐたし
ハジメテノ ヒトトデアヒシ トッサニモ コトバヤサシキ ジョセイデヰタシ

『形成』(形成発行所 1991.1) 第39巻1号(通巻453号) p.21


07199
たれもみな 百五十糎ほどの 身長か われのコートを 順に着て見て
タレモミナ ヒャクゴジュウセンチホドノ シンチョウカ ワレノコートヲ ジュンニキテミテ

『形成』(形成発行所 1991.1) 第39巻1号(通巻453号) p.21


07200
幼くて 読みし「放浪記」 「蟹工船」 翳りとなりて ひと世残らむ
オサナクテ ヨミシホウロウキ カニコウセン カゲリトナリテ ヒトヨノコラム

『形成』(形成発行所 1991.1) 第39巻1号(通巻453号) p.21


07201
緋のいろの かたまりが水に 映る見て 近づきてゆく 黄櫨の紅葉に
ヒノイロノ カタマリガミズニ ウツルミテ チカヅキテユク ハジノモミジニ

『形成』(形成発行所 1991.2) 第39巻2号(通巻454号) p.21


07202
あこがれて 言へどコスモス 街道は 車を降りて 距離のありとぞ
アコガレテ イヘドコスモス カイドウハ クルマヲオリテ キョリノアリトゾ

『形成』(形成発行所 1991.2) 第39巻2号(通巻454号) p.21


07203
島々を 飛び石として 渡るとふ 渡りの鳥の 羨しき日あり
シマジマヲ トビイシトシテ ワタルトフ ワタリノトリノ トモシキヒアリ

『形成』(形成発行所 1991.2) 第39巻2号(通巻454号) p.21


07204
何に対ふ 構へなりしや 小さき手に 雪のつぶてを ひしと握りて
ナニニタフ カマヘナリシヤ チイサキテニ ユキノツブテヲ ヒシトニギリテ

『形成』(形成発行所 1991.2) 第39巻2号(通巻454号) p.21


07205
蕁麻の 四角の茎も 木のやうに 固くなりゐて 年越さむとす
イラクサノ シカクノクキモ キノヤウニ カタクナリヰテ トシコサムトス

『形成』(形成発行所 1991.2) 第39巻2号(通巻454号) p.21


07206
灰皿に 燃やしてゐしは 何ならむ 途中より見し 推理ドラマに
ハイザラニ モユシテヰシハ ナニナラム トチュウヨリミシ スイリドラマニ

『形成』(形成発行所 1991.3) 第39巻3号(通巻455号) p.21


07207
特攻の 死者のごとくに 次々に 顔の出でくる 画面なりけり
トッコウノ シシャノゴトクニ ツギツギニ カオノイデクル ガメンナリケリ

『形成』(形成発行所 1991.3) 第39巻3号(通巻455号) p.21


07208
右折して 海に出でたき 夢なりき 北へ直進 しゆく車中に
ウセツシテ ウミニイデタキ ユメナリキ キタヘチョクシン シユクチャチュウニ

『形成』(形成発行所 1991.3) 第39巻3号(通巻455号) p.21


07209
音も無く 舞ひおりて来て 幾ひらか 殊に大きく 牡丹雪降る
オトモナク マヒオリテキテ イクヒラカ コトニオオキク ボタンユキフル

『形成』(形成発行所 1991.3) 第39巻3号(通巻455号) p.21


07210
途中から どうでもよくなりて 眠りたり 百人一首の 五十ほど来て
トチュウカラ ドウデモヨクナリテ ネムリタリ ヒャクニンイッシュノ ゴジュウホドキテ

『形成』(形成発行所 1991.3) 第39巻3号(通巻455号) p.21


07211
夢にさへ ひとり置かれて 不可思議の 何の匂ひか たちてゐにけり
ユメニサヘ ヒトリオカレテ フカシギノ ナニノニオヒカ タチテヰニケリ

『形成』(形成発行所 1991.4) 第39巻4号(通巻456号) p.21


07212
父母祖父母 押しよらて来ぬ 誰に似る わが筆蹟と 思ひてをれば
フボソフボ オシヨセテキヌ ダレニニル ワガヒッセキト オモヒテヲレバ

『形成』(形成発行所 1991.4) 第39巻4号(通巻456号) p.21


07213
遅くなる などと電話に 告げてくる 誰もなきまま ひとりの夕餉
オソクナル ナドトデンワニ ツゲテクル タレモナキママ ヒトリノユウゲ

『形成』(形成発行所 1991.4) 第39巻4号(通巻456号) p.21


07214
カーネーション あまた活けつつ 玄関に 嬰児の靴を 置く事も無き
カーネーション アマタイケツツ ゲンカンニ ミドリゴノクツヲ オクコトモナキ

『形成』(形成発行所 1991.4) 第39巻4号(通巻456号) p.21


07215
置時計が 送られて来ぬ 新聞にも 載らぬ小さき 賞を賜ひて
オキドケイガ オクラレテキヌ シンブンニモ ノラヌチイサキ ショウヲタマヒテ

『形成』(形成発行所 1991.4) 第39巻4号(通巻456号) p.21


07216
もう一人 乗客を足して 発ちゆけり 風寒き夜の 終車のバスは
モウヒトリ ジョウキャクヲタシテ タチユケリ カゼサムキヨノ シュウシャノバスハ

『形成』(形成発行所 1991.5) 第39巻5号(通巻457号) p.20


07217
つぎつぎに 咲くにもあらで 冬の薔薇 たつた二輪の 黄の色ともす
ツギツギニ サクニモアラデ フユノバラ タツタニリンノ キノイロトモス

『形成』(形成発行所 1991.5) 第39巻5号(通巻457号) p.20


07218
自転車を たてかけてある 赤松の ざらざらの幹を 見て通り来ぬ
ジテンシャヲ タテカケテアル アカマツノ ザラザラノミキヲ ミテトオリキヌ

『形成』(形成発行所 1991.5) 第39巻5号(通巻457号) p.20


07219
秘めておく ほどならねども 使はずに 古りてわが持つ 天目茶碗
ヒメテオク ホドナラネドモ ツカハズニ フリテワガモツ テンモクチャワン

『形成』(形成発行所 1991.5) 第39巻5号(通巻457号) p.20


07220
音を立てて まろぶことあり ペン皿に 置くお守りの 小さき鈴は
オトヲタテテ マロブコトアリ ペンザラニ オクオマモリノ チイサキスズハ

『形成』(形成発行所 1991.5) 第39巻5号(通巻457号) p.20


07221
金粉の 羊小さく 刷られゐる 賀状ふたたび 見てより蔵ふ
キンプンノ ヒツジチイサク スラレヰル ガジョウフタタビ ミテヨリクラフ

『形成』(形成発行所 1991.6) 第39巻6号(通巻458号) p.21


07222
地球儀も 店より消えて 運ばれし コーヒーゼリー すきとほりたり
チキュウギモ ミセヨリキエテ ハコバレシ コーヒーゼリー スキトホリタリ

『形成』(形成発行所 1991.6) 第39巻6号(通巻458号) p.21


07223
流氷の かなたより月も のぼるとぞ さすらひびとの 思ひに聞けり
リュウヒョウノ カナタヨリツキモ ノボルトゾ サスラヒビトノ オモヒニキケリ

『形成』(形成発行所 1991.6) 第39巻6号(通巻458号) p.21


07224
再び三たび 翼を振りて 去りゆける 鶴とし聞けば あはれは尽きず
フタタビミタビ ツバサヲフリテ サリユケル ツルトシキケバ アハレハツキズ

『形成』(形成発行所 1991.6) 第39巻6号(通巻458号) p.21


07225
わけもなく 笑ひ崩れて エープリル フールなどありき 少女の頃は
ワケモナク ワラヒクズレテ エープリル フールナドアリキ ショウジョノコロハ

『形成』(形成発行所 1991.6) 第39巻6号(通巻458号) p.21


07226
まつすぐに 定規をあてて 描きしよ 海の入り日は 見たることなく
マツスグニ ジョウギヲアテテ エガキシヨ ウミノイリヒハ ミタルコトナク

『形成』(形成発行所 1991.7) 第39巻7号(通巻459号) p.22


07227
立ちどまる ともなくショール かけ直し 人は去りたり 記憶の奥へ
タチドマル トモナクショール カケナオシ ヒトハサリタリ キオクノオクヘ

『形成』(形成発行所 1991.7) 第39巻7号(通巻459号) p.22


07228
わたつみを こえゆく力 無き鳥に どうしてやれむ くくと鳴きゐて
ワタツミヲ コエユクチカラ ナキトリニ ドウシテヤレム ククトナキヰテ

『形成』(形成発行所 1991.7) 第39巻7号(通巻459号) p.22


07229
中東の 争乱のまに 過ぎしかな イメルダ夫人の 靴のうはさも
チュウトウノ ソウランノマニ スギシカナ イメルダフジンノ クツノウハサモ

『形成』(形成発行所 1991.7) 第39巻7号(通巻459号) p.22


07230
人知れぬ 好意にあらむ ニケ月の 嬰児抱き来て 見せてくれしは
ヒトシレヌ コウイニアラム ニカゲツノ アカゴダキキテ ミセテクレシハ

『形成』(形成発行所 1991.7) 第39巻7号(通巻459号) p.22


07231
海峡を こえて蝦夷地に 入りしとぞ 桜前線 桃いろの渦
カイキョウヲ コエテエゾチニ イリシトゾ サクラゼンセン モモイロノウズ

『形成』(形成発行所 1991.8) 第39巻8号(通巻460号) p.21


07232
ぼんぼりも その夜のうちに はづされて 闇に戻れり 桜の森は
ボンボリモ ソノヨノウチニ ハヅサレテ ヤミニモドレリ サクラノモリハ

『形成』(形成発行所 1991.8) 第39巻8号(通巻460号) p.21


07233
本当の 救急車かと 思ひたり となりの部屋に プレスしてゐて
ホントウノ キュウキュウシャカト オモヒタリ トナリノヘヤニ プレスシテヰテ

『形成』(形成発行所 1991.8) 第39巻8号(通巻460号) p.21


07234
いづことも 水は見えねど 川止めの 続きて賑はふ 宿場町あり
イヅコトモ ミズハミエネド カワドメノ ツヅキテニギハフ シュクバマチアリ

『形成』(形成発行所 1991.8) 第39巻8号(通巻460号) p.21


07235
四月一日・ 微風・真昼間 虚を衝きて マンションの窓に 鯉幟立つ
シガツツイタチ・ ビフウ・マヒルマ キョヲツキテ マンションノマドニ コイノボリタツ

『形成』(形成発行所 1991.8) 第39巻8号(通巻460号) p.21


07236
禾本科と 教はりし日は はるかにて まざまざと麦は 芒を尖らす
カホンカト オソハリシヒハ ハルカニテ マザマザトムギハ ノギヲトガラス

『形成』(形成発行所 1991.9) 第39巻9号(通巻461号) p.22


07237
水を得る といふ言葉あり 水を得て 泳ぎ回りし ことなどありや
ミズヲエル トイフコトバアリ ミズヲエテ オヨギマワリシ コトナドアリヤ

『形成』(形成発行所 1991.9) 第39巻9号(通巻461号) p.22


07238
殉死とふ ことのありにし 古へを 思ひて来れば かなかなの声
ジュンシトフ コトノアリニシ イニシヘヲ オモヒテクレバ カナカナノコエ

『形成』(形成発行所 1991.9) 第39巻9号(通巻461号) p.22


07239
Xデー Kデーなどと ぼかしつつ 畏れて人の 言ひたるならむ
エックスデー ケイデーナドト ボカシツツ オソレテヒトノ イヒタルナラム

『形成』(形成発行所 1991.9) 第39巻9号(通巻461号) p.22


07240
踊りつつ 町をめぐれる 花笠は 夜の更くるままに 増えてゆくとぞ
オドリツツ マチヲメグレル ハナガサハ ヨノフクルママニ フエテユクトゾ

『形成』(形成発行所 1991.9) 第39巻9号(通巻461号) p.22


07241
うす青き 羽根の扇風機 持ち出しぬ となりの部屋を 使はむとして
ウスアオキ ハネノセンプウキ モチダシヌ トナリノヘヤヲ ツカハムトシテ

『形成』(形成発行所 1991.10) 第39巻10号(通巻462号) p.21


07242
中仙道と 今は呼べども 徐行して バスのやうやく 通る道なり
ナカセンドウト イマハヨベドモ ジョコウシテ バスノヤウヤク トオルミチナリ

『形成』(形成発行所 1991.10) 第39巻10号(通巻462号) p.21


07243
おもだかの 陰より出づる 二匹目の 水澄ましゐて 土いろの沼
オモダカノ カゲヨリイヅル ニヒキメノ ミズスマシヰテ ツチイロノヌマ

『形成』(形成発行所 1991.10) 第39巻10号(通巻462号) p.21


07244
川幅の 三分の一ほどの 簗なるに 次々に鮎は 来てひるがへる
カワハバノ サンブンノイチホドノ ヤナナルニ ツギツギニアユハ キテヒルガヘル

『形成』(形成発行所 1991.10) 第39巻10号(通巻462号) p.21


07245
異国人の 父と子の凧 よく揚がり よろこび合へり 何か叫びて
イコクジンノ チチトコノタコ ヨクアガリ ヨロコビアヘリ ナニカサケビテ

『形成』(形成発行所 1991.10) 第39巻10号(通巻462号) p.21


07246
亀甲の 紋様を帯に 選びたる 母の願ひに いよいよ遠し
キッコウノ モンヨウヲオビニ エラビタル ハハノネガヒニ イヨイヨトオシ

『形成』(形成発行所 1991.11) 第39巻11号(通巻463号) p.21


07247
生きて又 会ふ日の無しと タヒチまで 蝕を見むため 人は出で発つ
イキテマタ アフヒノナシト タヒチマデ ショクヲミムタメ ヒトハイデタツ

『形成』(形成発行所 1991.11) 第39巻11号(通巻463号) p.21


07248
国富論・ アダムスミスを 思ひ出す ところまで行き 昨夜は眠りし
コクフロン・ アダムスミスヲ オモヒダス トコロマデユキ ヨベハネムリシ

『形成』(形成発行所 1991.11) 第39巻11号(通巻463号) p.21


07249
潜水艦 インデペンデンス 迫り来て いきなり船腹が 画面を覆ふ
センスイカン インデペンデンス セマリキテ イキナリセンプクガ ガメンヲオオフ

『形成』(形成発行所 1991.11) 第39巻11号(通巻463号) p.21


07250
「蜑」といふ 字をかなしみて 覚えしよ 何に悲しき 少女なりけむ
アマトイフ ジヲカナシミテ オボエシヨ ナニニカナシキ ショウジョナリケム

『形成』(形成発行所 1991.11) 第39巻11号(通巻463号) p.21


07251
篝火は 燃えさかれども 黒衣着て 鳥をあつかふ 鵜匠のひと世
カガリビハ モエサカレドモ コクイキテ トリヲアツカフ ウショウノヒトヨ

『形成』(形成発行所 1991.12) 第39巻12号(通巻464号) p.22


07252
帰り来て おちつかざりき 菓子の名の 洲浜といふを 思ひ出すまで
カエリキテ オチツカザリキ カシノナノ スハマトイフヲ オモヒダスマデ

『形成』(形成発行所 1991.12) 第39巻12号(通巻464号) p.22


07253
大き目を 選びて送り たまひたる 枇杷より一顆 抜けば香に立つ
オオキメヲ エラビテオクリ タマヒタル ビワヨリイッカ ヌケバカニタツ

『形成』(形成発行所 1991.12) 第39巻12号(通巻464号) p.22


07254
隠密の 僧もたどりて 行きにけむ 葛のおほへる なだりの道は
オンミツノ ソウモタドリテ ユキニケム クズノオホヘル ナダリノミチハ

『形成』(形成発行所 1991.12) 第39巻12号(通巻464号) p.22


07255
房のまま 南天の実の 散る見れば 昨夜の嵐の すさまじかりし
フサノママ ナンテンノミノ チルミレバ ヨベノアラシノ スサマジカリシ

『形成』(形成発行所 1991.12) 第39巻12号(通巻464号) p.22


07256
いつのまに 横につながり 落日の 豊旗雲は オパールの色
イツノマニ ヨコニツナガリ ラクジツノ トヨハタグモハ オパールノイロ

『形成』(形成発行所 1992.1) 第40巻1号(通巻465号) p.22


07257
鈴の鳴る ごとき星空 いま少し 残るいのちを わが身に給へ
スズノナル ゴトキホシゾラ イマスコシ ノコルイノチヲ ワガミニタマヘ

『形成』(形成発行所 1992.1) 第40巻1号(通巻465号) p.22


07258
捨てかねて 蔵へるなかに 音のして ハスカップの実・ 法華寺の鈴
ステカネテ シマヘルナカニ オトノシテ ハスカップリミ ホツケジノスズ

『形成』(形成発行所 1992.1) 第40巻1号(通巻465号) p.22


07259
少年の 三人の手話 見てをりぬ 何か賑はふ 感じのありて
ショウネンノ サンニンノシュワ ミテヲリヌ ナニカニギハフ カンジノアリテ

『形成』(形成発行所 1992.1) 第40巻1号(通巻465号) p.22


07260
奥まりて ありしと思ふ 涌き水は 道のほとりに 囲まれて湧く
オクマリテ アリシトオモフ ワキミズハ ミチノホトリニ カコマレテワク

『形成』(形成発行所 1992.1) 第40巻1号(通巻465号) p.22


07261
年越さば ダムとならむと いふ橋を 人はゆきかふ かさね着なして
トシコサバ ダムトナラムト イフハシヲ ヒトハユキカフ カサネギナシテ

『形成』(形成発行所 1992.2) 第40巻2号(通巻466号) p.21


07262
茎のいろが むらさきになれば 刈るといふ 南の島の 甘蔗畑は
クキノイロガ ムラサキニナレバ カルトイフ ミナミノシマノ カンショバタケハ

『形成』(形成発行所 1992.2) 第40巻2号(通巻466号) p.21


07263
傍らに レーニンのことなど 言ひやまぬ 人とゐたりき 半世紀まへ
カタワラニ レーニンノコトナド イヒヤマヌ ヒトトヰタリキ ハンセイキマヘ

『形成』(形成発行所 1992.2) 第40巻2号(通巻466号) p.21


07264
絨緞に つまづきなどして この家が 安全圏と いふにもあらず
ジュウタンニ ツマヅキナドシテ コノイエガ アンゼンケント イフニモアラズ

『形成』(形成発行所 1992.2) 第40巻2号(通巻466号) p.21


07265
十字路に 停車のときも ミキサーを 左回りに 大きく回す
ジュウジロニ テイシャノトキモ ミキサーヲ ヒダリマワリニ オオキクマワス

『形成』(形成発行所 1992.2) 第40巻2号(通巻466号) p.21


07266
呼ぶことを ためらひをれば 冬日差す 土をなだめて 何をか蒔けり
ヨブコトヲ タメラヒヲレバ フユヒサス ツチヲナダメテ ナニヲカマケリ

『形成』(形成発行所 1992.3) 第40巻3号(通巻467号) p.23


07267
おもかげに 見立てて祀る 岩のあり 本当の菩薩は いづこにおはす
オモカゲニ ミタテテマツル イワノアリ ホントウノボサツハ イヅコニオハス

『形成』(形成発行所 1992.3) 第40巻3号(通巻467号) p.23


07268
刃物には 必ず鞘をと 言ひゐたる 母の畏れを われの継ぎたり
ハモノニハ カナラズサヤヲト イヒヰタル ハハノオソレヲ ワレノツギタリ

『形成』(形成発行所 1992.3) 第40巻3号(通巻467号) p.23


07269
上州の 湯より帰らぬ 人のをり 木枯し一号 明日は吹かむに
ジョウシュウノ ユヨリカエラヌ ヒトノヲリ コガラシイチゴウ アスハフカムニ

『形成』(形成発行所 1992.3) 第40巻3号(通巻467号) p.23


07270
百合の木と 知りて仰ぐに 雪の日は ひと日のみにて 年暮れむとす
ユリノキト シリテアオグニ ユキノヒハ ヒトヒノミニテ トシクレムトス

『形成』(形成発行所 1992.3) 第40巻3号(通巻467号) p.23


07271
観音は おとがひ豊かに おはしたり 喉寒きまで 仰ぎてあれば
カンノンハ オトガヒユタカニ オハシタリ ノドサムキマデ アオギテアレバ

『形成』(形成発行所 1992.4) 第40巻4号(通巻468号) p.21


07272
胡座居の 膝の冷たく いまさずや 羅漢の寺に 夕べ降る雨
アグラヰノ ヒザノツメタク イマサズヤ ラカンノテラニ ユウベフルアメ

『形成』(形成発行所 1992.4) 第40巻4号(通巻468号) p.21


07273
白鳥を 見に来ずやとぞ 受話器持つ めぐりたちまち 北のみづうみ
ハクチョウヲ ミニコズヤトゾ ジュワキモツ メグリタチマチ キタノミヅウミ

『形成』(形成発行所 1992.4) 第40巻4号(通巻468号) p.21


07274
三角に 畳むスカーフ 直角が 少し片寄る 背中見て行く
サンカクニ タタムスカーフ チョッカクガ スコシカタヨル セナカミテユク

『形成』(形成発行所 1992.4) 第40巻4号(通巻468号) p.21


07275
中指の 爪にありたる 黒点も いつか消えゐて きさらぎの雨
ナカユビノ ツメニアリタル コクテンモ イツカキエヰテ キサラギノアメ

『形成』(形成発行所 1992.4) 第40巻4号(通巻468号) p.21


07276
幼子と かくれんぼする よはひよと 小公園を 過ぎつつ思ふ
オサナゴト カクレンボスル ヨハヒヨト ショウコウエンヲ スギツツオモフ

『形成』(形成発行所 1992.5) 第40巻5号(通巻469号) p.21


07277
年月は われにめぐりて いち早く 花だいこんの 咲く垣根あり
トシツキハ ワレニメグリテ イチハヤク ハナダイコンノ サクカキネアリ

『形成』(形成発行所 1992.5) 第40巻5号(通巻469号) p.21


07278
土いろに なりし落ち葉と 思へども 掃けばまろびて 団栗の出づ
ツチイロニ ナリシオチバト オモヘドモ ハケバマロビテ ドングリノイヅ

『形成』(形成発行所 1992.5) 第40巻5号(通巻469号) p.21


07279
子供ゆゑ 足の震へて 藪のなかの 狐落としの 罠を見たりき
コドモユヱ アシノフルヘテ ヤブノナカノ キツネオトシノ ワナヲミタリキ

『形成』(形成発行所 1992.5) 第40巻5号(通巻469号) p.21


07280
耳垂れし 茶いろの仔犬 背の籠に すつぽり嵌めて 自転車行けり
ミミタレシ チャイロノコイヌ セノカゴニ スツポリハメテ ジテンシャユケリ

『形成』(形成発行所 1992.5) 第40巻5号(通巻469号) p.21


07281
壬申の 春とて何が 変はるらむ 白木蓮は たちまち褪せぬ
ジンシンノ ハルトテナニガ カハルラム ハクモクレンハ タチマチアセヌ

『形成』(形成発行所 1992.6) 第40巻6号(通巻470号) p.21


07282
畑には 何を播きしか 笹竹を まじなひのごとく 並べて立てて
ハタケニハ ナニヲマキシカ ササタケヲ マジナヒノゴトク ナラベテタテテ

『形成』(形成発行所 1992.6) 第40巻6号(通巻470号) p.21


07283
数枚の 小皿洗へば すむものを たゆたひゐたり 夕食のあと
スウマイノ コザラアラヘバ スムモノヲ タユタヒヰタリ ユウショクノアト

『形成』(形成発行所 1992.6) 第40巻6号(通巻470号) p.21


07284
水いろの ガラスの壼に 半ばほど となりて傾斜す 白の砂糖は
ミズイロノ ガラスノツボニ ナカバホド トナリテケイシャス シロノサトウハ

『形成』(形成発行所 1992.6) 第40巻6号(通巻470号) p.21


07285
かぐはしき 数値の如し 聞きをれば 二万本といふ コスモスの花
カグハシキ スウチノゴトシ キキヲレバ ニマンボントイフ コスモスノハナ

『形成』(形成発行所 1992.6) 第40巻6号(通巻470号) p.21


07286
みづうみの こなたに住みて 休火山 青々と立つ 日と告げて来ぬ
ミヅウミノ コナタニスミテ キュウカザン アオアオトタツ ヒトツゲテコヌ

『形成』(形成発行所 1992.7) 第40巻7号(通巻471号) p.99


07287
洋車にも 乗りしと人の 告げくれば なさざる事の われに増えゆく
ヤンチヨニモ ノリシトヒトノ ツゲクレバ ナサザルコトノ ワレニフエユク

『形成』(形成発行所 1992.7) 第40巻7号(通巻471号) p.99


07288
電光石火 攻めのぼりしと 伝へたる 斜面おほひて 春の草萌ゆ
デンコウセッカ セメノボリシト ツタヘタル シャメンオホヒテ ハルノクサモユ

『形成』(形成発行所 1992.7) 第40巻7号(通巻471号) p.99


07289
思はざる 交通ストゆゑ 地中より 湧くごとく増えて くる通勤者
オモハザル コウツウストユヱ チチュウヨリ ワクゴトクフエテ クルツウキンシャ

『形成』(形成発行所 1992.7) 第40巻7号(通巻471号) p.99


07290
来ぬ年の ために残して 摘むといふ 蕗のたうは伸びて 白き花持つ
コヌトシノ タメニノコシテ ツムトイフ フキノタウハノビテ シロキハナモツ

『形成』(形成発行所 1992.7) 第40巻7号(通巻471号) p.99


07291
稜線の ほそりて岬と なるあたり かそかにあがる 白波の見ゆ
リョウセンノ ホソリテミサキト ナルアタリ カソカニアガル シラナミノミユ

『形成』(形成発行所 1992.8) 第40巻8号(通巻472号) p.21


07292
つぎつぎに 失ひてやまず ヘアピンの かの一本を 失ひてより
ツギツギニ ウシナヒテヤマズ ヘアピンノ カノイッポンヲ ウシナヒテヨリ

『形成』(形成発行所 1992.8) 第40巻8号(通巻472号) p.21


07293
使ひ捨ての 注射器となりて 消毒の 湯気も立ちゐず 診察室は
ツカヒステノ チュウシャキトナリテ ショウドクノ ユゲモタチヰズ シンサツシツハ

『形成』(形成発行所 1992.8) 第40巻8号(通巻472号) p.21


07294
何もせぬ 時間となりぬ 揃へたき 三つめの釦は 見つからなくて
ナニモセヌ ジカントナリヌ ソロヘタキ ミッツメノボタン ミツカラナクテ

『形成』(形成発行所 1992.8) 第40巻8号(通巻472号) p.21


07295
どの山も 古墳に見えて 土の下の 闇は寒しと いつより思ふ
ドノヤマモ コフンニミエテ ツチノシタノ ヤミハサムシト イツヨリオモフ

『形成』(形成発行所 1992.8) 第40巻8号(通巻472号) p.21


07296
幼子の 描きし村は 夜に入りて どの窓も黄の あかりをともす
オサナゴノ エガキシムラハ ヨニイリテ ドノマドモキノ アカリヲトモス

『形成』(形成発行所 1992.9) 第40巻9号(通巻473号) p.21


07297
直さずに 次々に置かれし 自転車は 角度乱れて スーパーの前
ナオサズニ ツギツギニオカレシ ジテンシャハ カクドミダレテ スーパーノマエ

『形成』(形成発行所 1992.9) 第40巻9号(通巻473号) p.21


07298
きざまれし 文字かすかなる 不定形 たれかの塚の 石がまろべり
キザマレシ モジカスカナル フテイケイ タレカノツカノ イシガマロベリ

『形成』(形成発行所 1992.9) 第40巻9号(通巻473号) p.21


07299
こみあぐる 思ひにありて 幼らは 旗を振りにき 出陣の日に
コミアグル オモヒニアリテ オサナラハ ハタヲフリニキ シュツジンノヒニ

『形成』(形成発行所 1992.9) 第40巻9号(通巻473号) p.21


07300
じやんけんに 弱きか帰りの 道になほ 鬼にされゐる 赤き靴の子
ジヤンケンニ ヨワキカカエリノ ミチニナホ オニニサレヰル アカキクツノコ

『形成』(形成発行所 1992.9) 第40巻9号(通巻473号) p.21


07301
銀鱗の ひらめくときを 待ち待ちて 自らを人は 釣るにかあらむ
ギンリンノ ヒラメクトキヲ マチマチテ ミズカラヲヒトハ ツルニカアラム

『形成』(形成発行所 1992.10) 第40巻10号(通巻474号) p.21


07302
戻りたる 妹の声 してゐしが 歯の治療終へて その夜にゆきし
モドリタル イモウトノコエ シテヰシガ ハノチリョウオヘテ ソノヨニユキシ

『形成』(形成発行所 1992.10) 第40巻10号(通巻474号) p.21


07303
押し合ひて 炬燵をかこみ 五人家族 そろひゐたるは 幾年間か
オシアヒテ コタツヲカコミ ゴニンカゾク ソロヒヰタルハ イクネンカンカ

『形成』(形成発行所 1992.10) 第40巻10号(通巻474号) p.21


07304
落款の 部分も黒く 刷られたる カタログを閉ぢて ふたたびは見ず
ラッカンノ ブブンモクロク スラレタル カタログヲトヂテ フタタビハミズ

『形成』(形成発行所 1992.10) 第40巻10号(通巻474号) p.21


07305
何をする といふにあらねど 駐めをれば 黒の車の 方が目立たぬ
ナニヲスル トイフニアラネド トメヲレバ クロノクルマノ ホウガメダタヌ

『形成』(形成発行所 1992.10) 第40巻10号(通巻474号) p.21


07306
み仏も 手を取り合ふと 思ふ日に 安曇野を渡る 車にゐたり
ミホトケモ テヲトリアフト オモフヒニ アズミノヲワタル クルマニヰタリ

『形成』(形成発行所 1992.11) 第40巻11号(通巻475号) p.21


07307
戯れに 主婦と書きたる ことのあり 戯れと何時 思ひ初めしや
タワムレニ シュフトカキタル コトノアリ タワムレトイツ オモヒハジメシヤ

『形成』(形成発行所 1992.11) 第40巻11号(通巻475号) p.21


07308
落ちざりし 林檎が高き 値を呼ぶと 台風あとの 世に乱れあり
オチザリシ リンゴガタカキ ネヲヨブト タイフウアトノ ヨニミダレアリ

『形成』(形成発行所 1992.11) 第40巻11号(通巻475号) p.21


07309
をりふしに 山羊の鳴く声 してゐしが 村ごと今は 滅ぶと伝ふ
ヲリフシニ ヤギノナクコエ シテヰシガ ムラゴトイマハ ホロブトツタフ

『形成』(形成発行所 1992.11) 第40巻11号(通巻475号) p.21


07310
つらなりて 咲くとてうすき くれなゐは 学級園の ひるがほの花
ツラナリテ サクトテウスキ クレナヰハ ガッキュウエンノ ヒルガホノハナ

『形成』(形成発行所 1992.11) 第40巻11号(通巻475号) p.21


07311
箱眼鏡 のぞきて余念 なかりしが 少年の名も 少女もおぼろ
ハコメガネ ノゾキテヨネン ナカリシガ ショウネンノナモ ショウジョモオボロ

『形成』(形成発行所 1992.12) 第40巻12号(通巻476号) p.21


07312
起き出づる よすがの如し 夕張の メロンが冷えて まだ残りゐて
オキイヅル ヨスガノゴトシ ユウバリノ ロメンガヒエテ マダノコリヰテ

『形成』(形成発行所 1992.12) 第40巻12号(通巻476号) p.21


07313
カフェテラスに 会ふ約束に 鍔広の 帽子かぶれる 一人先づ着く
カフェテラスニ アフヤクソクニ ツバヒロノ ボウシカブレル ヒトリマヅツク

『形成』(形成発行所 1992.12) 第40巻12号(通巻476号) p.21


07314
雨だれの 曲にかはりて レストランの 白く塗られし 無人のピアノ
アマダレノ キョクニカハリテ レストランノ シロクヌラレシ ムジンノピアノ

『形成』(形成発行所 1992.12) 第40巻12号(通巻476号) p.21


07315
圏外に ありて見てゐる 夏の雨 しばしののちは しづまりゆけり
ケンガイニ アリテミテヰル ナツノアメ シバシノノチハ シヅマリユケリ

『形成』(形成発行所 1992.12) 第40巻12号(通巻476号) p.21


07316
病院の 小春日和に 満開と いへどまばらよ 冬の桜は
ビョウインノ コハルビヨリニ マンカイト イヘドマバラヨ フユノサクラハ

『形成』(形成発行所 1993.1) 第41巻1号(通巻477号) p.21


07317
何を病む 異国の人か 樺いろの サリーをまとひ さむざむと待つ
ナニヲヤム イコクノヒトカ カバイロノ サリーヲマトヒ サムザムトマツ

『形成』(形成発行所 1993.1) 第41巻1号(通巻477号) p.21


07318
花過ぎし 薔薇園を来て 根元より がくり傾く 鶏頭も見つ
ハナスギシ バラエンヲキテ ネモトヨリ ガクリカタムク ケイトウモミツ

『形成』(形成発行所 1993.1) 第41巻1号(通巻477号) p.21


07319
目の前を 横切らるるは 不吉ぞと 知れる蛇にも 久しく会はず
メノマエヲ ヨコギラルルハ フキツゾト シレルヘビニモ ヒサシクアハズ

『形成』(形成発行所 1993.1) 第41巻1号(通巻477号) p.21


07320
わが家の 地下は珪藻土と 聞きをれど その混沌は 思ひ見難し
ワガイエノ チカハケイソウドト キキヲレド ソノコントンハ オモヒミガタシ

『形成』(形成発行所 1993.1) 第41巻1号(通巻477号) p.21


07321
気迷ひも 散ずるごとし 丈伸びて 分厚く茂る アロエ見をれば
キマヨヒモ サンズルゴトシ タケノビテ ブアツクシゲル アロエミヲレバ

『形成』(形成発行所 1993.2) 第41巻2号(通巻478号) p.21


07322
駐車せる トラックが道に 多きこと 誰にともなく 言ひつつ渡る
チュウシャセル トラックガミチニ オオキコト ダレニトモナク イヒツツワタル

『形成』(形成発行所 1993.2) 第41巻2号(通巻478号) p.21


07323
つぶつぶの つぼみ持ちたる 黄の小菊 開山の僧の 墓にも供ふ
ツブツブノ ツボミモチタル キノコギク カイザンノソウノ ハカニモソナフ

『形成』(形成発行所 1993.2) 第41巻2号(通巻477号) p.21


07324
をさな子の 母を呼ぶ声 そのままに かさねて若き 妻を呼ぶ声
ヲサナゴノ ハハヲヨブコエ ソノママニ カサネテワカキ ツマヲヨブコエ

『形成』(形成発行所 1993.2) 第41巻2号(通巻478号) p.21


07325
拾はれて もう無いピアスと 思へども 幾日か過ぎて 雪の降り出づ
ヒロハレテ モウナイピアスト オモヘドモ イクヒカスギテ ユキノフリイヅ

『形成』(形成発行所 1993.2) 第41巻2号(通巻478号) p.21


07326
目の前に 置かれしショパンの 左の手 石膏なれば さほどにあらず
メノマエニ オカレシショパンノ ヒダリノテ セッコウナラバ サボドニアラズ

『形成』(形成発行所 1993.3) 第41巻3号(通巻479号) p.22


07327
辻褄を 必ず合はせ 給ふよと 恨みがましく 思ふことあり
ツジツマヲ カナラズアハセ タマフヨト ウラミガマシク オモフコトアリ

『形成』(形成発行所 1993.3) 第41巻3号(通巻479号) p.22


07328
子も親も みな出払ひて 昼餉どき この界隈に 人をらずとぞ
コモオヤモ ミナデハラヒテ ヒルゲドキ コノカイワイニ ヒトヲラズトゾ

『形成』(形成発行所 1993.3) 第41巻3号(通巻479号) p.22


07329
括られし 十人ほどに わが名あり そのページにて しばらく遊ぶ
ククラレシ ジュウニンホドニ ワガナアリ ソノページニテ シバラクアソブ

『形成』(形成発行所 1993.3) 第41巻3号(通巻479号) p.22


07330
振り向かば 狐の顔と なりてゐずや 前を行く人も わが持つ顔も
フリムカバ キツネノカオト ナリテヰズヤ マエヲユクヒトモ ワガモツカオモ

『形成』(形成発行所 1993.3) 第41巻3号(通巻479号) p.22


07331
書斎には 三畳あれば 足るといふ 見回して苦し われの三畳
ショサイニハ サンジョウアレバ タルトイフ ミマワシテクルシ ワレノサンジョウ

『形成』(形成発行所 1993.4) 第41巻4号(通巻480号) p.21


07332
穂草そよぐ かの空港は 思へども 約を果たさむ よしなし今は
ホグサソヨグ カノクウコウハ オモヘドモ ヤクヲハタサム ヨシナシイマハ

『形成』(形成発行所 1993.4) 第41巻4号(通巻480号) p.21


07333
バス停に 待ちて見をれば 目の前は 耕して立つ 春の土の香
バステイニ マチテミヲレバ メノマエハ タガヤシテタツ ハルノツチノカ

『形成』(形成発行所 1993.4) 第41巻4号(通巻480号) p.21


07334
病む前も 今もかはらず 雉子鳩は とほろとほろと 朝を啼くなり
ヤムマエモ イマモカハラズ キジバトハ トホロトホロト アサヲナクナリ

『形成』(形成発行所 1993.4) 第41巻4号(通巻480号) p.21


07335
珍しき 花なりにしは 何時までか 棚にあふれて 極楽鳥花
メズラシキ ハナナリニシガ イツマデカ タナニアフレテ ゴクラクチョウカ

『形成』(形成発行所 1993.4) 第41巻4号(通巻480号) p.21


07336
千年の 杉にも花の 咲くといふ 人の遺恨に 病むとも伝ふ
センネンノ スギニモハナノ サクトイフ ヒトノイコンニ ヤムトモツタフ

『形成』(形成発行所 1993.5) 第41巻5号(通巻481号) p.21


07337
ゲレンデの 人工雪とぞ 山腹に 雪型のやうに 残る模様は
ゲレンデノ ジンコウユキトゾ サンプクニ ユハガタノヤウニ ノコルモヨウハ

『形成』(形成発行所 1993.5) 第41巻5号(通巻481号) p.21


07338
かがまれる 後姿の ままにゐて わかさぎ釣りは 声を発せず
カガマレル ウシロスガタノ ママニヰテ ワカサギツリハ コエヲハッセズ

『形成』(形成発行所 1993.5) 第41巻5号(通巻481号) p.21


07339
北国の み冬は長く 雪掻きを なりはひとする 人々のゐき
キタグニノ ミフユハナガク ユキカキヲ ナリハヒトスル ヒトビトノヰキ

『形成』(形成発行所 1993.5) 第41巻5号(通巻481号) p.21


07340
お日さまの やうに真赤な 黄身持つと 大き玉子の 三個置きゆく
オヒサマノ ヤウニマッカナ キミモツト オオキタマゴノ サンコオキユク

『形成』(形成発行所 1993.5) 第41巻5号(通巻481号) p.21


07341
摘み草の 土の匂ひの 恋ほしきに 花乾きをり 冬のすみれは
ツミクサノ ツチノニオヒノ コホシキニ ハナカワキヲリ フユノスミレハ

『形成』(形成発行所 1993.6) 第41巻6号(通巻482号) p.23


07342
砂漠には 巨大戦車が 似合ふとぞ なづな花持つ まがきの裾に
サバクニハ キョダイセンシャガ ニアフトゾ ナヅナハナモツ マガキノスソニ

『形成』(形成発行所 1993.6) 第41巻6号(通巻482号) p.23


07343
あきらめて ゐたるいのちを この春の うす緑いろの 桜にも会ふ
アキラメテ ヰタルイノチヲ コノハルノ ウスミドリイロノ サクラニモアフ

『形成』(形成発行所 1993.6) 第41巻6号(通巻482号) p.23


07344
児童らが 草を摘み来て 飼ふ山羊の 小さきままよ 休暇のあとも
ジドウラガ クサヲツミキテ カフヤギノ チイサキママヨ キュウカノアトモ

『形成』(形成発行所 1993.6) 第41巻6号(通巻482号) p.23


07345
考へて どうなるとにも あらねども しだれて桃の 咲けば嘆かゆ
カンガヘテ ドウナルトニモ アラネドモ シダレテモモノ サケバナゲカユ

『形成』(形成発行所 1993.6) 第41巻6号(通巻482号) p.23


07346
さまざまに 書きて書かれて わがひと世 詳らかには 未だ知られず
サマザマニ カキテカカレテ ワガヒトヨ ツマビラカニハ イマダシラレズ

『形成』(形成発行所 1993.7) 第41巻7号(通巻483号) p.21


07347
曲水の うたげのあとの 京の菓子 折の木の香を 立たせて届く
キョクスイノ ウタゲノアトノ キョウノカシ ヲリノキノカヲ タタセテトドク

『形成』(形成発行所 1993.7) 第41巻7号(通巻483号) p.21


07348
家族らは みなもとのまま 集まると 浄土のことを 教へて行けり
カゾクラハ ミナモトノママ アツマルト ジョウドノコトヲ オシヘテユケリ

『形成』(形成発行所 1993.7) 第41巻7号(通巻483号) p.21


07349
足取りを 追ひて思ひて たどりしが 月山あたり 春のたかむら
アシドリヲ オヒテオモヒテ タドリシガ グワツサンアタリ ハルノタカムラ

『形成』(形成発行所 1993.7) 第41巻7号(通巻483号) p.21


07350
伴天連と 呼ばれて潜み ゐしころも 洞をふさぎて 雪は降りけむ
バテレント ヨバレテヒソミ ヰシコロモ ホラヲフサギテ ユキハフリケム

『形成』(形成発行所 1993.7) 第41巻7号(通巻483号) p.21


07351
ときに縮み ときにふくらむ 浮き沈み 不透明なる かたまりわれは
トキニチヂミ トキニフクラム ウキシズミ フトウメイナル カタマリワレハ

『形成』(形成発行所 1993.8) 第41巻8号(通巻484号) p.21


07352
右の手に 煽りて消して 見てあれば 蝋の匂ひは かなしみを呼ぶ
ミギノテニ アオリテケシテ ミテアレバ ロウノニオヒハ カナシミヲヨブ

『形成』(形成発行所 1993.8) 第41巻8号(通巻484号) p.21


07353
近未来の 何をか告げて ソケットを 抜けば鋭き 火花が飛びぬ
キンミライノ ナニヲカツゲテ ソケットヲ ヌケバスルドキ ヒバナガトビヌ

『形成』(形成発行所 1993.8) 第41巻8号(通巻484号) p.21


07354
外側より 乾きて乾き 切れざるは 洗濯物の ことにありたり
ソトガワヨリ カワキテカワキ キレザルハ センタクモノノ コトニアリタリ

『形成』(形成発行所 1993.8) 第41巻8号(通巻484号) p.21


07355
咲き終へし 月下美人は 戦ひに 敗れ果てたる もののふめきぬ
サキオヘシ ゲッカビジンハ タタカヒニ ヤブレハテタル モノノフメキヌ

『形成』(形成発行所 1993.8) 第41巻8号(通巻484号) p.21


07356
摘み草の 土の匂ひの 恋ほしきに 花乾きをり 冬のすみれは
ツミクサノ ツチノニオヒノ コホシキニ ハナカワキヲリ フユノスミレハ

『形成』(形成発行所 1993.1) 第41巻1998/4/9号(通巻485号) p.204


07357
砂漠には 巨大戦車が 似合ふとぞ なづな花持つ まがきの裾に
サバクニハ キョダイセンシャガ ニアフトゾ ナヅナハナモツ マガキノスソニ

『形成』(形成発行所 1993.1) 第41巻1998/4/9号(通巻485号) p.204


07358
あきらめて ゐたるいのちを この春の うす緑いろの 桜にも会ふ
アキラメテ ヰタルイノチヲ コノハルノ ウスミドリイロノ サクラニモアフ

『形成』(形成発行所 1993.1) 第41巻2004/9/10号(通巻485号) p.204


07359
児童らが 草を摘み来て 飼ふ山羊の 小さきままゐよ 休暇のあとも
ジドウラガ クサヲツミキテ カフヤギノ チイサキママヰヨ キュウカノアトモ

『形成』(形成発行所 1993.1) 第41巻2004/9/10号(通巻485号) p.204


07360
考へて どうなるとにも あらねども しだれて桃の 咲けば嘆かゆ
カンガヘテ ドウナルトニモ アラネドモ シダレテモモノ サケバナゲカユ

『形成』(形成発行所 1993.1) 第41巻2004/9/10号(通巻485号) p.204