さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

形成

 
表皮より        鳴り出づる       真っすぐに       五階より        
働きて         洗車場より       帰り来て        働くことは       
いくたびも       権力に         はればれと       われの持つ       
見しことの       食べよとも       残業に         おのづから       
もう一人の       身一つを        見し夢の        強かりし        
さわだてる       労働に         夏薔薇の        見ゆる間は       
スプリンクラーの    思はざる        念凝りて        暑き夜の        
コーヒーの       思はざる        信号に         台風の         
過ぎにしは       葉がくれの       堰を切りて       機械さへ        
表情を         太陽に         両の手を        数へ切れぬ       
肩口より        早梅の         手を振りて       待つことも       
枝先の         わが今の        雪の夜の        語りあふ        
会ひがたき       蜂や蛾を        ゆく末の        書かれゐしは      
振動の         おもむろに       積乱雲         四トン車に       
遡行する        覚えにくき       子犬より        山茶花の        
鳥かぶとの       灰皿を         くらがりに       思はざる        
香を焚く        父母の         しどけなく       散らばりし       
終りさへ        裸馬の         知らざりし       告げざれば       
外側から        ほころびを       光線の         聴衆の         
ほどく人の       内よりの        なりふりなど      悪霊を         
 
 
 

06364
表皮より 剥きつつ使ふ 幾朝に キャベツの軽く なるにもあらず
ヒョウヒヨリ ムキツツツカフ イクアサニ キャベツノカルク ナルニモアラズ

『形成』(形成発行所 1976.2) 第24巻2号(通巻274号) p.5


06365
鳴り出づる チャイムを待ちて ゐるわれか 稀の家居に 水使ひつつ
ナリイヅル チャイムヲマチテ ヰルワレカ マレニイエイニ ミズツカヒツツ

『形成』(形成発行所 1976.2) 第24巻2号(通巻274号) p.5


06366
真っすぐに 立つといふこの さびしさよ 花の終れる 向日葵の茎
マッスグニ タツトイフコノ サビシサヨ ハナノオワレル ヒマワリノクキ

『形成』(形成発行所 1976.2) 第24巻2号(通巻274号) p.5


06367
五階より 見おろす夜明け 街灯は うすらみどりに なりて消えたる
ゴカイヨリ ミオロスヨアケ ガイトウハ ウスラミドリニ ナリテキエタル

『形成』(形成発行所 1976.2) 第24巻2号(通巻274号) p.5


06368
働きて 互みに経たる 十年に 美しかりし タイピストも老いぬ
ハタラキテ カタミニヘタル ジュウネンニ ウツクシカリシ タイピストモオイヌ

『形成』(形成発行所 1976.2) 第24巻2号(通巻274号) p.5


06369
洗車場より 出づる車に 心まで 清めしごとき 助手席の顔
センシャジョウヨリ イヅルクルマニ ココロマデ キヨメシゴトキ ジョシュセキノカオ

『形成』(形成発行所 1976.2) 第24巻2号(通巻274号) p.5


06370
帰り来て 帽子をぬげば 絵に見たる 原人もわれの 顔もかはらぬ
カエリキテ ボウシヲヌゲバ エニミタル ゲンジンモワレノ カオモカハラヌ

『形成』(形成発行所 1976.2) 第24巻2号(通巻274号) p.5


06371
働くことは 縛むること 煩悩の 人より濃ゆき わがあけくれに
ハタラクコトハ イマシムルコト ボンノウノ ヒトヨリコユキ ワガアケクレニ

『形成』(形成発行所 1976.4) 第24巻4号(通巻276号) p.5


06372
いくたびも 浅瀬を渡る 夢なりき 水青かりき 月の光に
イクタビモ アサセヲワタル ユメナリキ ミズアオカリキ ツキノヒカリニ

『形成』(形成発行所 1976.4) 第24巻4号(通巻276号) p.5


06373
権力に 屈するごとく 屈するを 病のゆゑと いへどさびしむ
ケンリョクニ クッスルゴトク クッスルヲ ヤマイノユヱト イヘドサビシム

『形成』(形成発行所 1976.4) 第24巻4号(通巻276号) p.5


06374
はればれと 歩むならねば 午後三時 ビルのあはひの 暗がりもよし
ハレバレト アユムナラネバ ゴゴサンジ ビルノアハヒノ クラガリモヨシ

『形成』(形成発行所 1976.4) 第24巻4号(通巻276号) p.5


06375
われの持つ 弱味と言はむ さだかなる 理由なくては 何もなし得ぬ
ワレノモツ ヨワミトイハム サダカナル リユウナクテハ ナニモナシエヌ

『形成』(形成発行所 1976.4) 第24巻4号(通巻276号) p.5


06376
見しことの あらぬオーロラ 見たる日を たのしげに言ふ 傍にゐる
ミシコトノ アラヌオーロラ ミタルヒヲ タノシゲニイフ カタワラニヰル

『形成』(形成発行所 1976.4) 第24巻4号(通巻276号) p.5


06377
食べよとも 寝よとも誰も 言はざれば 目をしばたたく 夜の明近く
タベヨトモ ネヨトモダレモ イハザレバ メヲシバタタク ヨノアケチカク

『形成』(形成発行所 1976.4) 第24巻4号(通巻276号) p.5


06378
残業に 倦める一人か 立ちゆきて 回転ドアの 光をまはす
ザンギョウニ ウメルヒトリカ タチユキテ カイテンドアノ ヒカリヲマハス

『形成』(形成発行所 1976.6) 第24巻6号(通巻278号) p.4


06379
おのづから 強制力を 持つならむ 声やはらげて 言ひても同じ
オノヅカラ キョウセイリョクヲ モツナラム コエヤハラゲテ イヒテモオナジ

『形成』(形成発行所 1976.6) 第24巻6号(通巻278号) p.4


06380
もう一人の われは冷く 客観す しどろもどろに なりゐるわれを
モウヒトリノ ワレハツメタク キャクカンス シドロモドロニ ナリヰルワレヲ

『形成』(形成発行所 1976.6) 第24巻6号(通巻278号) p.4


06381
身一つを 遊ばしむるに つたなくて 駅のほとりの 辛夷も終る
ミヒトツヲ アソバシムルニ ツタナクテ エキノホトリノ コブシモオワル

『形成』(形成発行所 1976.6) 第24巻6号(通巻278号) p.4


06382
見し夢の 名残りのごとく 十日経て いまだはなやぐ 蘭ニ茎は
ミシユメノ ナゴリノゴトク トオカヘテ イマダハナヤグ ランフタクキハ

『形成』(形成発行所 1976.6) 第24巻6号(通巻278号) p.4


06383
強かりし 男の子もなべて 滅びにき 矛ふりかざし 風化石像
ツヨカリシ オノコモナベテ ホロビニキ ホコフリカザシ フウカセキゾウ

『形成』(形成発行所 1976.6) 第24巻6号(通巻278号) p.4


06384
さわだてる 身を薬もて 鎮めつつ 決断といふも 理窟にすぎず
サワダテル ミヲクスリモテ シズメツツ ケツダントイフモ リクツニスギズ

『形成』(形成発行所 1976.6) 第24巻6号(通巻278号) p.4


06385
労働に すさむは言葉 のみならず レモンの酸は 舌先に沁む
ロウドウニ スサムハコトバ ノミナラズ レモンノサンハ シタサキニシム

『形成』(形成発行所 1976.9) 第24巻9号(通巻281号) p.8


06386
夏薔薇の 小さくなりて 咲く見れば 今に残れる 思ひの如き
ナツバラノ チイサクナリテ サクミレバ イマニノコレル オモヒノゴトキ

『形成』(形成発行所 1976.9) 第24巻9号(通巻281号) p.8


06387
見ゆる間は 立ちて見送る わが習ひ 別れがたくて 立つさまに似む
ミユルマハ タチテミオクル ワガナラヒ ワカレガタクテ タツサマニニム

『形成』(形成発行所 1976.9) 第24巻9号(通巻281号) p.8


06388
スプリンクラーの 霧の高さの 整ひて 芝生に無数の 虹立ちはじむ
スプリンクラーノ キリノタカサノ トトノヒテ シバフニムスウノ ニジタチハジム

『形成』(形成発行所 1976.9) 第24巻9号(通巻281号) p.8


06389
思はざる 高みへ視線の ゆく日にて 篠懸の秀を 渡る風見ゆ
オモハザル タカミヘシセンノ ユクヒニテ スズカケノホヲ ワタルカゼミユ

『形成』(形成発行所 1976.9) 第24巻9号(通巻281号) p.8


06390
念凝りて 石となりしと いふきけば まだまだ浅き かなしみならむ
ネンコリテ イシトナリシト イフキケバ マダマダアサキ カナシミナラム

『形成』(形成発行所 1976.9) 第24巻9号(通巻281号) p.8


06391
暑き夜の まどろみに見る 夢にさへ ふるさとの山は 雪をいただく
アツキヨノ マドロミニミル ユメニサヘ フルサトノヤマハ ユキヲイタダク

『形成』(形成発行所 1976.9) 第24巻9号(通巻281号) p.8


06392
コーヒーの 香にたつ真昼 合歓の木の 作るやさしき 木蔭もあらむ
コーヒーノ カニタツマヒル ネムノキノ ツクルヤサシキ コカゲモアラム

『形成』(形成発行所 1976.9) 第24巻9号(通巻281号) p.8


06393
思はざる 高みへ視線の ゆく日にて みづきの花の 真盛りに遇ふ
オモハザル タカミヘシセンノ ユクヒニテ ミヅキノハナノ マサカリニアフ

『形成』(形成発行所 1976.10) 第24巻10号(通巻282号) p.128


06394
信号に 堰かれてをれば 目の前は しづく垂りつつ 待つ冷凍車
シンゴウニ セカレテヲレバ メノマエハ シヅクタリツツ マツレイトウシャ

『形成』(形成発行所 1976.10) 第24巻10号(通巻282号) p.128


06395
台風の 惨を伝へて 厚板の ごとく流るる 水とし言へり
タイフウノ サンヲツタヘテ アツイタノ ゴトクナガルル ミズトシイヘリ

『形成』(形成発行所 1976.10) 第24巻10号(通巻282号) p.128


06396
過ぎにしは なべて夢とよ 花咲ける 萩のしげみに 道をふさがる
スギニシハ ナベテユメトヨ ハナサケル ハギノシゲミニ ミチヲフサガル

『形成』(形成発行所 1976.10) 第24巻10号(通巻282号) p.128


06397
葉がくれの 青木つぶら実 候鳥の 持ち来し苞の ごとく色づく
ハガクレノ アオキツブラミ コウチョウノ モチコシツトノ ゴトクイロヅク

『形成』(形成発行所 1976.10) 第24巻10号(通巻282号) p.128


06398
堰を切りて 流れたき日か もの言はぬ ことも思はぬ 力を要す
セキヲキリテ ナガレタキヒカ モノイハヌ コトモオモハヌ チスラヲヨウス

『形成』(形成発行所 1976.10) 第24巻10号(通巻282号) p.128


06399
機械さへ 悪意もつかと 思ふまで テレファックスの 像定まらず
キカイサヘ アクイモツカト オモフマデ テレファックスノ ゾウサダマラズ

『形成』(形成発行所 1977.3) 第25巻3号(通巻287号) p.122


06400
表情を 崩すことなく 聞き終へて ぐらぐらとせり 立ちあがるとき
ヒョウジョウヲ クズスコトナク キキオヘテ グラグラトセリ タチアガルトキ

『形成』(形成発行所 1977.3) 第25巻3号(通巻287号) p.122


06401
太陽に 頭上を通過 されしのみと 読みたり無為を 歎く言葉に
タイヨウニ ズジョウヲツウカ サレシノミト ヨミタリムイヲ ナゲクコトバニ

『形成』(形成発行所 1977.3) 第25巻3号(通巻287号) p.122


06402
両の手を 合はせし闇を うち振れば ほろほろと鳴る 印度の鈴は
リョウノテヲ アハセシヤミヲ ウチフレバ ホロホロトナル インドノスズハ

『形成』(形成発行所 1977.3) 第25巻3号(通巻287号) p.122


06403
数へ切れぬ 傷と思へど 磨きたる ガラスの向うは 草萌えの丘
カゾヘキレヌ キズトオモヘド ミガキタル ガラスノムコウハ クサモエノオカ

『形成』(形成発行所 1977.3) 第25巻3号(通巻287号) p.122


06404
肩口より 冷えつつ醒めて きららかに 身に帯びゐたる 鱗もあらず
カタグチヨリ ヒエツツサメテ キララカニ ミニオビヰタル ウロコモアラズ

『形成』(形成発行所 1977.3) 第25巻3号(通巻287号) p.122


06405
早梅の 咲くころならむ 薬品の 名も新しく 知りて癒えゆく
ハヤウメノ サクコロナラム ヤクヒンノ ナモアタラシク シリテイエユク

『形成』(形成発行所 1977.3) 第25巻3号(通巻287号) p.122


06406
手を振りて 別れ来にしが 本名を 告ぐることなく 長くつきあふ
テヲフリテ ワカレキニシガ ホンミョウヲ ツグルコトナク ナガクツキアフ

『形成』(形成発行所 1977.5) 第25巻5号(通巻289号) p.6


06407
待つことも 仕事の一つ ビルの上に 奇形の雲の ながくとどまる
マツコトモ シゴトノヒトツ ビルノウエニ キケイノクモノ ナガクトドマル

『形成』(形成発行所 1977.5) 第25巻5号(通巻289号) p.7


06408
枝先の 鵙を見をれば 意識して 危ふきことを なすかと思ふ
エダサキノ モズヲミヲレバ イシキシテ アヤフキコトヲ ナスカトオモフ

『形成』(形成発行所 1977.5) 第25巻5号(通巻289号) p.7


06409
わが今の 立場思へば 毛皮などを なべて剥かれし 寒さのごとき
ワガイマノ タチバオモヘバ ケガワナドヲ ナベテムカレシ サムサノゴトキ

『形成』(形成発行所 1977.5) 第25巻5号(通巻289号) p.7


06410
雪の夜の いづこともなく とざされて おもたき鉄の 一枚扉
ユキノヨノ イヅコトモナク トザサレテ オモタキテツノ イチマイトビラ

『形成』(形成発行所 1977.5) 第25巻5号(通巻289号) p.7


06411
語りあふ さま座席より 仰ぐとき 牙のごときを 人間も持つ
カタリアフ サマザセキヨリ アオグトキ キバノゴトキヲ ニンゲンモモツ

『形成』(形成発行所 1977.5) 第25巻5号(通巻289号) p.7


06412
会ひがたき 人となりたり 約束の 一つをわれの 果たしし日より
アヒガタキ ヒトトナリタリ ヤクソクノ ヒトツヲワレノ ハタシシヒヨリ

『形成』(形成発行所 1977.5) 第25巻5号(通巻289号) p.7


06413
蜂や蛾を 怖れつつ野の 家に棲む モノドラマも あと三月の間
ハチヤガヲ オソレツツノノ イエニスム モノドラマモ アトミツキノマ

『形成』(形成発行所 1977.11) 第25巻11号(通巻295号) p.137


06414
ゆく末の 如何になるとも 今見ゆる かの波だけは 越えねばならず
ユクスエノ イカニナルトモ イマミユル カノナミダケハ コエネバナラズ

『形成』(形成発行所 1977.11) 第25巻11号(通巻295号) p.137


06415
書かれゐしは 何の数字か 黒板を 拭き消して午後の 会議を始む
カカレヰシハ ナンノスウジカ コクバンヲ フキケシテゴゴノ カイギヲハジム

『形成』(形成発行所 1977.11) 第25巻11号(通巻295号) p.137


06416
振動の 激しき電車 誰もみな ひびわれて立つて ゐるのかも知れず
シンドウノ ハゲシキデンシャ ダレモミナ ヒビワレテタツテ ヰルノカモシレズ

『形成』(形成発行所 1977.11) 第25巻11号(通巻295号) p.138


06417
おもむろに 心移して 生きゆかむ ゑのころぐさを 抜きつつ帰る
オモムロニ ココロウツシテ イキユカム ヱノコログサヲ ヌキツツカエル

『形成』(形成発行所 1977.11) 第25巻11号(通巻295号) p.138


06418
積乱雲 あはく燃えつつ 暮れむとす 窓をしむれば わが小世界
セキランウン アハクモエツツ クレムトス マドヲシムレバ ワガショウセカイ

『形成』(形成発行所 1977.11) 第25巻11号(通巻295号) p.138


06419
四トン車に 詰めて預け来し 書物あり 如何にか積まむ 新しき家に
ヨントンシャニ ツメテアズケキシ ショモツアリ イカニカツマム アタラシキイエニ

『形成』(形成発行所 1977.11) 第25巻11号(通巻295号) p.138


06420
遡行する 時間のごとし メトロノームの 音のみさせて 暫くをれば
ソコウスル ジカンノゴトシ メトロノームノ オトノミサセテ シバラクヲレバ

『形成』(形成発行所 1978.1) 第26巻1号(通巻297号) p.4


06421
覚えにくき 人の名を言ひて 海彼なる 軍の蜂起を ニュースは伝ふ
オボエニクキ ヒトノナヲイヒテ カイヒナル グンノホウキヲ ニュースハツタフ

『形成』(形成発行所 1978.1) 第26巻1号(通巻297号) p.4


06422
子犬より 長く生くるとも 決まりゐず 頭を撫でやりし のみに戻り来
コイヌヨリ ナガクイクルトモ キマリヰズ アタマヲナデヤリシ ノミニモドリク

『形成』(形成発行所 1978.1) 第26巻1号(通巻297号) p.4


06423
山茶花の 白冴ゆる日よ 雪国に うまれし性を 今に保ちて
サザンカノ シロサユルヒヨ ユキグニニ ウマレシサガヲ イマニタモチテ

『形成』(形成発行所 1978.1) 第26巻1号(通巻297号) p.4


06424
鳥かぶとの 花買ひ持てば 香にたちて 毒にあくがれ 来し日も久し
トリカブトノ ハナカヒモテバ カニタチテ ドクニアクガレ コシヒモヒサシ

『形成』(形成発行所 1978.1) 第26巻1号(通巻297号) p.4


06425
灰皿を 清めて人を 待つごとき 思ひにゐたり 夕食のあと
ハイザラヲ キヨメテヒトヲ マツゴトキ オモヒニヰタリ ユウショクノアト

『形成』(形成発行所 1978.1) 第26巻1号(通巻297号) p.4


06426
くらがりに 麻か何かを 綯ひゐたり めざめてほめく てのひら二枚
クラガリニ アサカナニカヲ ナヒヰタリ メザメテホメク テノヒラニマイ

『形成』(形成発行所 1978.1) 第26巻1号(通巻297号) p.4


06427
思はざる 恵みのごとく 暖かき 数日ありて 風邪も癒えなむ
オモハザル メグミノゴトク アタタカキ スウジツアリテ カゼモイエナム

『形成』(形成発行所 1978.2) 第26巻2号(通巻298号) p.13


06428
香を焚く ほかあらぬかな たのしみの 待つ如く帰り 来りし家に
コウヲタク ホカアラヌカナ タノシミノ マツゴトクカエリ キタリシイエニ

『形成』(形成発行所 1978.2) 第26巻2号(通巻298号) p.13


06429
父母の 墓さへあらぬ ふるさとの 馬の祭りを テレビは見しむ
チチハハノ ハカサヘアラヌ フルサトノ ウマノマツリヲ テレビハミシム

『形成』(形成発行所 1978.2) 第26巻2号(通巻298号) p.13


06430
しどけなく 笑へる写真 幾枚も とられてゐしは 暴力に似る
シドケナク ワラヘルシャシン イクマイモ トラレテヰシハ ボウリョクニニル

『形成』(形成発行所 1978.2) 第26巻2号(通巻298号) p.13


06431
散らばりし 意識の跡も 敢へなくて 昨日書きたる 文字正しゆく
チラバリシ イシキノアトモ アヘナクテ キノウカキタル モジタダシユク

『形成』(形成発行所 1978.2) 第26巻2号(通巻298号) p.13


06432
終りさへ すればとのみに 励む夜を くり返しつつ 年逝かむとす
オワリサヘ スレバトノミニ ハゲムヨヲ クリカエシツツ トシユカムトス

『形成』(形成発行所 1978.2) 第26巻2号(通巻298号) p.13


06433
裸馬の 一頭戻り くるシーン 夕焼け沙漠を 背景として
ハダカウマノ イットウモドリ クルシーン ユウヤケサバクヲ ハイケイトシテ

『形成』(形成発行所 1978.2) 第26巻2号(通巻298号) p.13


06434
知らざりし 一面見せて ゆるやかに ベビーカーなど 押して歩むよ
シラザリシ イチメンミセテ ユルヤカニ ベビーカーナド オシテアユムヨ

『形成』(形成発行所 1978.2) 第26巻2号(通巻298号) p.13


06435
告げざれば 思はぬことと 等しからむ 告げずに思ふ 事の殖えゆく
ツゲザレバ オモハヌコトト ヒトシカラム ツゲズニオモフ コトノフエユク

『形成』(形成発行所 1978.2) 第26巻2号(通巻298号) p.13


06436
外側から 変ふるてだても あるらむか 同じ形に 髪の整ふ
ソトガワカラ カフルテダテモ アルラムカ オナジカタチニ カミノトトノフ

『形成』(形成発行所 1978.2) 第26巻2号(通巻298号) p.13


06437
ほころびを 繕ふごとく 在り経たる 五年と思ふ 忌の日を過ぎて
ホコロビヲ ツクロフゴトク アリヘタル ゴネントオモフ キノヒヲスギテ

『形成』(形成発行所 1978.3) 第26巻3号(通巻299号) p.4


06438
光線の ゆゑかも知れず 位置替へて 仰ぐ塑像の ふとゆるみたり
コウセンノ ユヱカモシレズ イチカヘテ アオグソゾウノ フトユルミタリ

『形成』(形成発行所 1978.3) 第26巻3号(通巻299号) p.4


06439
聴衆の 一人とあれば 安けきに 汗あえてバッハを 弾くピアニスト
チヨウシュウノ ヒトリトアレバ ヤスケキニ アセアエテバッハヲ ヒクピアニスト

『形成』(形成発行所 1978.3) 第26巻3号(通巻299号) p.4


06440
ほどく人の ときめきを思ひ 花びらの かたちに赤き リボンを結ぶ
ホドクヒトノ トキメキヲオモヒ ハナビラノ カタチニアカキ リボンヲムスブ

『形成』(形成発行所 1978.3) 第26巻3号(通巻299号) p.4


06441
内よりの 力に割れし 卵かと 籾殻を分けて ゐる手が怯む
ウチヨリノ チカラニワレシ タマゴカト モミガラヲワケテ ヰルテガヒルム

『形成』(形成発行所 1978.3) 第26巻3号(通巻299号) p.4


06442
なりふりなど かまはずならむ 年齢を 怖れて思ふ 髪を巻きつつ
ナリフリナド カマハズナラム ネンレイヲ オソレテオモフ カミヲマキツツ

『形成』(形成発行所 1978.3) 第26巻3号(通巻299号) p.4


06443
悪霊を 払ふが如く 呼ぶごとく 藁を焚く火の 燃えあがりたる
アクリョウヲ ハラフガゴトク ヨブゴトク ワラヲタクヒノ モエアガリタル

『形成』(形成発行所 1978.3) 第26巻3号(通巻299号) p.4