さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

形成

 
はるばると       相輪の         植ゑ呉れし       迷ひたる        
寄せ置ける       昨日のことの      二十年         出おくれて       
昼も夜も        伴ひて         音もなく        二重硝子の       
曇りのまま       辞めてどうなる     手を使ふ        耳もとを        
ウインドウに      穂に立ちて       背後より        生き死にも       
木枯の         戻り来て        気負ひてなす      人の持つ        
縫ひあげて       呼ばれたる       容易には        雪どけの        
洗ひたる        砂利掬ふ        破りたる        牙のある        
公園の         人と会ふ        檜葉垣の        乾き易く        
何に使ふ        残像の         果たし来し       雨傘に         
苦しみも        堰を切り        テラスより       台風の         
待たれつつ       阻まれて        街路樹の        この部屋の       
雨の夜の        
 
 
 

06300
はるばると 来しわれのため 幾たびも 言ひて曇れる 入江を見しむ
ハルバルト コシワレノタメ イクタビモ イヒテクモレル イリエヲミシム

『形成』(形成発行所 1975.2) 第23巻2号(通巻262号) p.32


06301
相輪の あたり煙ると 思ふまで 次第につのり 塔に降る雨
ソウリンノ アタリケムルト オモフマデ シダイニツノリ トウニフルアメ

『形成』(形成発行所 1975.2) 第23巻2号(通巻262号) p.32


06302
植ゑ呉れし 人も来ずなり はじめての 花低く咲く 蛍石蕗に
ウヱクレシ ヒトモコズナリ ハジメテノ ハナヒククサク ホタルツワブキニ

『形成』(形成発行所 1975.2) 第23巻2号(通巻262号) p.32


06303
迷ひたる のみに終れど 幾日経て 痩せしと思ふ 指環抜くとき
マヨヒタル ノミニオワレド イクカヘテ ヤセシトオモフ ユビワヌクトキ

『形成』(形成発行所 1975.2) 第23巻2号(通巻262号) p.32


06304
寄せ置ける 落葉を鳴らす 夕の雨 俄かに秋の 深む思ひす
ヨセオケル オチバヲナラス ユウノアメ ニワカニアキノ フカムオモヒス

『形成』(形成発行所 1975.2) 第23巻2号(通巻262号) p.32


06305
昨日のことの やうに思へど 白萩の 倒れてゐしは いづこの道か
キノウノコトノ ヤウニオモヘド シラハギノ タオレテヰシハ イヅコノミチカ

『形成』(形成発行所 1975.2) 第23巻2号(通巻262号) p.32


06306
二十年 先のことなど 言はれゐて われにはさびし 明日のことさへ
ニジュウネン サキノコトナド イハレヰテ ワレニハサビシ アスノコトサヘ

『形成』(形成発行所 1975.2) 第23巻2号(通巻262号) p.32


06307
出おくれて ひそめる鳩の 如き日か 風出でてまた 棕梠の葉が鳴る
デオクレテ ヒソメルハトノ ゴトキヒカ カゼイデテマタ シュロノハガナル

『形成』(形成発行所 1975.3) 第23巻3号(通巻263号) p.5


06308
昼も夜も 竹の落ち葉を 聴くのみの 日日と告げくる まれの便りに
ヒルモヨモ タケノオチバヲ キクノミノ ヒビトツゲクル マレノタヨリニ

『形成』(形成発行所 1975.3) 第23巻3号(通巻263号) p.5


06309
伴ひて 渚に貝を 拾ひつつ 訛りのとれし われをさびしむ
トモナヒテ ナギサニカイヲ ヒロヒツツ ナマリノトレシ ワレヲサビシム

『形成』(形成発行所 1975.3) 第23巻3号(通巻263号) p.5


06310
音もなく 舞ひくる雪の 幾ひらは しばしとどまる コートの胸に
オトモナク マヒクルユキノ イクヒラハ シバシトドマル コートノムネニ

『形成』(形成発行所 1975.3) 第23巻3号(通巻263号) p.5


06311
二重硝子の かなたさわだち 帰らざる 時を刻むか 寄する波さへ
ニジュウガラスノ カナタサワダチ カエラザル トキヲキザムカ ヨスルナミサヘ

『形成』(形成発行所 1975.3) 第23巻3号(通巻263号) p.5


06312
曇りのまま 日は暮れむとし 灰いろの 布一枚と なる冬の海
クモリノママ ヒハクレムトシ ハイイロノ ヌノイチマイト ナルフユノウミ

『形成』(形成発行所 1975.3) 第23巻3号(通巻263号) p.5


06313
辞めてどうなる 当もなき身に いつまでも 退職願の 汚れしを持つ
ヤメテドウナル アテモナキミニ イツマデモ タイショクネガイノ ヨゴレシヲモツ

『形成』(形成発行所 1975.3) 第23巻3号(通巻263号) p.5


06314
手を使ふ 職場と思ふ 指の先 割るる季節の はやめぐり来て
テヲツカフ ショクバトオモフ ユビノサキ ワルルキセツノ ハヤメグリキテ

『形成』(形成発行所 1975.4) 第23巻4号(通巻264号) p.27


06315
耳もとを 去らずめぐるは 今朝見たる 石蕗にゐし 蜂かも知れず
ミミモトヲ サラズメグルハ ケサミタル ツワブキニヰシ ハチカモシレズ

『形成』(形成発行所 1975.4) 第23巻4号(通巻264号) p.27


06316
ウインドウに 売れ残りゐる 湖の 絵にも降りゐむ こよひの雪は
ウインドウニ ウレノコリヰル ミズウミノ エニモフリヰム コヨヒノユキハ

『形成』(形成発行所 1975.4) 第23巻4号(通巻264号) p.27


06317
穂に立ちて 照りゐし朱美 今朝あらず 南天はうすく 雪を溜めつつ
ホニタチテ テリヰシアケミ ケサアラズ ナンテンハウスク ユキヲタメツツ

『形成』(形成発行所 1975.4) 第23巻4号(通巻264号) p.27


06318
背後より きらめく波を 見たるのみ 寒かりし海の 記憶も古りぬ
ハイゴヨリ キラメクナミヲ ミタルノミ サムカリシウミノ キオクモフリヌ

『形成』(形成発行所 1975.4) 第23巻4号(通巻264号) p.27


06319
生き死にも さだかならぬに 夢に来て われをさいなむ 昔のままに
イキシニモ サダカナラヌニ ユメニキテ ワレヲサイナム ムカシノママニ

『形成』(形成発行所 1975.4) 第23巻4号(通巻264号) p.27


06320
木枯の なか行くときに 身に沁みて わが持つ傷よ 千の過失よ
コガラシノ ナカユクトキニ ミニシミテ ワガモツキズヨ センノカシツヨ

『形成』(形成発行所 1975.4) 第23巻4号(通巻264号) p.27


06321
戻り来て ドアとざすとき わが庭の 沈丁の花は いまだ匂はず
モドリキテ ドアトザストキ ワガニワノ ジンチョウノハナハ イマダニオハズ

『形成』(形成発行所 1975.5) 第23巻5号(通巻265号) p.5


06322
気負ひてなす 仕事の如し 文房具の くさぐさを身の 回りに置きて
キオヒテナス シゴトノゴトシ ブンボウグノ クサグサヲミノ マワリニオキテ

『形成』(形成発行所 1975.5) 第23巻5号(通巻265号) p.5


06323
人の持つ 生活は知らず 訪ね来て 口数多きは どのやうな日か
ヒトノモツ セイカツハシラズ タズネキテ クチカズオオキハ ドノヤウナヒカ

『形成』(形成発行所 1975.5) 第23巻5号(通巻265号) p.5


06324
縫ひあげて ふたたびさびし 待針を 色分にして 挿し直しつつ
ヌヒアゲテ フタタビサビシ マチバリヲ イロワケニシテ サシナオシツツ

『形成』(形成発行所 1975.5) 第23巻5号(通巻265号) p.5


06325
呼ばれたる 車に乗りぬ 陥穽は わが内にのみ あると思ひて
ヨバレタル クルマニノリヌ カンセイハ ワガウチニノミ アルトオモヒテ

『形成』(形成発行所 1975.5) 第23巻5号(通巻265号) p.5


06326
容易には 誰もやめられぬ 職場ならむ 勤務表に名を 入れつつ思ふ
ヨウイニハ ダレモヤメラレヌ ショクバナラム キンムヒョウニナヲ イレツツオモフ

『形成』(形成発行所 1975.5) 第23巻5号(通巻265号) p.5


06327
雪どけの 水たまり一つ いつ見たる 古りし鏡の 如くくぐもる
ユキドケノ ミズタマリヒトツ イツミタル フリシカガミノ ゴトククグモル

『形成』(形成発行所 1975.5) 第23巻5号(通巻265号) p.5


06328
洗ひたる レースの花を 整へつつ 何して見ても 手の渇く日よ
アラヒタル レースノハナヲ トトノヘツツ ナニシテミテモ テノカワクヒヨ

『形成』(形成発行所 1975.6) 第23巻6号(通巻266号) p.4


06329
砂利掬ふ 音は粗しと 聞きながら かきまぜらるる 如くにゐしか
ジャリスクフ オトハアラシト キキナガラ カキマゼラルル ゴトクニヰシカ

『形成』(形成発行所 1975.6) 第23巻6号(通巻266号) p.5


06330
破りたる 約束に似む 景品の ダリアの種も 蒔かずに終る
ヤブリタル ヤクソクニニム ケイヒンノ ダリアノタネモ マカズニオワル

『形成』(形成発行所 1975.6) 第23巻6号(通巻266号) p.5


06331
牙のある けものの夜々に 通ふとふ 道をおほひて 深き笹原
キバノアル ケモノノヨヨニ カヨフトフ ミチヲオホヒテ フカキササハラ

『形成』(形成発行所 1975.6) 第23巻6号(通巻266号) p.5


06332
公園の 柵を出づれば 風の坂 白鳥ならぬ 身はバスを待つ
コウエンノ サクヲイヅレバ カゼノサカ ハクチョウナラヌ ミハバスヲマツ

『形成』(形成発行所 1975.6) 第23巻6号(通巻266号) p.5


06333
人と会ふ 仕事なしつつ 口腔の 荒れゐる意識 をりをり還る
ヒトトアフ シゴトナシツツ コウクウノ アレヰルイシキ ヲリヲリカエル

『形成』(形成発行所 1975.6) 第23巻6号(通巻266号) p.5


06334
檜葉垣の 秀の黄に萌えて ゆらぐさま 硝子戸ごしに 花の如しも
ヒバガキノ ホノキニモエテ ユラグサマ ガラスドゴシニ ハナノゴトシモ

『形成』(形成発行所 1975.6) 第23巻6号(通巻266号) p.5


06335
乾き易く なりしてのひら 気にしつつ 持つもの多く 朝々を出づ
カワキヤスク ナリシテノヒラ キニシツツ モツモノオオク アサアサヲイヅ

『形成』(形成発行所 1975.11) 第23巻11号(通巻271号) p.6


06336
何に使ふ 石とも知らず 運びたる いにしへびとに 似て在り通ふ
ナンニツカフ イシトモシラズ ハコビタル イニシヘビトニ ニテアリカヨフ

『形成』(形成発行所 1975.11) 第23巻11号(通巻271号) p.6


06337
残像の 消えがたき日と 思ひたり 萼のみとなれる 桜を見つつ
ザンゾウノ キエガタキヒト オモヒタリ ガクノミトナレル サクラヲミツツ

『形成』(形成発行所 1975.11) 第23巻11号(通巻271号) p.6


06338
果たし来し 仕事といふも 敢へ無きに いまだ灯ともす 隣のビルは
ハタシコシ シゴトトイフモ アヘナキニ イマダヒトモス トナリノビルハ

『形成』(形成発行所 1975.11) 第23巻11号(通巻271号) p.6


06339
雨傘に 身を庇ひつつ 歩みゐて いつより蟹の 匂ひをうとむ
アマガサニ ミヲカバヒツツ アユミヰテ イツヨリカニノ ニオヒヲウトム

『形成』(形成発行所 1975.11) 第23巻11号(通巻271号) p.6


06340
苦しみも 過ぎて思へば きれぎれに 見たるドラマの 画面のごとき
クルシミモ スギテオモヘバ キレギレニ ミタルドラマノ ガメンノゴトキ

『形成』(形成発行所 1975.11) 第23巻11号(通巻271号) p.6


06341
堰を切り なだるる如き 思ひより ふと浮き出でて こよひは眠る
セキヲキリ ナダルルゴトキ オモヒヨリ フトウキイデテ コヨヒハネムル

『形成』(形成発行所 1975.11) 第23巻11号(通巻271号) p.6


06342
テラスより 見おろす街も 秋めきぬ ビルのあはひに 白煙あがる
テラスヨリ ミオロスマチモ アキメキヌ ビルノアハヒニ ハクエンアガル

『形成』(形成発行所 1975.12) 第23巻12号(通巻272号) p.5


06343
台風の 進路を示す 矢印の かなたの海もあをく たそがれてゐむ
タイフウノ シンロヲシメス ヤジルシノ カナタノウミモアヲク タソガレテヰム

『形成』(形成発行所 1975.12) 第23巻12号(通巻272号) p.5


06344
待たれつつ せかれつつなす 宵々の 荷作といふも わが身に応ふ
マタレツツ セカレツツナス ヨイヨイノ ニヅクリトイフモ ワガミニコタフ

『形成』(形成発行所 1975.12) 第23巻12号(通巻272号) p.5


06345
阻まれて 目をあげしとき 木のやうに 伸びて茂れる 山牛蒡立つ
ハバマレテ メヲアゲシトキ キノヤウニ ノビテシゲレル ヤマゴボウタツ

『形成』(形成発行所 1975.12) 第23巻12号(通巻272号) p.5


06346
街路樹の 黄ばみ早きは 何の木か 屋根のみ見えて バスの行き交ふ
ガイロジュノ キバミハヤキハ ナンノキカ ヤネノミミエテ バスノユキカフ

『形成』(形成発行所 1975.12) 第23巻12号(通巻272号) p.5


06347
この部屋の 矩形を全 世界として 出で入るはわが 死人はらから
コノヘヤノ サシガタヲゼン セカイトシテ イデイルハワガ シビトハラカラ

『形成』(形成発行所 1975.12) 第23巻12号(通巻272号) p.5


06348
雨の夜の 冷ゆる空気を 嗅ぎてゐて 古りつつ痛む 傷かと思ふ
アメノヨノ ヒユルクウキヲ カギテヰテ フリツツイタム キズカトオモフ

『形成』(形成発行所 1975.12) 第23巻12号(通巻272号) p.5