さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

形成

 
道のべの        詣で来て        夜の霧に        またたかぬ       
耳たぶの        糸を引き合ひ      たまひたる       数をそろへ       
冷えしるき       追はれゐる       スリッパの       街灯の         
石階の         夜に入りて       膝の上に        不可思議を       
痛きまで        日の暮れの       きれぎれに       洋傘へ         
 
 
 

06280
道のべの 紫苑の花も 過ぎむとし 誰の決めたる 高さに揃ふ
ミチノベノ シオンノハナモ スギムトシ タレノキメタル タカサニソロフ

『形成』(形成発行所 1975.1) 第23巻1号(通巻261号) p.


06281
詣で来て 思ひは尽きず 補ひし 御手のつぎ目も つぶさに見たる
モウデキテ オモヒハツキズ オギナヒシ ミテノツギメモ ツブサニミタル

『形成』(形成発行所 1975.1) 第23巻1号(通巻261号) p.


06282
夜の霧に 濡れたる髪を 梳かむとす 旅に持ち来し 小さき櫛に
ヨノキリニ ヌレタルカミヲ スカムトス タビニモチコシ チイサキクシニ

『形成』(形成発行所 1975.1) 第23巻1号(通巻261号) p.


06283
またたかぬ 街の灯を霧の 底に埋め 十二階なる この夜の眠り
マタタカヌ マチノヒヲキリノ ソコニウメ ジュウニカイナル コノヨノネムリ

『形成』(形成発行所 1975.1) 第23巻1号(通巻261号) p.


06284
耳たぶの かすかにほてり 眠りゆく 聞きたきことの なほある如く
ミミタブノ カスカニホテリ ネムリユク キキタキコトノ ナホアルゴトク

『形成』(形成発行所 1975.1) 第23巻1号(通巻261号) p.


06285
糸を引き合ひ ブロックの高さ 決めてゆく 少年工二人 むつまじく見ゆ
イトヲヒキアヒ ブロックノタカサ キメテユク ショウネンコウフタリ ムツマジクミユ

『形成』(形成発行所 1975.1) 第23巻1号(通巻261号) p.


06286
たまひたる 花束のすみれ 手にかこみ 幾たびも嗅ぐ バスを待ちつつ
タマヒタル コサージノスミレ テニカコミ イクタビモカグ バスヲマチツツ

『形成』(形成発行所 1975.1) 第23巻1号(通巻261号) p.


06287
数をそろへ 磨きおくとも 一本づつ 使ふ日多き スプーンとフォーク
カズヲソロヘ ミガキオクトモ イッポンヅツ ツカフヒオオキ スプーントフォーク

『形成』(形成発行所 1975.1) 第23巻1号(通巻261号) p.


06288
冷えしるき 夜を起きをれば この家に まつはるやうに こほろぎは啼く
ヒエシルキ ヨヲオキヲレバ コノイエニ マツハルヤウニ コホロギハナク

『形成』(形成発行所 1975.1) 第23巻1号(通巻261号) p.


06289
追はれゐる 夢をのがれし まどろみに 風はけものの 声なして鳴る
オハレヰル ユメヲノガレシ マドロミニ カゼハケモノノ コエナシテナル

『形成』(形成発行所 1975.1) 第23巻1号(通巻261号) p.


06290
スリッパの 爪先を揃へ 置きて出づ 夜に帰り来む みづからのため
スリッパノ ツマサキヲソロヘ オキテイヅ ヨルニカエリコム ミヅカラノタメ

『形成』(形成発行所 1975.1) 第23巻1号(通巻261号) p.


06291
街灯の ほとりを過ぎし 人の影 影のみとなり 遠ざかりたり
ガイトウノ ホトリヲスギシ ヒトノカゲ カゲノミトナリ トオザカリタリ

『形成』(形成発行所 1975.1) 第23巻1号(通巻261号) p.


06292
石階の どの面もすでに 暗みゐて 落ち込むごとき 思ひにくだる
セッカイノ ドノメンモスデニ クラミヰテ オチコムゴトキ オモヒニクダル

『形成』(形成発行所 1975.1) 第23巻1号(通巻261号) p.


06293
夜に入りて 物音あらず 少年を 入院させし 隣の家は
ヨニイリテ モノオトアラズ ショウネンヲ ニュウインサセシ トナリノイエハ

『形成』(形成発行所 1975.1) 第23巻1号(通巻261号) p.


06294
膝の上に 編みものを置きて 聞く電話 雪の降る夜と 告げつつ遠し
ヒザノウエニ アミモノヲオキテ キクデンワ ユキノフルヨト ツゲツツトオシ

『形成』(形成発行所 1975.1) 第23巻1号(通巻261号) p.


06295
不可思議を 思ふならねど 仰ぎ見て かすかに埴輪の 向きの変れる
フカシギヲ オモフナラネド アオギミテ カスカニハニワノ ムキノカワレル

『形成』(形成発行所 1975.1) 第23巻1号(通巻261号) p.


06296
痛きまで 胸締めて出づる 朝々に たのしきことの 待つにもあらず
イタキマデ ムネシメテイヅル アサアサニ タノシキコトノ マツニモアラズ

『形成』(形成発行所 1975.1) 第23巻1号(通巻261号) p.


06297
日の暮れの 早くなりたり あたたかき 夕餉食まむに わが家も遠し
ヒノクレノ ハヤクナリタリ アタタカキ ユウゲハマムニ ワガヤモトオシ

『形成』(形成発行所 1975.1) 第23巻1号(通巻261号) p.


06298
きれぎれに 光りつつ降る 夜の雨 落ち葉が匂ふ 道を曲れば
キレギレニ ヒカリツツフル ヨルノアメ オチバガニオフ ミチヲマガレバ

『形成』(形成発行所 1975.1) 第23巻1号(通巻261号) p.


06299
洋傘へ あつまる夜の 雨の音 さびしき音を 家まではこぶ
カウモリヘ アツマルヨルノ アメノオト サビシキオトヲ イエマデハコブ

『形成』(形成発行所 1975.1) 第23巻1号(通巻261号) p.