さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

形成

 
雲を映す        届きたる        クレパスは       門灯の         
出でゆけば       身に近く        目の前に        身をよけて       
硝子ごしに       これ以上        聞きとれぬ       街灯を         
指先が         遠くより        ひさびさの       雨の音に        
窓により        手巾に         眠るとき        灰いろの        
雪の嵩も        買ひやらむ       銀いろの        腋寒く         
そのほかの       定規あてて       生きてあらば      消し忘れし       
草むらの        輪郭の         遠く行く        伎楽の面の       
分身の         ときのまに       栗の花の        リストより       
醒めゆかば       散りしける       断ち切られ       思はざる        
黄の花の        いとけなく       白桃の         この夜は        
風邪のあとの      白樺に         秋海棠を        売られゐる       
 
 
 

06198
雲を映す 日の多くなりし 水の上 風は渡らふ バリウム色に
クモヲウツス ヒノオオクナリシ ミズノウエ カゼハワタラフ バリウムイロニ

『形成』(形成発行所 1972.8) 第20巻8号(通巻232号) p.4


06199
届きたる 供花の黄の薔薇 活けてゐて 虚飾のやうな 窓の明るさ
トドキタル キョウカノキノバラ イケテヰテ キョショクノヤウナ マドノアカルサ

『形成』(形成発行所 1972.8) 第20巻8号(通巻232号) p.4


06200
クレパスは 青のみとなり 吹く風も 野も真っ青に 塗るほかあらず
クレパスハ アオノミトナリ フクカゼモ ノモマッサオニ ヌルホカアラズ

『形成』(形成発行所 1972.8) 第20巻8号(通巻232号) p.4


06201
門灯の 一ついつより 消えゐるか さだかにたれも 覚えてをらず
モントウノ ヒトツイツヨリ キエヰルカ サダカニタレモ オボエテヲラズ

『形成』(形成発行所 1972.8) 第20巻8号(通巻232号) p.4


06202
出でゆけば すぐに隠れて たはむれに ブザー押す子は 幾人ならむ
イデユケバ スグニカクレテ タハムレニ ブザーオスコハ イクタリナラム

『形成』(形成発行所 1972.8) 第20巻8号(通巻232号) p.4


06203
身に近く 置く縫ひぐるみ 初めから 吠ゆることなき 犬などさびし
ミニチカク オクヌヒグルミ ハジメカラ ホユルコトナキ イヌナドサビシ

『形成』(形成発行所 1972.8) 第20巻8号(通巻232号) p.4


06204
目の前に つきつけられし 感じにて カラジウムの葉の 一枚そよぐ
メノマエニ ツキツケラレシ カンジニテ カラジウムノハノ イチマイソヨグ

『形成』(形成発行所 1972.10) 第20巻10号(通巻234号) p.4


06205
身をよけて 通らしめたる トラックに 横向きに乗れる 三頭の馬
ミヲヨケテ トオラシメタル トラックニ ヨコムキニノレル サントウノウマ

『形成』(形成発行所 1972.10) 第20巻10号(通巻234号) p.4


06206
硝子ごしに 雨を見てゐて 目の前の ことに怒らず なれるに気づく
ガラスゴシニ アメヲミテヰテ メノマエノ コトニオコラズ ナレルニキヅク

『形成』(形成発行所 1972.10) 第20巻10号(通巻234号) p.4


06207
これ以上 失ふものは 残りゐず 腕力のごとき 力湧き来よ
コレイジョウ ウシナフモノハ ノコリヰズ ワンリヨクノゴトキ チカラワキコヨ

『形成』(形成発行所 1972.10) 第20巻10号(通巻234号) p.4


06208
聞きとれぬ 遠きドラマに 縄のやうな 顎ひげのある 仮面がうごく
キキトレヌ トオキドラマニ ナワノヤウナ アゴヒゲノアル カメンガウゴク

『形成』(形成発行所 1972.10) 第20巻10号(通巻234号) p.4


06209
街灯を かぞへつつ来て 気づきたり 悲しみをそれて ゐたる時のま
ガイトウヲ カゾヘツツキテ キヅキタリ カナシミヲソレテ ヰタルトキノマ

『形成』(形成発行所 1972.10) 第20巻10号(通巻234号) p.4


06210
指先が つららのやうに 尖りゐき さびしき夢を 見て起き出でぬ
ユビサキガ ツララノヤウニ トガリヰキ サビシキユメヲ ミテオキイデヌ

『形成』(形成発行所 1972.10) 第20巻10号(通巻234号) p.4


06211
遠くより 青くともして バスは来る 帰りゆきても たれもをらぬに
トオクヨリ アオクトモシテ バスハクル カエリユキテモ タレモヲラヌニ

『形成』(形成発行所 1972.11) 第20巻11号(通巻235号) p.16


06212
ひさびさの 雨となりたり 忌の明けに 異国のやうな 対岸の森
ヒサビサノ アメトナリタリ キノアケニ イコクノヤウナ タイガンノモリ

『形成』(形成発行所 1972.11) 第20巻11号(通巻235号) p.16


06213
雨の音に とり巻かれゐて 逃れ得ず 激しくたれか わが名を呼べよ
アメノオトニ トリマカレヰテ ノガレエズ ハゲシクタレカ ワガナヲヨベヨ

『形成』(形成発行所 1972.11) 第20巻11号(通巻235号) p.16


06214
窓により 見てゐる雨は 絵のやうに 白き斜線を 引きながら降る
マドニヨリ ミテヰルアメハ エノヤウニ シロキシャセンヲ ヒキナガラフル

『形成』(形成発行所 1972.11) 第20巻11号(通巻235号) p.16


06215
手巾に アイロンの余熱 あてながら またとめどなく 思ひ墜ちゆく
ハンカチニ アイロンノヨネツ アテナガラ マタトメドナク オモヒオチユク

『形成』(形成発行所 1972.11) 第20巻11号(通巻235号) p.16


06216
眠るとき 必ず思ふ われの位置 運河ふたすぢ こもごもに光る
ネムルトキ カナラズオモフ ワレノイチ ウンガフタスヂ コモゴモニヒカル

『形成』(形成発行所 1972.11) 第20巻11号(通巻235号) p.16


06217
灰いろの 葡萄つるくさ きりもなく つなぎてゆけり 眠りのなかに
ハイイロノ ブドウツルクサ キリモナク ツナギテユケリ ネムリノナカニ

『形成』(形成発行所 1972.11) 第20巻11号(通巻235号) p.16


06218
雪の嵩も 昨日のままか 花びらの 欠けたるネオン こよひもともす
ユキノカサモ キノウノママカ ハナビラノ カケタルネオン コヨヒモトモス

『形成』(形成発行所 1973.1) 第21巻1号(通巻237号) p.5


06219
買ひやらむ 妹はゐず この冬の 色あたたかき 布地を見てゆく
カヒヤラム イモウトハヰズ コノフユノ イロアタタカキ ヌノジヲミテユク

『形成』(形成発行所 1973.1) 第21巻1号(通巻237号) p.5


06220
銀いろの ポールが立ちて ゆれゐたり 旗のあがらぬ 今日の静けさ
ギンイロノ ポールガタチテ ユレヰタリ ハタノアガラヌ キョウノシズケサ

『形成』(形成発行所 1973.1) 第21巻1号(通巻237号) p.5


06221
腋寒く 見てゐるものを 啼くことも あらずうかべる 白鳥のむれ
ワキサムク ミテヰルモノヲ ナクコトモ アラズウカベル ハクチョウノムレ

『形成』(形成発行所 1973.1) 第21巻1号(通巻237号) p.5


06222
そのほかの 費し方を 問はずして わがために生を 終へし妹
ソノホカノ ツイヤシカタヲ トハズシテ ワガタメニシヤウヲ オヘシイモウト

『形成』(形成発行所 1973.1) 第21巻1号(通巻237号) p.5


06223
定規あてて 罫をひきゐる 間だけ 何もかも忘れて ゐしかと思ふ
ジョウギアテテ ケイヲヒキヰル アイダダケ ナニモカモワスレテ ヰシカトオモフ

『形成』(形成発行所 1973.1) 第21巻1号(通巻237号) p.5


06224
生きてあらば 如何に歎かむ 幾種もの 薬のみつつ 起きゐるわれを
イキテアラバ イカニナゲカム イクシュモノ クスリノミツツ オキヰルワレヲ

『形成』(形成発行所 1973.1) 第21巻1号(通巻237号) p.5


06225
消し忘れし 灯の家にある 如き一日 こゑ励ましつつ われは仕事す
ケシワスレシ ヒノイエニアル ゴトキヒトヒ コヱハゲマシツツ ワレハシゴトス

『形成』(形成発行所 1973.6) 第21巻6号(通巻242号) p.4


06226
草むらの 底にみひらく この春の たんぽぽの花も 妹は見ず
クサムラノ ソコニミヒラク コノハルノ タンポポノハナモ イモウトハミズ

『形成』(形成発行所 1973.6) 第21巻6号(通巻242号) p.4


06227
輪郭の たしかなる影 ひきゐると 気づきぬ信号に 立ちどまるとき
リンカクノ タシカナルカゲ ヒキヰルト キヅキヌシンゴウニ タチドマルトキ

『形成』(形成発行所 1973.6) 第21巻6号(通巻242号) p.4


06228
遠く行く 旅もかなはぬ 予後の身を 人はいざなふ 札所めぐりに
トオクユク タビモカナハヌ ヨゴノミヲ ヒトハイザナフ フダショメグリニ

『形成』(形成発行所 1973.6) 第21巻6号(通巻242号) p.4


06229
伎楽の面の 内側にあく 瞳孔の 深く小さし 二つならびて
ギガクノメンノ ウチガワニアク ドウコウノ フカクチイサシ フタツナラビテ

『形成』(形成発行所 1973.6) 第21巻6号(通巻242号) p.4


06230
分身の ごとくにありし 欅の木 芽ぶきて大き ひろがりをなす
ブンシンノ ゴトクニアリシ ケヤキノキ メブキテオオキ ヒロガリヲナス

『形成』(形成発行所 1973.6) 第21巻6号(通巻242号) p.4


06231
ときのまに 春雷は過ぎ 明るむを 呼ばひて出でむ うからもをらず
トキノマニ シュンライハスギ アカルムヲ ヨバヒテイデム ウカラモヲラズ

『形成』(形成発行所 1973.6) 第21巻6号(通巻242号) p.4


06232
栗の花の 匂へば雨に なるといふ 雨の日曜は さびしきものを
クリノハナノ ニオヘバアメニ ナルトイフ アメノニチヨウハ サビシキモノヲ

『形成』(形成発行所 1973.8) 第21巻8号(通巻244号) p.4


06233
リストより ラフマニノフと 思ひゐて 急に効きくる 眠り薬は
リストヨリ ラフマニノフト オモヒヰテ キュウニキキクル ネムリグスリハ

『形成』(形成発行所 1973.8) 第21巻8号(通巻244号) p.4


06234
醒めゆかば 如何にかさびし 少年の 聖歌コーラス 澄みて続ける
サメユカバ イカニカサビシ ショウネンノ セイカコーラス スミテツヅケル

『形成』(形成発行所 1973.8) 第21巻8号(通巻244号) p.4


06235
散りしける 売子木の花みな よごれゐて おもたし傘も 左手の荷も
チリシケル エゴノハナミナ ヨゴレヰテ オモタシカサモ ヒダリテノニモ

『形成』(形成発行所 1973.8) 第21巻8号(通巻244号) p.4


06236
断ち切られ また繋がれて すべ知らぬ 思ひに今日は 彼岸会にゆく
タチキラレ マタツナガレテ スベシラヌ オモヒニキョウハ ヒガンエニユク

『形成』(形成発行所 1973.8) 第21巻8号(通巻244号) p.4


06237
思はざる 花びらの嵩 芍薬の うすくれなゐの 一つ崩れて
オモハザル ハナビラノカサ シャクヤクノ ウスクレナヰノ ヒトツクズレテ

『形成』(形成発行所 1973.8) 第21巻8号(通巻244号) p.4


06238
黄の花の 終らむとして とりとめも あらず乱るる 薔薇の垣根は
キノハナノ オワラムトシテ トリトメモ アラズミダルル バラノカキネハ

『形成』(形成発行所 1973.8) 第21巻8号(通巻244号) p.4


06239
いとけなく 伴はれ来し その子とも 睦みつつ剥く したたる桃を
イトケナク トモナハレコシ ソノコトモ ムツミツツムク シタタルモモヲ

『形成』(形成発行所 1973.12) 第21巻12号(通巻248号) p.4


06240
白桃の 季節去年より しづかなる われかと思ふ 水に浮けつつ
ハクトウノ キセツコゾヨリ シヅカナル ワレカトオモフ ミズニウケツツ

『形成』(形成発行所 1973.12) 第21巻12号(通巻248号) p.4


06241
この夜は いづちの山か 届きたる はがきににじむ スタンプの青
コノヨルハ イヅチノヤマカ トドキタル ハガキニニジム スタンプノアオ

『形成』(形成発行所 1973.12) 第21巻12号(通巻248号) p.4


06242
風邪のあとの 幾日たゆく 勤めゐて 本の倒るる 音にも脅ゆ
カゼノアトノ イクニチタユク ツトメヰテ ホンノタオルル オトニモオビユ

『形成』(形成発行所 1973.12) 第21巻12号(通巻248号) p.4


06243
白樺に 似る林とぞ 少女らの 調べ当てし木の名 ナンキンハゼノキ
シラカバニ ニルハヤシトゾ ショウジョラノ シラベアテシキノナ ナンキンハゼノキ

『形成』(形成発行所 1973.12) 第21巻12号(通巻248号) p.4


06244
秋海棠を 好みしうから みな在らず 土やはらかし 墓への道は
シュウカイドウヲ コノミシウカラ ミナアラズ ツチヤハラカシ ハカヘノミチハ

『形成』(形成発行所 1973.12) 第21巻12号(通巻248号) p.4


06245
売られゐる 秋の野菜の 美しさ 厨のことに うとく過ぎつつ
ウラレヰル アキノヤサイノ ウツクシサ クリヤノコトニ ウトクスギツツ

『形成』(形成発行所 1973.12) 第21巻12号(通巻248号) p.4