さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

形成

 
あたたかき       朝夕の         アーケードに      人もわれも       
刻限に         窓をあけて       ひとり歩む       改札を         
電車待つ        とげ抜きの       励まして        夢のなかの       
吊り皮に        声もなく        夢見ぬと        たれも同じ       
夜泣きする       何れ癒ると       ホームより       いつのまに       
風の幅         きれぎれに       花を撒きつつ      動かずに        
ひなげしの       
 
 
 

06173
あたたかき 雨となりたり ふるさとの 桑の若葉も ほぐれむころか
アタタカキ アメトナリタリ フルサトノ クワノワカバモ ホグレムコロカ

『形成』(形成発行所 1972.5) 第20巻5号(通巻229号) p.7


06174
朝夕の 電車に過ぎて ひとたびも 降りしことなき 駅幾つあり
アサユウノ デンシャニスギテ ヒトタビモ オリシコトナキ エキイクツアリ

『形成』(形成発行所 1972.5) 第20巻5号(通巻229号) p.7


06175
アーケードに 雨降る街の いづこにか イースト菌の 匂ひしてゐつ
アーケードニ アメフルマチノ イヅコニカ イーストキンノ ニオヒシテヰツ

『形成』(形成発行所 1972.5) 第20巻5号(通巻229号) p.7


06176
人もわれも リモートコント ロールにて 操られゐる ごとき事務室
ヒトモワレモ リモートコント ロールニテ アヤツラレヰル ゴトキジムシツ

『形成』(形成発行所 1972.5) 第20巻5号(通巻229号) p.7


06177
刻限に よりて明るむ 岬の絵 椅子を回して 立つときに見ゆ
コクゲンニ ヨリテアカルム ミサキノエ イスヲマワシテ タツトキニミユ

『形成』(形成発行所 1972.5) 第20巻5号(通巻229号) p.7


06178
窓をあけて 放ちやらむか 文鳥も 熱ばむ今日の わが手には来ず
マドヲアケテ ハナチヤラムカ ブンチョウモ ネツバムキョウノ ワガテニハコズ

『形成』(形成発行所 1972.5) 第20巻5号(通巻229号) p.7


06179
ひとり歩む ことは少なし この朝も 先の路地より たれか出で来る
ヒトリアユム コトハスクナシ コノアサモ サキノロジヨリ タレカイデクル

『形成』(形成発行所 1972.5) 第20巻5号(通巻229号) p.7


06180
改札を 出づればしまふ 定期券 約束ごとなどの うとましき日よ
カイサツヲ イヅレバシマフ テイキケン ヤクソクゴトナドノ ウトマシキヒヨ

『形成』(形成発行所 1972.5) 第20巻5号(通巻229号) p.7


06181
電車待つ あひだしばらく 話しゐて 表裏ある 声を持ちあふ
デンシャマツ アヒダシバラク ハナシヰテ オモテウラアル コエヲモチアフ

『形成』(形成発行所 1972.5) 第20巻5号(通巻229号) p.7


06182
とげ抜きの 小さきをつねに 持ちてゐて みづから使ふ 事は少なし
トゲヌキノ チイサキヲツネニ モチテヰテ ミヅカラツカフ コトハスクナシ

『形成』(形成発行所 1972.5) 第20巻5号(通巻229号) p.7


06183
励まして あと幾年を 勤め得む はがゆきことの 多くなりつつ
ハゲマシテ アトイクトセヲ ツトメエム ハガユキコトノ オオクナリツツ

『形成』(形成発行所 1972.5) 第20巻5号(通巻229号) p.7


06184
夢のなかの 景色のやうに 寒けくて どの窓も白き 曇りを映す
ユメノナカノ ケシキノヤウニ サムケクテ ドノマドモシロキ クモリヲウツス

『形成』(形成発行所 1972.5) 第20巻5号(通巻229号) p.7


06185
吊り皮に 縋りつづけて 帰り来ぬ 指かじかめる 手袋を置く
ツリカワニ スガリツヅケテ カエリキヌ ユビカジカメル テブクロヲオク

『形成』(形成発行所 1972.5) 第20巻5号(通巻229号) p.7


06186
声もなく 渡る鳥あり 薄氷の きれぎれに浮く 沼の上の空
コエモナク ワタルトリアリ ウスラヒノ キレギレニウク ヌマノウエノソラ

『形成』(形成発行所 1972.5) 第20巻5号(通巻229号) p.7


06187
夢見ぬと いふ夜は無くて 眠りつつ 会ひたき人を 見るにもあらず
ユメミヌト イフヨハナクテ ネムリツツ アヒタキヒトヲ ミルニモアラズ

『形成』(形成発行所 1972.5) 第20巻5号(通巻229号) p.7


06188
たれも同じ 不安を持ちて 働くと 階段を書庫へ くだるとき思ふ
タレモオナジ フアンヲモチテ ハタラクト カイダンヲショコヘ クダルトキオモフ

『形成』(形成発行所 1972.5) 第20巻5号(通巻229号) p.7


06189
夜泣きする 幼な子のゐる 両隣 ひとり起きゐる 宵々に知る
ヨナキスル オサナゴノヰル リョウドナリ ヒトリオキヰル ヨイヨイニシル

『形成』(形成発行所 1972.5) 第20巻5号(通巻229号) p.7


06190
何れ癒ると 思ひてをれど 風邪のあと 味覚失ひ 五日ほどたつ
イズレナホルト オモヒテヲレド カゼノアト ミカクウシナヒ イツカホドタツ

『形成』(形成発行所 1972.5) 第20巻5号(通巻229号) p.7


06191
ホームより はみ出してとまる 貨車が見ゆ まがれば駅の 上の岨道
ホームヨリ ハミダシテトマル カシャガミユ マガレバエキノ ウエノソバミチ

『形成』(形成発行所 1972.5) 第20巻5号(通巻229号) p.7


06192
いつのまに あがれる雨か エクレアも 冷たしとのみ 思ひ食みゐつ
イツノマニ アガレルアメカ エクレアモ ツメタシトノミ オモヒハミヰツ

『形成』(形成発行所 1972.5) 第20巻5号(通巻229号) p.7


06193
風の幅 ひろがりゆきて 水の上 見ゆる限りの 波光りたり
カゼノハバ ヒロガリユキテ ミズノウエ ミユルカギリノ ナミヒカリタリ

『形成』(形成発行所 1972.5) 第20巻5号(通巻229号) p.7


06194
きれぎれに ゆるく流るる うす雲の かさなるときに 高さが違ふ
キレギレニ ユルクナガルル ウスグモノ カサナルトキニ タカサガチガフ

『形成』(形成発行所 1972.5) 第20巻5号(通巻229号) p.7


06195
花を撒きつつ 来しかと思ふ 気がつけば 花のあらざる 蘭の鉢持つ
ハナヲマキツツ コシカトオモフ キガツケバ ハナノアラザル ランノハチモツ

『形成』(形成発行所 1972.5) 第20巻5号(通巻229号) p.7


06196
動かずに をれば膝より ひび割るる 作りそこねし 土偶のやうに
ウゴカズニ ヲレバヒザヨリ ヒビワルル ツクリソコネシ ドグウノヤウニ

『形成』(形成発行所 1972.5) 第20巻5号(通巻229号) p.7


06197
ひなげしの 花もいつしか 立ち直り 影ごとゆらぐ 曇りガラスに
ヒナゲシノ ハナモイツシカ タチナオリ カゲゴトユラグ クモリガラスニ

『形成』(形成発行所 1972.5) 第20巻5号(通巻229号) p.8