さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

形成

 
陸橋の         待たれゐて       太幹に         単作地帯の       
エゴイストの      どのやうな       落ちてゆく       紫蘇の穂の       
癒えし身に       雨あとの        貝殻いろに       切実に         
梢高く         発車まで        うとくして       遠景に         
間なく降る       空き家と        浜荻の         いくたびか       
 
 
 

05415
陸橋の 風にあふられ 歩み出づ 理由なき死と いふ語聴き来て
リッキョウノ カゼニアフラレ アユミイヅ リユウナキシト イフゴキキキテ

『形成』(形成発行所 1958.1) 第6巻1号(通巻57号) p.6


05416
待たれゐて 急ぐがごとく 一方に 光る穂絮の 空を流らふ
マタレヰテ イソグガゴトク ヒトカタニ ヒカルホワタノ ソラヲナガラフ

『形成』(形成発行所 1958.1) 第6巻1号(通巻57号) p.6


05417
太幹に 矢じるし白く 彫られゐて いざなふくらき 林の奥へ
フトミキニ ヤジルシシロク ホラレヰテ イザナフクラキ ハヤシノオクヘ

『形成』(形成発行所 1958.1) 第6巻1号(通巻57号) p.6


05418
単作地帯の オルグに赴く とも知らず 夜の駅に送りき 幾年前ぞ
タンサクチタイノ オルグニオモムク トモシラズ ヨノエキニオクリキ イクトセマエゾ

『形成』(形成発行所 1958.1) 第6巻1号(通巻57号) p.6


05419
エゴイストの 死ぞとかたみに 蔑しつつ 悲しみを遣らふ 言葉とならず
エゴイストノ シゾトカタミニ ナミシツツ カナシミヲヤラフ コトバトナラズ

『形成』(形成発行所 1958.1) 第6巻1号(通巻57号) p.6


05420
どのやうな 解釈も人に 拒み得ず ただしづかなる 死顔にして
ドノヤフナ カイシャクモヒトニ コバミエズ タダシヅカナル シニガオニシテ

『形成』(形成発行所 1958.1) 第6巻1号(通巻57号) p.6


05421
落ちてゆく 眠りの中に まざまざと 見えて昇れぬ 階梯をもつ
オチテユク ネムリノナカニ マザマザト ミエテノボレヌ キザハシヲモツ

『形成』(形成発行所 1958.1) 第6巻1号(通巻57号) p.6


05422
紫蘇の穂の あえかに白き 花と見き 散りつくしつつ 今朝を匂へり
シソノホノ アエカニシロキ ハナトミキ チリツクシツツ ケサヲニオヘリ

『形成』(形成発行所 1958.1) 第6巻1号(通巻57号) p.6


05423
癒えし身に 醒めゆく思惟の 過程にて 水位つねなく 野川ながるる
イエシミニ サメユクシイノ カテイニテ スイイツネナク ノガワナガルル

『形成』(形成発行所 1958.1) 第6巻1号(通巻57号) p.6


05424
雨あとの 刈り田に漂ふ 田舟見つつ 旅人のごとき われの歩みぞ
アメアトノ カリタニタダヨフ ソリミツツ タビビトノゴトキ ワレノアユミゾ

『形成』(形成発行所 1958.1) 第6巻1号(通巻57号) p.6


05425
貝殻いろに かがよふ雲を かすめゆく 一機地上は すでに昏れゐて
カイガライロニ カガヨフクモヲ カスメユク イッキチジョウハ スデニクレヰテ

『形成』(形成発行所 1958.1) 第6巻1号(通巻57号) p.6


05426
切実に わが名呼ばれし 思ひしつ 夢のつづきの ごとき夕映え
セツジツニ ワガナヨバレシ オモヒシツ ユメノツヅキノ ゴトキユウバエ

『形成』(形成発行所 1958.1) 第6巻1号(通巻57号) p.6


05427
梢高く すずろに花の 吹かれゐて 百日紅は 重さ持たぬや
ウレタカク スズロニハナノ フカレヰテ ヒヤクジツコウハ オモサモタヌヤ

『形成』(形成発行所 1958.1) 第6巻1号(通巻57号) p.6


05428
発車まで 間のある暗き バスにをり 病み易くなりし 身を寂しみて
ハッシャマデ マノアルクラキ バスニヲリ ヤミヤスクナリシ ミヲサビシミテ

『形成』(形成発行所 1958.1) 第6巻1号(通巻57号) p.6


05429
うとくして 今日に変らぬ 明日あらむ 重たき帯と 思ひつつ解く
ウトクシテ キョウニカワラヌ アスアラム オモタキオビト オモヒツツトク

『形成』(形成発行所 1958.1) 第6巻1号(通巻57号) p.6


05430
遠景に 藁家のありて 灯ともれり ふと人の出でて 何か捨てたり
エンケイニ ワラヤノアリテ ヒトモレリ フトヒトノイデテ ナニカステタリ

『形成』(形成発行所 1958.1) 第6巻1号(通巻57号) p.6


05431
間なく降る 竹の落ち葉の 中を来て かへりみ易き 性をうとまず
マナクフル タケノオチバノ ナカヲキテ カヘリミヤスキ サガヲウトマズ

『形成』(形成発行所 1958.1) 第6巻1号(通巻57号) p.6


05432
空き家と なりてひひらぎ 咲きゐしが 委しく知らむ ことも希はぬ
アキイエト ナリテヒヒラギ サキヰシガ クハシクシラム コトモネガハヌ

『形成』(形成発行所 1958.1) 第6巻1号(通巻57号) p.6


05433
浜荻の みだるる河口 水昏れて ひそかに思ひ さかのぼらしむ
ハマオギノ ミダルルカコウ ミズクレテ ヒソカニオモヒ サカノボラシム

『形成』(形成発行所 1958.1) 第6巻1号(通巻57号) p.6


05434
いくたびか 草の穂絮の よぎる空 季ぞ移ろふ 人なきあとに
イクタビカ クサノホワタノ ヨギルソラ トキゾウツロフ ヒトナキアトニ

『形成』(形成発行所 1958.1) 第6巻1号(通巻57号) p.6