さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

風の曼陀羅

 
麦畑          昨日まで        最短距離を       春紫苑         
思はざる        行く雲は        紺いろの        われの目も       
ひしひしと       手袋を         さまざまの       松葉杖は        
ペチュニアの      茹でし菜の       絹針を         口少し         
軍手せる        色褪せて        温水器の        喉元まで        
 
 
 

04424
麦畑 わづかに熟れて この町に 雲水などは 見かけずなりぬ
ムギバタケ ワヅカニウレテ コノマチニ ウンスイナドハ ミカケズナリヌ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.112
【初出】 『歌壇』 1987.9 いつか失ふ (1)


04425
昨日まで トラックの来て ゐしあたり 松の花粉に 染まる水あり
キノウマデ トラックノキテ ヰシアタリ マツノカフンニ ソマルミズアリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.112
【初出】 『歌壇』 1987.9 いつか失ふ (2)


04426
最短距離を 知りゐるごとく 音もなく 渡りゆきたり 小さき蛇は
サイタンキョリヲ シリヰルゴトク オトモナク ワタリユキタリ チイサキヘビハ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.113
【初出】 『歌壇』 1987.9 いつか失ふ (3)


04427
春紫苑 隙なく咲きて 底無しの 沼といへども 陽に凪ぎわたる
ハルシオン スキナクサキテ ソコナシノ ヌマトイヘドモ ヒニナギワタル

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.113
【初出】 『歌壇』 1987.9 いつか失ふ (4)


04428
思はざる 視覚に入りて 弓なりに 胴を伸ばして ゐる猫を見つ
オモハザル シカクニイリテ ユミナリニ ドウヲノバシテ ヰルネコヲミツ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.113
【初出】 『歌壇』 1987.9 いつか失ふ (5)


04429
行く雲は 捲き毛のやうに ほぐれつつ 一触即発の ときも過ぎたり
ユククモハ マキゲノヤウニ ホグレツツ イッショクソクハツノ トキモスギタリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.114
【初出】 『歌壇』 1987.9 いつか失ふ (6)


04430
紺いろの 皮膜となれる 夜の空に 飛び火のごとし 白の水木は
コンイロノ ヒマクトナレル ヨノソラニ トビヒノゴトシ シロノミズキハ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.114
【初出】 『歌壇』 1987.9 いつか失ふ (7)


04431
われの目も けものの如く 光らむか まともに自転車の ライトを浴びて
ワレノメモ ケモノノゴトク ヒカラムカ マトモニジテンシャノ ラントヲアビテ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.114
【初出】 『歌壇』 1987.9 いつか失ふ (8)


04432
ひしひしと 人の増えくる 夢なりき 石筍などの 立つさまに似て
ヒシヒシト ヒトノフエクル ユメナリキ セキジュンナドノ タツサマニニテ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.115
【初出】 『歌壇』 1987.9 いつか失ふ (9)


04433
手袋を 濡らして寒く 従きゆきし 雪の一夜の ありし忘れず
テブクロヲ ヌラシテサムク ツキユキシ ユキノヒトヨノ アリシワスレズ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.115
【初出】 『歌壇』 1987.9 いつか失ふ (10)


04434
さまざまの 物を載せ来し てのひらに カリフォルニアの さくらんぼ置く
サマザマノ モノヲノセコシ テノヒラニ カリフォルニアノ サクランボオク

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.115
【初出】 『歌壇』 1987.9 いつか失ふ (11)


04435
松葉杖は 投げ出されゐて 病み長き 人の乱れを 見し思ひせり
マツバヅエハ ナゲダサレヰテ ヤミナガキ ヒトノミダレヲ ミシオモヒセリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.116
【初出】 『歌壇』 1987.9 いつか失ふ (12)


04436
ペチュニアの 目を射る赤き 見て過ぎて 思へることの ふと遠ざかる
ペチュニアノ メヲイルアカキ ミテスギテ オモヘルコトノ フトトオザカル

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.116
【初出】 『歌壇』 1987.9 いつか失ふ (13)


04437
茹でし菜の 根元そろへて 泳がする 鉢の真水の 冷たさも良き
ユデシナノ ネモトソロヘテ オヨガスル ハチノマミズノ ツメタサモヨシ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.116
【初出】 『歌壇』 1987.9 いつか失ふ (14)


04438
絹針を はこびて裾を 絎けてゆく たのしみなども いつか失ふ
キヌバリヲ ハコビテスソヲ クケテユク タノシミナドモ イツカウシナフ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.117
【初出】 『歌壇』 1987.9 いつか失ふ (15)


04439
口少し あけて振り向く 顔一つ 絵巻のなかに ありてあざむく
クチスコシ アケテフリムク カオヒトツ エマキノナカニ アリテアザムク

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.117
【初出】 『歌壇』 1987.9 いつか失ふ (16)


04440
軍手せる 大き手うごき 白炭は 骨の音して かき寄せられぬ
グンテセル オオキテウゴキ シロズミハ ホネノオトシテ カキヨセラレヌ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.117
【初出】 『歌壇』 1987.9 いつか失ふ (17)


04441
色褪せて たるみゐにしが 直立し 青葱はみな 花を揚げたり
イロアセテ タルミヰニシガ チョクリツシ アオネギハミナ ハナヲアゲタリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.118
【初出】 『歌壇』 1987.9 いつか失ふ (18)


04442
温水器の 音と気づけど なほしばし 地底の音の ごとく続けり
オンスイキノ オトトキヅケド ナホシバシ チテイノオトノ ゴトクツヅケリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.118
【初出】 『歌壇』 1987.9 いつか失ふ (19)


04443
喉元まで 水を満たして 芍薬を 活けて重たき 壺となりたり
ノドモトマデ ミズヲミタシテ シャクヤクヲ イケテオモタキ ツボトナリタリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.118
【初出】 『歌壇』 1987.9 いつか失ふ (20)