さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

風の曼陀羅

 
三叉路を        壁面に         何者の         大正の         
合はせたる       七階の         癒えしとふ       思はざる        
咲きほほけし      渇水に         一輛のみの       アレルゲンと      
庭園の         白骨と         河はらの        マンションの      
紫の          手花火に        ノースリーブの     思はざる        
目を覚ます       断水を         かたまりて       もろびとに       
待ち針を        
 
 
 

04310
三叉路を 折り返しくる バスが見ゆ 遠く辛夷の 咲くを見をれば
サンサロヲ オリカエシクル バスガミユ トオクコブシノ サクヲミヲレバ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.67
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (1)


04311
壁面に 水をあびせて 洗ひをり ルミノール反応 などは出でずや
ヘキメンニ ミズヲアビセテ アラヒヲリ ルミノールハンノウ ナドハイデズヤ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.67
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (2)


04312
何者の 去りし歩幅か 枯れ草に 大き礎石の 十ばかり浮く
ナニモノノ サリシホハバカ カレクサニ オオキソセキノ トヲバカリウク

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.68
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (3)


04313
大正の 生き残りとて てのひらに こぼしつつ食む 雛のあられを
タイショウノ イキノコリトテ テノヒラニ コボシツツハム ヒナノアラレヲ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.68
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (4)


04314
合はせたる グラスの音の かそかにて この世を去らむ 順など知れず
アハセタル グラスノオトノ カソカニテ コノヨヲサラム ジュンナドシレズ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.68
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (5)


04315
七階の 窓よりゆくり なく見たる 町の釣堀は 瓢のかたち
シチカイノ マドヨリユクリ ナクミタル マチノツリボリハ ヒサゴノカタチ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.69
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (6)


04316
癒えしとふ あかしもなくて 今日来れば 道は一気に 葉桜となる
イエシトフ アカシモナクテ キョウクレバ ミチハイッキニ ハザクラトナル

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.69
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (7)


04317
思はざる 会話聞こえて 二人とも ガダルカナルの 生き残りとぞ
オモハザル カイワキコエテ フタリトモ ガダルカナルノ イキノコリトゾ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.69
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (8)


04318
咲きほほけし たんぽぽの土手 人の名を かぶせて残る 橋も古りゐつ
サキホホケシ タンポポノドテ ヒトノナヲ カブセテノコル ハシモフリヰツ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.70
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (9)


04319
渇水に あらはとなれる ダムの底 この世のものとも あらず渇けり
カッスイニ アラハトナレル ダムノソコ コノヨノモノトモ アラズカワケリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.70
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (10)


04320
一輛のみの 電車が行けり 朝市は 枡もて測り 青梅を売る
イチリョウノミノ デンシャガユケリ アサイチハ マスモテハカリ アオウメヲウル

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.70
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (11)


04321
アレルゲンと 今は知りたる 鶏卵の 積まれゐてわれを 誘くことあり
アレルゲント イマハシリタル ケイランノ ツマレヰテワレヲ オビクコトアリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.71
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (12)


04322
庭園の 木の名草の名 一つづつ 読み来て棉の 花咲くに会ふ
テイエンノ キノナクサノナ ヒトツヅツ ヨミキテワタノ ハナサクニアフ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.71
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (13)


04323
白骨と なりても遂げむ ことありや 水に押されて 水動きをり
シラホネト ナリテモトゲム コトアリヤ ミズニオサレテ ミズウゴキヲリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.71
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (14)


04324
河はらの 水もたそがれ そめたれば をはりに犬の ための石積む
カワハラノ ミズモタソガレ ソメタレバ ヲハリニイヌノ タメノイシツム

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.72
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (15)


04325
マンションの はざまの狭き くらがりに 夕べを遊ぶ 子らの声する
マンションノ ハザマノセマキ クラガリニ ユウベヲアソブ コラノコエスル

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.72
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (16)


04326
紫の キャベツほどにも 太らせし 思ひなれども うすづきそめぬ
ムラサキノ キャベツホドニモ フトラセシ オモヒナレドモ ウスヅキソメヌ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.72
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (17)


04327
手花火に 大き頭部の 影立つは 須臾にして元の ブロックの谷
テハナビニ オオキトウブノ カゲタツハ シュユニシテモトノ ブロックノタニ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.73
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (18)


04328
ノースリーブの 肩やや寒し 呪の塩の 積まれてひそと 戸口ありたり
ノースリーブノ カタヤヤサムシ ジユノシオノ ツマレテヒソト トグチアリタリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.73
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (19)


04329
思はざる 柾目の木の香 匂ひたり 赤鉛筆を 削りてをれば
オモハザル マサメノキノカ ニオヒタリ アカエンピツヲ ケズリテヲレバ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.73
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (20)


04330
目を覚ます みどり児がゐるに あらねども 音をしのびて 湯を浴みてをり
メヲサマス ミドリコガヰルニ アラネドモ オトヲシノビテ ユヲアミテヲリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.74
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (21)


04331
断水を 告げゆく広報 車の過ぎて 町のいづこか ざわめきはじむ
ダンスイヲ ツゲユクコウホウ シャノスギテ マチノイヅコカ ザワメキハジム

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.74
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (22)


04332
かたまりて 沼のくらがりに 眠るらむ 眠れぬ鴨は どうするならむ
カタマリテ ヌマノクラガリニ ネムルラム ネムレヌカモハ ドウスルナラム

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.74
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (23)


04333
もろびとに 祈りはありて 雨のなか 茅の輪くぐりの 賑はへりとぞ
モロビトニ イノリハアリテ アメノナカ チノワクグリノ ニギハヘリトゾ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.75
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (24)


04334
待ち針を さし替へをれば 人の世の おほよそはすでに 身を過ぎてをり
マチバリヲ サシカヘヲレバ ヒトノヨノ オホヨソハスデニ ミヲスギテヲリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.75
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (25)