さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

印度の果実

 
測量の         紫陽花の        帰化したる       仏像の         
いつの日の       雨の日の        池水の         石碑の         
はみ出でし       つつがなき       終点まで        西日本を        
冷蔵庫の        父母の名も       亡き父の        ときのまに       
職ひきて        しばらくを       北国の         安物の         
錆びいろの       死のあとに       とりたてて       カレンダーに      
さすらひの       雨季のくる       食事のあと       夜の部屋の       
教へ子と        賑やかに        滑り台         語るべき        
 
 
 

03993
測量の 人らの去りし 野の上は 泡立草も 未だ芽吹かず
ソクリョウノ ヒトラノサリシ ノノウエハ アワダチソウモ イマダメブカズ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.55
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (1)


03994
紫陽花の しげみのかなた 賑はひて プロゴルファーの 今日は来てゐる
アジサイノ シゲミノカナタ ニギハヒテ プロゴルファーノ キョウハキテヰル

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.56
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (2)


03995
帰化したる 人らの彫りし み仏と 伝へて仰ぐ おとがひ豊か
キカシタル ヒトラノホリシ ミホトケト ツタヘテアオグ オトガヒユタカ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.56
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (3)


03996
仏像の 耳は重しと 仰ぎゐて 次第にわれの 耳の垂りくる
ブツゾウノ ミミハオモシト アオギヰテ シダイニワレノ ミミノタリクル

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.57
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (4)


03997
いつの日の 母の言葉か み仏は 扁平足を 持ちいますとふ
イツノヒノ ハハノコトバカ ミホトケハ ヘンペイソクヲ モチイマストフ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.57
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (5)


03998
雨の日の 卯の花を見て 通りしが 今日は茶室に 人のけはひす
アメノヒノ ウノハナヲミテ トオリシガ キョウハチャシツニ ヒトノケハヒス

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.58
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (6)


03999
池水の 底の闇より のぼりくる 幽鬼のごとし 真鯉の顔は
イケミズノ ソコノヤミヨリ ノボリクル ユウキノゴトシ マゴイノカオハ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.58
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (7)


04000
石碑の 根元の草に あまたゐて 何の蝶とも 知れずたゆたふ
イシブミノ ネモトノクサニ アマタヰテ ナンノチョウトモ シレズタユタフ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.59
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (8)


04001
はみ出でし 枝の先なる 蔓薔薇の ひときは赤し 日に照らされて
ハミイデシ エダノサキナル ツルバラノ ヒトキハアカシ ヒニテラサレテ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.59
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (9)


04002
つつがなき 明日ある如し ほどけゆく 航跡雲も かすか茜す
ツツガナキ アスアルゴトシ ホドケユク コウセキウンモ カスカアカネス

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.60
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (10)


04003
終点まで 行きてみむ日も なくて乗る バスと思へり 降りし夜道に
シュウテンマデ ユキテミムヒモ ナクテノル バストオモヘリ オリシヨミチニ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.60
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (11)


04004
西日本を 黄砂はひろく 覆ふとぞ こもりゐて空を 見ざる一日に
ニシニホンヲ コウサハヒロク オオフトゾ コモリヰテソラヲ ミザルヒトヒニ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.61
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (12)


04005
冷蔵庫の なか明るくて 生みたてを 賜びし真白の 鶏卵並ぶ
レイゾウコノ ナカアカルクテ ウミタテヲ タビシマシロノ ケイランナラブ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.61
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (13)


04006
父母の名も 妹の名も 消されたる 戸籍謄本 見つつすべなし
フボノナモ イモウトノナモ ケサレタル コセキトウホン ミツツスベナシ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.62
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (14)


04007
亡き父の 姓をそのまま 姓として 書類に古りし 印鑑を押す
ナキチチノ セイヲソノママ セイトシテ ショルイニフリシ インカンヲオス

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.62
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (15)


04008
ときのまに 日ざし洩れ来て 喪の花の 銀はまぶしく 光を返す
トキノマニ ヒザシモレキテ モノハナノ ギンハマブシク ヒカリヲカエス

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.63
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (16)


04009
職ひきて 久しきものを 取引先の 電話など今に 記憶すと言ふ
ショクヒキテ ヒサシキモノヲ トリヒキサキノ デンワナドイマニ キオクストイフ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.63
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (17)


04010
しばらくを かけなづむ鍵の 音のして 隣の家の たれか出でゆく
シバラクヲ カケナヅムカギノ オトノシテ トナリノイエノ タレカイデユク

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.64
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (18)


04011
北国の 桜の花も 終るとふ 紫陽花に降る 雨やはらかし
キタグニノ サクラノハナモ オワルトフ アジサイニフル アメヤハラカシ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.64
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (19)


04012
安物の 宝石あまた 持ち古りぬ こころすさめる 日々に求めき
ヤスモノノ ホウセキアマタ モチフリヌ ココロスサメル ヒビニモトメキ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.65
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (20)


04013
錆びいろの 葉を持つアート フラワーの 枯るることなき 平安も良し
サビイロノ ハヲモツアート フラワーノ カルルコトナキ ヘイアンモヨシ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.65
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (21)


04014
死のあとに 残されむもの 度の違ふ 眼鏡の幾つ 思ふことあり
シノアトニ ノコサレムモノ ドノチガフ メガネノイクツ オモフコトアリ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.66
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (22)


04015
とりたてて 思ふならねど 静かにて かなしきときに 歌の生まるる
トリタテテ オモフナラネド シズカニテ カナシキトキニ ウタノウマルル

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.66
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (23)


04016
カレンダーに しるし置きしが 今朝見れば 唐招提寺の 祭りもすぎぬ
カレンダーニ シルシオキシガ ケサミレバ トウショウダイジノ マツリモスギヌ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.67
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (24)


04017
さすらひの 子猫を飼ふと 決めしより すなほになれる 少女と伝ふ
サスラヒノ コネコヲカフト キメシヨリ スナホニナレル ショウジョトツタフ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.67
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (25)


04018
雨季のくる 前には再び 痛まむと わが持つ傷を 人の気づかふ
ウキノクル マエニハフタタビ イタマムト ワガモツキズヲ ヒトノキヅカフ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.68
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (26)


04019
食事のあと ゆるぶ体の うとましく ながく坐れり 何なすとなく
ショクジノアト ユルブカラダノ ウトマシク ナガクスワレリ ナニナストナク

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.68
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (27)


04020
夜の部屋の 四隅寒しと 見回して たちまち雨の 音にかこまる
ヨノヘヤノ ヨスミサムシト ミマワシテ タチマチアメノ オトニカコマル

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.69
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (28)


04021
教へ子と いへども不惑を とうに過ぎ 一人は韓人の 妻となりゐし
オシヘゴト イヘドモフワクヲ トウニスギ ヒトリハカラビトノ ツマトナリヰシ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.69
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (29)


04022
賑やかに ゐたりし子らも 帰りゆき かすかに濁る 絨緞のいろ
ニギヤカニ ヰタリシコラモ カエリユキ カスカニニゴル ジュウタンノイロ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.70
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (30)


04023
滑り台 斜めにかかり ゐたるのみ 小公園に 降る雨あはし
スベリダイ ナナメニカカリ ヰタルノミ ショウコウエンニ フルアメアハシ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.70
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (31)


04024
語るべき 人もあらねば セーターを 重ねて梅雨の 夜を起きゐる
カタルベキ ヒトモアラネバ セーターヲ カサネテツユノ ヨルヲオキヰル

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.71
【初出】 『短歌』 1982.8 雨域 (32)