さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

風水

 
たどきなく       噴水を         位置を替へ       どのやうな       
さまざまの       覆ひがたき       憎むべき        芝生より        
ドラマとて       突き落とす       箱船に         幾たびも        
鍵を見に        なまじろき       帰り来て        妹の          
迎へ火の        不用意に        待ち針を        女名の         
一つづつ        噴水の         玉すだれ        帰り来む        
あけぐれに       
 
 
 

03655
たどきなく 雨の晴れまを 出でて来て 雌雄あるとふ 銀杏を仰ぐ
タドキナク アメノハレマヲ イデテキテ シユウアルトフ イチョウヲアオグ

『風水』(沖積舎 1986) p.149
【初出】 『短歌現代』 1980.9 かなかなは今 (1)


03656
噴水を 身すがら浴びて 立つ裸婦の 像見てあれば まだらに乾く
フンスイヲ ミスガラアビテ タツラフノ ゾウミテアレバ マダラニカワク

『風水』(沖積舎 1986) p.149
【初出】 『短歌現代』 1980.9 かなかなは今 (2)


03657
位置を替へ 鳴きなほしつつ 滅びゆく かなかなは今 欅の梢
イチヲカヘ ナキナホシツツ ホロビユク カナカナハイマ ケヤキノコズエ

『風水』(沖積舎 1986) p.150
【初出】 『短歌現代』 1980.9 かなかなは今 (3)


03658
どのやうな われと思ひて 幼な子は 小鳥の墓の 前へいざなふ
ドノヤウナ ワレトオモヒテ オサナゴハ コトリノハカノ マエヘイザナフ

『風水』(沖積舎 1986) p.150
【初出】 『短歌現代』 1980.9 かなかなは今 (4)


03659
さまざまの 表皮撫で来て いつとなく 摩滅はげしき てのひらならむ
サマザマノ ヒョウヒナデキテ イツトナク マメツハゲシキ テノヒラナラム

『風水』(沖積舎 1986) p.150
【初出】 『短歌現代』 1980.9 かなかなは今 (5)


03660
覆ひがたき 夏の荒びと 思ふまで 花々はみな 葉を垂れて立つ
オオヒガタキ ナツノスサビト オモフマデ ハナバナハミナ ハヲタレテタツ

『風水』(沖積舎 1986) p.151
【初出】 『短歌現代』 1980.9 かなかなは今 (6)


03661
憎むべき ものあるごとし 梔子の 若葉むしばむ 青虫よりも
ニクムベキ モノアルゴトシ クチナシノ ワカバムシバム アオムシヨリモ

『風水』(沖積舎 1986) p.151
【初出】 『短歌現代』 1980.9 かなかなは今 (7)


03662
芝生より 舞ひ出でし蛾は ひらひらの 落ち葉となりて 吹かれてゆけり
シバフヨリ マヒイデシガハ ヒラヒラノ オチバトナリテ フカレテユケリ

『風水』(沖積舎 1986) p.151
【初出】 『短歌現代』 1980.9 かなかなは今 (8)


03663
ドラマとて 模倣世界に すぎざらむ 男の抱ける みどり児が泣く
ドラマトテ モホウセカイニ スギザラム オトコノダケル ミドリコガナク

『風水』(沖積舎 1986) p.152
【初出】 『短歌現代』 1980.9 かなかなは今 (9)


03664
突き落とす 衝動に人も 堪へゐしか 怒濤見下ろし ゐしかのときに
ツキオトス ショウドウニヒトモ タヘヰシカ ドトウミオロシ ヰシカノトキニ

『風水』(沖積舎 1986) p.152
【初出】 『短歌現代』 1980.9 かなかなは今 (10)


03665
箱船に 乗り得ざりしは かく集ひ さしさはりなき ことを言ひあふ
ハコブネニ ノリエザリシハ カクツドヒ サシサハリナキ コトヲイヒアフ

『風水』(沖積舎 1986) p.152
【初出】 『短歌現代』 1980.9 かなかなは今 (11)


03666
幾たびも 電話に呼ばれ つゆの世の われと忘れて はなやぐ日あり
イクタビモ デンワニヨバレ ツユノヨノ ワレトワスレテ ハナヤグヒアリ

『風水』(沖積舎 1986) p.153
【初出】 『短歌現代』 1980.9 かなかなは今 (12)


03667
鍵を見に 戻らむとする うす暗がり 橋掛来る 鬼に会はずや
カギヲミニ モドラムトスル ウスクラガリ ハシガカリクル オニニアハズヤ

『風水』(沖積舎 1986) p.153
【初出】 『短歌現代』 1980.9 かなかなは今 (13)


03668
なまじろき 鱗をかさね ゐたるのみ 闇のなかなる あぢさゐの花
ナマジロキ ウロコヲカサネ ヰタルノミ ヤミノナカナル アヂサヰノハナ

『風水』(沖積舎 1986) p.153
【初出】 『短歌現代』 1980.9 かなかなは今 (14)


03669
帰り来て 外す指輪の ころがれば ころがる向きを 占はむとす
カエリキテ ハズスユビワノ コロガレバ コロガルムキヲ ウラナハムトス

『風水』(沖積舎 1986) p.154
【初出】 『短歌現代』 1980.9 かなかなは今 (15)


03670
妹の 逝きて八年 坐らなく なりたる雛は 立てかけて置く
イモウトノ ユキテハチネン スワラナク ナリタルヒナハ タテカケテオク

『風水』(沖積舎 1986) p.154
【初出】 『短歌現代』 1980.9 かなかなは今 (16)


03671
迎へ火の 炎のほかは 見えずなり くぐまりゐたり 夜の道の上
ムカヘビノ ホノオノホカハ ミエズナリ クグマリヰタリ ヨノミチノウエ

『風水』(沖積舎 1986) p.154
【初出】 『短歌現代』 1980.9 かなかなは今 (17)


03672
不用意に 言ひたるならむ 本音ならむ のがれ得ぬまま 一日をゐしか
フヨウイニ イヒタルナラム ホンネナラム ノガレエヌママ ヒトヒヲヰシカ

『風水』(沖積舎 1986) p.155
【初出】 『短歌現代』 1980.9 かなかなは今 (18)


03673
待ち針を 刺し替へをれば 指先に かすかに影の ゆき戻りする
マチバリヲ サシカヘヲレバ ユビサキニ カスカニカゲノ ユキモドリスル

『風水』(沖積舎 1986) p.155
【初出】 『短歌現代』 1980.9 かなかなは今 (19)


03674
女名の 表札を掲げ おくことの ふとなまなまし 二十年経て
オンナナノ ヒョウサツヲカカゲ オクコトノ フトナマナマシ ニジュウネンヘテ

『風水』(沖積舎 1986) p.155
【初出】 『短歌現代』 1980.9 かなかなは今 (20)


03675
一つづつ 小石を置きて 置きながら 離りゆきたる 人かと思ふ
ヒトツヅツ コイシヲオキテ オキナガラ サカリユキタル ヒトカトオモフ

『風水』(沖積舎 1986) p.156
【初出】 『短歌現代』 1980.9 かなかなは今 (21)


03676
噴水の ほとりは人の 影あらず 土にかすかに カルキの匂ふ
フンスイノ ホトリハヒトノ カゲアラズ ツチニカスカニ カルキノニオフ

『風水』(沖積舎 1986) p.156
【初出】 『短歌現代』 1980.9 かなかなは今 (22)


03677
玉すだれ 咲くを言ひつつ 見送りし うしろ姿の 老いていませり
タマスダレ サクヲイヒツツ ミオクリシ ウシロスガタノ オイテイマセリ

『風水』(沖積舎 1986) p.156
【初出】 『短歌現代』 1980.9 かなかなは今 (23)


03678
帰り来む たれかゐさうな この夕べ われにひとすぢ 修羅走りたり
カエリキム タレカヰサウナ コノユウベ ワレニヒトスヂ シュラハシリタリ

『風水』(沖積舎 1986) p.157
【初出】 『短歌現代』 1980.9 かなかなは今 (24)


03679
あけぐれに 醒めゐて思ふ 水源は 人の住まはぬ さびしきところ
アケグレニ サメヰテオモフ スイゲンハ ヒトノスマハヌ サビシキトコロ

『風水』(沖積舎 1986) p.157
【初出】 『短歌現代』 1980.9 かなかなは今 (25)