さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

風水

 
光りつつ        両手もて        一枚の         雨の日の        
選びがたき       言葉を持つ       急行の         掃きよせて       
何により        あくる日の       眠る前の        次々に         
メラミン樹脂      ルワンダの       ゆく末に        しめ縄の        
山の端に        おもむろに       骨格の         抜けおちて       
あきらめて       この秋の        葉がくれに       年を経て        
鹿の角の        感情の         きれぎれに       堕ちてゆく       
てのひらに       外套に         夕刊を         
 
 
 

03614
光りつつ へだてあひつつ 花びらは 雲の鱗の やうに降りくる
ヒカリツツ ヘダテアヒツツ ハナビラハ クモノウロコノ ヤウニフリクル

『風水』(沖積舎 1986) p.133
【初出】 『短歌』 1980.1 森の匂ひ (1)


03615
両手もて ふさぎし耳に ひとしきり 遠き故郷の 吹雪の声す
リョウテモテ フサギシミミニ ヒトシキリ トオキコキヨウノ フブキノコエス

『風水』(沖積舎 1986) p.134
【初出】 『短歌』 1980.1 森の匂ひ (2)


03616
一枚の 皮膚と思ふに 目の前を 黄の色に染めて 風の吹く日よ
イチマイノ ヒフトオモフニ メノマエヲ キノイロニソメテ カゼノフクヒヨ

『風水』(沖積舎 1986) p.134
【初出】 『短歌』 1980.1 森の匂ひ (3)


03617
雨の日の 津和野はわれの 思ふのみ 滴を切りて 傘の始末す
アメノヒノ ツワノハワレノ オモフノミ シズクヲキリテ カサノシマツス

『風水』(沖積舎 1986) p.134
【初出】 『短歌』 1980.1 森の匂ひ (4)


03618
選びがたき 思ひにをれば かかはりも あらぬ埴輪の 筒などが見ゆ
エラビガタキ オモヒニヲレバ カカハリモ アラヌハニワノ ツツナドガミユ

『風水』(沖積舎 1986) p.135
【初出】 『短歌』 1980.1 森の匂ひ (5)


03619
言葉を持つ 不幸に思ひ 至る日を はればれと舞ふ 銀杏の落ち葉
コトバヲモツ フコウニオモヒ イタルヒヲ ハレバレトマフ イチョウノオチバ

『風水』(沖積舎 1986) p.135
【初出】 『短歌』 1980.1 森の匂ひ (6)


03620
急行の とまらぬ駅と 寂しみて 待つ間に逢ふ魔が 時も過ぎなむ
キュウコウノ トマラヌエキト サビシミテ マツマニアフマガ トキモスギナム

『風水』(沖積舎 1986) p.135
【初出】 『短歌』 1980.1 森の匂ひ (7)


03621
掃きよせて 砂のまじれる 葉を燃せば 森の匂ひを たててくすぶる
ハキヨセテ スナノマジレル ハヲモセバ モリノニオヒヲ タテテクスブル

『風水』(沖積舎 1986) p.136
【初出】 『短歌』 1980.1 森の匂ひ (8)


03622
何により 山鳩などに 生まれしや 問ひやまず啼く 一羽木にゐる
ナニニヨリ ヤマバトナドニ ウマレシヤ トヒヤマズナク イチワキニヰル

『風水』(沖積舎 1986) p.136
【初出】 『短歌』 1980.1 森の匂ひ (9)


03623
あくる日の 仕事のことを われの言ひ こころさもしく なりて別れき
アクルヒノ シゴトノコトヲ ワレノイヒ ココロサモシク ナリテワカレキ

『風水』(沖積舎 1986) p.136
【初出】 『短歌』 1980.1 森の匂ひ (10)


03624
眠る前の やさしさのなか 青蚊帳の 麻の匂ひを 久しく嗅がず
ネムルマエノ ヤサシサノナカ アオガヤノ アサノニオヒヲ ヒサシクカガズ

『風水』(沖積舎 1986) p.137
【初出】 『短歌』 1980.1 森の匂ひ (11)


03625
次々に 疑ひばかり 湧く日にて 人の掛けおく コートが赤し
ツギツギニ ウタガヒバカリ ワクヒニテ ヒトノカケオク コートガアカシ

『風水』(沖積舎 1986) p.137
【初出】 『短歌』 1980.1 森の匂ひ (12)


03626
メラミン樹脂 塗られて固き 机とぞ 手を置けば手の かたちに曇る
メラミンジュシ ヌラレテカタキ ツクエトゾ テヲオケバテノ カタチニクモル

『風水』(沖積舎 1986) p.137
【初出】 『短歌』 1980.1 森の匂ひ (13)


03627
ルワンダの コーヒー匂ふ ゐながらに たのしむことの 限界として
ルワンダノ コーヒーニオフ ヰナガラニ タノシムコトノ ゲンカイトシテ

『風水』(沖積舎 1986) p.138
【初出】 『短歌』 1980.1 森の匂ひ (14)


03628
ゆく末に 賑はひあれよ 群書類従 二十四巻 今日は届きぬ
ユクスエニ ニギハヒアレヨ グンショルイジュウ ニジュウヨンカン キョウハトドキヌ

『風水』(沖積舎 1986) p.138
【初出】 『短歌』 1980.1 森の匂ひ (15)


03629
しめ縄の 張られてゐたる 片隅の 遠き記憶の なかのくらがり
シメナワノ ハラレテヰタル カタスミノ トオキキオクノ ナカノクラガリ

『風水』(沖積舎 1986) p.138
【初出】 『短歌』 1980.1 森の匂ひ (16)


03630
山の端に 今し浮く雲 平面に 叩きつけられし 如きかたちす
ヤマノハニ イマシウククモ ヘイメンニ タタキツケラレシ ゴトキカタチス

『風水』(沖積舎 1986) p.139
【初出】 『短歌』 1980.1 森の匂ひ (17)


03631
おもむろに 芯に近づく けはひにも 身動きならぬ 果実かわれは
オモムロニ シンニチカヅク ケハヒニモ ミウゴキナラヌ カジツカワレハ

『風水』(沖積舎 1986) p.139
【初出】 『短歌』 1980.1 森の匂ひ (18)


03632
骨格の 模型垂りゐし 標本室 夢に見て今も 入りてゆけず
コッカクノ モケイタリヰシ ヒョウホンシツ ユメニミテイマモ ハイリテユケズ

『風水』(沖積舎 1986) p.139
【初出】 『短歌』 1980.1 森の匂ひ (19)


03633
抜けおちて 隙間だらけの 羽根を持ち 谷の一つも 越え得るらむか
ヌケオチテ スキマダラケノ ハネヲモチ タニノヒトツモ コエウルラムカ

『風水』(沖積舎 1986) p.140
【初出】 『短歌』 1980.1 森の匂ひ (20)


03634
あきらめて 忘れて今は 眠らむに 重たき腕を 両脇に置く
アキラメテ ワスレテイマハ ネムラムニ オモタキウデヲ リョウワキニオク

『風水』(沖積舎 1986) p.140
【初出】 『短歌』 1980.1 森の匂ひ (21)


03635
この秋の 終りの蜆 蝶ならむ 草のもみぢに まぎれつつ飛ぶ
コノアキノ オワリノシジミ チョウナラム クサノモミヂニ マギレツツトブ

『風水』(沖積舎 1986) p.140
【初出】 『短歌』 1980.1 森の匂ひ (22)


03636
葉がくれに くぐもり咲ける 枇杷の花 思ひ自虐に 似つつ仰ぎぬ
ハガクレニ クグモリサケル ビワノハナ オモヒジギャクニ ニツツアオギヌ

『風水』(沖積舎 1986) p.141
【初出】 『短歌』 1980.1 森の匂ひ (23)


03637
年を経て 狭められたる 庭園に しろじろと立つ 噴水の穂は
トシヲヘテ セバメラレタル テイエンニ シロジロトタツ フンスイノホハ

『風水』(沖積舎 1986) p.141
【初出】 『短歌』 1980.1 森の匂ひ (24)


03638
鹿の角の やうに開きし 枯れ枝に 間違ひならむ 黄の花の咲く
シカノツノノ ヤウニヒラキシ カレエダニ マチガヒナラム キノハナノサク

『風水』(沖積舎 1986) p.141
【初出】 『短歌』 1980.1 森の匂ひ (25)


03639
感情の ひろがる幅の 見えやまず 船が分けゆく 水脈を見をれば
カンジョウノ ヒロガルハバノ ミエヤマズ フネガワケユク ミヲヲミヲレバ

『風水』(沖積舎 1986) p.142
【初出】 『短歌』 1980.1 森の匂ひ (26)


03640
きれぎれに なりても生きむ など思ひ 眠りしのちは ゆくへ知られず
キレギレニ ナリテモイキム ナドオモヒ ネムリシノチハ ユクヘシラレズ

『風水』(沖積舎 1986) p.142
【初出】 『短歌』 1980.1 森の匂ひ (27)


03641
堕ちてゆく こころまざまざ 見し夢に 憎みゐたりき 人の背中を
オチテユク ココロマザマザ ミシユメニ ニクミヰタリキ ヒトノセナカヲ

『風水』(沖積舎 1986) p.142
【初出】 『短歌』 1980.1 森の匂ひ (28)


03642
てのひらに 残る記憶よ 霧の夜の 石のてすりの つめたかりけり
テノヒラニ ノコルキオクヨ キリノヨノ イシノテスリノ ツメタカリケリ

『風水』(沖積舎 1986) p.143
【初出】 『短歌』 1980.1 森の匂ひ (29)


03643
外套に 頸をうづめて 人波に まぎれゆきたる 咎びともゐむ
ガイトウニ クビヲウヅメテ ヒトナミニ マギレユキタル トガビトモヰム

『風水』(沖積舎 1986) p.143
【初出】 『短歌』 1980.1 森の匂ひ (30)


03644
夕刊を 取りこみドアの 鍵一つ かけてしまへば 夜の檻のなか
ユウカンヲ トリコミドアノ カギヒトツ カケテシマヘバ ヨノオリノナカ

『風水』(沖積舎 1986) p.143
【初出】 『短歌』 1980.1 森の匂ひ (31)