さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

野分の章

 
銀いろの        黄の花の        若き日の        五年目の        
折りても折りても    ひとすぢの       つくづくと       アイロンは       
久しく弾かぬ      書類届けに       確めて         裏側を         
半製品の        岩塩の         見極めたき       分量を         
急速に         二車線に        デッキより       かすかなる       
海からの        忘れゐる        牝牛の顔の       傾きて         
捨てて来し       自動車の        一枚を         いつのまに       
中心を         ふりこぼし       
 
 
 

03112
銀いろの マスコットキイ 出でて来て 陰画のごとしも 過ぎにし日々は
ギンイロノ マスコットキイ イデテキテ ネガノゴトシモ スギニシヒビハ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.131
【初出】 『短歌研究』 1977.7 をんなの手 (1)


03113
黄の花の 多き季節よ 北国は たんぽぽも茎 高く咲きにし
キノハナノ オオキキセツヨ キタグニハ タンポポモクキ タカクサキニシ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.131
【初出】 『短歌研究』 1977.7 をんなの手 (2)


03114
若き日の わが母を知る たれも亡し 琴の爪のみ 古りて残れる
ワカキヒノ ワガハハヲシル タレモナシ コトノツメノミ フリテノコレル

『野分の章』(牧羊社 1978) p.132
【初出】 『短歌研究』 1977.7 をんなの手 (3)


03115
五年目の 春と思へど 梨の木に くれなゐの花の 咲くにもあらず
ゴネンメノ ハルトオモヘド ナシノキニ クレナヰノハナノ サクニモアラズ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.132
【初出】 『短歌研究』 1977.7 をんなの手 (4)


03116
折りても折りても 角を持つ一枚の 領収書 小さくたたみて バッグに収む
オリテモオリテモ カドヲモツイチマイノ リョウシュウショ チサクタタミテ バッグニオサム

『野分の章』(牧羊社 1978) p.132
【初出】 『短歌研究』 1977.7 をんなの手 (5)


03117
ひとすぢの 雲さへあらね 風のあと 見えぬ乱れの 宙に残れる
ヒトスヂノ クモサヘアラネ カゼノアト ミエヌミダレノ チュウニノコレル

『野分の章』(牧羊社 1978) p.133
【初出】 『短歌研究』 1977.7 をんなの手 (6)


03118
つくづくと 働きて来し 女の手 翡翠の珠も 似合はずなりぬ
ツクヅクト ハタラキテコシ オンナノテ ヒスイノタマモ ニアハズナリヌ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.133
【初出】 『短歌研究』 1977.7 をんなの手 (7)


03119
アイロンは 忽ち灼けて 捌けむと したる思ひの またとどこほる
アイロンハ タチマチヤケテ サバケムト シタルオモヒノ マタトドコホル

『野分の章』(牧羊社 1978) p.133
【初出】 『短歌研究』 1977.7 をんなの手 (8)


03120
久しく弾かぬ ピアノの箱に 溜りゐむ 闇を思へり 隣室にゐて
ヒサシクヒカヌ ピアノノハコニ タマリヰム ヤミヲオモヘリ リンシツニヰテ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.134
【初出】 『短歌研究』 1977.7 をんなの手 (9)


03121
書類届けに きたる少女は 三階の 暑さを言ひて 階下りゆく
ショルイトドケニ キタルオトメハ サンガイノ アツサヲイヒテ カイクダリユク

『野分の章』(牧羊社 1978) p.134
【初出】 『短歌研究』 1977.7 をんなの手 (10)


03122
確めて いくたびも辞書を 引く習ひ みづから疎み 人も疎まむ
タシカメテ イクタビモジショヲ ヒクナラヒ ミヅカラウトミ ヒトモウトマム

『野分の章』(牧羊社 1978) p.134
【初出】 『短歌研究』 1977.7 をんなの手 (11)


03123
裏側を 見せぬ時間を 殖やしつつ わが裏側の つねにさわだつ
ウラガワヲ ミセヌジカンヲ フヤシツツ ワガウラガワノ ツネニサワダツ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.135
【初出】 『短歌研究』 1977.7 をんなの手 (12)


03124
半製品の 食物を買ひ 薔薇を買ひ 戻らむとする ひとりの夜へ
ハンセイヒンノ ショクモツヲカヒ バラヲカヒ モドラムトスル ヒトリノヨルヘ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.135
【初出】 『短歌研究』 1977.7 をんなの手 (13)


03125
岩塩の かたまりを秤り ゐるシーン 駱駝はゆるく 尾を振りて待つ
ガンエンノ カタマリヲハカリ ヰルシーン ラクダハユルク オヲフリテマツ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.135
【初出】 『短歌研究』 1977.7 をんなの手 (14)


03126
見極めたき ドラマのゆくへ 明日の夜は 早く帰れる とも決まりゐず
ミキワメタキ ドラマノユクヘ アスノヨハ ハヤクカエレル トモキマリヰズ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.136
【初出】 『短歌研究』 1977.7 をんなの手 (15)


03127
分量を 超えたる布を とぢこめて わが身あわだつ 洗濯機より
ブンリョウヲ コエタルヌノヲ トヂコメテ ワガミアワダツ センタクキヨリ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.136
【初出】 『短歌研究』 1977.7 をんなの手 (16)


03128
急速に 春はたけつつ 音立てて 差し込むやうな 日ざしとなりぬ
キュウソクニ ハルハタケツツ オトタテテ サシコムヤウナ ヒザシトナリヌ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.136
【初出】 『短歌研究』 1977.7 をんなの手 (17)


03129
二車線に 入りて速度を 増すならむ 桃咲く村も たちまちあらず
ニシャセンニ イリテソクドヲ マスナラム モモサクムラモ タチマチアラズ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.137
【初出】 『短歌研究』 1977.7 をんなの手 (18)


03130
デッキより 身を乗り出して 振りゆける 黄のスカーフの いつまでも見ゆ
デッキヨリ ミヲノリダシテ フリユケル キノスカーフノ イツマデモミユ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.137
【初出】 『短歌研究』 1977.7 をんなの手 (22)


03131
かすかなる 水の明りに 飛ぶ一羽 かもめももはや わが目に見えず
カスカナル ミズノアカリニ トブイチワ カモメモモハヤ ワガメニミエズ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.137
【初出】 『短歌研究』 1977.7 をんなの手 (23)


03132
海からの 光なりしか 帰り来て 白くかがよふ 一枚の崖
ウミカラノ ヒカリナリシカ カエリキテ シロクカガヨフ イチマイノガケ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.138
【初出】 『短歌研究』 1977.7 をんなの手 (24)


03133
忘れゐる こと多からむ 野菜籠の 底にまろべる レモン二粒
ワスレヰル コトオオカラム ヤサイカゴノ ソコニマロベル レモンフタツブ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.138
【初出】 『短歌研究』 1977.7 をんなの手 (25)


03134
牝牛の顔の やさしさを照らす 間もあらず 忽ち褪せて しまふ茜よ
メウシノカオノ ヤサシサヲテラス マモアラズ タチマチアセテ シマフアカネヨ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.138
【初出】 『短歌研究』 1977.7 をんなの手 (27)


03135
傾きて 立ち直るわが くり返し 夜のバスは灯の 海を抜け出づ
カタムキテ タチナオルワガ クリカエシ ヨノバスハヒノ ウミヲヌケイヅ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.139
【初出】 『短歌研究』 1977.7 をんなの手 (19)


03136
捨てて来し ものの次々 立ちあがる けはひに寒し 夜のそびらは
ステテコシ モノノツギツギ タチアガル ケハヒニサムシ ヨルノソビラハ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.139
【初出】 『短歌研究』 1977.7 をんなの手 (20)


03137
自動車の 切れめをながく 待ちてゐて 黒犬に先に 渡られてしまふ
ジドウシャノ キレメヲナガク マチテヰテ クロイヌニサキニ ワタラレテシマフ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.139
【初出】 『短歌研究』 1977.7 をんなの手 (21)


03138
一枚を 剥げば白鳥も もうゐない 湖となる わがカレンダー
イチマイヲ ハゲバハクチョウモ モウヰナイ ミズウミトナル ワガカレンダー

『野分の章』(牧羊社 1978) p.140
【初出】 『短歌研究』 1977.7 をんなの手 (26)


03139
いつのまに 薬効きゐて 夜半を往く 電車の遠き 音も聞え来
イツノマニ クスリキキヰテ ヨワヲユク デンシャノトオキ オトモキコエク

『野分の章』(牧羊社 1978) p.140
【初出】 『短歌研究』 1977.7 をんなの手 (28)


03140
中心を 失ひてゐる 顔一つ 朝の鏡に 嵌めて紅刷く
チュウシンヲ ウシナヒテヰル カオヒトツ アサノカガミニ ハメテベニハク

『野分の章』(牧羊社 1978) p.140
【初出】 『短歌研究』 1977.7 をんなの手 (29)


03141
ふりこぼし きたる鱗を たどりゆく 道のごとしも 夏の落ち葉は
フリコボシ キタルウロコヲ タドリユク ミチノゴトシモ ナツノオチバハ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.141
【初出】 『短歌研究』 1977.7 をんなの手 (30)