さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

野分の章

 
忘らるる        街路樹に        新しき         原色の         
負傷兵が        等量の         身一つを        一粒づつの       
背後より        面変りせる       どの橋を        感情の         
タグボート       
 
 
 

03011
忘らるる より忘るるは 易からむ 白き孔雀の ごとき雲湧く
ワスラルル ヨリワスルルハ ヤスカラム シロキクジャクノ ゴトキクモワク

『野分の章』(牧羊社 1978) p.91
【初出】 『短歌新聞』 1976.8 去年の港 (1)


03012
街路樹に 風の凪ぐとき へだてあひ 個々の影置く 篠懸の木は
ガイロジュニ カゼノナグトキ ヘダテアヒ ココノカゲオク スズカケノキハ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.91
【初出】 『短歌新聞』 1976.8 去年の港 (2)


03013
新しき パナマのクッション 縁反りて 遠きいづちの 草の匂ひか
アタラシキ パナマノクッション フチソリテ トオキイヅチノ クサノニオヒカ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.92
【初出】 『短歌新聞』 1976.8 去年の港 (6)


03014
原色の ままの黄いろを 画布にのせ 向日葵を描かむ 夏は来向ふ
ゲンショクノ ママノキイロヲ ガフニノセ ヒマワリヲカカム ナツハキムカフ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.92
【初出】 『短歌新聞』 1976.8 去年の港 (7)


03015
負傷兵が はだしにて帰る ことなどの なき夏ならめ 平和といふは
フショウヘイガ ハダシニテカエル コトナドノ ナキナツナラメ ヘイワトイフハ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.92
【初出】 『短歌新聞』 1976.8 去年の港 (8)


03016
等量の 言葉持ちあひ 寄りし日は アガパンサスも はじけて咲きし
トウリョウノ コトバモチアヒ ヨリシヒハ アガパンサスモ ハジケテサキシ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.93
【初出】 『短歌新聞』 1976.8 去年の港 (3)


03017
身一つを 養はむのみに 炊ぐ朝 オートミールは 香に立ちて煮ゆ
ミヒトツヲ ヤシナハムノミニ カシグアサ オートミールハ カニタチテニユ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.93
【初出】 『短歌新聞』 1976.8 去年の港 (4)


03018
一粒づつの うすくれなゐよ 窓明けて 南天の花の 盛りにあへば
ヒトツブヅツノ ウスクレナヰヨ マドアケテ ナンテンノハナノ サカリニアヘバ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.93
【初出】 『短歌新聞』 1976.8 去年の港 (5)


03019
背後より 不意に叩かれし わが肩の 人に知られぬ 空洞の音
ハイゴヨリ フイニタタカレシ ワガカタノ ヒトニシラレヌ クウドウノオト

『野分の章』(牧羊社 1978) p.94
【初出】 『短歌新聞』 1976.8 去年の港 (9)


03020
面変りせる 人のことなど 今見たる 夢を忘るる ごとく忘れよ
オモガワリセル ヒトノコトナド イマミタル ユメヲワスルル ゴトクワスレヨ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.94
【初出】 『短歌新聞』 1976.8 去年の港 (13)


03021
どの橋を 渡りても帰る 家一つ 車まかせに 雨の夜を行く
ドノハシヲ ワタリテモカエル イエヒトツ クルママカセニ アメノヨヲユク

『野分の章』(牧羊社 1978) p.94
【初出】 『短歌新聞』 1976.8 去年の港 (14)


03022
感情の 嵐に巻かれて ゐしのみよ 梔子の八重も 錆びつつ終る
カンジョウノ アラシニマカレテ ヰシノミヨ クチナシノヤエモ サビツツオワル

『野分の章』(牧羊社 1978) p.95
【初出】 『短歌新聞』 1976.8 去年の港 (15)


03023
タグボート ばかり次々 帰りにき われはまだゐる 去年の港に
タグボート バカリツギツギ カエリニキ ワレハマダヰル コゾノミナトニ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.95
【初出】 『短歌新聞』 1976.8 去年の港 (10)