さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

野分の章

 
呼ばれたる       雪解けの        戻り来て        洗ひたる        
砂利掬ふ        破りたる        人と会ふ        公園の         
牙のある        人の持つ        気負ひてなす      紫の          
切々と         縫ひあげて       
 
 
 

02969
呼ばれたる 車に乗りぬ 陥穽は わが内にのみ あると思ひて
ヨバレタル クルマニノリヌ カンセイハ ワガウチニノミ アルトオモヒテ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.76
【初出】 『形成』 1975.5 「無題」 (5)


02970
雪解けの 水たまり一つ いつ見たる 古りし鏡の ごとくくぐもる
ユキドケノ ミズタマリヒトツ イツミタル フリシカガミノ ゴトククグモル

『野分の章』(牧羊社 1978) p.76
【初出】 『形成』 1975.5 「無題」 (7)


02971
戻り来て ドアとざすとき わが庭の 沈丁の花は 未だ匂はず
モドリキテ ドアトザストキ ワガニワノ ジンチョウノハナハ イマダニオハズ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.77
【初出】 『形成』 1975.5 「無題」 (1)


02972
洗ひたる レースの花を 整へつつ 何して見ても 手の渇く日よ
アラヒタル レースノハナヲ トトノヘツツ ナニシテミテモ テノカワクヒヨ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.77
【初出】 『形成』 1975.6 風の坂 (1)


02973
砂利掬ふ 音は粗しと 聞きながら かきまぜらるる 思ひにゐしか
ジャリスクフ オトハアラシト キキナガラ カキマゼラルル オモヒニヰシカ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.77
【初出】 『形成』 1975.6 風の坂 (2)


02974
破りたる 約束に似む 景品の ダリアの種も 蒔かずに終る
ヤブリタル ヤクソクニニム ケイヒンノ ダリアノタネモ マカズニオワル

『野分の章』(牧羊社 1978) p.78
【初出】 『形成』 1975.6 風の坂 (3)


02975
人と会ふ 仕事なしつつ 口腔の 荒れゐる意識 をりをり還る
ヒトトアフ シゴトナシツツ コウコウノ アレヰルイシキ ヲリヲリカエル

『野分の章』(牧羊社 1978) p.78
【初出】 『形成』 1975.6 風の坂 (6)


02976
公園の 柵を出づれば 風の坂 白鳥ならぬ 身はバスを待つ
コウエンノ サクヲイヅレバ カゼノサカ ハクチョウナラヌ ミハバスヲマツ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.78
【初出】 『形成』 1975.6 風の坂 (5)


02977
牙のある けものの夜々に 通ふとふ 道をおほひて 深き笹原
キバノアル ケモノノヨヨニ カヨフトフ ミチヲオホヒテ フカキササハラ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.79
【初出】 『形成』 1975.6 風の坂 (4)


02978
人の持つ 生活は知らず 訪ね来て 口数多きは どのやうな日か
ヒトノモツ クラシハシラズ タズネキテ クチカズオオキハ ドノヤウナヒカ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.79
【初出】 『形成』 1975.5 「無題」 (3)


02979
気負ひてなす 仕事の如し 文房具の くさぐさを身の まはりに置きて
キオヒテナス シゴトノゴトシ ブンボウグノ クサグサヲミノ マハリニオキテ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.79
【初出】 『形成』 1975.5 「無題」 (2)


02980
紫の 色濃きままに しをれたる トルコ桔梗も 捨つるほかなき
ムラサキノ イロコキママニ シヲレタル トルコキキョウモ スツルホカナキ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.80
【初出】 『短歌新聞』 1975.1 夏の終り (1)


02981
切々と 告ぐるに誰も をらざりき 夢さへわれの うつつを越えず
セツセツト ツグルニダレモ ヲラザリキ ユメサヘワレノ ウツツヲコエズ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.80
【初出】 『短歌新聞』 1975.1 夏の終り (2)


02982
縫ひあげて ふたたび寂し 待ち針を 色分けにして 挿し直しつつ
ヌヒアゲテ フタタビサビシ マチバリヲ イロワケニシテ サシナオシツツ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.80
【初出】 『形成』 1975.5 「無題」 (4)