さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

野分の章

 
花文字を        死の日まで       歩幅こまかに      遠眼鏡の        
どの家も        自転車の        肩のやや        乱したる        
ハイウエイの      得しものは       晩年の         解きものを       
切り詰めて       黒真珠の        生きものを       何もかも        
 
 
 

02937
花文字を うづめて雪の 降るといふ 異国にもゐむ はらからならず
ハナモジヲ ウヅメテユキノ フルトイフ イコクニモヰム ハラカラナラズ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.64
【初出】 『短歌』 1976.2 落ちてみひらく (1)


02938
死の日まで せぐくまりものを 書くならむ 落ちてみひらく 椿の花は
シノヒマデ セグクマリモノヲ カクナラム オチテミヒラク ツバキノハナハ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.64
【初出】 『短歌』 1976.2 落ちてみひらく (2)


02939
歩幅こまかに 走る子犬を 伴ひて 歩みゐき人も 犬もまぼろし
ホハバコマカニ ハシルコイヌヲ トモナヒテ アユミヰキヒトモ イヌモマボロシ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.65
【初出】 『形成』 1976.1 雪の稜線 (3)


02940
遠眼鏡の 奥にとらへし 稜線の かすかに青く 吹雪けるも見つ
トオメガネノ オクニトラヘシ リョウセンノ カスカニアオク フブケルモミツ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.65
【初出】 『形成』 1976.1 雪の稜線 (2)


02941
どの家も 窓のかたちに 灯のともる 雪の夜ならむ 遠きふるさと
ドノイエモ マドノカタチニ ヒノトモル ユキノヨナラム トオキフルサト

『野分の章』(牧羊社 1978) p.65
【初出】 『形成』 1976.1 雪の稜線 (1)


02942
自転車の 二台渡りて 行きしのみ 橋の上にも 雪は積もらむ
ジテンシャノ ニダイワタリテ ユキシノミ ハシノウエニモ ユキハツモラム

『野分の章』(牧羊社 1978) p.66
【初出】 『形成』 1976.1 雪の稜線 (4)


02943
肩のやや 落ちしと思ふ 仮縫ひの 鏡にながく 向かはされゐて
カタノヤヤ オチシトオモフ カリヌヒノ カガミニナガク ムカハサレヰテ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.66
【初出】 『形成』 1976.1 雪の稜線 (5)


02944
乱したる 呼吸はみづからが 知れるのみ 手を挙げて遠き 車を招く
ミダシタル コキュウハミヅカラガ シレルノミ テヲアゲテトオキ クルマヲマネク

『野分の章』(牧羊社 1978) p.66
【初出】 『形成』 1976.1 雪の稜線 (7)


02945
ハイウエイの 夜霧に車を 駆りゐつつ いつか失ふ 急ぐ理由も
ハイウエイノ ヨギリニクルマヲ カリヰツツ イツカウシナフ イソグリユウモ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.67
【初出】 『形成』 1976.1 雪の稜線 (8)


02946
得しものは 必ず失ふと 知りながら 諦めがたき まで持ち古りぬ
エシモノハ カナラズウシナフト シリナガラ アキラメガタキ マデモチフリヌ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.67
【初出】 『形成』 1976.1 雪の稜線 (10)


02947
晩年の 運ひらけむと 言はれ来し 手相見なほす すべなきものを
バンネンノ ウンヒラケムト イハレコシ テソウミナホス スベナキモノヲ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.67
【初出】 『形成』 1976.1 雪の稜線 (9)


02948
解きものを しをれば心 落ちつきて みまかりし人の 手などの見え来
トキモノヲ シヲレバココロ オチツキテ ミマカリシヒトノ テナドノミエク

『野分の章』(牧羊社 1978) p.68
【初出】 『形成』 1976.1 雪の稜線 (11)


02949
切り詰めて 再び生くる 龍胆の みづみづと青し なんの証しに
キリツメテ フタタビイクル リンドウノ ミヅミヅトアオシ ナンノアカシニ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.68
【初出】 『形成』 1976.1 雪の稜線 (12)


02950
黒真珠の 粒余すなく つなぎ終へ 少し短く なりし首飾り
クロシンジュノ ツブアマスナク ツナギオヘ スコシミジカク ナリシクビカザリ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.68
【初出】 『形成』 1976.1 雪の稜線 (13)


02951
生きものを 飼ふすべもなき ひとりゐの 軒に来て鳴く いづこの鳩か
イキモノヲ カフスベモナキ ヒトリヰノ ノキニキテナク イヅコノハトカ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.69
【初出】 『形成』 1976.1 雪の稜線 (14)


02952
何もかも もとのままよと 見回して ながき旅より 戻れるに似つ
ナニモカモ モトノママヨト ミマワシテ ナガキタビヨリ モドレルニニツ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.69
【初出】 『形成』 1976.1 雪の稜線 (15)