さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

野分の章

 
匿まふは        方角の         バス降りて       幾夜さか        
文字一つ        海藻の         終の日の        ドライヤーに      
踏み台を        うなだれて       風花と         死者あまた       
 
 
 

02809
匿まふは こころ一つよ 薔薇の木を たわめてかかり ゐし梯子あり
カクマフハ ココロヒトツヨ バラノキヲ タワメテカカリ ヰシハシゴアリ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.16
【初出】 『短歌』 1975.1 せばめられゆく (2)


02810
方角の 分き難きまで 曇り来ぬ いま斥力の ごときが欲しき
ホウガクノ ワキガタキマデ クモリキヌ イマセキリョクノ ゴトキガホシキ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.16
【初出】 『短歌』 1975.1 せばめられゆく (4)


02811
バス降りて 家までの距離を 歩みつつ 持ち敢へぬ荷の ごとしこころは
バスオリテ イエマデノキョリヲ アユミツツ モチアヘヌニノ ゴトシココロハ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.17
【初出】 『短歌』 1975.1 せばめられゆく (5)


02812
幾夜さか 野分きの風の 吹き荒れて 椅の房も 小さくなりぬ
イクヨサカ ノワキノカゼノ フキアレテ イイギリノフサモ チイサクナリヌ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.17
【初出】 『短歌』 1975.1 せばめられゆく (1)


02813
文字一つ 確かめむのみに 帰り来し 家かと思ふ 辞書を繰りつつ
モジヒトツ タシカメムノミニ カエリコシ イエカトオモフ ジショヲクリツツ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.17
【初出】 『短歌』 1975.1 せばめられゆく (6)


02814
海藻の 褐色の束を ほどきゐて せばめられゆく 砂の音にも
カイソウノ カッショクノタバヲ ホドキヰテ セバメラレユク スナノオトニモ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.18
【初出】 『短歌』 1975.1 せばめられゆく (7)


02815
終の日の 予感のごとし さかのぼり かぼそく光る 水を思ふは
ツヒノヒノ ヨカンノゴトシ サカノボリ カボソクヒカル ミズヲオモフハ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.18
【初出】 『短歌』 1975.1 せばめられゆく (8)


02816
ドライヤーに 吹かれてをれば いづこなる 縁より砂の こぼれてやまず
ドライヤーニ フカレテヲレバ イヅコナル フチヨリスナノ コボレテヤマズ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.18
【初出】 『短歌』 1975.1 せばめられゆく (9)


02817
踏み台を 蹴るは最後の 勇気とぞ 意識の底に 何か瞠く
フミダイヲ ケルハサイゴノ ユウキトゾ イシキノソコニ ナニカミヒラク

『野分の章』(牧羊社 1978) p.19
【初出】 『短歌』 1975.1 せばめられゆく (10)


02818
うなだれて ゐては飛び得ず 時ありて 洞穴のやうに 深くなる空
ウナダレテ ヰテハトビエズ トキアリテ ホラアナノヤウニ フカクナルソラ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.19
【初出】 『短歌』 1975.1 せばめられゆく (11)


02819
風花と 仰ぐに間なく 降り出でて 雪となりつつ もう止められぬ
カザハナト アオグニマナク フリイデテ ユキトナリツツ モウトメラレヌ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.19
【初出】 『短歌』 1975.1 せばめられゆく (12)


02820
死者あまた 置きて砦を 出づる夜に 闇を恐れぬ 一騎のあれよ
シシャアマタ オキテトリデヲ イヅルヨニ ヤミヲオソレヌ イッキノアレヨ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.20
【初出】 『短歌』 1975.1 せばめられゆく (13)