さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

野分の章

 
道のべの        詣で来て        夜の霧に        数をそろへ       
冷えしるき       追はれゐる       スリッパの       街灯の         
石階の         夜に入りて       膝の上に        不可思識を       
痛きまで        日の暮れの       きれぎれに       洋傘へ         
 
 
 

02793
道のべの 紫苑の花も 過ぎむとし たれの決めたる 高さに揃ふ
ミチノベノ シオンノハナモ スギムトシ タレノキメタル タカサニソロフ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.10
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (1)


02794
詣で来て 思ひは尽きず 補ひし 御手のつぎ目も つぶさに見たる
モウデキテ オモヒハツキズ オギナヒシ ミテノツギメモ ツブサニミタル

『野分の章』(牧羊社 1978) p.10
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (2)


02795
夜の霧に 濡れたる髪を 梳かむとす 旅に持ち来し 小さき櫛に
ヨノキリニ ヌレタルカミヲ スカムトス タビニモチコシ チイサキクシニ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.11
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (3)


02796
数をそろへ 磨きおくとも 一本づつ 使ふ日多き スプーンとフォーク
カズヲソロヘ ミガキオクトモ イッポンヅツ ツカフヒオオキ スプーントフォーク

『野分の章』(牧羊社 1978) p.11
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (8)


02797
冷えしるき 夜を起きをれば この家に まつはるやうに こほろぎは啼く
ヒエシルキ ヨヲオキヲレバ コノイエニ マツハルヤウニ コホロギハナク

『野分の章』(牧羊社 1978) p.11
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (9)


02798
追はれゐる 夢をのがれし まどろみに 風はけものの 声なして鳴る
オハレヰル ユメヲノガレシ マドロミニ カゼハケモノノ コエナシテナル

『野分の章』(牧羊社 1978) p.12
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (10)


02799
スリッパの 爪先を揃へ 置きて出づ 夜に帰り来む みづからのため
スリッパノ ツマサキヲソロヘ オキテイヅ ヨニカエリコム ミヅカラノタメ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.12
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (11)


02800
街灯の ほとりを過ぎし 人の影 影のみとなり 遠ざかりたり
ガイトウノ ホトリヲスギシ ヒトノカゲ カゲノミトナリ トオザカリタリ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.12
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (12)


02801
石階の どの面もすでに 暗みゐて 落ち込むごとき 思ひにくだる
セツカイノ ドノメンモスデニ クラミヰテ オチコムゴトキ オモヒニクダル

『野分の章』(牧羊社 1978) p.13
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (13)


02802
夜に入りて 物音あらず 少年を 入院させし 隣の家は
ヨニイリテ モノオトアラズ ショウネンヲ ニュウインサセシ トナリノイエハ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.13
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (14)


02803
膝の上に 編みものを置きて 聞く電話 雪の降る夜と 告げつつ遠し
ヒザノウエニ アミモノヲオキテ キクデンワ ユキノフルヨト ツゲツツトオシ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.13
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (15)


02804
不可思識を 思ふならねど 仰ぎ見て かすかに埴輪の 向きの変れる
フカシギヲ オモフナラネド アオギミテ カスカニハニワノ ムキノカワレル

『野分の章』(牧羊社 1978) p.14
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (16)


02805
痛きまで 胸締めて出づる 朝々に たのしきことの 待つにもあらず
イタキマデ ムネシメテイヅル アサアサニ タノシキコトノ マツニモアラズ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.14
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (17)


02806
日の暮れの 早くなりたり あたたかき 夕餉食まむに わが家も遠し
ヒノクレノ ハヤクナリタリ アタタカキ ユウゲハマムニ ワガヤモトオシ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.14
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (18)


02807
きれぎれに 光りつつ降る 夜の雨 落ち葉が匂ふ 道を曲れば
キレギレニ ヒカリツツフル ヨルノアメ オチバガニオフ ミチヲマガレバ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.15
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (19)


02808
洋傘へ あつまる夜の 雨の音 さびしき音を 家まではこぶ
カウモリヘ アツマルヨルノ アメノオト サビシキオトヲ イエマデハコブ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.15
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (20)