さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

雲の地図

 
あつけなく       鈴の鳴る        固有名詞        同じ雲を        
濃き青と        雨あとの        切り岸の        死ぬことも       
山の端の        新しき         冷えてゆく       摘みためし       
 
 
 

02606
あつけなく 終らむものを かげろふは 光の膜の ごとき翅持つ
アツケナク オワラムモノヲ カゲロフハ ヒカリノマクノ ゴトキハネモツ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.165


02607
鈴の鳴る ごとき空気に くれなゐと 白と木を分け 咲く百日紅
スズノナル ゴトキクウキニ クレナヰト シロトキヲワケ サクサルスベリ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.165


02608
固有名詞 持つかと思ふ ひろがりて 堪へてゐる木も 枝折れし木も
コユウメイシ モツカトオモフ ヒロガリテ タヘテヰルキモ エダオレシキモ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.166


02609
同じ雲を 見てゐる人と 限らぬに かたち変りし ことを思へる
オナジクモヲ ミテヰルヒトト カギラヌニ カタチカワリシ コトヲオモヘル

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.166


02610
濃き青と なる木の茂み 鶫らの 身を固くして ひそまむころか
コキアオト ナルキノシゲミ ツグミラノ ミヲカタクシテ ヒソマムコロカ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.166


02611
雨あとの 微粒を帯びて 屋根の上に ガラスのやうな 空が貼られつ
アメアトノ ビリュウヲオビテ ヤネノウエニ ガラスノヤウナ ソラガハラレツ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.167


02612
切り岸の 隈より湧ける 鳥のむれ つぶて撒かれし さまに落ちゆく
キリキシノ スミヨリワケル トリノムレ ツブテマカレシ サマニオチユク

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.167


02613
死ぬことも 一思ひならむ 風景の やうにいつしか 遠ざかりたし
シヌコトモ ヒトオモヒナラム フウケイノ ヤウニイツシカ トオザカリタシ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.167


02614
山の端の 低くかすかに 染みてをり 西へ向へる 歩みと気づく
ヤマノハノ ヒククカスカニ ソミテヲリ ニシヘムカヘル アユミトキヅク

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.168


02615
新しき 黒もて黒を 塗りつぶす 分厚くわれの 壁となるまで
アタラシキ クロモテクロヲ ヌリツブス ブアツクワレノ カベトナルマデ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.168


02616
冷えてゆく 石のごとしと とめどなき 日のたそがれを 雲の照り出づ
ヒエテユク イシノゴトシト トメドナキ ヒノタソガレヲ クモノテリイヅ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.168


02617
摘みためし 花びらはみな 黒き紙 耳から醒めて 音のさびしさ
ツミタメシ ハナビラハミナ クロキカミ ミミカラサメテ オトノサビシサ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.169