さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

雲の地図

 
知られては       曇りの空        何事を         待ち長き        
もし馬と        束縛は         撫で肩を        真夏の夜の       
見られゐる       引き金を        絵のなかの       瞑りゐて        
死ののちも       夜の霧に        
 
 
 

02562
知られては ならぬことあり かかはりも なきとき心 かすか波だつ
シラレテハ ナラヌコトアリ カカハリモ ナキトキココロ カスカナミダツ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.149


02563
曇りの空 遠くひらけて 見えゐるに ややに青めり ガラスの部分
クモリノソラ トオクヒラケテ ミエヰルニ ヤヤニアオメリ ガラスノブブン

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.149


02564
何事を 口走らむか 意識失ふ ことなどのわれに ありてはならず
ナニゴトヲ クチバシラムカ イシキウシナフ コトナドノワレニ アリテハナラズ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.150


02565
待ち長き 時間のごとし 梔子の 葉にとどまりて 光るしづくは
マチナガキ ジカンノゴトシ クチナシノ ハニトドマリテ ヒカルシヅクハ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.150


02566
もし馬と なりゐるならば たてがみを 風になびけて 疾く帰り来よ
モシウマト ナリヰルナラバ タテガミヲ カゼニナビケテ トクカエリコヨ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.150


02567
束縛は 生くる限りと 思へるに 羊雲浮く うすく燃えつつ
ソクバクハ イクルカギリト オモヘルニ ヒツジグモウク ウスクモエツツ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.151


02568
撫で肩を 喪服の絹に おほひつつ 鏡のなかの われをうながす
ナデガタヲ モフクノキヌニ オホヒツツ カガミノナカノ ワレヲウナガス

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.151


02569
真夏の夜の 夢として思ふ ほかあらず 片腕見えて 指ひらきたり
マナツノヨノ ユメトシテオモフ ホカアラズ カタウデミエテ ユビヒラキタリ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.151


02570
見られゐる ことの苦しさ 灯を消して 埴輪の目をも われは潰しつ
ミラレヰル コトノクルシサ ヒヲケシテ ハニワノメヲモ ワレハツブシツ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.152


02571
引き金を 引かむばかりに 張りつめて ゐたりし時間 夢と思へず
ヒキガネヲ ヒカムバカリニ ハリツメテ ヰタリシジカン ユメトオモヘズ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.152


02572
絵のなかの 木の葉一枚 そよぎをり 臨終にわれは たれの声聞く
エノナカノ コノハイチマイ ソヨギヲリ イマハニワレハ タレノコエキク

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.152


02573
瞑りゐて 見ゆるに堪へず みひらきて グラジオラスの つぼみを数ふ
ツムリヰテ ミユルニタヘズ ミヒラキテ グラジオラスノ ツボミヲカゾフ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.153


02574
死ののちも 救はれたしと 思はねど ヒールの音の いつかととのふ
シノノチモ スクハレタシト オモハネド ヒールノオトノ イツカトトノフ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.153


02575
夜の霧に 濡れとほり来し 冷たさの ままを眠らむ 茎のごとくに
ヨノキリニ ヌレトホリコシ ツメタサノ ママヲネムラム クキノゴトクニ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.153