さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

雲の地図

 
思ひあたる       妹に          前後無く        顔寄せて        
黒鍵の         さまざまに       熊笹の         雨あとを        
おぞましき       靴箆を         蘭の名を        
 
 
 

02233
思ひあたる 理由といふも すべなきに 臥しゐて右の 腕が重し
オモヒアタル リユウトイフモ スベナキニ フシヰテミギノ カヒナガオモシ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.32
【初出】 『形成』 1972.2 「無題」 (5)


02234
妹に 揺りおこされぬ 何かしきりに 訴へゐしと いふは憶えず
イモウトニ ユリオコサレヌ ナニカシキリニ ウッタヘヰシト イフハオボエズ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.32


02235
前後無く なりし記憶に 火に巻かれ 誰か無電を 打ち続けゐつ
ゼンゴナク ナリシキオクニ ヒニマカレ タレカムデンヲ ウチツヅケヰツ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.33
【初出】 『形成』 1971.5 「無題」 (5)


02236
顔寄せて 窓を窺へば しろじろと 触れむばかりに 辛夷咲く枝
カオヨセテ マドヲウカガヘバ シロジロト フレムバカリニ コブシサクエダ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.33
【初出】 『形成』 1971.6 「無題」 (1)


02237
黒鍵の エチュードに今日より 入らむとし いたく小さし 妹の手は
コクケンノ エチュードニキョウヨリ イラムトシ イタクチイサシ イモウトノテハ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.33
【初出】 『形成』 1972.2 「無題」 (1)


02238
さまざまに 手をかけてなほ 萎れゆく ベゴニアなどに 敗るる勿れ
サマザマニ テヲカケテナホ シヲレユク ベゴニアナドニ ヤブルルナカレ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.34


02239
熊笹の なかへ戻しやる 蝸牛を もの言はぬ虫と 決めゐてよきか
クマザサノ ナカヘモドシヤル カタツムリヲ モノイハヌムシト キメヰテヨキカ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.34


02240
雨あとを よぎる薔薇園 黄の薔薇の 咲きゐるあたり 殊に明るむ
アメアトヲ ヨギルバラエン キノバラノ サキヰルアタリ コトニアカルム

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.34
【初出】 『形成』 1971.9 「無題」 (1)


02241
おぞましき までに椿の 散りしける 道あり風の 凪ぎたるゆふべ
オゾマシキ マデニツバキノ チリシケル ミチアリカゼノ ナギタルユフベ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.35
【初出】 『形成』 1971.5 「無題」 (2)


02242
靴箆を 踵へ入れし ときのまに 会ひたる悔いの 身にひろがりぬ
クツベラヲ カカトヘイレシ トキノマニ アヒタルクイノ ミニヒロガリヌ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.35
【初出】 『形成』 1968.5 「無題」 (6)


02243
蘭の名を あまた覚えて 何にならむ 罷り来てまた 闇にまぎるる
ランノナヲ アマタオボエテ ナンニナラム マカリキテマタ ヤミニマギルル

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.35
【初出】 『形成』 1971.4 「無題」 (6)