さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

花溢れゐき

 
血のうすき       ゆれゐるは       くぐまりて       坂道に         
風に鳴る        のばしつつ       母の死の        手の届く        
何待ちて        いつの日に       首太き         次々に         
垣内は         人ひとり        桃の木は        能面の         
トランプの       病む犬を        ブロックの       めざましの       
窓枠に         朝よりの        隣より         爪切りて        
たまひたる       用なさぬ        遊歩路に        夜の明けの       
声の出ぬ        
 
 
 

02074
血のうすき 感じに著莪の 花咲けり 今朝はまとへる コートが重し
チノウスキ カンジニシャガノ ハナサケリ ケサハマトヘル コートガオモシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.200
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (1)


02075
ゆれゐるは ドアの硝子と 気づくまで 身すがら揺れて われの立ちゐつ
ユレヰルハ ドアノガラスト キヅクマデ ミスガラユレテ ワレノタチヰツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.200
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (2)


02076
くぐまりて つくづくと見て 買ひゆけり 幾つつぼみを 持てる皐月か
クグマリテ ツクヅクトミテ カヒユケリ イクツツボミヲ モテルサツキカ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.201
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (3)


02077
坂道に 汗ばむ季節 少女らの 制服ばかり 黒くかたまる
サカミチニ アセバムキセツ オトメラノ セイフクバカリ クロクカタマル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.201
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (4)


02078
風に鳴る 造花の桜 見られゐる 感じ背中に ありて歩めり
カゼニナル ゾウカノサクラ ミラレヰル カンジセナカニ アリテアユメリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.201
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (7)


02079
のばしつつ たるませつつ電線を 張りゆけり 仰ぎゐて声を 放つ者なし
ノバシツツ タルマセツツデンセンヲ ハリユレリ アオギヰテコエヲ ハナツモノナシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.202
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (8)


02080
母の死の のちの年月 思ほへば いづれの部屋も 火を置きをらず
ハハノシノ ノチノトシツキ オモホヘバ イヅレノヘヤモ ヒヲオキヲラズ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.202
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (10)


02081
手の届く ところに辞書を 立てしより 思ひ直して 机に向ふ
テノトドク トコロニジショヲ タテシヨリ オモヒナオシテ ツクエニムカフ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.202
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (12)


02082
何待ちて ゐしかと思ふ 夜の更けに 水車はゆるく 廻りはじめぬ
ナニマチテ ヰシカトオモフ ヨノフケニ スイシャハユルク マワリハジメヌ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.203
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (40)


02083
いつの日に 長崎絵にて 見し船か 人買ひ船と 母は教へき
イツノヒニ ナガサキエニテ ミシフネカ ヒトカヒブネト ハハハオシヘキ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.203
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (47)


02084
首太き モジリアニの女 乗りくると 思ふときのま 揺られて目ざむ
クビフトキ モジリアニノオンナ ノリクルト オモフトキノマ ユラレテメザム

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.203
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (46)


02085
次々に 砂糖のポット 廻しつつ たれかがものを 言ひ出づる待つ
ツギツギニ サトウノポット マワシツツ タレカガモノヲ イヒイヅルマツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.204
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (58)


02086
垣内は 卯の花ざかり はすかひの カーブミラーに 雨降りながら
カキウチハ ウノハナザカリ ハスカヒノ カーブミラーニ アメフリナガラ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.204
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (97)


02087
人ひとり 忘れ得べしや 濃みどりの 服地探して 街をゆく日も
ヒトヒトリ ワスレウベシヤ コミドリノ フクジサガシテ マチヲユクヒモ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.204
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (41)


02088
桃の木は 葉をけむらせて 雨のなか 共に見し日は 花溢れゐき
モモノキハ ハヲケムラセテ アメノナカ トモニミシヒハ ハナアフレヰキ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.205
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (73)


02089
能面の ごとくに顔を 塗りて見つ 少し笑へば 物狂めく
ノウメンノ ゴトクニカオヲ ヌリテミツ スコシワラヘバ モノグルヒメク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.205
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (66)


02090
トランプの 一枚を今 抜かしめよ グラスの水の かすか泡だつ
トランプノ イチマイヲイマ ヌカシメヨ グラスノミズノ カスカアワダツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.205
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (92)


02091
病む犬を 病院へ伴ふ 幾日に 路地変へて幼稚園の あることも知る
ヤムイヌヲ ビョウインヘトモナフ イクニチニ ロジカヘテヨウチエンノ アルコトモシル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.206
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (12)


02092
ブロックの 塀の高さを やや抜きて 今年の柘植の 若葉萌えたり
ブロックノ ヘイノタカサヲ ヤヤヌキテ コトシノツゲノ ワカバモエタリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.206
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (14)


02093
めざましの オルゴール鳴り 終るまで 鳴らして妹の 目ざむるを待つ
メザマシノ オルゴールナリ オワルマデ ナラシテイモウトノ メザムルヲマツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.206
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (15)


02094
窓枠に しばしとどまる 蜉蝣の 凍れるごとし ガラスに透きて
マドワクニ シバシトドマル カゲロフノ コオレルゴトシ ガラスニスキテ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.207
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (18)


02095
朝よりの タイプに倦めば 万葉の 歌をローマ字に 打ちてなぐさむ
アサヨリノ タイプニウメバ マンヨウノ ウタヲローマジニ ウチテナグサム

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.207
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (19)


02096
隣より 洩れくる議事の はげしきに ひとりの声を 聞き分けてゐつ
トナリヨリ モレクルギジノ ハゲシキニ ヒトリノコエヲ キキワケテヰツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.207
【初出】 『形成』 1970.3 「無題」 (2)


02097
爪切りて ややになごめる 夜のこころ 後生といふは いかなる生か
ツメキリテ ヤヤニナゴメル ヨノココロ ゴショウトイフハ イカナルセイカ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.208
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (91)


02098
たまひたる 胡桃握りて 鳴らしつつ 区切りつけたき ことの身にあり
タマヒタル クルミニギリテ ナラシツツ クギリツケタキ コトノミニアリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.208


02099
用なさぬ 弁証法と 思ふとき わが脈膊の どこか乱るる
ヨウナサヌ ベンショウホウト オモフトキ ワガミャクハクノ ドコカミダルル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.208
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (63)


02100
遊歩路に 灯の入れる見つつ 帰りゆく たのむ思ひも かそかになりて
ユウホロニ ヒノイレルミツツ カエリユク タノムオモヒモ カソカニナリテ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.209
【初出】 『形成』 1970.6 「無題」 (6)


02101
夜の明けの 地震に醒めゐて 生き死には 一如といへる 思ひに遠し
ヨノアケノ ナヰニサメヰテ イキシニハ イチニョトイヘル オモヒニトオシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.209
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (93)


02102
声の出ぬ 夢を幾夜も 見続けて 言ひたきことの 模糊溜まりゆく
コエノデヌ ユメヲイクヨモ ミツヅケテ イヒタキコトノ モコタマリユク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.209
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (100)