さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

花溢れゐき

 
雨のなかに       ちりぢりに       川岸の         見てゐる間に      
旅行きを        憶測し         伐木の         球場の         
新しく         伸びすぎし       ゆるやかに       つばくろは       
青鬼は         発車待つ        灯したる        紙の上に        
時ならず        護符の鈴        きりもなく       言ひ抜けむ       
 
 
 

02054
雨のなかに 人を待たせて 少年の 指いきいきと ダイヤル廻す
アメノナカニ ヒトヲマタセテ ショウネンノ ユビイキイキト ダイヤルマワス

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.193
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (31)


02055
ちりぢりに 睡蓮の葉の 浮ける見え 乗せたるごとく 白の花咲く
チリヂリニ スイレンノハノ ウケルミエ ノセタルゴトク シロノハナサク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.193
【初出】 『毎日新聞』 1970.7 水の音 (3)


02056
川岸の 薊のつぼみ ぬき出でて 毳にこまかき 雨を溜めたり
カワギシノ アザミノツボミ ヌキイデテ ケバニコマカキ アメヲタメタリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.194
【初出】 『形成』 1970.10 「無題」 (7)


02057
見てゐる間に 雨脚ほそく なりゆけり 根もと開きつつ 京菜を洗ふ
ミテヰルマニ アマアシホソク ナリユケリ ネモトヒラキツツ キョウナヲアラフ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.194
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (38)


02058
旅行きを とめられて長き 身に思ふ 薬師寺の雨 宍道湖の虹
タビユキヲ トメラレテナガキ ミニオモフ ヤクシジノアメ シンジコノニジ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.194
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (39)


02059
憶測し 苦しむわれと 気づくとき 同じ梢に まだ鶸はゐる
オクソクシ クルシムワレト キヅクトキ オナジコズエニ マダヒワハヰル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.195
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (85)


02060
伐木の あとあらはなる 空間に 春の終りの 雨降りはじむ
バツボクノ アトアラハナル クウカンニ ハルノオワリノ アメフリハジム

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.195
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (86)


02061
球場の 照明のなか 雨を衝きて 一気に戻り くるボール見ゆ
キュウジョウノ ショウメイノナカ アメヲツキテ イッキニモドリ クルボールミユ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.195
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (88)


02062
新しく 塗り直されし 噂聞く みまかれる人は しづかなるべし
アタラシク ヌリナオサレシ ウワサキク ミマカレルヒトハ シヅカナルベシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.196
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (25)


02063
伸びすぎし 葱の花茎 切る音の 歯切れよくして 中空の音
ノビスギシ ネギノハナクキ キルオトノ ハギレヨクシテ チュウクウノオト

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.196
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (27)


02064
ゆるやかに 土手のぼり来し 目の先を いたく短き 電車過ぎゆく
ユルヤカニ ドテノボリコシ メノサキヲ イタクミジカキ デンシャスギユク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.196
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (28)


02065
つばくろは 一生をかけて 飛ぶならむ 橋を渡れば 麦を刈る村
ツバクロハ ヒトヨヲカケテ トブナラム ハシヲワタレバ ムギヲカルムラ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.197
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (51)


02066
青鬼は 少しおどけて 逃げゆけり 赤鬼たちも ながくは追はず
アオオニハ スコシオドケテ ニゲユケリ アカオニタチモ ナガクハオハズ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.197
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (23)


02067
発車待つ バスにゐたれば 対岸の 日あたるビルは 窓暗く見ゆ
ハッシャマツ バスニヰタレバ タイガンノ ヒアタルビルハ マドクラクミユ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.197
【初出】 『形成』 1970.3 「無題」 (6)


02068
灯したる まま夜となる 地下室に 電気剃刀を 鳴らすはたれか
トモシタル ママヨルトナル チカシツニ デンキカミソリヲ ナラスハタレカ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.198
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (45)


02069
紙の上に 垂りしインクの 赤き色 ひろがりゆきて とめどもあらず
カミノウエニ タリシインクノ アカキイロ ヒロガリユキテ トメドモアラズ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.198
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (44)


02070
時ならず 雲間より陽の 射すに似て 人はやさしく われの名を呼ぶ
トキナラズ クモマヨリヒノ サスニニテ ヒトハヤサシク ワレノナヲヨブ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.198
【初出】 『形成』 1971.1 「無題」 (6)


02071
護符の鈴 つね持つことも 知られつつ また縛られむ ここの仕事に
ゴフノスズ ツネモツコトモ シラレツツ マタシバラレム ココノシゴトニ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.199
【初出】 『形成』 1970.1 「無題」 (7)


02072
きりもなく 同じ動作を くりかへす 虫見てゐしが 次第に激す
キリモナク オナジドウサヲ クリカヘス ムシミテヰシガ シダイニゲキス

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.199
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (82)


02073
言ひ抜けむ すべなきときに 目ざめつつ 握りしめゐし 拳をひらく
イヒヌケム スベナキトキニ メザメツツ ニギリシメヰシ コブシヲヒラク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.199
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (84)