さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

花溢れゐき

 
握力の         石鹸を         ゆきずりの       滅多には        
切り札を        勤め先         半円を         目のしきり       
赤き緒を        アドバルン       礼深く         大銀杏         
階段を         ひきだしを       耳打ちを        思はざる        
押すことも       怒ること        麻痺の去りし      水使ふ         
用向きの        日だまりに       人の立つ        うとましく       
妹の          みづからを       肘痛む         屋上に         
貝合はせの       
 
 
 

02025
握力の 不意にゆるみて めざめつつ 印度林檎の 匂ふ枕べ
アクリョクノ フイニユルミテ メザメツツ インドリンゴノ ニオフマクラベ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.183
【初出】 『短歌研究』 1970.3 蝋の顔 (1)


02026
石鹸を 泡だててゐて 蹼の あとのある手を ふとかなしめり
セッケンヲ アワダテテヰテ ミヅカキノ アトノアルテヲ フトカナシメリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.183
【初出】 『短歌研究』 1970.3 蝋の顔 (2)


02027
ゆきずりの 一人となして 離りたり 木の葉のごとき われと思ふや
ユキズリノ ヒトリトナシテ サカリタリ コノハノゴトキ ワレトオモフヤ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.184
【初出】 『短歌研究』 1970.3 蝋の顔 (3)


02028
滅多には 潰れぬと人に 言ひて来て 言ひし言葉に 励まされゆく
メッタニハ ツブレヌトヒトニ イヒテキテ イヒシコトバニ ハゲマサレユク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.184
【初出】 『短歌研究』 1970.3 蝋の顔 (4)


02029
切り札を 持ちて歩める われならず 川の匂ひの こよひは著し
キリフダヲ モチテアユメル ワレナラズ カワノニオヒノ コヨヒハシルシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.184
【初出】 『短歌研究』 1970.3 蝋の顔 (5)


02030
勤め先 分れて幾日 道に会へば 人はわれより 濃き思ひ持つ
ツトメサキ ワカレテイクヒ ミチニアヘバ ヒトハワレヨリ コキオモヒモツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.185
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (29)


02031
半円を ゑがきて低く 飛べる蛾の ふたたび道に おりてしづまる
ハンエンヲ ヱガキテヒクク トベルガノ フタタビミチニ オリテシヅマル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.185
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (33)


02032
目のしきり 乾くと思ひ 立ちあがり いたくぬくめる 空気に触れつ
メノシキリ カワクトオモヒ タチアガリ イタクヌクメル クウキニフレツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.185
【初出】 『形成』 1970.4 「無題」 (1)


02033
赤き緒を 垂るる喇叭の いづこにも あらずふたたび 眠りゆきたり
アカキオヲ タルルラッパノ イヅコニモ アラズフタタビ ネムリユキタリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.186
【初出】 『短歌研究』 1970.3 蝋の顔 (6)


02034
アドバルン 上げ終へし人ら 降りて来て 互みに風の つめたきを言ふ
アドバルン アゲオヘシヒトラ オリテキテ カタミニカゼノ ツメタキヲイフ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.186
【初出】 『短歌研究』 1970.3 蝋の顔 (7)


02035
礼深く 人の出で入る 病室に リボンフラワーの 赤なまなまし
ヰヤフカク ヒトノイデイル ビョウシツニ リボンフラワーノ アカナマナマシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.186
【初出】 『形成』 1971.3 「無題」 (7)


02036
大銀杏 廻りて帰る どこまでも 歩きゆきたき 犬を諭して
オオイチョウ マワリテカエル ドコマデモ アルキユキタキ イヌヲサトシテ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.187
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (52)


02037
階段を 半ばのぼりて 気づきたり 今朝は左の 膝の痛まず
カイダンヲ ナカバノボリテ キヅキタリ ケサハヒダリノ ヒザノイタマズ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.187
【初出】 『形成』 1970.6 「無題」 (2)


02038
ひきだしを かきまはしゐて 思はざる ときに香に立つ 匂ひ袋は
ヒキダシヲ カキマハシヰテ オモハザル トキニカニタツ ニオヒブクロハ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.187
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (87)


02039
耳打ちを されたる少女 何問ふと まつすぐわれを 見つつ近づく
ミミウチヲ サレタルオトメ ナニトフト マツスグワレヲ ミツツチカヅク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.188
【初出】 『形成』 1970.4 「無題」 (2)


02040
思はざる ゆとりの出でて 物言ひの はげしき人を 見てゐる日あり
オモハザル ユトリノイデテ モノイヒノ ハゲシキヒトヲ ミテヰルヒアリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.188
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (32)


02041
押すことも あらず押されて 歩む身を われと笑ひて 改札を出づ
オスコトモ アラズオサレテ アユムミヲ ワレトワラヒテ カイサツヲイヅ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.188
【初出】 『形成』 1970.3 「無題」 (7)


02042
怒ること 少なきわれか 帰り来て レモンの輪切りに 砂糖を浴びす
イカルコト スクナキワレカ カエリキテ レモンノワギリニ サトウヲアビス

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.189
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (34)


02043
麻痺の去りし 指先触れて 確かむる 芥子のつぼみの 持てる弾力
マヒノサリシ ユビサキフレテ タシカムル ケシノツボミノ モテルダンリョク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.189
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (37)


02044
水使ふ とき疼く指を 妹の 気にしてゐしが しばらく言はず
ミズツカフ トキウズクユビヲ イモウトノ キニシテヰシガ シバラクイハズ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.189
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (54)


02045
用向きの はかりかねつつ 不意に来し 人の細身の 草履を揃ふ
ヨウムキノ ハカリカネツツ フイニコシ ヒトノホソミノ ゾウリヲソロフ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.190
【初出】 『短歌研究』 1970.3 蝋の顔 (9)


02046
日だまりに 風ぐるま売る 前過ぎて 春となる日を たれよりも待つ
ヒダマリニ カザグルマウル マエスギテ ハルトナルヒヲ タレヨリモマツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.190
【初出】 『短歌研究』 1970.3 蝋の顔 (10)


02047
人の立つ 塊りをきはどく よけながら ホームに水の 撒かれてゆきぬ
ヒトノタツ カタマリヲキハドク ヨケナガラ ホームニミズノ マカレテユキヌ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.190
【初出】 『短歌研究』 1970.3 蝋の顔 (11)


02048
うとましく 振舞ふことの 身につくや マリオネットは 蠟の顔持つ
ウトマシク フルマフコトノ ミニツクヤ マリオネットハ ロウノカオモツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.191
【初出】 『短歌研究』 1970.3 蝋の顔 (12)


02049
妹の 赤き傘より たたみゐて リンスの匂ひ まとふてのひら
イモウトノ アカキカサヨリ タタミヰテ リンスノニオヒ マトフテノヒラ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.191
【初出】 『短歌研究』 1970.3 蝋の顔 (13)


02050
みづからを 守らむのみに 日をかけて 越え得し思ひ 人に知られず
ミヅカラヲ マモラムノミニ ヒヲカケテ コエエシオモヒ ヒトニシラレズ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.191
【初出】 『短歌研究』 1970.3 蝋の顔 (14)


02051
肘痛む ときに思へり スヰフトは 予言してつひに 人を死なしめき
ヒジイタム トキニオモヘリ スヰフトノ ヨゲンシテツヒニ ヒトヲシナシメキ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.192
【初出】 『形成』 1970.3 「無題」 (5)


02052
屋上に しづまりゐたる 旗一枚 不意によぢれて 降ろされゆけり
オクジョウニ シヅマリヰタル ハタイチマイ フイニヨヂレテ オロサレユケリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.192
【初出】 『形成』 1970.6 「無題」 (4)


02053
貝合はせの 貝もウインドウに 見えずなり わがたのしみの 一つ失ふ
カイアハセノ カイモウインドウニ ミエズナリ ワガタノシミノ ヒトツウシナフ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.192
【初出】 『短歌研究』 1970.3 蝋の顔 (15)