さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

花溢れゐき

 
昼前の         挑ましき        唱ふれば        榧の実の        
バスを待つ       夜の雪は        レーダーか       貝殻を         
よみがへる       埋めたての       出で歩く        雪の夜の        
首長き         身内には        よごれたる       解きものを       
ゴムの葉など      
 
 
 

02008
昼前の 標本室の しづけさに ジュラ紀の貝の 乾きてならぶ
ヒルマエノ ヒョウホンシツノ シヅケサニ ジュラキノカイノ カワキテナラブ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.177
【初出】 『形成』 1969.4 「無題」 (5)


02009
挑ましき 思ひも湧かず 二つ目の 病名を身に 告げられて来て
イドマシキ オモヒモワカズ フタツメノ ビョウメイヲミニ ツゲラレテキテ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.177
【初出】 『形成』 1969.4 「無題」 (2)


02010
唱ふれば 成ると教はり 唱へたる 幼き日より 信深からず
トナフレバ ナルトオソハリ トナヘタル オサナキヒヨリ シンフカカラズ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.178
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (108)


02011
榧の実の 一日降りしき いち早く 冬の保護色と なるけものたち
カヤノミノ ヒトヒフリシキ イチハヤク フユノホゴショクト ナルケモノタチ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.178
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (71)


02012
バスを待つ 寒き川べり 胸の毛を よごして帰る わが犬に会ふ
バスヲマツ サムキカワベリ ムネノケヲ ヨゴシテカエル ワガイヌニアフ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.178
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (93)


02013
夜の雪は タイヤ痕より 解けはじめ また幾日か 道ぬかるまむ
ヨノユキハ タイヤアトヨリ トケハジメ マタイクニチカ ミチヌカルマム

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.179
【初出】 『形成』 1969.4 「無題」 (4)


02014
レーダーか 何かのほしき ゆふべにて 路面に低く 蜂の飛ぶ見つ
レーダーカ ナニカノホシキ ユフベニテ ロメンニヒクク ハチノトブミツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.179
【初出】 『短歌公論』 1968.1 青きたてもの (1)


02015
貝殻を 踏みしあなうら 疼く夜の 螺旋の戻る ごときさびしさ
カイガラヲ フミシアナウラ ウズクヨノ ラセンノモドル ゴトキサビシサ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.179


02016
よみがへる 言葉のごとく とぎれつつ 校塔のチャイム 川越えて鳴る
ヨミガヘル コトバノゴトク トギレツツ コウトウノチャイム カワコエテナル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.180
【初出】 『形成』 1969.10 「無題」 (3)


02017
埋めたての 人ら去りゆき パレットの かたちに白く 暮れ残る沼
ウメタテノ ヒトラサリユキ パレットノ カタチニシロク クレノコルヌマ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.180
【初出】 『形成』 1969.4 「無題」 (1)


02018
出で歩く 日の稀にして よくものを 失ふことの 今も変らず
イデアルク ヒノマレニシテ ヨクモノヲ ウシナフコトノ イマモカワラズ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.180
【初出】 『形成』 1969.4 「無題」 (3)


02019
雪の夜の ロビーに待てば あづかれる 人のコートの しめりがやさし
ユキノヨノ ロビーニマテバ アヅカレル ヒトノコートノ シメリガヤサシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.181


02020
首長き ガラスの花瓶 見てゐしが 不意に足より 力脱けゆく
クビナガキ ガラスノカビン ミテヰシガ フイニアシヨリ チカラヌケユク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.181
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (74)


02021
身内には 言へぬことあり 駅までを 伴へる人にも 告げず別れぬ
ミウチニハ イヘヌコトアリ エキマデヲ トモナヘルヒトニモ ツゲズワカレヌ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.181
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (74)


02022
よごれたる ハンカチを持つ ことのふと 危ふくて駅の 階くだりゆく
ヨゴレタル ハンカチヲモツ コトノフト アヤフクテエキノ カイクダリユク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.182
【初出】 『形成』 1969.11 「無題」 (2)


02023
解きものを したる糸屑 掃きよせて かすかに犬の 脱け毛まじれる
トキモノヲ シタルイトクズ ハキヨセテ カスカニイヌノ ヌケゲマジレル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.182
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (65)


02024
ゴムの葉など 洗ひゐる間に みどり児を すりかへらるる 怖れは無きか
ゴムノハナド アラヒヰルマニ ミドリゴヲ スリカヘラルル オソレハナキカ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.182
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (70)