さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

花溢れゐき

 
青白く         まどろみの       落ちのびて       どの山の        
撃たれしは       火の海と        何の箱も        かかはりの       
心なく         魚のやうに       地に撥ねし       きれぎれに       
仰向けに        めざめたる       夜の雨に        竹を割く        
喪のリボン       
 
 
 

01991
青白く 燃えたつ花と人の 歌ひたる 八つ手ひとむら 夜の庭に置く
アオジロク モエタツハナトヒトノ ウタヒタル ヤツデヒトムラ ヨノニワニオク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.171


01992
まどろみの 隙間をみたす 水ありて ただよひゆけり われのてのひら
マドロミノ スキマヲミタス ミズアリテ タダヨヒユケリ ワレノテノヒラ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.171
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (109)


01993
落ちのびて どこまでか行き 堪へがたく 寒しと人に 言ひて目ざめぬ
オチノビテ ドコマデカユキ タヘガタク サムシトヒトニ イヒテメザメヌ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.172


01994
どの山の 地図ひらきても 静脈の 色つばらかに 川流れたり
ドノヤマノ チズヒラキテモ ジョウミャクノ イロツバラカニ カワナガレタリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.172
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (41)


01995
撃たれしは 土民の少女 羽根あまた 髪に飾れる よそほひのまま
ウタレシハ ドミンノオトメ ハネアマタ カミニカザレル ヨソホヒノママ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.172
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (65)


01996
火の海と なれる油田を 思ふまで 秩父嶺かけて 夕映えは燃ゆ
ヒノウミト ナレルユデンヲ オモフマデ チチブネカケテ ユウバエハモユ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.173


01997
何の箱も 柩のかたちに 見ゆる日の 街を歩めり 指先冷えて
ドノハコモ ヒツギノカタチニ ミユルヒノ マチヲアユメリ ユビサキヒエテ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.173


01998
かかはりの なきことながら 夕まけて 地下ガレーヂの あたり騒がし
カカハリノ ナキコトナガラ ユウマケテ チカガレーヂノ アタリサワガシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.173
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (30)


01999
心なく 人の傷みに 触れゆきし 言葉の機微を 帰り来て思ふ
ココロナク ヒトノイタミニ フレユキシ コトバノキビヲ カエリキテオモフ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.174
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (4)


02000
魚のやうに なめらなる手と 透かしつつ 武器のごときを 持ちしことなき
ウオノヤウニ ナメラナルテト スカシツツ ブキノゴトキヲ モチシコトナキ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.174
【初出】 『現代短歌』 1969.11 カリフの言葉 (5)


02001
地に撥ねし 木の実の音も しづまりて 還らぬわれを 待つばかりなる
チニハネシ コノミノオトモ シヅマリテ カエラヌワレヲ マツバカリナル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.174
【初出】 『現代短歌』 1969.11 カリフの言葉 (20)


02002
きれぎれに 洩れくる会話 つなぎゐて 願ひのうすき われかも知れず
キレギレニ モレクルカイワ ツナギヰテ ネガヒノウスキ ワレカモシレズ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.175
【初出】 『現代短歌』 1969.11 カリフの言葉 (15)


02003
仰向けに 運ばれむとし なきがらの 胸に覗ける ハンカチの白
アオムケニ ハコバレムトシ ナキガラノ ムネニノゾケル ハンカチノシロ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.175
【初出】 『現代短歌』 1969.11 カリフの言葉 (14)


02004
めざめたる 闇にラヂオの 声のふと 死後の会話の ごとく聞こゆる
メザメタル ヤミニラヂオノ コエノフト シゴノカイワノ ゴトクキコユル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.175
【初出】 『短歌研究』 1969.3 ひなげしの種 (17)


02005
夜の雨に 小さき苗は 立ち直り マーガレットの 葉のかたち見す
ヨノアメニ チイサキナエハ タチナオリ マーガレットノ ハノカタチミス

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.176
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (126)


02006
竹を割く 音の次第に 澄みて来ぬ 野鳩のむれの 飛びたちしあと
タケヲサク オトノシダイニ スミテキヌ ノバトノムレノ トビタチシアト

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.176
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (127)


02007
喪のリボン はづしつつ思ふ 生きの日に なしがたかりし 和解を遂げぬ
モノリボン ハヅシツツオモフ イキノヒニ ナシガタカリシ ワカイヲトゲヌ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.176
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (134)