さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

花溢れゐき

 
われの持つ       人知れず        諦めて         水位計の        
何になる        霧ふかき        あたためし       人のため        
見下ろしの       ヒロインの       幼な子の        ためらひて       
いづくまで       眠るほか        潮さゐに        髪型の         
合歓の花の       入り日差す       駅までの        河口近き        
卓上の         靴下の         巻貝の         螢光灯         
いづこにも       夢のなかの       丸衿の         わきまへの       
妹に          
 
 
 

01948
われの持つ 網膜の疵 仰ぎ見る 白磁の壼は 肩に影置く
ワレノモツ モウマクノキズ アオギミル ハクジノツボハ カタニカゲオク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.155
【初出】 『短歌研究』 1969.3 ひなげしの種 (1)


01949
人知れず 来む春に待つ 何あらむ 砂にまぜて播く ひなげしの種
ヒトシレズ コムハルニマツ ナニアラム スナニマゼテマク ヒナゲシノタネ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.155
【初出】 『短歌研究』 1969.3 ひなげしの種 (2)


01950
諦めて なすこととなさぬ こととあり 思へばながく ピアノを弾かず
アキラメテ ナスコトトナサヌ コトトアリ オモヘバナガク ピアノヲヒカズ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.156
【初出】 『短歌研究』 1969.3 ひなげしの種 (3)


01951
水位計の 立つあたりまで 今日は行き 牛小屋のある ことも知りたり
スイイケイノ タツアタリマデ キョウハユキ ウシゴヤノアル コトモシリタリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.156
【初出】 『短歌研究』 1969.3 ひなげしの種 (4)


01952
何になる 鉄とも知れず 積まれをり 落ち葉を踏みて たれか近づく
ナンニナル テツトモシレズ ツマレヲリ オチバヲフミテ タレカチカヅク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.156
【初出】 『短歌研究』 1969.3 ひなげしの種 (5)


01953
霧ふかき 夜を戻りつつ ふりかへる いまだ地図にも なき切り通し
キリフカキ ヨヲモドリツツ フリカヘル イマダチズニモ ナキキリドオシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.157
【初出】 『短歌研究』 1969.3 ひなげしの種 (6)


01954
あたためし ミルクがあまし いづくにか 最後の朝餉 食む人もゐむ
アタタメシ ミルクガアマシ イヅクニカ サイゴノアサゲ ハムヒトモヰム

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.157
【初出】 『短歌研究』 1969.3 ひなげしの種 (7)


01955
人のため なし得ることの 小さくて 短き釘を われは戸に打つ
ヒトノタメ ナシウルコトノ チイサクテ ミジカキクギヲ ワレハトニウツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.157
【初出】 『短歌研究』 1969.3 ひなげしの種 (8)


01956
見下ろしの 積み木の街の ひろがりを 分けて流るる ゆふべの霧は
ミオロシノ ツミキノマチノ ヒロガリヲ ワケテナガルル ユフベノキリハ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.158
【初出】 『短歌研究』 1969.3 ひなげしの種 (9)


01957
ヒロインの ごとくに老いし 人と会ひ 今に美しき 歯並びも見つ
ヒロインノ ゴトクニオイシ ヒトトアヒ イマニウツクシキ ハナラビモミツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.158
【初出】 『短歌研究』 1969.3 ひなげしの種 (10)


01958
幼な子の 貸してくれたる 黄の傘を ふたたびさして 手もと明るし
オサナゴノ カシテクレタル キノカサヲ フタタビサシテ テモトアカルシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.158
【初出】 『短歌研究』 1969.3 ひなげしの種 (11)


01959
ためらひて 贈ると決めし 箱の上 淡き影なす リボンを結ぶ
タメラヒテ オクルトキメシ ハコノウエ アワキカゲナス リボンヲムスブ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.159
【初出】 『短歌』 1969.8 雲多き日々 (21)


01960
いづくまで 行きしや月の 夜の更けを つゆけき犬と なりて戻り来
イヅクマデ ユキシヤツキノ ヨノフケヲ ツユケキイヌト ナリテモドリク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.159
【初出】 『短歌』 1969.8 雲多き日々 (29)


01961
眠るほか なき時間来て 裏返しの ままなるわれの 髪のピン抜く
ネムルホカ ナキジカンキテ ウラガエシノ ママナルワレノ カミノピンヌク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.159
【初出】 『短歌研究』 1969.3 ひなげしの種 (13)


01962
潮さゐに まぎれてゐたる 耳鳴りの 眠らむとして また帰り来る
シオサヰニ マギレテヰタル ミミナリノ ネムラムトシテ マタカエリクル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.160
【初出】 『短歌研究』 1969.3 ひなげしの種 (27)


01963
髪型の 違へるをいたく 驚かれ 変化とぼしき 身と気づきたり
カミガタノ チガヘルヲイタク オドロカレ ヘンカトボシキ ミトキヅキタリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.160
【初出】 『短歌研究』 1969.3 ひなげしの種 (28)


01964
合歓の花の 色に染みゆく 雲の果て 矛盾は今も われに美し
ネムノハナノ イロニシミユク クモノハテ ムジュンハイマモ ワレニウツクシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.160
【初出】 『短歌研究』 1969.3 ひなげしの種 (29)


01965
入り日差す 坂をのぼりて ゆく心 石のごとくに 照ることもなし
イリヒサス サカヲノボリテ ユクココロ イシノゴトクニ テルコトモナシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.161
【初出】 『短歌研究』 1969.3 ひなげしの種 (18)


01966
駅までの しばしを歩み 別れしが 九官鳥は 死にたりといふ
エキマデノ シバシヲアユミ ワカレシガ キュウカンチョウハ シニタリトイフ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.161
【初出】 『短歌研究』 1969.3 ひなげしの種 (19)


01967
河口近き 鉄橋を渡る 夜汽車見ゆ 垂れし双手の さびしきときに
カコウチカキ テッキョウヲワタル ヨギシャミユ タレシモロテノ サビシキトキニ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.161
【初出】 『短歌』 1969.8 雲多き日々 (30)


01968
卓上の 蘭の葉先の ゆれながら 向きあふ顔を よぎるときあり
タクジョウノ ランノハサキノ ユレナガラ ムキアフカオヲ ヨギルトキアリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.162
【初出】 『短歌研究』 1969.3 ひなげしの種 (24)


01969
靴下の 赤かりしことのみ 思はれて 狭き階段を 昇りはじめぬ
クツシタノ アカカリシコトノミ オモハレテ セマキカイダンヲ ノボリハジメヌ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.162
【初出】 『短歌研究』 1969.3 ひなげしの種 (25)


01970
巻貝の 先かたむけて 目に見えぬ 螺旋の糸を ひきのばしゆく
マキガイノ サキカタムケテ メニミエヌ ラセンノイトヲ ヒキノバシユク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.162
【初出】 『短歌研究』 1969.3 ひなげしの種 (26)


01971
螢光灯 いつせいにともる 時に遭ひ 誇らむものの 何一つ無し
ケイコウトウ イツセイニトモル トキニアヒ ホコラムモノノ ナニヒトツナシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.163
【初出】 『短歌研究』 1969.3 ひなげしの種 (21)


01972
いづこにも 風は吹きゐず 花の香に 乱されて醒めし まどろみのあと
イヅコニモ カゼハフキヰズ ハナノカニ ミダサレテサメシ マドロミノアト

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.163
【初出】 『短歌研究』 1969.3 ひなげしの種 (22)


01973
夢のなかの 出会ひといふも 敢へなくて 防空壕は 水漬きゐたりき
ユメノナカノ デアヒトイフモ アヘナクテ ボウクウゴウハ ミズキヰタリキ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.163
【初出】 『短歌研究』 1969.3 ひなげしの種 (23)


01974
丸衿の 紺の制服 幾何を好む 少女のわれは いづこへ行きし
マルエリノ コンノセイフク キカヲコノム オトメノワレハ イヅコヘユキシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.164
【初出】 『形成』 1969.9 「無題」 (6)


01975
わきまへの なき犬ながら 限りなく まろびて遊ぶ 注射のあとを
ワキマヘノ ナキイヌナガラ カギリナク マロビテアソブ チュウシャノアトヲ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.164
【初出】 『形成』 1969.9 「無題」 (3)


01976
妹に 揺り椅子一つ 買ひやらむ やはらかき春の 日ざしとなりぬ
イモウトニ ユリイスヒトツ カヒヤラム ヤハラカキハルノ ヒザシトナリヌ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.164
【初出】 『短歌研究』 1969.3 ひなげしの種 (30)