さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

花溢れゐき

 
届きたる        辞書のたぐひ      目に見えぬ       幼くて         
木洩れ陽の       残されむ        あぢさゐは       木の洞に        
血圧の         錫いろに        すきとほる       竪琴の         
混信し         意表を突く       指先に         いづくにか       
みづからの       
 
 
 

01931
届きたる ウイーンの地図を ひろげつつ 旅ゆく人の 背を恋ひゐたり
トドキタル ウイーンノチズヲ ヒロゲツツ タビユクヒトノ セヲコヒヰタリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.149
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (69)


01932
辞書のたぐひ 聖書もありて くぐもれる 和音のごとく われをとりまく
ジショノタグヒ セイショモアリテ クグモレル ワオンノゴトク ワレヲトリマク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.149
【初出】 『形成』 1969.3 「無題」 (6)


01933
目に見えぬ 葛藤を身に くりかへし 灯にかざす手も 薄くなりたり
メニミエヌ カットウヲミニ クリカヘシ ヒニカザステモ ウスクナリタリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.150
【初出】 『形成』 1969.3 「無題」 (2)


01934
幼くて 父を失ひし 日のみぞれ 今に憶えゐて 妹の言ふ
オサナクテ チチヲウシナヒシ ヒノミゾレ イマニオボエヰテ イモウトノイフ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.150
【初出】 『現代短歌』 1969.11 カリフの言葉 (9)


01935
木洩れ陽の かげりては射し 一つ一つの 恩誼といふに 疲るる日あり
コモレビノ カゲリテハサシ ヒトツヒトツノ オンギトイフニ ツカルルヒアリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.150
【初出】 『形成』 1969.5 「無題」 (6)


01936
残されむ ひとりのために 死も難し 南天の花 ゆさぶりて見つ
ノコサレム ヒトリノタメニ シモカタシ ナンテンノハナ ユサブリテミツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.151
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (40)


01937
あぢさゐは うすくれなゐの 返り花 鎮まりかねて 出でゆくものを
アヂサヰハ ウスクレナヰノ カエリバナ シズマリカネテ イデユクモノヲ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.151
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (36)


01938
木の洞に いつまであらむ 翅たたみ 押し葉となれる 蝶の一枚
キノウロニ イツマデアラム ハネタタミ オシバトナレル チョウノイチマイ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.151
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (48)


01939
血圧の 昇るきざしか まなかひに 風花の舞ふ ごとき野を行く
ケツアツノ ノボルキザシカ マナカヒニ カザハナノマフ ゴトキノヲユク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.152
【初出】 『形成』 1969.5 「無題」 (2)


01940
錫いろに くれゆく空を 遠ざかり 生きて帰らむ 鳩と思はず
スズイロニ クレユクソラヲ トオザカリ イキテカエラム ハトトオモハズ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.152
【初出】 『短歌新聞』 1969.8 サブリナの靴 (14)


01941
すきとほる 化身などにて さまよはむ われと思へば 寂し死の後も
スキトホル ケシンナドニテ サマヨハム ワレトオモヘバ サビシシノゴモ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.152
【初出】 『現代短歌』 1969.11 カリフの言葉 (17)


01942
竪琴の 弾き手のをとめ 昨夜見たる 輝きに遠く バスを待ちゐつ
タテゴトノ ヒキテノヲトメ ヨベミタル カガヤキニトオク バスヲマチヰツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.153
【初出】 『形成』 1969.5 「無題」 (4)


01943
混信し 切れたる電話 思はざる 呪縛となりて 暑き日のくれ
コンシンシ キレタルデンワ オモハザル ジュバクトナリテ アツキヒノクレ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.153
【初出】 『短歌新聞』 1969.8 サブリナの靴 (12)


01944
意表を突く ことも言ひ得ず 帰り来て レタス幾ひら 真水にひたす
イヒョウヲツク コトモイヒエズ カエリキテ レタスイクヒラ マミズニヒタス

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.153
【初出】 『形成』 1969.9 「無題」 (5)


01945
指先に 芥子の花湧く 幻覚を ふたたび待ちて 告ぐることなし
ユビサキニ カラシノハナワク ゲンカクヲ フタタビマチテ ツグルコトナシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.154
【初出】 『短歌研究』 1969.3 ひなげしの種 (14)


01946
いづくにか まだ母はゐて わがために 粽の葉など 摘めるならずや
イヅクニカ マダハハハヰテ ワガタメニ チマキノハナド ツメルナラズヤ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.154
【初出】 『短歌』 1969.8 雲多き日々 (12)


01947
みづからの 問ひも答へも おのづから 定まるに似て 夜の雨の音
ミヅカラノ トヒモコタヘモ オノヅカラ サダマルニニテ ヨノアメノオト

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.154
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (50)