さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

花溢れゐき

 
散りしける       何ほどの        まなうらを       降りやまぬ       
つながらぬ       スノー・ドロップの   工事場の        松葉杖を        
姉妹にて        手鏡の         空ふかく        花びらを        
人の手を        枯れ芝に        蠍を防ぐ        あらかじめ       
含みたる        
 
 
 

01826
散りしける 欅の落ち葉 いまひと夜 かさねむことの ありて踏みゆく
チリシケル ケヤキノオチバ イマヒトヨ カサネムコトノ アリテフミユク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.112
【初出】 『短歌』 1969.1 雨の奥より (1)


01827
何ほどの ことに急ぎて 石階を ななめにくだり ゆくわれの影
ナニホドノ コトニイソギテ セッカイヲ ナナメニクダリ ユクワレノカゲ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.112
【初出】 『短歌』 1969.1 雨の奥より (2)


01828
まなうらを すべり抜けたる 蛇のいろ あざやかにして ふたたびは見ず
マナウラヲ スベリヌケタル ヘビノイロ アザヤカニシテ フタタビハミズ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.113
【初出】 『形成』 1969.10 「無題」 (1)


01829
降りやまぬ 雨の奥より よみがへり 挙手の礼など なすにあらずや
フリヤマヌ アメノオクヨリ ヨミガヘリ キョシュノレイナド ナスニアラズヤ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.113
【初出】 『短歌』 1969.1 雨の奥より (3)


01830
つながらぬ 芝生の隙の 寒き日か かき集めゆく 竹の落ち葉を
ツナガラヌ シバフノスキノ サムキヒカ カキアツメユク タケノオチバヲ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.113
【初出】 『短歌』 1969.1 雨の奥より (4)


01831
スノー・ドロップの 花のみ土に 暮れ残り 死にたる人は いづこを歩む
スノー・ドロップノ ハナノミツチニ クレノコリ シニタルヒトハ イヅコヲアユム

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.114
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (29)


01832
工事場の かたはら過ぎて 声高に なりゐたる身を 引き戻しゆく
コウジバノ カタハラスギテ コワダカニ ナリヰタルミヲ ヒキモドシユク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.114
【初出】 『形成』 1969.2 「無題」 (1)


01833
松葉杖を 人の置きたる 音寒く 発車に間ある バスに坐れり
マツバヅエヲ ヒトノオキタル オトサムク ハッシャニマアル バスニスワレリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.114
【初出】 『短歌研究』 1968.5 いづこも遠し (22)


01834
姉妹にて 分ち持つ鍵 緋の房を つけし一つは 妹が持つ
シマイニテ ワカチモツカギ ヒノフサヲ ツケシヒトツハ イモウトガモツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.115
【初出】 『短歌』 1969.1 雨の奥より (5)


01835
手鏡の とらへし梢 明るくて 雨に触れあふ 山茶花の白
テカガミノ トラヘシコズエ アカルクテ アメニフレアフ サザンカノシロ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.115
【初出】 『短歌』 1969.1 雨の奥より (6)


01836
空ふかく 菌糸のやうな 雲が湧き 知らざることを 身に殖やしゆく
ソラフカク キンシノヤウナ クモガワキ シラザルコトヲ ミニフヤシユク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.115
【初出】 『短歌』 1969.1 雨の奥より (8)


01837
花びらを たたむ如くに カナリヤの むくろを包む 白きガーゼに
ハナビラヲ タタムゴトクニ カナリヤノ ムクロヲツツム シロキガーゼニ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.116
【初出】 『形成』 1968.3 「無題」 (2)


01838
人の手を 借りねば癒えぬ すべなさに 疼く腕を 吊りつつ通ふ
ヒトノテヲ カリネバイエヌ スベナサニ ウズクカヒナヲ ツリツツカヨフ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.116
【初出】 『形成』 1968.3 「無題」 (3)


01839
枯れ芝に 工具かがやき 幼な子の 小さき木椅子 作れるを見つ
カレシバニ コウグカガヤキ オサナゴノ チイサキキイス ツクレルヲミツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.116
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (52)


01840
蠍を防ぐ 呪文唱へて わがあれば かすかにたれの 爪をつむ音
サソリヲフセグ ジュモントナヘテ ワガアレバ カスカニタレノ ツメヲツムオト

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.117
【初出】 『短歌』 1969.1 雨の奥より (7)


01841
あらかじめ 笑ひの皺を 頬に描く ピエロと知りて 歎かずなりぬ
アラカジメ ワラヒノシワヲ ホニエガク ピエロトシリテ ナゲカズナリヌ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.117


01842
含みたる 錠剤の誘ふ まどろみに 色無き花火 しきりにあがる
フクミタル ジョウザイノサソフ マドロミニ イロナキハナビ シキリニアガル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.117
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (30)