さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

花溢れゐき

 
秋の来て        いくたびも       庭先に         枕木に         
いつまでも       雨あとの        神の使者は       純白の         
落ち葉踏む       褐色の         印鑑の         夜もすがら       
通り道の        越して来て       風花の         何の匂ひ        
ボタン一つ       
 
 
 

01809
秋の来て いち早く手を 荒らす見つ 赤き手套を 編む内職に
アキノキテ イチハヤクテヲ アラスミツ アカキミトンヲ アムナイショクニ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.105
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (67)


01810
いくたびも 地図をひろげて 確かむる 川にはさまれて われの住む町
イクタビモ チズヲヒロゲテ タシカムル カワニハサマレテ ワレノスムマチ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.105
【初出】 『形成』 1969.3 「無題」 (5)


01811
庭先に 棕櫚立つ家と 告げしより 訪ひ来ることの あるごとく待つ
ニワサキニ シュロタツイエト ツゲシヨリ トヒクルコトノ アルゴトクマツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.106
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (76)


01812
枕木に 溶くるあは雪 忘れゐし 薬をホームの 水道に飲む
マクラギニ トクルアハユキ ワスレヰシ クスリヲホームノ スイドウニノム

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.106
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (68)


01813
いつまでも 冬の片虹 残りゐて 何に遅るる バスとも知れず
イツマデモ フユノカタニジ ノコリヰテ ナンニオクルル バストモシレズ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.106
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (69)


01814
雨あとの 雫をおとす 黄櫨の葉も 髪に飾らむ ほどに色づく
アメアトノ シズクヲオトス ハジノハモ カミニカザラム ホドニイロヅク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.107
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (47)


01815
神の使者は 何を着て来む 風の日も 言葉つつしみ 人に対へり
カミノシシャハ ナニヲキテコム カゼノヒモ コトバツツシミ ヒトニムカヘリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.107
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (72)


01816
純白の 大根をきざみ まみどりの 葉を刻み休みの 日をわが遊ぶ
ジュンパクノ ダイコンヲキザミ マミドリノ ハヲキザミヤスミノ ヒヲワガアソブ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.107
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (53)


01817
落ち葉踏む 音を怪しみ 過ぎゆくに 人ひとりゐて 垣をつくろふ
オチバフム オトヲアヤシミ スギユクニ ヒトヒトリヰテ カキヲツクロフ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.108
【初出】 『短歌研究』 1968.5 いづこも遠し (7)


01818
褐色の 闘魚といふを 飼ふ人の 独りいかなる たのしみを持つ
カッショクノ トウギョトイフヲ カフヒトノ ヒトリイカナル タノシミヲモツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.108
【初出】 『短歌』 1969.8 雲多き日々 (22)


01819
印鑑の 置きどころふと 思ひたり 橋のたもとまで 人を送り来て
インカンノ オキドコロフト オモヒタリ ハシノタモトマデ ヒトヲオクリキテ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.108
【初出】 『形成』 1970.11 「無題」 (6)


01820
夜もすがら 吹きゐし風の 音絶えて かたつむり幾つ 地上にまろぶ
ヨモスガラ フキヰシカゼノ オトタエテ カタツムリイクツ チジョウニマロブ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.109
【初出】 『形成』 1969.11 「無題」 (6)


01821
通り道の 寺の祭りに 市の立ち 海酸漿を 売る店も出づ
トオリミチノ テラノマツリニ イチノタチ ウミホウズキヲ ウルミセモイヅ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.109


01822
越して来て はじめてすごす 如月の 十日椿の 花咲き出でぬ
コシテキテ ハジメテスゴス キサラギノ トオカツバキノ ハナサキイデヌ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.109


01823
風花の ややありてまた 舞ひ出づる 川面はうすく 夕映えのして
カザハナノ ヤヤアリテマタ マヒイヅル カワモハウスク ユウバエノシテ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.110
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (70)


01824
何の匂ひ まとひ来し身か 現はれし 犬にいきなり 膝を嗅がれつ
ナンノニオヒ マトヒコシミカ アラワレシ イヌニイキナリ ヒザヲカガレツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.110
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (56)


01825
ボタン一つ 失へるのみに 免れし 厄もあらむと コートを吊るす
ボタンヒトツ ウシナヘルノミニ マヌガレシ ヤクモアラムト コートヲツルス

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.110
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (80)