さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

花溢れゐき

 
靄ふかく        影のみと        底深く         かさかさと       
たなそこに       坐りゐる        何に使ふ        石飛ばし        
登山用の        フラメンコの      胸もとに        葬列の         
新しき         人を刺す        会ひがたき       新しき         
ゆらめきて       かたはらに       黒百合の        海一つ         
廊下ゆく        事務室の        虹の線         
 
 
 

01786
靄ふかく なりたる木の間 人のゐぬ 車のなかの ラヂオが歌ふ
モヤフカク ナリタルコノマ ヒトノヰヌ クルマノナカノ ラヂオガウタフ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.97
【初出】 『短歌研究』 1968.5 いづこも遠し (2)


01787
影のみと なれる鷗ら 飛び交へり ずり落ちてゆく 海の夕陽に
カゲノミト ナレルカモメラ トビカヘリ ズリオチテユク ウミノユウヒニ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.97
【初出】 『短歌研究』 1968.5 いづこも遠し (1)


01788
底深く つながりてゐる 島々か つぎつぎに潮に 呑まれてしまふ
ソコフカク ツナガリテヰル シマジマカ ツギツギニシオニ ノマレテシマフ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.98
【初出】 『形成』 1968.4 「無題」 (7)


01789
かさかさと 鳴る藁の束 町の灯も 駅も隠れて しまふまで積む
カサカサト ナルワラノタバ マチノヒモ エキモカクレテ シマフマデツム

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.98
【初出】 『短歌研究』 1968.5 いづこも遠し (9)


01790
たなそこに 溜まれる闇の 濃くなりて 針の先のみ 輝き始む
タナソコニ タマレルヤミノ コクナリテ ハリノサキノミ カガヤキハジム

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.98
【初出】 『短歌研究』 1968.5 いづこも遠し (10)


01791
坐りゐる 木椅子の背より 冷えて来て かすかに窓に きざす夕映え
スワリヰル キイスノセヨリ ヒエテキテ カスカニマドニ キザスユウバエ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.99
【初出】 『短歌研究』 1968.5 いづこも遠し (18)


01792
何に使ふ 桶か小さく 湧き水に ころがしながら 人の洗へり
ナニニツカフ オケカチイサク ワキミズニ コロガシナガラ ヒトノアラヘリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.99
【初出】 『短歌研究』 1968.5 いづこも遠し (19)


01793
石飛ばし ゆくバイクあり 古びたる 顔を廻して わが立ちどまる
イシトバシ ユクバイクアリ フルビタル カオヲマワシテ ワガタチドマル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.99
【初出】 『短歌研究』 1968.5 いづこも遠し (20)


01794
登山用の 鉈を人は買ひ 爪切りの 小さき一つを われの購ふ
トザンヨウノ ナタヲヒトハカヒ ツメキリノ チイサキヒトツヲ ワレノアガナフ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.100
【初出】 『形成』 1968.4 「無題」 (2)


01795
フラメンコの 踊り子らしき 少女らの 過ぎてふたたび 落ち葉降る坂
フラメンコノ オドリコラシキ ショウジョラノ スギテフタタビ オチバフルサカ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.100
【初出】 『形成』 1968.1 「無題」 (4)


01796
胸もとに 梢の影の 落ちて来て 目を病むことの 不意にさびしき
ムナモトニ コズ゛エノカゲノ オチテキテ メヲヤムコトノ フイニサビシキ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.100
【初出】 『短歌研究』 1968.5 いづこも遠し (3)


01797
葬列の 短く過ぎて 藁塚の 藁の匂ひの たつこともなし
ソウレツノ ミジカクスギテ ワラツカノ ワラノニオヒノ タツコトモナシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.101
【初出】 『形成』 1968.10 「無題」 (5)


01798
新しき 叙勲の文字を 彫り足して 兵士の墓を 今も野に置く
アタラシキ ジョクンノモジヲ ホリタシテ ヘイシノハカヲ イマモノニオク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.101
【初出】 『形成』 1968.10 「無題」 (7)


01799
人を刺す ことなかりしや ペン軸の 無数の傷を 見つつ思へば
ヒトヲサス コトナカリシヤ ペンジクノ ムスウノキズヲ ミツツオモヘバ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.101
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (103)


01800
会ひがたき 人の名を新聞に 読める朝の 遠く虹立つ ごときさびしさ
アヒガタキ ヒトノナヲシンブンニ ヨメルアサノ トオクニジタツ ゴトキサビシサ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.102
【初出】 『短歌研究』 1968.5 いづこも遠し (16)


01801
新しき 絨毯が放つ 毛の匂ひ 待つことの多き 仕事と思ふ
アタラシキ ジュウタンガハナツ ケノニオヒ マツコトノオオキ シゴトトオモフ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.102
【初出】 『短歌研究』 1968.5 いづこも遠し (17)


01802
ゆらめきて 紙などの泳ぐ 夢のなか どのあたりまで われは行きしや
ユラメキテ カミナドノオヨグ ユメノナカ ドノアタリマデ ワレハユキシヤ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.102
【初出】 『短歌研究』 1968.5 いづこも遠し (14)


01803
かたはらに 何時よりか置き ゆすぶらぬ 限りしづけき モザイクの箱
カタハラニ イツヨリカオキ ユスブラヌ カギリシヅケキ モザイクノハコ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.103


01804
黒百合の 香りいつまで 嗅ぎてゐて 思へることの おぞましき日よ
クロユリノ カオリイツマデ カギテヰテ オモヘルコトノ オゾマシキヒヨ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.103
【初出】 『短歌新聞』 1969.1 明日読む本 (2)


01805
海一つ 越えたるごとき 目ざめあれ 明日読む本を 枕べに置く
ウミヒトツ コエタルゴトキ メザメアレ アスヨムホンヲ クマラベニオク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.103


01806
廊下ゆく をりをりにして 足音を たてぬ歩みを 人もうとまむ
ロウカユク ヲリヲリニシテ アシオトヲ タテヌアユミヲ ヒトモウトマム

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.104
【初出】 『短歌研究』 1968.5 いづこも遠し (28)


01807
事務室の ガラス拭かれて ゐながらに 見ゆる枯れ野の まぶしくなりぬ
ジムシツノ ガラスフカレテ ヰナガラニ ミユルカレノノ マブシクナリヌ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.104
【初出】 『短歌研究』 1968.5 いづこも遠し (29)


01808
虹の線 雲の切れめに 光りゐて 行かむと思ふ いづこも遠し
ニジノセン クモノキレメニ ヒカリヰテ ユカムトオモフ イヅコモトオシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.104
【初出】 『短歌研究』 1968.5 いづこも遠し (30)