さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

花溢れゐき

 
体より         塩はゆき        止むとなき       からすうりの      
香木の         白粥の         風の夜の        葦の間を        
いらだちの       長雨に         くちびるを       漆黒の         
無頼なる        ものなべて       身動きの        金銀の         
こまごまと       表情の         後肢を         幾つもの        
車窓より        出で入りの       医師の手に       
 
 
 

01746
体より 心を病むと みづからに 知りつつ雨の日も 注射にかよふ
カラダヨリ ココロヲヤムト ミヅカラニ シリツツアメノヒモ チュウシャニカヨフ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.83
【初出】 『形成』 1968.10 「無題」 (1)


01747
塩はゆき ものを食みたき 願ひなど 眠らむとして きざすさびしさ
シオハユキ モノヲハミタキ ネガヒナド ネムラムトシテ キザスサビシサ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.83
【初出】 『形成』 1968.10 「無題」 (2)


01748
止むとなき 雨の時をり かがやきて さ走るさまも 見つつ歩めり
ヤムトナキ アメノトキヲリ カガヤキテ サバシルサマモ ミツツアユメリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.84


01749
からすうりの 花ほのじろく 垂るる森 たれに会ふとも なくて抜け来ぬ
カラスウリノ ハナホノジロク タルルモリ タレニアフトモ ナクテヌケキヌ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.84


01750
香木の 幾ひら酸ゆき 言葉など とりとめもなく 欲りつつ眠る
コウボクノ イクヒラスユキ コトバナド トリトメモナク ホリツツネムル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.84


01751
白粥の 上に張りたる 膜の上 かすかに湯気の 廻りてうごく
シロガユノ ウエニハリタル マクノウエ カスカニユゲノ マワリテウゴク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.85
【初出】 『形成』 1968.10 「無題」 (3)


01752
風の夜の 浅き眠りに 揺れ出でて 呪文のごとき 韓国の文字
カゼノヨノ アサキネムリニ ユレイデテ ジュモンノゴトキ カンコクノモジ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.85
【初出】 『形成』 1968.5 「無題」 (2)


01753
葦の間を ゆるく流れて 大雨の あとの芥を いづこへはこぶ
アシノマヲ ユルクナガレテ オオアメノ アトノアクタヲ イヅコヘハコブ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.85
【初出】 『形成』 1968.11 「無題」 (7)


01754
いらだちの いつかうすらぎ しなやかに リボンを結ぶ 指を見てゐつ
イラダチノ イツカウスラギ シナヤカニ リボンヲムスブ ユビヲミテヰツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.86
【初出】 『形成』 1968.4 「無題」 (1)


01755
長雨に べにばなも摘まず 終りたり 瞼を押せば 涙出で来る
ナガアメニ ベニバナモツマズ オワリタリ マブタヲオセバ ナミダイデクル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.86
【初出】 『短歌研究』 1968.5 いづこも遠し (35)


01756
くちびるを 読まれてゐたる あやまちに 唖の少女を ながく忘れず
クチビルヲ ヨマレテヰタル アヤマチニ オシノショウジョヲ ナガクワスレズ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.86


01757
漆黒の 喪の帯にふと 浮き出づる 波の模様を 見つつつきゆく
シッコクノ モノオビニフト ウキイヅル ナミノモヨウヲ ミツツツキユク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.87
【初出】 『形成』 1968.11 「無題」 (3)


01758
無頼なる 思ひかきざす 透きとほる 袋のなかに セロリの白さ
ブライナル オモヒカキザス スキトホル フクロノナカニ セロリノシロサ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.87


01759
ものなべて 影にまみれて ゆく時刻 葛は音なく 葉裏をかへす
モノナベテ カゲニマミレテ ユクジコク クズハオトナク ハウラヲカヘス

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.87
【初出】 『形成』 1969.2 「無題」 (4)


01760
身動きの ならぬ日あるを うとみつつ われを支へて 数知れぬ糸
ミウゴキノ ナラヌヒアルヲ ウトミツツ ワレヲササヘテ カズシレヌイト

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.88
【初出】 『形成』 1968.11 「無題」 (6)


01761
金銀の 箔の錆びたる 帯重し 鋏の先を きかせてほどく
キンギンノ ハクノサビタル オビオモシ ハサミノサキヲ キカセテホドク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.88
【初出】 『短歌研究』 1968.5 いづこも遠し (26)


01762
こまごまと 花をつづれる 黐の垣 赤の葵は ぬきん出て咲く
コマゴマト ハナヲツヅレル モチノカキ アカノアオイハ ヌキンデテサク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.88
【初出】 『形成』 1968.10 「無題」 (6)


01763
表情の うすき人らが あつまりて 土葬のあとを 花もて蔽ふ
ヒョウジョウノ ウスキヒトラガ アツマリテ ドソウノアトヲ ハナモテオオフ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.89
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (32)


01764
後肢を 曳く感じにて 歩みゐし 牛と思へど ふり向かず行く
アトアシヲ ヒクカンジニテ アユミヰシ ウシトオモヘド フリムカズユク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.89
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (34)


01765
幾つもの レンズかさねて 見る如き ときめきの身を しばしば襲ふ
イクツモノ レンズカサネテ ミルゴトキ トキメキノミヲ シバシバオソフ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.89
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (38)


01766
車窓より 見ゆるプールに 色彩の 溢れて音を 聞かぬまま過ぐ
シャソウヨリ ミユルプールニ シキサイノ アフレテオトヲ キカヌママスグ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.90
【初出】 『形成』 1966.10 「無題」 (2)


01767
出で入りの はげしくなれる ドアが見ゆ 次第に何の 迫らむとして
イデイリノ ハゲシクナレル ドアガミユ シダイニナンノ セマラムトシテ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.90
【初出】 『形成』 1968.3 「無題」 (1)


01768
医師の手に ゴムの歯型を 残し来て まぎれもあらぬ 夜のわが顔
イシノテニ ゴムノハガタヲ ノコシキテ マギレモアラヌ ヨルノワガカオ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.90
【初出】 『形成』 1967.9 「無題」 (5)