さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

花溢れゐき

 
眼帯を         風のなき        彫像の         食細く         
消しゴムを       事務室に        思はざる        音荒く         
ポケットの       数などに        石牢の         新しき         
ふるさとの       亡き父の        ゆるやかに       フィルターの      
口ほてる        
 
 
 

01729
眼帯を はづして見たる 土の上 うすばかげろふは 今日も来てゐる
ガンタイヲ ハヅシテミタル ツチノウエ ウスバカゲロフハ キョウモキテヰル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.77


01730
風のなき 日は稀にして 橋脚の 鉄の匂ひを 今朝は嗅ぎゆく
カゼノナキ ヒハマレニシテ キョウキャクノ テツノニオヒヲ ケサハカギユク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.77


01731
彫像の 耳をつたひて 来るごとく 眼下ににぶき 冬の潮鳴り
チョウゾウノ ミミヲツタヒテ クルゴトク ガンカニニブキ フユノシオナリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.78


01732
食細く なりたるインコ 近よれば 尾羽根の重き 感じにて飛ぶ
ショクホソク ナリタルインコ チカヨレバ オバネノオモキ カンジニテトブ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.78


01733
消しゴムを 探さむとして 薬莢を 探すごとくに 遠ざかりゆく
ケシゴムヲ サガサムトシテ ヤッキョウヲ サガスゴトクニ トオザカリユク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.78


01734
事務室に われのみとなる 時ありて 机の上の 茶の花を嗅ぐ
ジムシツニ ワレノミトナル トキアリテ ツクエノウエノ チャノハナヲカグ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.79
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (86)


01735
思はざる 悔やしみ湧きて 開きたる 五指をとりまく 空間寒し
オモハザル クヤシミワキテ ヒラキタル ゴシヲトリマク クウカンサムシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.79
【初出】 『形成』 1967.4 「無題」 (4)


01736
音荒く 椅子たたみ人ら 出でゆけり 黒板の文字を 一つづつ消す
オトアラク イスタタミヒトラ イデユケリ コクバンノモジヲ ヒトツヅツケス

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.79
【初出】 『形成』 1967.1 「無題」 (1)


01737
ポケットの 眼鏡を人の 探る間に いくばくのゆとり われに生まれぬ
ポケットノ メガネヲヒトノ サグルマニ イクバクノユトリ ワレニウマレヌ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.80
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (42)


01738
数などに 好悪持つ身を 寂しみて グラフの数字 塗りつぶしゆく
カズナドニ カウヲモツミヲ サビシミテ グラフノスウジ ヌリツブシユク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.80
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (87)


01739
石牢の 壁のごとくに つめたしと とらはれ易き 心つぶやく
イシロウノ カベノゴトクニ ツメタシト トラハレヤスキ ココロツブヤク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.80
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (68)


01740
新しき 町の名を人は 記しをり 家畜の臭ひ 残れる貨車に
アタラシキ マチノナヲヒトハ シルシヲリ カチクノニオヒ ノコレルカシャニ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.81
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (71)


01741
ふるさとの 記憶を呼べば いつの夜も 蛹煮る香の よみがへり来る
フルサトノ キオクヲヨベバ イツノヨモ サナギニルカノ ヨミガヘリクル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.81
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (75)


01742
亡き父の マントの裾に かくまはれ 歩みきいつの 雪の夜ならむ
ナキチチノ マントノスソニ カクマハレ アユミキイツノ ユキノヨナラム

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.81
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (74)


01743
ゆるやかに 皿の沈みし 水の上 白きわが手を 映し始めむ
ユルヤカニ サラノシズミシ ミズノウエ シロキワガテヲ ウツシハジメム

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.82


01744
フィルターの 黄の円形を 移しつつ 鳩のうごきを いつまでも追ふ
フィルターノ キノエンケイヲ ウツシツツ ハトノウゴキヲ イツマデモオフ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.82
【初出】 『形成』 1970.3 「無題」 (1)


01745
口ほてる 注射され来て 癒えたしと はやる思ひも いつしか薄し
クチホテル チュウシャサレキテ イエタシト ハヤルオモヒモ イツシカウスシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.82
【初出】 『形成』 1970.10 「無題」 (2)