さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

花溢れゐき

 
噴水に         うす青き        雨のなかに       降りしきる       
少年の         あは雪を        日だまりに       傘のなかに       
方角を         秋の夜の        ひとりでに       山茶花の        
こだはりを       硝煙の         シリウスを       くたくたに       
顴骨の         とどまらぬ       何事か         ぬかるみを       
体温を         耳鳴りの        キヌバリと       水槽の         
むらがりて       嗅覚の         道に会ひ        雨にけむる       
花鋏          幼な子と        四方より        眠られぬ        
 
 
 

01683
噴水に 濡るる塑像を ふり仰ぐ するどき骨を わが身に持ちて
フンスイニ ヌルルソゾウヲ フリアオグ スルドキホネヲ ワガミニモチテ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.60
【初出】 『短歌』 1967.1 帰らぬ魚 (1)


01684
うす青き 切符一枚 幼な子の レースの胸の ポケットに見ゆ
ウスアオキ キップイチマイ オサナゴノ レースノムネノ ポケットニミユ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.60
【初出】 『短歌』 1967.1 帰らぬ魚 (2)


01685
雨のなかに 花咲ける日は 短くて 合歓の葉末の 早く衰ふ
アメノナカニ ハナサケルヒハ ミジカクテ ネムノハズエノ ハヤクオトロフ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.61
【初出】 『短歌』 1967.1 帰らぬ魚 (3)


01686
降りしきる 落ち葉のなかに 人のゐて 螺旋の階を 白々と塗る
フリシキル オチバノナカニ ヒトノヰテ ラセンノカイヲ シロジロトヌル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.61
【初出】 『短歌』 1967.1 帰らぬ魚 (31)


01687
少年の 鼓笛隊遠く 野を行けり 取り残さるる 打楽器の音
ショウネンノ コテキタイトオク ノヲユケリ トリノコサルル ダガッキノオト

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.61
【初出】 『短歌』 1967.1 帰らぬ魚 (32)


01688
あは雪を 降らせてゐるは たれならむ 声をひそめて 人の行きかふ
アハユキヲ フラセテヰルハ タレナラム コエヲヒソメテ ヒトノユキカフ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.62
【初出】 『短歌』 1967.1 帰らぬ魚 (33)


01689
日だまりに つなぐ仔犬を かまひゆく 卵を売りに 来るをとめらも
ヒダマリニ ツナグコイヌヲ カマヒユク タマゴヲウリニ クルヲトメラモ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.62
【初出】 『短歌』 1967.1 帰らぬ魚 (28)


01690
傘のなかに 見知らぬわれの 歩みゐる 雨にまじりて 木の実降る道
カサノナカニ ミシラヌワレノ アユミヰル アメニマジリテ コノミフルミチ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.62
【初出】 『短歌』 1967.1 帰らぬ魚 (29)


01691
方角を 占はれゐる 椅子の上 まぶた閉ぢても いづこも寒し
ホウガクヲ ウラナハレヰル イスノウエ マブタトヂテモ イヅコモサムシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.63
【初出】 『短歌』 1967.1 帰らぬ魚 (30)


01692
秋の夜の 炭火匂ひて 人の名を 灰文字に書く かなしみも過ぐ
アキノヨノ スミビニオヒテ ヒトノナヲ ハイモジニカク カナシミモスグ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.63
【初出】 『短歌』 1967.1 帰らぬ魚 (25)


01693
ひとりでに 鳴るオルガンも 古りたらむ 風の夜は思ふ 山の校舎を
ヒトリデニ ナルオルガンモ フリタラム カゼノヨハオモフ ヤマノコウシャヲ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.63
【初出】 『短歌』 1967.1 帰らぬ魚 (26)


01694
山茶花の 咲く日となりて 傷つける 青のインコも 癒えてゆくらし
サザンカノ サクヒトナリテ キズツケル アオノインコモ イエテユクラシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.64
【初出】 『短歌』 1967.1 帰らぬ魚 (27)


01695
こだはりを 持ち歩く身と 気づきたり ポケットの右手 汗ばみてゆく
コダハリヲ モチアルクミト キヅキタリ ポケットノメテ アセバミテユク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.64
【初出】 『短歌』 1967.1 帰らぬ魚 (22)


01696
硝煙の 匂ひか遠く よみがへる 枯れ葉を飾る ほかなき空に
ショウエンノ ニオヒカトオク ヨミガヘル カレハヲカザル ホカナキソラニ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.64
【初出】 『短歌』 1967.1 帰らぬ魚 (23)


01697
シリウスを 仰ぎて来しが 揺れやまぬ 木々いつまでも 眼裏に見ゆ
シリウスヲ アオギテコシガ ユレヤマヌ キギイツマデモ マナウラニミユ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.65
【初出】 『短歌』 1967.1 帰らぬ魚 (24)


01698
くたくたに なりて目ざめぬ 群衆の なかに一つの 顔を探しゐき
クタクタニ ナリテメザメヌ グンシュウノ ナカニヒトツノ カオヲサガシヰキ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.65
【初出】 『短歌』 1967.1 帰らぬ魚 (19)


01699
顴骨の 高くなりたる われの顔 鏡の奥にも 雨は降りつつ
ホオボネノ タカクナリタル ワレノカオ カガミノオクニモ アメハフリツツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.65
【初出】 『短歌』 1967.1 帰らぬ魚 (20)


01700
とどまらぬ 雲の流れを 仰ぎゐて 耳のうしろの さわだちやすし
トドマラヌ クモノナガレヲ アオギヰテ ミミノウシロノ サワダチヤスシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.66
【初出】 『短歌』 1967.1 帰らぬ魚 (21)


01701
何事か 拒まむとして バスのなかに 次第に激し ゆく指話のさま
ナニゴトカ コバマムトシテ バスノナカニ シダイニゲキシ ユクシワノサマ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.66
【初出】 『短歌』 1967.1 帰らぬ魚 (16)


01702
ぬかるみを よけし刹那に つまづきて 工事場のライト したたかに浴ぶ
ヌカルミヲ ヨケシセツナニ ツマヅキテ コウジバノライト シタタカニアブ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.66
【初出】 『短歌』 1967.1 帰らぬ魚 (17)


01703
体温を 計られて来て 危ふきに 水に沈める スプーン輝く
タイオンヲ ハカラレテキテ アヤフキニ ミズニシズメル スプーンカガヤク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.67
【初出】 『短歌』 1967.1 帰らぬ魚 (18)


01704
耳鳴りの 残るは寂し わが髪に 黄蜂むらがる 夢より醒めて
ミミナリノ ノコルハサビシ ワガカミニ キバチムラガル ユメヨリサメテ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.67
【初出】 『短歌』 1967.1 帰らぬ魚 (15)


01705
キヌバリと 呼ばるる魚の すきとほり 何のけはひに 身をひるがへす
キヌバリト ヨバルルウオノ スキトホリ ナンノケハヒニ ミヲヒルガヘス

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.67
【初出】 『短歌』 1967.1 帰らぬ魚 (10)


01706
水槽の 藻のあたりより 暗くなる 部屋と思ひて 身じろがずゐる
スイソウノ モノアタリヨリ クラクナル ヘヤトオモヒテ ミジロガズヰル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.68
【初出】 『短歌』 1967.1 帰らぬ魚 (11)


01707
むらがりて 岩をめぐれる 魚のなか 脱けて帰らぬ 鮒などあるや
ムラガリテ イワヲメグレル ウオノナカ ヌケテカエラヌ フナナドアルヤ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.68
【初出】 『短歌』 1967.1 帰らぬ魚 (12)


01708
嗅覚の 鋭くなりて 野を行けり 霧の向ふに 牛の声湧く
キュウカクノ スルドクナリテ ノヲユケリ キリノムコフニ ウシノコエワク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.68
【初出】 『短歌』 1967.1 帰らぬ魚 (7)


01709
道に会ひ 連れだちて帰る 妹の いだく荷のなか セロリが匂ふ
ミチニアヒ ツレダチテカエル イモウトノ イダクニノナカ セロリガニオフ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.69
【初出】 『短歌』 1967.1 帰らぬ魚 (8)


01710
雨にけむる 海見ゆる窓 色褪せし 紙の桜を いつまでか吊る
アメニケムル ウミミユルマド イロアセシ カミノサクラヲ イツマデカツル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.69
【初出】 『短歌』 1967.1 帰らぬ魚 (9)


01711
花鋏 探しに出でて 地にかがみ そのまま草を 抜きはじめたり
ハナバサミ サガシニイデテ チニカガミ ソノママクサヲ ヌキハジメタリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.69
【初出】 『短歌』 1967.1 帰らぬ魚 (4)


01712
幼な子と 歩幅あはせて あゆむさま 遠く見しより 憎まずなりぬ
オサナゴト ホハバアハセテ アユムサマ トオクミシヨリ ニクマズナリヌ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.70
【初出】 『短歌』 1967.1 帰らぬ魚 (5)


01713
四方より 乾きてはだら なす壁に また降り出づる 夜の雨の音
シホウヨリ カワキテハダラ ナスカベニ マタフリイヅル ヨノアメノオト

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.70
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (22)


01714
眠られぬ 夜々に思へば みづからの 羽根抜きて紡ぐ よろこびも無し
ネムラレヌ ヨヨニオモヘバ ミヅカラノ ハネヌキテツムグ ヨロコビモナシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.70
【初出】 『短歌』 1967.1 帰らぬ魚 (6)