さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

花溢れゐき

 
とめどなく       フラスコの       崖下に         仔犬のため       
長命の         沼見ゆる        時の間の        眼帯を         
占なひの        渡されし        足垂れて        夕焼けが        
石を積む        たえまなく       ポケットより      風巻きて        
ゆとりある       如何ならむ       なまぬるく       逆波の         
つぶさなる       水そそぐ        肩重き         
 
 
 

01660
とめどなく 売子木の花降る 言葉より 溺れてゆきし かの日のごとく
トメドナク エゴノハナフル コトバヨリ オボレテユキシ カノヒノゴトク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.52


01661
フラスコの かたちに青き 霧を溜め 何たくらみて ゐし夢ならむ
フラスコノ カタチニアオキ キリヲタメ ナニタクラミテ ヰシユメナラム

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.52


01662
崖下に しづまれる家 日曜の 今朝はたれかが ゐて釘を打つ
ガケシタニ シヅマレルイエ ニチヨウノ ケサハタレカガ ヰテクギヲウツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.53
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (7)


01663
仔犬のため みづからのため 透明の 鉢にゆたかに 水を張りおく
コイヌノタメ ミヅカラノタメ トウメイノ ハチニユタカニ ミズヲハリオク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.53
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (8)


01664
長命の 手相もさびし 新しき 楽譜幾枚 われに届きて
チョウメイノ テソウモサビシ アタラシキ ガクフイクマイ ワレニトドキテ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.53
【初出】 『形成』 1967.3 「無題」 (1)


01665
沼見ゆる 窓ぎはに立つ をりふしに 水の匂ひを 嗅ぐことのあり
ヌマミユル マドギハニタツ ヲリフシニ ミズノニオヒヲ カグコトノアリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.54
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (4)


01666
時の間の こころゆるびに 傷つけし 小指の先に 血潮あつまる
トキノマノ ココロユルビニ キズツケシ コユビノサキニ チシオアツマル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.54
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (5)


01667
眼帯を はづしし視野に 入り来て いつより黄ばむ 梔子の花
ガンタイヲ ハヅシシシヤニ ハイリキテ イツヨリキバム クチナシノハナ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.54
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (6)


01668
占なひの あたる日ありて 訪ね来し 人の言葉を ねんごろに聞く
ウラナヒノ アタルヒアリテ タズネコシ ヒトノコトバヲ ネンゴロニキク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.55
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (9)


01669
渡されし 遺髪の信じ がたきまま 過ぎし二十年を 今にして言ふ
ワタサレシ イハツノジンジ ガタキママ スギシハタトセヲ イマニシテイフ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.55
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (86)


01670
足垂れて 鈍色の烏賊 売られゐつ いづこ行きても 梅雨雲の下
アシタレテ ニビイロノイカ ウラレヰツ イヅコユキテモ ツユクモノシタ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.55
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (10)


01671
夕焼けが まぶしグアムに 果てむとし 何の光を 最後に見しや
ユウヤケガ マブシグアムニ ハテムトシ ナンノヒカリヲ サイゴニミシヤ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.56
【初出】 『短歌』 1969.8 雲多き日々 (6)


01672
石を積む 作業のつづく 道のほとり 焚き火の跡の しるく匂へり
イシヲツム サギョウノツヅク ミチノホトリ タキビノアトノ シルクニオヘリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.56
【初出】 『形成』 1967.3 「無題」 (6)


01673
たえまなく 動かされゐる 木馬見つ 古りし木馬は をりをり憩ふ
タエマナク ウゴカサレヰル モクバミツ フリシモクバハ ヲリヲリイコフ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.56
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (13)


01674
ポケットより こなごなになれる 枯れ葉出づ 短く過ぎし 逢ひと思ふに
ポケットヨリ コナゴナニナレル カレハイヅ ミジカクスギシ アヒトオモフニ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.57
【初出】 『短歌研究』 1968.5 いづこも遠し (12)


01675
風巻きて 荒れ野のごとき 街の角 陶のバナナを ウインドウに置く
カゼマキテ アレノノゴトキ マチノカド タウノバナナヲ ウインドウニオク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.57


01676
ゆとりある 仕事のごとく 一つ一つ 花輪ほぐしゆく 少年のさま
ユトリアル シゴトノゴトク ヒトツヒトツ ハナワホグシユク ショウネンノサマ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.57
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (81)


01677
如何ならむ 過去の苛み ボンゴの音 聞こえて眠れぬ 夜のあるを言ふ
イカナラム カコノサイナミ ボンゴノネ キコエテネムレヌ ヨノアルヲイフ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.58
【初出】 『形成』 1967.3 「無題」 (7)


01678
なまぬるく 素足を洗ふ 磯波に またあてのなき 思ひ差し来る
ナマヌルク スアシヲアラフ イソナミニ マタアテノナキ オモヒサシクル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.58
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (35)


01679
逆波の 光れる海に 日もすがら 向きゐてわれは 岩にもなれず
サカナミノ ヒカレルウミニ ヒモスガラ ムキヰテワレハ イワニモナレズ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.58
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (37)


01680
つぶさなる 敷闇は来よ 引き潮に むきだしとなる 岩のさびしさ
ツブサナル シキヤミハコヨ ヒキシオニ ムキダシトナル イワノサビシサ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.59


01681
水そそぐ 音に夜すがら たゆたひて 何のかたちに われは固まる
ミズソソグ オトニヨスガラ タユタヒテ ナンノカタチニ ワレハカタマル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.59


01682
肩重き 感じ残りて めざめつつ 濡れたる旗の したたりやまず
カタオモキ カンジノコリテ メザメツツ ヌレタルハタノ シタタリヤマズ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.59