さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

花溢れゐき

 
葱の花         木洩れ陽に       草むらに        橋下の         
カスタネット      褐炭の         秒針が         時ながく        
ポケットに       受付の         藻の花の        争はぬ         
距離感の        切り口を        
 
 
 

01540
葱の花 しろじろと風に 揺れあへり 戻るほかなき 道となりつつ
ネギノハナ シロジロトカゼニ ユレアヘリ モドルホカナキ ミチトナリツツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.8
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (1)


01541
木洩れ陽に 騒がしく光り ゐし水の 不意にくらみて 風の過ぎゆく
コモレビニ サワガシクヒカリ ヰシミズノ フイニクラミテ カゼノスギユク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.8
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (23)


01542
草むらに 置き去られたる 画架の前 さむざむと誰の まぼろしか立つ
クサムラニ オキサラレタル ガカノマエ サムザムトタレノ マボロシカタツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.9
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (28)


01543
橋下の 水のをりふし 透きとほり わが沈めたる 赭き石見ゆ
ハシシタノ ミズノヲリフシ スキトホリ ワガシズメタル アカキイシミユ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.9
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (40)


01544
カスタネット 鳴らしつつ行く 少年も 次第に溶けて 夕靄のなか
カスタネット ナラシツツユク ショウネンモ シダイニトケテ ユウモヤノナカ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.9
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (3)


01545
褐炭の 山のごときを 越えゆけり 身を彩らむ 鱗も持たず
カッタンノ ヤマノゴトキヲ コエユケリ ミヲイロドラム ウロコモモタズ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.10
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (32)


01546
秒針が しきりにわれの 髪に触れ 廻ると思ひ つつ眠りたり
ビョウシンガ シキリニワレノ カミニフレ マワルトオモヒ ツツネムリタリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.10
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (5)


01547
時ながく 堪へゐしごとし 風立ちて しじに乱るる 穂すすきのさま
トキナガク タヘヰシゴトシ カゼタチテ シジニミダルル ホススキノサマ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.10
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (64)


01548
ポケットに 喪章をたたみ 持つことの またよみがへる 雑踏のなか
ポケットニ モショウヲタタミ モツコトノ マタヨミガヘル ザットウノナカ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.11
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (56)


01549
受付の 錆びしペンもて 旧姓に 戻れるわが名 書くほかはなき
ウケツケノ サビシペンモテ キュウセイニ モドレルワガナ カクホカハナキ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.11
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (58)


01550
藻の花の ゆらぐと見れば いつの日も 創持つ魚の 遅れて泳ぐ
モノハナノ ユラグトミレバ イツノヒモ キズモツウオノ オクレテオヨグ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.11
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (65)


01551
争はぬ 性持てる身の うとましく はめしまま洗ふ 白の手袋
アラソハヌ サガモテルミノ ウトマシク ハメシママアラフ シロノテブクロ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.12
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (96)


01552
距離感の 俄かに薄れ 送られし 素描の風車 廻り始めつ
キョリカンノ ニワカニウスレ オクラレシ ソビョウノフウシャ マワリハジメツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.12
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (95)


01553
切り口を 酢に漬けて挿す 紫陽花の ながく保つと いふこともなし
キリクチヲ スニツケテサス アジサイノ ナガクタモツト イフコトモナシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.12
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (73)