さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

無数の耳

 
音もなく        篠懸の         こみあげし       人参を         
貨車の戸の       見るとなく       横顔に         オリオンの       
砂時計に        着て歩む        音を忍ぶ        
 
 
 

01154
音もなく ひろがる野火の 遠景を バスの窓より 見つつ過ぎゆく
オトモナク ヒロガルノビノ エンケイヲ バスノマドヨリ ミツツスギユク

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.90
【初出】 『形成』 1963.5 早春抄 (1)


01155
篠懸の 裸木めやすに 曲りしが 訪なふこころ 未だ定まらぬ
スズカケノ ラボクメヤスニ マガリシガ オトナフココロ マダサダマラヌ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.90
【初出】 『形成』 1963.5 早春抄 (2)


01156
こみあげし 笑ひのごとく 立てし声 グラスを置けば あとかたもなし
コミアゲシ ワラヒノゴトク タテシコエ グラスヲオケバ アトカタモナシ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.91
【初出】 『形成』 1963.10 日常抄 (7)


01157
人参を ちりばめしサラダ 買ひ持ちて また新しく 悔ゆることあり
ニンジンヲ チリバメシサラダ カヒモチテ マタアタラシク クユルコトアリ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.91
【初出】 『形成』 1962.12 枯れ生 (1)


01158
貨車の戸の 白墨の文字 次々に 読みゐしがなべて 遠き町の名
カシャノトノ ハクボクノモジ ツギツギニ ヨミヰシガナベテ トオキマチノナ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.91


01159
見るとなく ベンチの男を 見てゐるに 擦りてもすりても マツチはつかぬ
ミルトナク ベンチノオトコヲ ミテヰルニ スリテモスリテモ マッチハツカヌ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.92
【初出】 『形成』 1962.11 夕かげ (2)


01160
横顔に イヤリング光り ゐし記憶 よみがへりつつ かなしみを呼ぶ
ヨコガオニ イヤリングヒカリ ヰシキオク ヨミガヘリツツ カナシミヲヨブ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.92
【初出】 『形成』 1961.9 田園抄 (6)


01161
オリオンの 位置もやうやく 移ろふと 春の疾風の 夜々帰りゆく
オリオンノ イチモヤウヤク ウツロフト ハルノハヤテノ ヨヨカエリユク

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.92
【初出】 『形成』 1963.5 早春抄 (5)


01162
砂時計に 測られてゐし 魔の刻か 奪ひ去られて 還らぬ言葉
スナドケイニ ハカラレテヰシ マノトキカ ウバヒサラレテ カエラヌコトバ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.93
【初出】 『形成』 1963.12 落葉季 (7)


01163
着て歩む 日なく終らむ 予感して 裾の模様を 中にし畳む
キテアユム ヒナクオワラム ヨカンシテ スソノモヨウヲ ナカニシタタム

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.93
【初出】 『短歌研究』 1963.5 沼の遠景 (29)


01164
音を忍ぶ 夜の雨よかの 石仏も 苔の匂ひを まとひ始めむ
ネヲシノブ ヨノアメヨカノ セキブツモ コケノニオヒヲ マトヒハジメム

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.93
【初出】 『短歌研究』 1963.5 沼の遠景 (30)