さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

無数の耳

 
贈らるる        月光の         メトロノームに     叩きても        
前の世に        みづからの       遠き日の        亡き母の        
遺されし        カーテンの       原点を         十年を         
額縁の         等身の         
 
 
 

01100
贈らるる 指環のサイズ 告げやれど 草抜きて日々に 荒れゆくわが手
オクラルル ユビワノサイズ ツゲヤレド クサヌキテヒビニ アレユクワガテ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.69


01101
月光の かけらのごとき ガラス屑 落ち葉焚く火に 掃きよせてゆく
ゲッコウノ カケラノゴトキ ガラスクズ オチバタクヒニ ハキヨセテユク

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.69


01102
メトロノームに せかされてゐし 時の間に 花氷の船は 溶けて跡なし
メトロノームニ セカサレテヰシ トキノマニ ハナゴオリノフネハ トケテアトナシ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.70


01103
叩きても 鳴らぬ鍵盤の 夢などに 焦れつつ耳を 病む幾夜あり
タタキテモ ナラヌケンバンノ ユメナドニ ジレツツミミヲ ヤムイクヨアリ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.70


01104
前の世に 別れしままの 夫のごと 雨の夜更けの 眼裏に来る
マエノヨニ ワカレシママノ ツマノゴト アメノヨフケノ マナウラニクル

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.70


01105
みづからの 重みに形 撓みたる ゼリーも一夜 ありて凍らむ
ミヅカラノ オモミニカタチ タワミタル ゼリーモヒトヨ アリテコオラム

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.71


01106
遠き日の 訣別に似て きれぎれに 科白を洩らし ゐる映画館
トオキヒノ ケツベツニニテ キレギレニ セリフヲモラシ ヰルエイガカン

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.71


01107
亡き母の くちずさみゐし 数へ唄 古毛糸つなぐ をりふしに恋ふ
ナキハハノ クチズサミヰシ カゾヘウタ フルケイトツナグ ヲリフシニコフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.71


01108
遺されし 象牙の印も いつしかに 用失ひて 過ぎし年月
ノコサレシ ゾウゲノインモ イツシカニ ヨウウシナヒテ スギシトシツキ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.72


01109
カーテンの 裾にゆふべの 河光り 素姓をつつむ ごとく坐れり
カーテンノ スソニユフベノ カワヒカリ スジョウヲツツム ゴトクスワレリ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.72
【初出】 『短歌研究』 1962.1 冬心 (16)


01110
原点を 通らぬ線のみ 引きあふと 互に淡し デザート剥きて
ゲンテンヲ トオラヌセンノミ ヒキアフト カタミニアハシ デザートムキテ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.72
【初出】 『短歌研究』 1962.1 冬心 (17)


01111
十年を 経てわが家に 残りゐる 男物の傘 いつまた開く
ジュウネンヲ ヘテワガイエニ ノコリヰル オトコモノノカサ イツマタヒラク

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.73


01112
額縁の 中の坂道 をりをりに わが呼びよせし 人を歩ます
ガクブチノ ナカノサカミチ ヲリヲリニ ワガヨビヨセシ ヒトヲアユマス

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.73


01113
等身の 古鏡置く われの部屋 次第に亡き母に 似つつ太らむ
トウシンノ フルカガミオク ワレノヘヤ シダイニナキハハニ ニツツフトラム

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.73