さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

無数の耳

 
短かかりし       遠き日に        鋼材の         顔よりも        
結びめの        内実に         眼先に         移るとも        
きれぎれに       女にて         抜き切れぬ       
 
 
 

01059
短かかりし 家妻の日々 よみがへり 菜漬けの石の ぬめりを洗ふ
ミジカカリシ イエヅマノヒビ ヨミガヘリ ナヅケノイシノ ヌメリヲアラフ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.54
【初出】 『形成』 1962.9 返景 (1)


01060
遠き日に 貸して返らぬ 楽譜ゆゑ 絆を今に つなげるごとし
トオキヒニ カシテカエラヌ ガクフユヱ ホダシヲイマニ ツナゲルゴトシ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.54
【初出】 『形成』 1962.9 返景 (2)


01061
鋼材の 錆びどめ匂ふ 闇を行き 身より脱け出て ひらめく言葉
コウザイノ サビドメニオフ ヤミヲユキ ミヨリヌケデテ ヒラメクコトバ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.55
【初出】 『形成』 1962.9 返景 (4)


01062
顔よりも 大き向日葵 咲きゐたる 背景のみが 夜々還り来る
カオヨリモ オオキヒマワリ サキヰタル ハイケイノミガ ヨヨカエリクル

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.55
【初出】 『形成』 1962.9 返景 (3)


01063
結びめの ゆるむ包みを 持ち直し またゆられゆく 雨夜のバスに
ムスビメノ ユルムツツミヲ モチナオシ マタユラレユク アマヨノバスニ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.55
【初出】 『形成』 1962.6 瑣事 (2)


01064
内実に そぐはぬ顔を 持ち歩く 朴あれば朴の 花仰ぎつつ
ナイジツニ ソグハヌカオヲ モチアルク ホウアレバホウノ ハナアオギツツ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.56
【初出】 『形成』 1962.8 遅日 (1)


01065
眼先に 聾唖の母子の 指話つづき 血縁のふと 羨しきごとし
マナサキニ ロウアノボシノ シワツヅキ ケツエンノフト トモシキゴトシ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.56
【初出】 『形成』 1962.8 遅日 (5)


01066
移るとも なく移りゆく 船が見え 償ひを待つ ことにも倦みぬ
ウツルトモ ナクウツリユク フネガミエ ツグナヒヲマツ コトニモウミヌ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.56
【初出】 『形成』 1962.8 遅日 (7)


01067
きれぎれに 耳鳴り襲ふ 夕つ方 白靴よごれ わが帰りゆく
キレギレニ ミミナリオソフ ユウツカタ シロクツヨゴレ ワガカエリユク

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.57
【初出】 『形成』 1962.10 路上抄 (6)


01068
女にて つひに敗るる 日もあらむ 香水の瓶 幾つも溜めて
オミナニテ ツヒニヤブルル ヒモアラム コウスイノビン イクツモタメテ

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.57
【初出】 『形成』 1962.8 遅日 (4)


01069
抜き切れぬ 庭の夏草 雨の夜を しんしんとまた 繁りあふ音
ヌキキレヌ ニワノナツクサ アメノヨヲ シンシントマタ シゲリアフオト

『無数の耳』(短歌研究社 1966) p.57
【初出】 『形成』 1962.9 返景 (7)