さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

まぼろしの椅子

 
餠草も         雨季來れば       下草の         誤解とけぬ       
眞實は         告白されし       人はみな        降りやみて       
現實の         獨り身も        涙ためて        涙脆く         
モスコーを       獨り身も        
 
 
 

00437
餠草も 摘みて待つとふ 母の手紙 給料日すぎて 歸らむと思ふ
モチグサモ ツミテマツトフ ハハノテガミ キュウリョウビスギテ カエラムトオモフ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.172
【初出】 『朱扇』 1951.6 麥若葉 (1)


00438
雨季來れば たちまち水漬く 河原さへ 人は耕し 種子蒔くらしも
ウキクレバ タチマチミズク カワラサヘ ヒトハタガヤシ タネマクラシモ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.172
【初出】 『朱扇』 1951.6 麥若葉 (2)


00439
下草の 靑みそめたる 野をゆきて むなしく何に すがらむとする
シタクサノ アオミソメタル ノヲユキテ ムナシクナニニ スガラムトスル

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.173
【初出】 『朱扇』 1952.3 狭山紀行 (9)


00440
誤解とけぬ ままに別れし 夜の街 粉雪は肩に しみて消えつつ
ゴカイトケヌ ママニワカレシ ヨルノマチ コユキハカタニ シミテキエツツ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.173
【初出】 『朱扇』 1951.2 春遠し (8)


00441
眞實は とほらぬ筈なしと 主張する 妹の若さを 時に危ぶむ
シンジツハ トオラヌハズナシト シュチョウスル イモウトノワカサヲ トキニアヤブム

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.173
【初出】 『朱扇』 1952.5 職場 (5)


00442
告白されし 愛に惱むことも 未だなき 汝か言葉短かく 語りたるのみ
コクハクサレシ アイニナヤムコトモ イマダナキ ナカコトバミジカク カタリタルノミ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.174
【初出】 『朱扇』 1952.5 職場 (7)


00443
人はみな 寂しきものと 知らむとす 狹量に怒り 易かりし妹も
ヒトハミナ サビシキモノト シラムトス キョウリョウニオコリ ヤスカリシイモウトモ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.174
【初出】 『朱扇』 1952.5 職場 (6)


00444
降りやみて 高き梢より しづれ初む 暫らくの間を ひとりありたき
フリヤミテ タカキコズエヨリ シヅレソム シバラクノマヲ ヒトリアリタキ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.174
【初出】 『朱扇』 1952.5 職場 (9)


00445
現實の いとなみはなべて 虚しきか 松のしづれの 夜半まで續く
ゲンジツノ イトナミハナベテ ムナシキカ マツノシヅレノ ヨワマデツヅク

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.175
【初出】 『朱扇』 1952.5 職場 (11)


00446
獨り身も 三十すぎし 友がふと 呪詛ともひびく 言葉を洩らす
ヒトリミモ サンジュウスギシ トモガフト ジュソトモヒビク コトバヲモラス

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.175
【初出】 『朱扇』 1950.6 世相 (3)


00447
涙ためて 語るこの友も 孤獨にて 戰ひの後を 苦しめるらし
ナミダタメテ カタルコノトモモ コドクニテ タタカヒノアトヲ クルシメルラシ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.175
【初出】 『朱扇』 1950.6 世相 (1)


00448
涙脆く なりし人妻の われに向き 黨に依れる友は どこか圖太し
ナミダモロク ナリシヒトヅマノ ワレニムキ トウニヨレルトモハ ドコカズブトシ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.176
【初出】 『朱扇』 1950.6 世相 (2)


00449
モスコーを 樂園の如く 言ふ君の 耀ける眼に 惹かる時の間
モスコーヲ ラクエンノゴトク イフキミノ カガヤケルメニ ヒカルトキノマ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.176
【初出】 『朱扇』 1950.6 世相 (4)


00450
獨り身も すがしと言ひゐしが 涙に濡れたる 顏を直して 歸りゆきたり
ヒトリミモ スガシトイヒヰシガ ナミダニヌレタル カオヲナオシテ カエリユキタリ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.176
【初出】 『形成』 1954.1 周辺 (12)