さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

まぼろしの椅子

 
蹠より         人の不和の       われのために      何時までも       
他人の恣意の      校正に         星明りに        トラックの       
白く乾きし       寢る前に        校正終へて       
 
 
 

00293
蹠より 冷えくる夕べ 頭痛藥のみて 會議録とる 席に戻りぬ
アナウラヨリ ヒエクルユウベ ズツウヤクノミテ カイギロクトル セキニモドリヌ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.116
【初出】 『形成』 1954.2 母 (2)


00294
人の不和の 間隙を縫ひて わが得ゆく 平安と思ふ 記帳なしゐて
ヒトノフワノ カンゲキヌイテ ワガエユク ヘイアントオモフ キチョウナシヰテ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.116
【初出】 『形成』 1953.12 現実 (3)


00295
われのために 禁句となりゐる 言葉なきや 晝の事務所脱けて インコ見にゆく
ワレノタメニ キンクトナリイル コトバナキヤ ヒルノジムショヌケテ インコミニユク

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.117


00296
何時までも 合はぬ算盤に いらちゆく 西陽をまともに 受くる座席に
イツマデモ アハヌソロバンニ イラチユク ニシビヲマトモニ ウクルザセキニ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.117
【初出】 『形成』 1954.1 周辺 (7)


00297
他人の恣意の 犠牲にさへも なり易き 地位と思へり 残務なしつつ
タニンノシイノ ギセイニサヘモ ナリヤスキ チイトオモヘリ ザンムナシツツ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.117
【初出】 『形成』 1953.12 現実 (5)


00298
校正に 通ひ慣れたる この坂の ほとりに今年も 山茶花咲けり
コウセイニ カヨヒナレタル コノサカノ ホトリニコトシモ サザンカサケリ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.118
【初出】 『形成』 1954.1 周辺 (10)


00299
星明りに 材木を積む 音しをり 終電を降りて よぎる空地に
ホシアカリニ ザイモクヲツム オトシヲリ シュウデンヲオリテ ヨギルアキチニ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.118
【初出】 『形成』 1954.1 周辺 (3)


00300
トラックの 尾燈に寄りて跼まる 男二人 擴げし紙に 何讀むならむ
トラックノ ビトウニヨリテセクグマル オトコフタリ ヒロゲシカミニ ナニヨムナラム

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.118


00301
白く乾きし ガーゼたためり 對岸の 灯がまたたきて 見ゆる窓邊に
シロクカワキシ ガーゼタタメリ タイガンノ ヒガマタタキテ ミユルマドベニ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.119
【初出】 『形成』 1954.1 周辺 (1)


00302
寢る前に 焜爐に石油 みたしおく ならはしよ視野 狹く生きつつ
ネルマエニ コンロニセキユ ミタシオク ナラハシヨシヤ セマクイキツツ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.119
【初出】 『形成』 1954.1 周辺 (2)


00303
校正終へて 歸り來し夜半 目の上に 濡らせるガーゼのせて 寢むとす
コウセイオヘテ カエリコシヨワ メノウエニ ヌラセルガーゼ ノセテネムラムトス

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.119
【初出】 『形成』 1953.12 現実 (6)