さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

まぼろしの椅子

 
やりどなき       ふきこぼるる      戀ひて待つ       聲低く         
常に何か        孤立無援の       興味本位に       幾日も         
優柔不斷を       女の側を        思ひあぐみて      コートなど       
いつまでも       
 
 
 

00280
やりどなき 苦しみに堪へて 來し揚句 一つの決斷に わが迫らるる
ヤリドナキ クルシミニタヘテ コシアゲク ヒトツノケツダンニ ワガセマラルル

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.111
【初出】 『形成』 1954.3 暗き季節 (1)


00281
ふきこぼるる 鍋を下して 今宵も一人 遲き夕餉に 向はむとする
フキコボルル ナベヲオロシテ コヨイモヒトリ オソキユウゲニ ムカハムトスル

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.111
【初出】 『形成』 1954.3 暗き季節 (2)


00282
戀ひて待つ 人もなき身ぞ 星々も またたき交す 如き夜半なり
コヒテマツ ヒトモナキミゾ ホシボシモ マタタキカワス ゴトキヨワナリ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.112
【初出】 『形成』 1954.3 暗き季節 (3)


00283
聲低く 論語學而篇を 讀み始む 苦しみの果ての 安らひに似て
コエヒクク ロンゴガクジヘンヲ ヨミハジム クルシミノハテノ ヤスラヒニニテ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.112
【初出】 『形成』 1954.3 暗き季節 (4)


00284
常に何か 賭けて生きむと する君に 密かにわれの 苦しみて來ぬ
ツネニナニカ カケテイキムト スルキミニ ヒソカニワレノ クルシミテコヌ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.112
【初出】 『形成』 1954.3 暗き季節 (5)


00285
孤立無援の 君と思ひて 眠らぬに 今宵も歸り 來る氣配なし
コリツムエンノ キミトオモヒテ ネムラヌニ コヨイモカエリ クルケハイナシ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.113
【初出】 『形成』 1954.3 暗き季節 (6)


00286
興味本位に 噂されゐむ 歸らざる 夫のしみじみ 憎き日のあり
キョウミホンイニ ウワササレヰム カエラザル ツマノシミジミ ニクキヒノアリ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.113
【初出】 『形成』 1954.5 危き未来 (3)


00287
幾日も 歸らぬ夫に 會ひに來て 思ひみじめに 受付を過ぐ
イクニチモ カエラヌツマニ アヒニキテ オモヒミジメニ ウケツケヲスグ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.113
【初出】 『形成』 1954.5 危き未来 (4)


00288
優柔不斷を 君も誹れど 信じきれなく なりし過程は われのみが知る
ユウジュウフダンヲ キミモソシレド シンジキレナク ナリシカテイハ ワレノミガシル

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.114
【初出】 『形成』 1954.5 危き未来 (7)


00289
女の側を 貶しめ易き 世の思惑に 迷はず身の振りを 決めむと思ふ
オンナノガハヲ オトシメヤスキ ヨノオモワクニ マヨハズミノフリヲ キメムトオモフ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.114
【初出】 『形成』 1954.5 危き未来 (6)


00290
思ひあぐみて 幾夜眠らぬ われの名を 幼く呼びて 妹は來ぬ
オモヒアグミテ イクヤネムラヌ ワレノナヲ オサナクヨビテ イモウトハコヌ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.114
【初出】 『形成』 1954.3 暗き季節 (7)


00291
コートなど 縫ふに紛れて ゐるさまを 見屆けて 母は歸りゆきたり
コートナド ヌフニマギレテ ヰルサマヲ ミトドケテ ハハハカエリユキタリ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.115
【初出】 『形成』 1954.3 暗き季節 (8)


00292
いつまでも 明けおく窓に 雨匂ふ もしや歸るかと 思ふも寂し
イツマデモ アケオクマドニ アメニオフ モシヤカエルカト オモフモサビシ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.115