さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

まぼろしの椅子

 
甘酸ゆき        たかむらに       苦しみて        既に無理は       
小さき祠を       曇りつつ        心渇くとも       孤獨にゐて       
秘めて來し       累ね來し        手は何に        夢の中に        
眠れざりし       
 
 
 

00226
甘酸ゆき 香のこもりゐむ 桐の花 野末に見つつ わがバスは過ぐ
アマズユキ カノコモリヰム キリノハナ ノズエニミツツ ワガバスハスグ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.89
【初出】 『形成』 1954.6 流離 (9)


00227
たかむらに 埋もれて低き 藁の屋根 一夜の宿を 乞はむとぞ佇つ
タカムラニ ウモレテヒクキ ワラノヤネ ヒトヨノヤドヲ コワムトゾタツ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.89
【初出】 『形成』 1953.10 職掌 (6)


00228
苦しみて 積み累ね來しは ただ砂礫の 如きかと旅寢の 夜半にし思ふ
クルシミテ ツミカサネコシハ タダサレキノ ゴトキカトタビネノ ヨワニシオモフ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.90
【初出】 『形成』 1954.9 砂礫 (1)


00229
既に無理は きかぬ年齡と 思ふ身に たはやすく人は 離別を勸む
スデニムリハ キカヌネンレイト オモフミニ タハヤスクヒトハ リベツヲススム

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.90
【初出】 『形成』 1954.7 風塵 (9)


00230
小さき祠を まつれる丘の 朝ぐもり 牛使ひつつ 人の耕す
チイサキホコラヲ マツレルオカノ アサグモリ ウシツカヒツツ ヒトノタガヤス

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.90
【初出】 『形成』 1954.9 砂礫 (2)


00231
曇りつつ 明るき芝生 メムバーの 揃はぬ野球を 子らは續くる
クモリツツ アカルキシバフ メムバーノ ソロハヌヤキュウヲ コラハツヅクル

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.91
【初出】 『形成』 1954.9 砂礫 (3)


00232
心渇くとも みづから癒やす 外はなし 夜半の水道は 飛沫をあぐる
ココロカワクトモ ミヅカライヤス ホカハナシ ヨワノスイドウハ ヒマツヲアグル

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.91
【初出】 『形成』 1954.9 砂礫 (4)


00233
孤獨にゐて 人を恕すことも 易からず また堰を切りて 悲しみは來る
コドクニヰテ ヒトヲユルスコトモ ヤスカラズ マタセキヲキリテ カナシミハクル

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.91
【初出】 『形成』 1954.9 砂礫 (5)


00234
秘めて來し 被虐の過程を あばくごと あてなき手記を 夜々綴りゆく
ヒメテコシ ヒギャクノカテイヲ アバクゴト アテナキシュキヲ ヨヨツヅリユク

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.92
【初出】 『形成』 1954.9 砂礫 (6)


00235
累ね來し 錯誤と思へど その過去に 規制されゆく 未來と知れり
カサネコシ サクゴトオモヘド ソノカコニ キセイサレユク ミライトシレリ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.92
【初出】 『形成』 1954.9 砂礫 (7)


00236
手は何に さしのべむ如何に 描くとも 茫々と寂し わが未來像
テハナニニ サシノベムイカニ エガクトモ ボウボウトサビシ ワガミライゾウ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.92
【初出】 『形成』 1954.9 砂礫 (8)


00237
夢の中に 鳴り續けゐし 竪琴の 音か夜半覺めて 雨だれを聽く
ユメノナカニ ナリツヅケヰシ タテゴトノ ネカヨワサメテ アマダレヲキク

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.93
【初出】 『形成』 1954.7 風塵 (11)


00238
眠れざりし ことも忘れむ朝の 井戸端に 兩耳の裏を 念入れて拭く
ネムレザリシ コトモワスレムアサノ イドバタニ リョウミミノウラヲ ネンイレテフク

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.93
【初出】 『形成』 1953.10 職掌 (12)