さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

まぼろしの椅子

 
虐げらるる程      言傳てもちて      殻とぢて        わが敎へし       
みづからの       焦點と         アンカットの      氣づかぬ間に      
舞曲の         悲劇も今は       何事も         閉ぢこめられゐて    
わが夢に        散漫に         
 
 
 

00125
虐げらるる程 強くなる女よと いふ噂 歸り來てひとり 炭火をおこす
シイタゲラルルホド ツヨクナルオンナヨト イウウワサ カエリキテヒトリ スミビヲオコス

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.50
【初出】 『短歌研究』 1955.4 まなうらの像 (1)


00126
言傳てもちて 來し友の幼な子 わが炊く 釜の小さきを 驚きて言ふ
コトヅテモチテ コシトモノオサナゴ ワガカシグ カマノチイサキヲ オドロキテイフ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.50
【初出】 『短歌研究』 1955.4 まなうらの像 (2)


00127
殻とぢて 竦める如き 日のわれを 不意に來し母に 見せてしまひぬ
カラトヂテ スクメルゴトキ ヒノワレヲ フイニコシハハニ ミセテシマイヌ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.51
【初出】 『短歌研究』 1955.4 まなうらの像 (3)


00128
わが敎へし 舟唄今も 忘れずと 何故書き來しや母と なれる教へ子
ワガオシヘシ バルカロールイマモ ワスレズト ナゼカキコシヤハハト ナレルオシヘゴ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.51
【初出】 『短歌研究』 1955.4 まなうらの像 (6)


00129
みづからの 道狹めつつ 生きゆくや 亞流と言はれむを 何より怖る
ミヅカラノ ミチセバメツツ イキユクヤ アリュウトイハレムヲ ナニヨリオソレル

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.51
【初出】 『短歌研究』 1955.4 まなうらの像 (10)


00130
焦點と なすを懼るる わがこころ 賜びし詩集の 背文字をみつむ
ショウテント ナスヲオソルル ワガココロ タビシシシュウノ セモジヲミツム

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.52
【初出】 『短歌研究』 1955.4 まなうらの像 (8)


00131
アンカットの まま重ねおく 詩集一つ 徒勞とも思ふわが 仕事ふえゆく
アンカットノ ママカサネオク シシュウヒトツ トロウトモオモフワガ シゴトフエユク

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.52
【初出】 『形成』 1955.3 夜の落葉 (6) / 『短歌研究』 1955.4 まなうらの像 (9)


00132
氣づかぬ間に 陽氣にものを 言ひてしまふ もう一人のわれを 怖れて思ふ
キヅカヌマニ ヨウキニモノヲ イヒテシマフ モウヒトリノワレヲ オソレテオモフ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.52
【初出】 『短歌研究』 1955.4 まなうらの像 (11)


00133
舞曲の レコードかけつつ 夕餉なす 放恣とも思ふかかる 孤獨の處理は
シャコンヌノ レコードカケツツ ユウゲナス ホウシトモオモフカカル コドクノショリハ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.53
【初出】 『短歌研究』 1955.4 まなうらの像 (12)


00134
悲劇も今は われの中に消化し 去られつと 思ひひそめて 或る夜はゐたり
ヒゲキモイマハ ワレノナカニショウカシ サラレツト オモヒヒソメテ アルヨハヰタリ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.53
【初出】 『短歌研究』 1955.4 まなうらの像 (16)


00135
何事も 抽象化してしまふ われと思ふ 充たされゆくや ながき空白も
ナニゴトモ チュウショウカシテシマフ ワレトオモフ ミタサレユクヤ ナガキクウハクモ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.53
【初出】 『短歌研究』 1955.4 まなうらの像 (15)


00136
閉ぢこめられゐて 秘かに爪とぐ 如き身と 疊掃きつつ 寂しき日なり
トヂコメラレヰテ ヒソカニツメトグ ゴトキミト タタミハキツツ サビシキヒナリ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.54
【初出】 『短歌研究』 1955.4 まなうらの像 (14)


00137
わが夢に 夜々ひらく嚝野を 翳のごと よぎるはいまだ たれとも知れず
ワガユメニ ヨヨヒラクコウヤヲ カゲノゴト ヨギルハイマダ タレトモシレズ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.54
【初出】 『短歌研究』 1955.4 まなうらの像 (13)


00138
散漫に なる夜の心 まどろめば 聖アンネの像が まなうらに來る
サンマンニ ナルヨノココロ マドロメバ セイアンネノゾウガ マナウラニクル

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.54
【初出】 『形成』 1955.3 夜の落葉 (5) / 『短歌研究』 1955.4 まなうらの像 (5)