さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

歌稿(五十音順)

大西民子歌稿

[ら~ろ・わ]

陸橋にかかりし際(きは)に没(い)りつ日は炭火のいろとなりて隠れぬ
陸橋の半ばはすでに翳りゐて僧衣ひらひら渡りゆく見ゆ
立秋を過ぎて夜に降る雨の音クーラーの音のうしろにきこゆ
立春を待つ思ひあり研ぎあげし包丁に芹の香を刻みつつ
立冬の日ざしのなかを歩みつつ狂はむとせし日も遠ざかる
理髪店に父を待ちをれば革をもて剃刀をとぐ音を求めて
リボン一つ髪に飾ればいつしかと妹も娘らしく見えつゝ
リモコンの操作の如く踏切にかかれる人らみな立ち停まる
理由つけて帰り来し身のいつか厭はしハイウェイを車駆りつつ
理由なきかなしみならずわれの弾くピアニッシモをみづから聞きて
留鳥となりてとどまる鶴のをり山かげにひそと餌をあさるとぞ
流氷の海を訪ふ日もなく過ぎて葉牡丹の伸びし花を見てゐる
流亡の歌ごゑか湧く夜の壁に風を呼びつつ暖爐燃ゆれば    ※
両側に光を分けて突き進む武蔵野の夜を渡る列車は
両眼を明けて見てゐるカップの一つ変哲のなき形ながら
両国の花火といふをあこがれて思ひし日あり北国にゐて
猟銃の長くて恐しかりしこと父の夢より醒めて思へり
両膝をそろへて台としてゑがく子供らのゐて水辺賑はふ
料理とは善き人のためになすものぞうす味にしてひとりの夕餉
旅行鞄持つ右手にてうしろより人波を分けゆく青年のをり
リラ冷えとやさしく言ひて札幌の寒さを伝ふ今朝のテレビは
輪郭のほけてふくらむ森の見え吸ひこむ息の立ちゐるごとし
隣室のアイロン台はいつも平ら年を越したる今日のしづけさ
隣席の人のごとくにむきになりて物言ふことの少なしわれは
リンデンの落ち葉一枚魔除けとし本にはさみて寺をまかりぬ
りんだうをあまた賜へど仏らに少しはなれてをりたき日なり